真実
天才が笛を吹きながら転校してきた。
『なんで笛ふいてるの?』
『ナビエ・ストークス方程式なんだよ。
滑らかさ?飛行機とかの機体の周りの空気の流れとかね、台風の動き?流体の動向を完全に……
聞いてる?』
『あ。ごめん。飛んでた。』
『わお!』
僕と梅ちゃんは、
そんな感じにすぐお友達になった。
梅ちゃんの目はいつもどこか遠くを見ていて、
春の遠足でみんながお弁当を食べている時も、体育の跳び箱の順番の列に並んでいる時も、なんだか、この世に参加している感じでは無かった。
その時の梅ちゃんの靴下は、ピンク色で可愛かった。
夏休みの自由研究では、リーマン予想とか、バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想(BSD予想)とかを一所懸命に発表して、先生を泣かせたりした。その時もピンクの靴下で、梅ちゃんはやっぱり可愛かった。
どうして僕は靴下に、なにかしらLOVEを感じてしまうのだろう。不思議だな。
今度、暇な時に梅ちゃんに相談してみよ。
梅ちゃんは、夏は海で海流の流れを管理したり、砂浜に針を落として探したりして、
いつも忙しそうで、なかなかその靴下の不思議を相談できなかったけれど、梅ちゃんはいつだって一所懸命で、僕はそんな梅ちゃんをただぼんやりと見ているのが好きだった。
いつか梅ちゃんが、ぼくんちへお泊まりに来た。
梅ちゃんのお家がヤン=ミルズ方程式と質量ギャップ問題とか、お風呂場のリフォームとかなんとか、そんな理由だった。
ゲームしたりお絵描きしたりお菓子食べたり、
先生の悪口言ったり、もう眠いねー。
一緒のお布団で、仲良ししながら、手をつないだ。梅ちゃんの手はモチモチで、僕は少しだけドキドキした。
あ。靴下LOVEの不思議のお話をしなきゃ、なんて思っていたけれど、いつの間にか眠ってしまってて、朝起きて、一緒にパン食べた。
パンにはブルーベリーのジャムをぬった。
梅ちゃんは裸足だった。
冬休み……
あ。
泣きそう。
………冬休みにね。
小学校の近くの神様の山に、神様がやってくる日が来た。
神様なんて、あまりにすごいだろうから、大人はみんなありがたがりながら怖がったりして、
山の入り口にしめ縄して、塩とお酒とお団子と
髪の毛をお供えして、外出を控えた。
次の日の朝、神様の山の近くで
梅ちゃんは発見された。
村は大騒ぎになって、どうして梅ちゃんが山に入ったのか誰にもわからなかった。
でも僕はなんとなく、わかっていた。
きっと梅ちゃんは、全部の真実を神様に教えてもらいに行ったんだよ。
神様はすごいから、梅ちゃんに優しく優しく教えてくれたはずで。
梅ちゃんもきっとニコニコしていたはず。
梅ちゃんは、いつも知りたがっていたから。
ニコニコしていたはずなんだよ。
でも
膝から下だけになって発見された
梅ちゃんは何も答えてくれなかった。
靴下は真っ赤っか。 だった。




