シャイン
キラキラ朝の光。
私は、この春から、ここエゲレクリニックで働いている人間の女の子です。
元気です。血圧高め。
今日は、エゲレクリニックでの出来事を、新人スタッフ奮闘記ハート暖かみ医療コメディみたいなお話にしたよ。
ドラマ化してもいいよ。
——登場人物。
主人公:私。
先生 :先生。
人間の眼鏡の女の人が心配そうな顔をして、
ペットのホホジロザメちゃんを連れてきた。
サメ肌をなでなでしながら先生に言う。
『うちの子、なんだか昨日の夜から元気が無いみたいで、心配なんです』
確かに、そう言われてみれば、なんだか元気が無いように見える可能性がないわけでも無く、
大丈夫では無い風に見えなくも無い感じに見えてきた。
『お腹を開いてミましょう』
先生が飼い主さんを安心させるように
優しく穏やかな口調で言う。
緊急オペのために、ホホジロザメちゃんに全身麻酔をする。
なにこれやだやだ。
と、暴れるホホジロザメちゃんを、私と、その他スタッフ数名が力づくで押さえこみ、
なんとか麻酔の注射をする事に成功した。
その際、スタッフのひとりがホホジロザメちゃんの鋭い歯に太ももを噛まれて、そこからの失血が止まらずに、やがて絶命した。
その目はどこか遠くを見つめているようだった。
ホホジロザメちゃんのお腹をメスり、
しばらく内臓サーフィンをしていた先生が
『これだ。』
と言って、何やら赤黒い塊を取り出した。
『あ。それは……』
オペの様子を興味津々に、すぐ隣で見ていた飼い主さんの驚いた顔。
『大きなエサをそのまま与えた事による
消化不良ですね。』
そうなんだー。
と、私は先生の知識と経験に裏付けされた、
神オペに、ほわわとなった。
飼い主さんは、赤黒い塊を見ながら言う。
『実は、昨日の夜、恋人と喧嘩してしまい。
殺害と、ホホジロザメちゃんのご飯を兼ねて、
恋人をそのまま食べさせたのです。』
『今度から、食べやすい一口サイズにしてから
与えてくださいね。』
先生は消化されかかった恋人の頭の、
髪の毛を掴んで、医療ゴミ箱にポイしてから、
飼い主さんに優しい笑顔を見せた。
『はい。今度からそうします。でも良かった。
これでホホジロザメちゃん元気になりますね』
飼い主さんの顔に笑顔が戻った。
『ありがとうございます先生。あははは。』
私も一緒に笑おうっと↓
『あははは。良かったー。』
ホホジロザメちゃんのお腹を、医療ホチキスでパチンと閉じて包帯でぐるぐる巻いて、
よし、オペ完了。
何度も頭を下げながら、飼い主さんはホホジロザメちゃんを抱っこして帰っていった。
このなんだか良い感動シーンは何度経験しても、
私、涙がでてきちゃう。私。
良かったね、ホホジロザメちゃん。
はやく元気になろうね。
大きなオペを終わらせた安堵感から、
お昼には甘いものが食べたいなあーって平和的な頭をしていた私に、先生がふと真面目な顔で言った。
『オペの時に、ケニャセミンを0.1mg間違えていましたよ。ケニャセミンは180kg、それと万が一の時のためにルチチンを準備しておくべきでしたね。気をつけてください。』
あ。そうだった。
あああ。完全に、私のミスだ……
浮かれていた自分が、とてもアホに思えた。
『飼い主さんにとってペットは家族。そんな大切な家族の、大切な命を扱うのが、我々のお仕事なのです』
私の目から反省の涙が、鈍シャイン。
そんな私を見て、先生はいつもの優しい口調に戻って言った。
『経験値を積みましたね。さて。次です。
人間は成長できる生き物なのですから。』
私の涙が、シャイン。
そっか。そうだよね。
落ち込んでなんかいられない。
私は、元気です。が私の口癖だったはず。
『元気です!』
私は涙を拭いながら、それでもいつもみたいに元気いっぱいにスマイルをしてみせた。
『あははは。おっちょこちょいさん。』
先生が笑う。
『あははは。今、成長しました。』
私も笑う。
笑い声が重なる。
カメラはゆっくりと、ひいてゆく。
オペ室から、待合室を抜けて、
朝の日差しを浴びたクリニックの建物をゆるやかに回り込むように、
そして、最後に、高く、どこまでも青空。
シャイン。
画面左下には、
つづく。の文字。
おわり。




