ギロチン伯爵の謎の愛人
月明かりの美しい夜でございます。
木ばっか生えた森の奥深くの木ばっかの中に、
そのお屋敷はございます。
お屋敷の誰にも知られない
窓ひとつない石造りの地下室に、
今宵はいつもよりひときわ
月明かりが淡く差し込みましてございまして。
ひんやりとしたカビの匂い。
壁にこびりつくのは何にございましょう。
血でございましょうか。
階段を降りてくる悲しいテイストの靴音。
靴音の主はこのお屋敷の主人、
ギロチン伯爵様にございます。
陰鬱なる地下室の灯りを灯しましょう。
だってそのままでは暗くて何も見えないにございますから。
怪しく揺らめくLED。
壁の棚に並ぶのは、ああ。なんたる残酷。
若い女たちの首でございます。
それぞれが憂いを秘めた悲しみの寂しみの目を瞑り、ただ沈黙。静かなる静寂。
首から下は何処へ?
少しくカメラをパンしましたならば、何やら怪しげな浴槽。
そちらに首と離れ離れなりました女達の身体が肌色を美しくして、ぷかり。と在りますのです。
ギロチン伯爵様は、その並ぶ首達の中でも、
特にお気に入りの女を両手でそっと持ち上げ、
抱きしめて、くちづけをされました。美しく。
美しい首。
身体と切り離される前の名前は何と言いましたか。もはや誰にも、わかりません。
『クロエ……』
ギロチン伯爵様が、今、名前をお呼びになられましたね。
クロエ様。それが名前らしいっスね。
激しいエレキテルの流れる電気マッサージ機を、お道具箱から取り出した伯爵様。
ニヤリくふふ。とM。ちがくて、笑む。
その悪魔のエレキテルを、クロエ様の閉じられたままの瞼にあてがい、スイッチをオン。
ぷるるるる。
みたいに振動。
ああ。なんたる優しさ。
ギロチン伯爵様は、クロエ様の悲しみを、
眼精疲労を、首、肩、腰の頑固な疲れを癒しほぐそうとしているのであります。
優しみ燦々。
まるで悪魔のようにございます。
『踊ろうか……』
ひとしきり愛撫を堪能したギロチン伯爵様は、
クロエ様に微笑みました。
にこり。
壁にありますですのはレコードプレイヤー風蓄音機型プレイヤーで。それを優雅に用いまして
音楽をするようでありまして。
月明かりに見守られダンスパーティが始まる気配がいたします。
窓ひとつない地下室のパーティ。
2人だけの。
すーん♪
心地の良い、音がバイオリンしました。
『美しい旋律だろう? クロエ。
気にいってくれるかな? クロエ。
シューベレツ作曲、
栄光の ケ短調 交響曲第80 月光。
だよ。クロエ。』
物言わぬはずのクロエ様の、口元が
わずかに微笑んだように見えました。
『愛おしい人よ』
ギロチン伯爵様は、その愛おしいお気持ちにてそのお胸が、きゃんきゅんしまくりまくり、
クロエ様を愛をもってぎゅうと強く抱きしめて
ジルバみたいなロカビリーみたいな
踊りを踊りました。
狂いの夜のメロディの旋律は愛に満ちた地下室のカビくさくも崇高なる愛の甘い匂いにむせかえるような美しく悲しく何よりも絶望に満たされて
あきれるほどに純粋で憐れな
愛。




