34.セティアナイツという愛し子 2《セト視点》
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今回もセト視点です。
~*~
奥に進むにつれて増していく静けさと、減っていく生物の気配。
そんな場所だから、少しでも物音や声があれば思ってる以上に響く響く。
「よっ…!」
『あっぶね!? てめぇ!!』
「じゃあ… 次はこれ!」
『わぷっ…! この… 地の利活かしやがって!』
マジの魔法での勝負とかだったら勝てる気なんて全くないけど、こういうちょっと激しめの遊びならまぁまぁ本気で楽しめる。
あっちもただの雪合戦に遊びでのマジ以上にはなってこないから、純粋に楽しんではいるんだろう。相も変わらず、口は悪いけど。
ていうか、雪合戦にもなっていないただの雪のかけあいだ。
『…!』
「あっ…」
木の上の雪が落ちてきた。
小規模の雪崩くらいの量の雪。これはちょっと、マズいかもなぁ。
とりあえず生き埋めだけは回避せねばと思い氷壁を出そうとしたが、俺よりも早く動いたのが彼だった。
腕の一振りだけで展開される網目状の雷の壁。
その壁に触れると同時に消える雪。三分の一程消えたところで溜まった魔力が解放され、全ての雪が消え去った。
なんか、少しだけ既視感が。
威力はもちろん凄まじいのだが、魔法の使い方に似たものを見たことあるような気がしたんだ。
雷属性の魔法、ということは彼は…
『あー… はしゃぎすぎたか』
「…すごい魔法だね。そんな使い方もあるんだ」
『破壊に使うだけが魔法じゃねぇからな。今のは… あー… 何を参考にしたか忘れたわ』
防御に使っただけであの威力だったのに、攻撃や破壊に使ったらどうなるのか。想像できるようなできないような。
ふと思い出した。ラティが俺に使った雷属性の魔法を。
ラティが使ったのは攻撃の為ではなく、拘束… 俺の動きを封じる為のものだった。
あの時は「してやられた」という気持ちが強かったが、今ではそういう戦い方、扱い方もアリだと思っている。一番自信がある氷属性以外も極めていきたいと思うが、なかなか上手くいかないのも事実だ。
時間がない、のも理由だが、単純にどう練習すればいいか分からない。
今のような移動時間を空き時間として練習しようとしても、何からすればいいのか…
『オマエも使ったら? 使い方によっては氷属性の魔法と相性いいし』
「…! 相性…」
『氷も溶ければ水になる。対人戦とかで氷を溶かされた後に雷属性の魔法で叩き込む、っつーのもあるな』
水と雷なんて、火と水くらい分かりやすい相性だけど今まで考えたこともなかった。
そして捉え方によっては氷は水とも考えることができる。そうなれば、魔法への理解も使い方の幅も広がる。
『それに、上質な氷なら反射もさせられる』
「どういう…」
『オマエ、いくつか氷壁を作ってみろ』
すぐに理解ができなかったが、言われた通りに氷壁を作る。
その氷壁を手で触れたり軽く小突いたりして何かをチェックしているようだが、何も分からないからちょっと怖い。
そしてその手に雷を発生させたかと思ったら、いきなり氷壁に向かって発射した。
自分と精霊様の力の差なんて分かりきっているから、氷壁を容易く壊されるだろうと思った。けど、その雷は氷壁から氷壁へ。まるで鏡が光を反射するように流れていった。
『この氷壁の錬成度に合わせた。だからこうやって反射させられた。もちろん、力の差がありすぎると反射されないし、壁も壊れる。壁の強度と、撃つ方の雷の力加減が均等でなければ成功しない』
簡単で分かりやすい説明のはずなのに、実際に見ていると“均等”がどれだけ難しいのかよく分かる。
試しに力を込めた雷属性の魔法を、見よう見まねで同じようにやってみた。
だがやはりというか、そう簡単にはいかないらしい。俺の撃った魔法は跳ね返らずに、氷壁に当たって音を立てて消えたし壁も崩れた。
落胆はもちろんある。
けど、なんだろうか。ショックよりもやりがいを感じる。これが綺麗にできたら、さぞ気持ちよかろうと。
これでラティに近づくことができるかと思った。
