19.僕は弟の兄でありたい 《???視点》
ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。
今回はとある人物視点です。
~*~
そこに、僕の居場所はなかった。
とかいって城を飛び出す勇気があるはずもなく、部屋にこもりひたすら勉強と仕事に打ち込む日々。
それらを苦に思うことはなかった。それが僕の性分だったし、適度にほっとかれはしているが、衣食住は保証されているし、父と母という立場である2人も何も強制はしてこない。
何よりも苦痛だったのは僕を第一王子とする貴族たちだった。
チギハム侯爵を始めとするいわゆる“第一王子派”の貴族たち。彼らは僕を王太子にしたいようだったが…
「僕には無理に決まってるだろう!」
「ああ、マックスには無理だな」
呆れながらも同意しているのは僕の側近リュクスだ。
こんな僕でも一応は王子という立場だから側近がつけられたが…
故意か偶然かは知らないけれど、彼も僕と同じだった。
リュクスも婚外子… 庶子だった。
でも、その立場とは正反対の実力と才能を彼は持っていた。
もしも貴族の、ちゃんとした実子だったなら。弟の側近になっていたかもしれない。
まぁでも、弟にも優秀な側近がいるんだけどな。
「………セティアナイツは、元気にしてるだろうか」
「気になるなら会いに行けばいいのに。そんなしばらく会ってない親戚の人みたいな言い方せんでも…」
「今さら… どんな顔で会いに行けばいいんだ」
「どんなって… 兄貴面でいいんじゃないか?」
それこそ… 今さらじゃないか。
母上の子供じゃないと知った時、じゃあ冷たくされるのもしょうがないと思った。
セティアナイツは僕にはもったいない弟で。不真面目そうに見えるが、誰よりも真面目に国のことを考えていて。
僕よりも、この国の立派な王子だった。
~*~
僕はセティアナイツのように立派にはきっとなれない。かろうじて、外面だけは良く見せられている方だが本当の僕は気が弱く、人前で話すことも難しい人間だ。
次の王にも、セティアナイツがなる。なるべきだと。
だったらせめて邪魔にならないように、支えられるくらいにはなりたいと小さい頃からずっと思っていた。
それが、兄としてできる唯一のことだと…
「(結局… その“兄貴”ですらなかったんだけども…)」
あの者はお前の兄ではない。
王家の者ではない。
その言葉を王妃の口からセティアナイツに伝えられていたのを偶然聞いてしまった。
僕は、国王の子ですらないのかと絶望した。
僕が唯一、大切にしたかったセティアナイツとのつながりも、崩れさってしまった気がした。
僕はこの場所では何者なのかと。何も掴めない暗闇の中で、実母の罪を背負いながらそう思わざるをえなかった。
(何を言ってるんですか、母上)
――――ドンッ
ドンドンッ ドンッ
「おい! マックス!」
「マクシミリアン殿下! いらっしゃいますか!?」
暗闇の中に浮かんだ昔の記憶。最後は、僕が兄ではないと告げられた後のセティアナイツの言葉だったと思う。
あの言葉にはまだ続きがあったはず。何と… 言ってたんだったか。
……駄目だ、頭の中にモヤがかかって上手く思い出せない。
そもそも、僕は何でこんな所にいるのか。
この部屋は…? 部屋の外から聞こえた声はリュクスと、セティアナイツの側近パルシファイ殿のもの。
2人の声に応えたいが、声も出ないし身体も動かない。拘束されている感覚はないけど、でも身体を動かせられる力も出ない。
僕はどうしてここにいるのか。どこからの記憶がないのか… 何かの手がかりになればと思い出そうとしてみる。
僕が最後に見たのは… いや、会ったのはセティアナイツだ。
隣国、フィエーダに行くと母上に告げていたのをたまたま聞いて、その後に一言だけ言葉を交わした。
「マックス! 大丈夫か!?」
蹴破ったであろう、見るも無残な姿になった扉が視界に入った。頑丈そうなのによく蹴破れたな…
2人が部屋に入ってきたことで、暗闇だった部屋に光が入った。
僕が座らされている椅子以外、何もない殺風景すぎる部屋。カーテン…はどこかで見たことがあるような気がするが、少なくともここは城ではない。
かろうじて入手できる情報と2人の慌てた様子から、自分の置かれた状況をなんとなくだが理解することができた。
誘拐、されていたんだろうと。
「マックス…」
「………」
「よかっ、た… 生きてた…」
大袈裟な、と思いつつ、声は出せなかったのでとりあえず頷いて反応を返した。
でも、リュクスは分かるが、なんでパルシファイ殿が…?
弟の側近であるはずの彼が、リュクスと共に僕を探していたというのか。
あまり良いとはいえない現状の国の治安の中で、1人でいることは好ましくない。
だから1人でいる時は外には極力出なかったし、出る時はリュクスを伴った。まぁ、まだ大丈夫なはずだった城内で拉致されたわけだけど…
でも、城内に入ることのできる人物は限られる。
この国の特性上、守りに関することだけはレベルが高いと思っている。余程の手練れではない限り、侵入者はほぼありえない。
「ふ、たりは… ど…して、ここ…に…?」
途切れ途切れだったけどなんとか話すことができた。
水分不足のような状態で、カッサカサの声。どうやら僕の扱われ方はかなり雑だったようだ。
……その扱いは、納得できる気がしなくもないけどな。
「マックス、お前は10日以上も行方不明だったんだ」
「は…ぁ?」
それからリュクスは、僕が行方不明だった(らしい)期間のことを教えてくれた。
王子が2人もいない… 特に僕がいない状況で、城内は騒ぎになっていることを。
放浪癖の印象があるセティアナイツと違って、僕がいなくなるのは余程のことだと思われているみたいで。表沙汰にはできないから捜索も難航していたらしい。
それがきっかけ… というほどでもないが、一部のおとなしかった貴族の動向が怪しくなっているとのこと。
その筆頭が、チギハム侯爵。
以前から怪しんでいた者が、これを機に行動し始めたといった所だ。
そうか、セティアナイツは隣国にいるんだったな…
そう思ったのに、行方不明だったのは僕だけじゃなくセティアナイツもだったらしい。
ただいつもの放浪癖が幸いとなって僕ほど騒ぎになっていなかった。いなくなったと知るのもパルシファイ殿だけだったのが大きいだろう。
そしてそのセティアナイツも、無事に帰国し、一旦合流できたと聞いて安心した。
……ん? まて、一旦…?
