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四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第1章『リルフィ』
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4.冒険者ギルドへの報告




~*~



こんな田舎町に、支部とはいえ冒険者ギルドがあることは珍しい方だ。

基本的に閑散としていて、よほどの事態とかにならないかぎり、忙しさのピークは昼までに終わる。

今も、達成報告の数名がいるくらい。



「リルフィ! お疲れさま!」

「リジィは相変わらず暇そうね」

「そりゃあたいしたトラブルもないもの。平和よ平和」



ギルドに入ってすぐに声をかけてくれた、受付嬢のフリージア。私は同じ歳で友人でもある彼女を、愛称のリジィと呼んでいる。

リジィは私が冒険者となった日に勤めだした。同僚と言っても過言ではないくらいの付き合いだ。

休みでなければ、リジィは必ず私の受付をしてくれる。

私もリジィが受付をしてくれた方が、事がスムーズに進むし、遠慮とかないし気が楽なのだ。


そんないつものように話しかけてくれたリジィは、はたと私の後ろにいるラーティ様の方を見て、その存在に気づく。

途端に、ニヤついた表情に変わる。



「なーに、リルフィ。ついに男を引っかけたの?」

「失礼なこと言ってないで、王都の騎士様よ」

「…!? えっ…!」

「第二騎士団所属、ラーティ・ロトレイといいます。お伝えしたいことがありまして、ギルマスを呼んでいただけますか?」



こんな田舎に騎士が来るなんてっていう表情ね。アレは。

…まぁ、気持ちは分からなくもない。

本当かどうかの確認で、リジィがちらりと私を見る。私が無言で頷くと、別の職員に呼びに行ってもらっていた。

その間に、と思って常時依頼の薬草と、シシリの花のミツを受付カウンターに出した。



「相変わらず良い鮮度で持ってくるわね…」

「いいから、早く。ギルマス来ちゃうよ」

「分かってるわ」



そう言ってリジィはパパッと確認し、報酬の計算をして出してきた。

彼女のこの確認作業と計算はとても正確で、そして早い。

間違ったことは一度もないっていうからほんと凄い。

報酬のお金を受け取った所でギルマスが奥の部屋から姿を見せた。


私は一応、顔見知りだからスルーされる。…いや、まぁいいんだけど、正確には用があるのは私なんだけどなぁ。

ただ口裏合わせてもらう都合上、ラーティ様に切り出してもらった方がいいはいいんだけど、要所要所で腹立つのよあのオヤジ。

…と心の中で悪態をついておく。



「騎士というのは君か… 例の捜索の件だろうか?」

「いえ、それとは別で。詳しい話は彼女の方から」

「リルフィ、から?」



あぁ、もう… お前が? みたいな反応も腹立つ。

これで無自覚なんだよなぁ。分かってないから怒っても意味ないし、だからもあるけどいつからか諦めるようになった。

でも、腹立つものは腹立つ。



「最初は、いつも通りに森へ行って採取していたんです。始めに気になったのはシシリの花を探して、森の中心に差し掛かった時でした。いつもなら、多くて5匹程度のホーンラビットがエレキウルフと共に大量に現れたので20匹以上は倒しました」

「にじゅっ…!? リルフィ、よく倒せたわね」

「ラビット種やウルフ種ぐらいならなんとかね。そんなことよりも…」

「エレキウルフか… 確か山岳地帯に生息するウルフ種だったか」

「それだけでも異変と捉えて調べるべきなんでしょうけど、もっと大事なことが。森の更に奥の方でオーク5体と遭遇しました」

「なっ!!?」



他の人にも知っていてほしいことだったから、個室ではなくあえてその場で話していた。オークが出たという話を聞いたギルマスを含むギルド職員、居合わせた冒険者たちの顔がサッと険しくなる。