フィエーダ国のロトレイ家の強さは国を越えて有名で、憧れている者は多い。中には、ロトレイ領にある冒険者ギルドを拠点としたい為に努力している者もいるらしい。
俺自身も、憧れている者のうちの1人だったりする。
あの意思と力の強さの両立は、中々できることではないからだ。
そこにさらに“別の強さ”が加わったんだから、すごい、なんて言葉だけでは言い表せられない。
『…オマエ、氷属性の魔法については実力は十分だろう。氷のの加護も得ているようだしな。あとは…』
彼は何かを言いかけて止めた。
すごい至近距離で顔を覗き込んでくる。近すぎる気はするが、妖精たちは基本、距離感がおかしい。俺にとっては今更なので気にしてないが。
『…ま、そんだけいればコツを掴めばすぐにできる』
「…?」
『リルフィ程じゃなくても、オマエも十分“愛し子”だ』
鼻先をピンッと弾かれる。
俺はぱちぱちと瞬きを数回して、言われたことを頭の中で反復させる。
彼の言葉は、俺の今後を買ってくれているようにも聞こえた。褒められているようで、期待もされているような感覚で、自惚れだと分かっているがとにかく嬉しさがすごい。
でも、俺も愛し子っていうのは分からない。
愛し子と言われてまず思い浮かぶのはリルフィだけれども、むしろリルフィ以外にはいない。
ふわりと何かが頬をくすぐった。
妖精たちだ。土地柄故に氷の妖精が多いがいろんな妖精がいる。
この土地に根付いている妖精たちなので、彼らとの付き合いはとても長い。リルフィと四大精霊様方と同じくらいと言っても過言ではないくらいの長さだ。
でも、念話でなんとなくの気持ちを伝えてくるだけで、言葉を交わしたことはない。
……リルフィの近くにいる妖精たちと何が違うだろうか。
リルフィの周囲の妖精たちは、姿を得ていて話せる者も多い。比べるのもどうかとは思うが、同じなはずなのに、と疑問も持っている。
『…妖精は、想いや願いが力になる』
「え…?」
『そのヒトの為に何かしたい、そのヒトの役にたちたい。たとえ、どんなに小さな願いでも、妖精にとっては大事な願いだ』
にこにこ笑っている妖精たち。
そういや俺、対話はするけど、何かしてほしいとか思ったことないな…
たとえ、どんなに小さな願いでも。
「俺… もっと強くなりたい。色々知りたい。俺に、手を貸してくれないか?」
ほんの少しだけでも。
たぶん、ずっと思っていた願いだっただろう。
彼らを対等に見てあげるのならば、頼ることは悪いことではない。
『いいのー?』
『手伝うよー』
『手伝ってあげるよー!』
手を取り合いながらきゃっきゃとはしゃぐ妖精たち。
こんなにはっきりと声が聞こえたことにも驚いたが、それよりも驚いたのがその数の多さだ。
彼の言った、小さな願いが力になるとはこういうことをいうのだと理解した。
そしてリルフィは、それがもう自分の一部であるくらいに自然と行っているのだろう。それであんなに多くなるのかと思うと、無自覚も考えようによっては怖いところだが。
でも彼女は、自分の持っている強みを最大限に活かしている。持て余すくらいならそうした方が確かにいい。
良い笑顔の妖精たちを見ていると、自然とそう思えてくる。
『…お、あれか?』
「あ…」
『へぇ、こんな場所があるんだな…』
樹氷の森の最奥地。本来なら誰も辿り着くことのできない、この国で最も神聖な場所だ。
一度パーシィと来ようとしたことがあるが、結界でもあるのかパーシィだけが弾かれていた。
あの時は本当にワケが分からなかった。
天まで届きそうなくらいの大きな樹氷の大木だ。その根本に、少し寂しげだが小さな祠がある。
きっと氷の精霊様を奉ってきた場所。レーダス様はずっとここに引きこもってたのだろうか。
心臓の音が聞こえてしまいそうなくらい、しんとしている。
…息をする度に肺まで凍りそうだ。
「…………あった…」
オルムの実のなる木は、小さな木だ。
精霊様の祠の背に隠れられてしまうくらい小さな木。当然、その木になる実も小さい。
綺麗な薄い水色の実。これ1つで、毒に苦しむ何人が救えるだろう。
