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四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第1章『リルフィ』
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3.シルヴィア・オースト




長い、長い沈黙。

どう思われているのかも怖かったけど、声を発せられるのも怖かった私は、無言でオークたちの解体に取りかかった。

討伐証明となる牙。食材となるそれぞれの部位のお肉。

手早く、かつ丁寧に。ちなみに解体のやり方はアースに教わった。


ふっと隣に気配を感じた。ラーティ様だ。

ラーティ様も解体用のナイフを取り出し、丁寧に解体していく。その手際の良さはさすがだと思った。

手を動かしながら、ラーティ様がゆっくりと話し出した。



「冒険者歴… 長いの?」

「3年になります。とはいっても、採取が主のEランクです。たまに狩りをしてもラビット種がほとんど。この森は基本的に平和なので、この辺を拠点とするなら高ランクも実力も、手柄もいらないんですよ」

「じゃあリルフィのその実力って一体…」

「……知人に、私をすごく心配してくれる人がいて、戦い方の基礎を教えてくれたんです。魔法もその人から。将来、独り立ちするのなら自衛手段を持っとくべきだって。まぁ、過剰に持ちすぎた感はありますけど」

「独り立ち?」

「あと半年ほどで18歳になります。孤児院にいられるのは18歳までですから」



嘘は言ってない。教えてくれたのは人ではなく精霊たちだけど、それぐらいはいいだろう。

当り障りのない、平民なら何もおかしくない将来の決め方だ。特に、親のいない孤児院出身の者ならば。

自分でどうにかしないといけない中で、平穏な生活を望むのはおかしいことではないと私は思う。



「変に煩わされることなく、誰にも傷つけられることなくゆっくり今後を考えたいです」

「うーん… じゃあ、誰にも言わない方がいいね」

「え… …黙ってて、くれるんですか?」

「リルフィはそうしてほしいんでしょ?」

「……」

「よし、後1体だね」



この人、本当に貴族?

貴族なのに、こういう人いるんだ。

彼が本心で言っているということは、精霊たちの反応ですぐに分かった。真剣な顔で、彼の言葉に耳を傾け、その姿を見つめているからだ。

あの、私に近づく人は簡単には認めないサーラが静観している。あのサーラが、珍しい。



『どういう意味だ、リルフィ』



おっと、心の声のはずだったのに伝わってしまっていたようだ。

顔は見えないけど、きっとジト目だと思う。



「終わった… けど、やっぱり5体分は多いね…」

「あ、お肉はこれに入れてください」

「え… まさかこのバッグは…」

「空間収納魔法付きのバッグです。これは祖母から譲り受けたもので…」



正確には高祖母の物らしいけど、そこまで細かくなくていいよね。

メンテナンスしたり、手入れしたりしてるから今でも使えているけど、100年近くは前のものだ。今の子たちにとっては流行遅れの古いモノという印象でしかない。

どういうものかも分からず、価値を知らない異母妹に奪われなくてよかったと心の底から思っている。



「この肉どうするの?」

「私が利用している宿へ食材提供したりします。その見返りとして宿代や食事代が無料(タダ)になったり…」

「おぉ… 賢いね…」



なんか、普通に会話してるけど、嫌な感じはしない。

警戒はしてるつもりなのに、ラーティ様の雰囲気がそうさせているとでもいうような。

…なんだか、不思議な人。

この人は、どういう気持ちでシルヴィアを探しているのだろう。

王命以外の理由がある気がしてならない。



「ついでだし、ギルドまで一緒に行くよ」

「任務中じゃ…?」

「うん。…ていってもほぼほぼ無理だよね。10年も前に行方が分からなくなった人の捜索とか。けどまぁ、僕なりに考えたんだけど、ちょっと気になるんだよね。シルヴィア様のこと」

「何が…?」

「……元々あった情報と事実が微妙に一致しないんだ。もし別の事実があるのなら調べるべきだと思ってね。団長に許可取って単独調査中なんだ」



部外者である私にそう易々と教えてくれるわけがない。

内緒だと言うように彼は右手人差し指を口元に持っていく。

当時の私は、精霊たちに言われるがままに、その場を離れるのに必死だった。

精霊たちがついていたと言っても、所詮7歳の少女だ。出来ることなんて限られてくる。体力も無かったし、魔法の力のコントロールも全く出来なかったから。

見つけられてしまうのだろうか。私は、どうなるのだろうか。大人たちは、身勝手だ。



「僕はね、小さい頃に1度だけ、シルヴィア様にお会いしたことがあるんだ。あ、でも顔を合わせただけで会話はなかったんだけど、綺麗な子だなって思ったのを覚えてる。1つだけとはいえ、自分より歳下なのに大人びた雰囲気で… でも、どこか寂しそうで、悲しそうで… そのたった1度だけだったのに、すごく印象に残っているんだ。デビュタントを迎えれば茶会や夜会などで見かけることもあるだろうし、話しかけて交流することもできるだろうと思っていたのに、見かけるのは妹のサリー・オーストばかり。妹が姿を見せているのに、姉の姿を見ないのはおかしいと思って、父や兄の手を借りて情報を集めた。隠す気がないのかってぐらい、情報はすぐに集まった。余計なことまで知ってしまったような気がするけど、一番ショックだったのは、疑問に思って調べ出すよりもずっと前に、シルヴィア様は公爵家からいなくなってたってことだった」