「いま、セティアナイツ、は…?」
「その怪しい動きをしている奴らを深く探る為に城へと戻りました。両陛下にも報告すべきこともあるみたいですし。あ、そういえばマクシミリアン殿下が侯爵邸にいるかもしれないと言ったのはセトなんですよ」
「ぇ…?」
「そうなのですか? てっきりパルシファイ殿が調べたのかと…」
「セトも、元々チギハム侯爵のことは怪しんでおりました。国を出る前に殿下に言われたこと、帰ってきたら殿下がいなくなっていることを合わせて導き出した、確信に近い予想だったらしいです」
何故だろうか。すごく胸騒ぎがする。
僕も、チギハム侯爵のことはセティアナイツにも伝えていた。あの時だって「チギハム侯爵には要注意だ」と伝えたし…
だって、調べを進める中でチギハム侯爵が一番悪意を向けているのがセティアナイツだったから。王妃の息子ってだけで、ああも憎めるものなのかと思ったくらいだ。
そのチギハム侯爵が今、城にいるとしたら…?
「ここ、は… ど、こ…」
「…ここは、チギハム侯爵家の別邸です」
「そ、れて… 王都の、端の… 区域の…」
多くないこの国の貴族が、別邸を持つのに好んで選ぶ区域。
それはチギハム侯爵家も例外ではなかった。もっとも、現侯爵は毛嫌いしてあまり使ってはいなかったようだけど。
2人がここまで来れているから、侯爵本人がこの別邸にいるとは考えにくい。
それならば王都の本邸にいると考えるのが普通なのだろうが、それも違う気がした。僕は、王城に… セティアナイツの所へ行っているような気がしてならなかった。
何をしに? そんなの考えるまでもない。
セティアナイツを害しに。たとえそうでなかったにしても良いことをするようにはとても思えなかった。
自分の妹の… 僕の実母の復讐とかのつもりだろうか。
だとしたらお門違いもいいところなのだけど。実母のやったことは話を聞いただけの僕でも罪だと思うから。
そんな勘違いでこの国の唯一の王子を… 僕の弟の命を奪おうとか考えているのなら。
たとえ血縁の人でも、許せない。
それに、実母のことがなかったとしても、チギハム侯爵にはとある嫌疑をかけられている事柄があった。
もしも侯爵が今を好機と捉えているのならば、セティアナイツの身が危ないと言える。今すぐにでも、止めに行かないと。
僕はほんの少しだけ戻ってきた手足の感覚を無理に引き起こそうとした。当然、満足には動かせないので倒れてしまうのだけど。
「おいマックス…!」
「す、ぐ… すぐに、城、へ… セティア、ナイツ… が…」
~*~
僕は、リュクスやパルシファイ殿に支えられながら侯爵家別邸を出て馬車に乗り、王城へと飛ばしてもらった。
弱りきっている僕の身体には最悪な状況だったが関係ない。そんなことよりも、セティアナイツなのだ。
セティアナイツだけは、僕は守らなければならないんだ。
城内を進んでいると、なんとなくだが騒がしい気がした。誰かが、戦っているかのような音。
まさか、セティアナイツじゃないだろうな…?
そう思ったら気持ちが急いた。音は止んだけど部屋は分かる。扉開いてるし。
「……その子供がなんだというのだ」
チギハム侯爵がそう言葉をこぼした。その子供…? 一体、何が…
あの女性は… プラチナブロンドの髪で、凛として、綺麗でかっこいい女性だ。その隣にいるのは、隣国にあるロトレイ辺境伯の…
その2人の奥にセティアナイツの姿を見つけた。ほっとしたのも一瞬で、背筋がゾッとなった。侯爵の右手が振り上げられた時、無意識に身体が動く。
セティアナイツと、化物植物の間に割り込み、右上半身に痛みと衝撃があった。
不思議と、それ以上の感覚はなかった。ただ、また薄れていく意識の中で、足元に赤い水溜まりができあがっていくのはよく見えた。
「あ、にうえ…? なんで… あにうえっ… あにうええぇえ!!!」
こんな僕を、まだ兄と言ってくれるのか…
なんで、か… 面と向かって言ったことはないけど、そんなの決まっている。
(何を言ってるんですか、母上)
(ボクにとっては兄上は兄上なんです! ボクは兄上が大好きです!)
お前が覚えているかどうか分からないが、あの時の僕はその言葉がすごく嬉しかったんだ。
なにもかもがあやふやとなって自信を失くした僕を、昔も今も兄上と呼んでくれる。ずっと嫌な態度を取ってしまっているのにセティアナイツは変わらない。
僕は、そんな弟の兄でありたい。