そう思うが、こればかりは知られすぎるとマズいので仕方がない。国を守る為には、秘密にすることも必要だ。
この場所以外で育てられる方法があれば、なにかと役立てられそうではある。彼女ならもしかしたら… と思うがそれはそれとして。
オルムの実をいくつか採取し、魔法袋へと入れる。…そうだ、今回のお礼用にリルフィに贈る用も採取して入れておこう。
彼女なら悪用はしないだろうし、興味があるようだったから喜んでくれるはず。
そんなことを考えていると、俺の元に文鳥が飛んできた。パーシィからだった。
その文鳥には、正式な決定はまだだが、父母の間で決められたことが記されていた。
…別に、両親の決めたことに大きな反対はない。父上に無理してほしいとも思っていない。
いずれそうなることだったのだとしても、正直そこまで実感はなかった。即位、と言われてもまだまだ先のことだろうと。
もちろん、今すぐというわけではないが、先のことだと思っていただけに覚悟がまだ、ほんの少し足りないような、そんな感じ。
でも、勇気は、十分すぎるほど貰っている。
『大丈夫か…?』
「…うん、大丈夫になるさ」
『…?』
すっごい眉をしかめられたけど、言葉通りだ。大丈夫になるしかない。
元々後戻りなんてできないのだから、もう後ろを向くことは絶対にしない。でも、こういう1人になれる所で、少しくらいなら、いいよな…?
『セティアー! あれやってー!』
『あれやってー! キラキラ!』
「キラキラ…? あぁ、あれか。ちょっと待ってな」
こうやってせがまれたのは初めてだが、前にやったことを覚えていたのかと少しだけ笑った。
今までも、やってほしいと思われていたのかもしれない。通じてはいなかったけども。
俺は雪の結晶をいくつも作る。それを溶けないように魔力調整しながら水球で包み、周りにたくさん浮かせる。
雪が降っているが、僅かに差し込む太陽の光がキラキラと反射しあって、小さな光のカーテンを作り出していた。簡易的なものなので出たり消えたりを繰り返したが、この場所の冷気があったからできたこと。
俺が幼い頃から好きな魔法で、作りだす景色。一緒にいる妖精たちも大好きな景色のようだ。
好きな景色を見てはしゃいでくるくる飛び回る妖精たち。彼らの楽しそうな表情が、俺に力にもなっているとその時気づいた。
なんだ、俺はもう、とっくに貰っていたんだ。
『セティアナイツ・ルーツ・リベルト』
「…!」
『いいもん見せてくれた礼だ』
額を人差し指でとん、とされる。
ぽわ… と温かい何かが流れ込んできた。え、何、何されてるんだ?
『オマエはちゃんと努力できるヤツだ。だからもしも次に会うことがあった時、今よりももっと成長できていたら… アレも考えてもいいかもな』
「アレ…? それって何だ?」
『その時になってからのお楽しみってやつだよ』
何をされたのかも分からないが、何を言われたのかもあまりよく分からなかった。
でも悪いことではないことだけは分かった。
結局のところ何も分からないのだけど、その言葉はとても嬉しく、俺の中で力に変わる。この先何が起きても大丈夫だと思える、そんな謎の自信。
気がつくと彼はいなくなっていた。
残念なような、そうでないような。話していて心地良く、友人ができたかのような感覚。
彼のことを、誰かに話したい。まぁ、誰かとはいうけど、リルフィしかいない。
『セティア、うれしい?』
『にこにこー?』
『にこにこだー!』
妖精たちは俺の様子を口に出す。直接聞かされると案外恥ずかしいものだな…
でも、事実だ。嬉しいし、笑ってもいるんだろう。こういう貴重な出会いは中々ないから特にだ。
これだから1人ぶらりは止められない。
「さてと… そろそろ帰るか」
『かえるー?』
『かえろうー!』
「…っと、その前に、忘れない内に文鳥送っとこう」
リルフィに、今日のことを送ろう。ラティに送っても笑って見てくれるかもしれない。
教会のこと、オルムの実を見つけたこと、即位の話。
そして… ”彼“の話。
歩き出した俺の後ろには、今までよりもずっと多くの妖精たちが着いてきていた。