いるはずのない魔物が現れた。私1人の報告でその出現数なのだから、もっと出る可能性は十分にあり得るし、すでに遭遇している人がいるかもしれない。

今日出るかもしれない被害への対応、町民や低ランク冒険者への注意喚起、異変の調査と対応など。今すぐにやらなきゃいけないことはたくさんあるだろう。



「受付業務は一旦停止し、現状調査に入れ! 万が一に備えて回復薬(ポーション)と治癒魔法を使える者を集めておけ。一応、病院の方にも連絡を入れろ」

「…困りましたね。シシリの花のミツは採れなくても大した影響は出ませんが、薬草採取やホーンラビットの間引きができなくなるのはちょっと…」

「オークの出現が問題か… 1体だけなら低ランクの者でも逃げられるし、ワンチャン倒せるが… リルフィはどうして無事だった?」

「危ないところをラーティ様に助けていただいたのです」

「これがその討伐証明の牙になります」



ラーティ様がオークの牙を取り出した。

事前に話をして合わせておいたから、ラーティ様の話し方やその様子に不自然な所は見当たらない。

……いや、自然すぎて全部分かっている身としては逆に怖いくらいだ。

嘘をつき慣れているかのような。まぁ、助かってるからいいんだけど。

オークが出たのは森の奥地だから、町の方までは出てこないと思う。出てきたとしても中心部くらいまでだろう。

オークに遭遇してしまう危険性があっても薬草採取やホーンラビットの間引きはやらなければならない。

この町、あの森にとってはとても重要なことだから。



「リルフィだったらオーク1体ぐらいは倒せるんじゃない?」

「そ、そうかもね~…」



1体ぐらいどころか、全力でやっていいならもっと来ても余裕で倒せる。

だけどそんなこと言えるはずもない。ラーティ様に黙っててもらっている意味なくなるじゃない。

もう… めんどくさいし、窮屈だなぁ。

でも、穏やかな日常を望み、隠すと決めたのは私だ。

今回見られてしまうというミスをしてしまったけれど、見たのがラーティ様であったのは幸いだったと言える。



「なんにせよ、調査してその結果が出ないことには何とも言えない。冒険者たちにも気をつけながら依頼を続けてもらうしかない」

「ではせめて、奥地には行かないようにと制限をかけたほうがいいでしょう。私も明日には王都の方に戻るので、一応報告はしますが… その…」

「対応してくれるかどうかは分からない、か… 例の件が片付くまでは援助は期待できないな」



例の件、はシルヴィアのことと公爵の断罪のことだよね… 片付くまでっていつになるの、それ。

ギルマスの言うとおり、期待できない。この町のギルド職員だけで対応できるのならいいけれど、調べるだけなら私でもやっていいよね。

見つからないように注意して奥地へ行くのもアリかな。何か使えそうな魔法道具はなかっただろうか。


とりあえず報告は終えたし、調べはするけど対応云々はギルド側の仕事。必要以上に干渉はしない。

……多分ね。

なんだかんだ言ってても、結局は首を突っ込んでしまうような気もする。

やっぱり成人したら旅に出ようか。穏やかな日常は手に入りにくくなるけど、少なくとも自由ではあるよね。

ギルマスたちが慌ただしく動き始めたから、リジィに一言声をかけて宿に戻ることにしよう。



「あ、リルフィ。ちょっとお願いがあるんだけど…」











~*~



一時の息吹亭前。

暗くなりかけ、宿の灯りもついて、少し先の飲食店からはいい匂いが漂ってくる。

私の隣には小さく笑みを浮かべるラーティ様。



「ここですけど… 空いてるとは思いますが、本当にここでいいんですか?」

「うん、リルフィの使ってる所なら安心だし」

「……」



…まぁ、どうするかは人の自由だし、私は別に何も言うことないけども。

さっきからみんなの視線が痛い。ラーティ様をジトッと見ているようだけど、流れ弾のように私にも刺さる刺さる。

みんなは私の為を思って警戒してくれている。

万が一にも、私がシルヴィアだとバレてしまわないように。

扉を開けて中に入ると夕食の準備中なのか、ここもいい匂いがした。空腹感を増長させる、そんな匂い。何食べようかなぁ。



「リルフィさん! おかえりなさい」

「ただいま。ニーコちゃん、部屋空いてるかな? 泊まりたいって人を連れて来たんだけど…」

「お部屋ですか? えーっと… 今朝退室された方がいたのでちょうど1つ空いてますよ! そちらのお兄さんでよろしかったですか?」

「はい。一泊お願いしたいんですが…」

「かしこまりました。ではこちらに必要事項をご記入ください。その後色々ご説明しますね」



ラーティ様が受付をしている間に、狩ってきたお肉をシェフに渡してしまおう。

シェフ、というかニーコちゃんのお父さんだけど。

こっそり厨房を覗くと、大きな鍋の前で難しい顔をしている人がいた。シェフのタジアさんだ。

この宿はニーコちゃんの母親アニーさんが経営をしていて、タジアさんが料理担当、娘のニーコちゃんが全体を手伝っている。

そんなに大きな宿というわけではないから人数的には問題なく、タジアさん1人だけが厨房にいることは別に珍しくない。



「タジアさん、どうされました?」

「リルフィちゃんおかえり! 実はいつも使ってる香辛料切らしちゃてて… でもすぐなんとかするから、夕飯ちょっとだけ待っててくれるかい?」

「それはかまいませんけど… 今日採ってきたやつで何か使えるのありますか?」



薬草採取ついでに木の実や果実も採ってきた。これも売ろうかと思ってたけど、まぁいいか。

お肉はちょっと多いので取り出すのは後にする。

バッグから取り出したものを、テーブルに色々と並べていく。まだ取り出している途中でタジアさんの御眼鏡に適うものがあったようでものすごい感謝された。

あー… でも、なんていう木の実だったっけ、あれ。


お肉も引き取ってもらう量を決めて、その分を冷蔵庫に入れていった。

さすがに量が量だから全体量の半分しか減らなかったけど。仕方がない、残りは孤児院へのお土産にするか。

食べ盛りのやんちゃな子供たちがたくさんいるから。お肉なんて、贅沢品かもしれないけどたまにはいいでしょ。


このバッグの空間収納魔法は、中の物は時間が経過しない。

つまりは腐らない。優秀で便利!

タジアさんの張り切っている姿を見て、夕飯を楽しみに思いながらいつもの席に着いた。



「相席、いいですか?」

「…わざと聞いてますよね?」

「ご飯を一緒したいなと思ったのは本当だよ」



受付や説明を終えたらしいラーティ様が私の所に来た。

いや、まぁいいんだけどね。ちょっと聞きたいこともあったし。

躊躇う理由もないからもうサッと聞いちゃおう。



「森の異変の原因、心当たりでもあるんですか?」

「……どうして?」

「その話になった時、僅かだけど反応したのが分かったので。でもまぁ、私も大体の予想はついてますけど」



予想したものが同じなら信憑性も上がるというもの。

でももしそうだとしたら、私1人じゃどうにもならないし、ギルマスたちでもどうにもならない。

だって、下手すれば隣国との問題になってくるかもしれないからね。

公爵家(あの3人)になんて、かまっている余裕ないと思うのだけど…




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