歩きながらラーティ様はそう話してくれる。

今日たまたま会ったばかりの、一平民にどうしてそこまで話してくれるのかなんていう疑問もあったけれど、そんなことよりも。

1度だけとはいえ、ラーティ様と会ったことがあるという方が私にとっては衝撃的で。ただいつ頃のことか、あまり覚えていないのが少し残念ではあるけど。

『シルヴィア』に対する家族(だった人たち)以外の人の言葉を初めて聞いた気がする。シルヴィア自身を知ろうとしてくれていた人がいたってことも…



「今でもあの悲しそうな様子が頭から離れなくてね。兄が手に入れてくれた情報を元に、王命であることを利用して誰も行かないような地方にも足を運んで探しているんだ」

「もしも、見つけたら… やっぱり連れて王都に戻るんですか?」

「上はそうしろって言うだろうし、陛下もそういうつもりで出した王命なんだろうけど… 僕は、自分が気になるだけでたとえシルヴィア様を見つけても、あの方をどうこうしようなんて考えていないんだ。10年も離れてる時点でそんな気ないだろうし、今の生活もあるだろうし。どうするかはシルヴィア様の自由だと思う。それでも上が食い下がってきたら僕が貰う。公爵家に戻してなんかあげない。

……あ、もちろん、シルヴィア様がフリーで、上が無理矢理しようとした場合のみだよ」



最後のは冗談だろうか。笑いながら言うものだから冗談にしか聞こえないけど、なんとなく、それは本心なのだと感じた。

よく知らない、しかも今どうなっているか分からない女性を、自分が貰う、なんてどうして言えるのだろう。何を考えているのだろう。

悪い人ではない。そう思うけど、いまいちラーティ・ロトレイという人物が見えてこない。

深く知りたいわけじゃない。ただちょっと気になるだけだ。



「あ、町が見えてきたよ!」



話している間に目的の町に到着した。田舎にしては大きく賑やかで、発展している町だ。

まだ明るい時間帯だから多くの人が行き交っている。

冒険者になる前からたまに来ていた町だから、顔見知りの人はけっこう多い。挨拶してくれる子供たちに、軽く手を振って挨拶を返す。



「……」

「…どうしたんですか?」



ラーティ様がこっちを見ていることに気づいた。そんなラーティ様の後ろから、ジトッとラーティ様を見ている精霊たちにも気づく。

怖い怖い! 目つきと観察の仕方が怖いよ! 無言なのもその行動や雰囲気に拍車を掛けてる気がするし。

…まぁ、ラーティ様には見えていないからいいけれど。

それにしても、みんなは静かだ。いや、私が人と話す時は基本的に静かではあるんだけど、今回は静かすぎる。

まるでラーティ様に何かあるかのよう。



「リルフィはこの町が好きなんだなぁと思って」

「…はい?」

「さっきの子供たちに優しい笑顔向けてたから」

「…………は!!?」

「あれ? 何で赤くなるの?」

「しっ… 知りません!」



予想していなかったことをすごい自然な感じで言われて、思わず大声で否定したけど顔の熱がなかなか引いてくれない。

ていうか何? 優しい笑顔って… はぁ!?

そんな顔した覚えなんて全然ないんだけど!?



『あらあら、珍しいものが見れたわね』

『見れたな』

『見た!』

『見ちゃったよぉ』



くぅ… 言い返したいけど言い返せない。

こうやって茶化してくることなんてあまりないのに、なんだか調子狂ってしまう。

でも、ラーティ様の言ったことは合っている。私はこの町が好きだから。

よく来ている、というだけでなく町全体の雰囲気とか、そこに住む人の人柄とか。

ただ… 私は態度を表に出したつもりも出すつもりもないのだけど。ラーティ様は、私の子供たちへの挨拶を見ただけでそれに気づいたということなのかな。

人をよく見ている。上辺だけじゃなく、中身も。



「お、ここかな。冒険者ギルド」

「そうですね。…あの、森でのこと……」

「大丈夫、言わないから」



一応の確認をしたらそう返されて、大丈夫かなと思いつつそこは信じることにする。

全部疑ってたってしょうがないし、疲れるだけだからね。

そう思いながら冒険者ギルドの扉に手をかけた。
















『私たちはあの子を見守っているの。大切な愛し子よ。……貴方に、何が出来るか… 見極めさせてちょうだい』



後ろから、耳元で、そんな声がした。

振り返っても誰もいない。綺麗で、透きとおるような声。

「私たち」「見守って」「愛し子」

その3つの単語を頭の中で反復させる。

目の前の彼女を守っている存在がいる。たまに姿を見せてくれていた小さなあの存在がそうだろうか。

あの形姿。妖精… いや、精霊?



「ラーティ様? どうされました?」

「いや、何でもないよ」



さっきの言葉がどんな意味を持つのか、まだ分からないけど。

少しずつ、1つずつ… 情報を集めて目的のものに辿り着く。

僕の今やることはそれだけだと思った。




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