はじめの一歩。
今、
煙になって、お空にのぼるのは俺の親友。
なんか死んでしまったので、火葬中ってわけ。
すんごく悲しいぜ。
奴とは、中津川ボクシングジムで出会った。
出会った頃は、本当に気にくわない男だった。
俺はアウトボクシング至高主義。それに対し
奴はインファイト至高主義。
意見の食い違いで反発しあい、朝まで殴り合い、殺し合った。芹沢君の武器は天才的なハンドスピード、そして懐に一瞬にして飛び込んでくるインファイター特有の爆発的フットワーク。
お互いに加減をしてギリギリ殺しはしなかった。
厳しいボクシングの修行を共にするうちに、
不思議と戦友テイストな想いが芽生えた。
馴れ合いはしなかったが、今なら言える。
素晴らしい男だった。
火葬場の帰りには奴の愛したアーモンドポッキーを買って帰ろう。
安らかに眠れ……芹沢君。
ただいまー。て俺は一人暮らし。孤独なアウトボクサー。アーモンドポッキーを食べて、テレビで転生のアニメを見て、そろそろお風呂に入ろっと。
シャンプーをしていると、何やら背後に気配がする。火葬場からよくないオバケでもついてきたのかな?って余裕なフリをしているのは、本当は心底恐ろしいからで、もう少しで俺は失神しそう。
目を開いて確認をしないと、いつまでもそこにいるはずなので、死にそうに恐怖しながらも、
おそるおそる目を開けると、
そこにいたのはやっぱり、
『やあ。沖田君。』
芹沢君だった。
『……はずかしいよ。芹沢君。』
お風呂にて全裸の俺と、着衣の芹沢君。
俺は恥ずかしいだった。
とりあえず風呂から出て、アーモンドポッキーを食べながら、芹沢君に事の経緯を説明してもらった。
『未練だよ。だから僕は、戻ってきた。』
と、芹沢君は、俺の目を見て言う。
なるほど。全て理解した。
ボクシングへの情熱。それだ。
死してなお衰えぬスピリッツ。闘魂。
『芹沢君、やはり君は素晴らしい男だな。』
と、言いかけた俺の頬に、芹沢君は
生前と変わらぬ天才的なハンドスピードのパンチのように、そっと手を添えてきた。
『ポッキー……ついてる』
俺はその距離の近さと、なんだか艶のある声に少し動揺した。
それから奇妙な同棲生活が始まった。
芹沢君は、普通にいつだって俺の部屋にいるし、たまに触って来るし、夜には俺のお布団の中へインファイトのイタズラをしかけてくる。
悪くは無い日々。
ある日の秋の夕方、帰宅すると、
珍しく芹沢君の姿が見えない、ついに成仏したのかな。少しだけ寂しいなあ。と、思いつつも、俺は同棲にてプライベートを邪魔され続けたがゆえに行う事の出来なかった、性的なシャドーボクシングを始めようと下半身を裸にした、その瞬間、
俺の懐に、どこに隠れていたのかインファイターが飛び込んで来た。
あっという間に、コーナーへ追い込まれる。
逃げ場が無い。
『やあ。沖田君。』
芹沢君の目も声も、いつも以上に艶めいていて
俺を見つめる。
超至近距離。インファイターの独壇場。
『せ……芹沢……君。』
俺は赤面して顔を逸らす。
そんな俺を見て、芹沢君はニヤリと笑った。
『このままずっと相手から離れて安全な距離をとりつつ、試合が終わるのを待つのかい?』
俺の脳髄に電撃。
そうだ。
俺はずっと、距離を取っていた。
ボクシングでも。
それ以外……恋愛でも。
『本当の沖田君の気持ちを見せてくれよ。
それだけが僕の未練なんだよ……』
ああ。全てを理解した。
やっと俺は自分の気持ちに気づいた。
気づいたからにはもう逃げない。
迷わない。恐れない。勇気ある、
その一歩を……今こそ。
抱きしめて! 芹沢君!
『イクぞ! 芹沢君! 』
『受けて勃つぞ! 沖田君! 』
熱い男と男の
インファイトのゴングが今、鳴り響いた。
完。




