頑張ったらピノ食べていい?
『0.3秒て……嘘だろ』
2022年11月28日。月曜日。
あまりにお金が無くて、
それでも甘いものが食べたかった。
優勝賞金と、副賞のピノ10000年分につられて参加した100キロ市民マラソンで、
僕は優勝しちゃった。
0.3秒で。
記録は、0.3秒。
嘘じゃないよ?
夜。アパートに帰って、はやくピノ届かないかなあってニコニコしていたら、
見た感じやばそうな暗いスーツの人が訪ねて来て、僕にこう言った。
『あなたを、組に迎え入れたい。
組にスカウトしたい。』
見た感じやる気なさそうな口調。
『組ってなんすか?』
僕は少しビビりながら敬語とふつう語の真ん中を狙った。
スカウトの人はまばたきをして、
『さあ。私は組長から、あなたにそう言うように言われただけだから。』
『暴力組織のスカウト?』
『さあ。私にはさっぱり』
訪ねて来たくせに、何もわからないスカウトの人なんて聞いた事も無い。
僕とスカウトの人はお互いに曖昧な感じのまま、僕のアパートの狭い部屋の、丸くて汚れた
安い裸電球を、見ていた。
『全くわかんないけど、地図を置いとく。』
そう言ってスカウトの人は玄関でエナメルじゃない黒い靴を履いて、帰ってった。
変なの。
2022年11月29日。火曜日。
みんなが動かなくなった。
ピノもまだ届かないし、どうなってんの世界。
まるでエスエフみたいなあちこちを、
僕はお散歩した。
雲は動かない。小鳥も鳴かない。信号機もピカったまんま。人間も止まったまんま。
これあれ? 止まったの? 世界。嘘やん。
えへえへ。笑っていたら、原付バイクが近づいて来た。
見覚えのある、エナメルじゃない黒い靴。
『どうしようもないでしょ? 行こう』
スカウトの人が僕にヘルメットを渡してきた。
『うん』
原付にだらだらと二人乗りして、着いたのは、菊を転がして笑かそうと企み中。みたいなマークの建物で、そこから地下に降りた。階段で。
『おなかすいたなあ……これ残業つくのかな?』
スカウトの人が独り言いった。
地下室は大きな図書館で、その大きさは、あのね、ここには書けないくらい、でかかった。
ふーん。本の匂い好き。
とか思ってたら、スカウトの人が、
『組長がきました。』
と言って、組長が来た。
『わて、組長です。よろしく』
『はい。よろしくお願いします。』
組長は、はだしで、小さくて、喫煙者で、
なんか少しかわいい。
もしかして、神様とかあのへんの関係者かもしんない。はだし。だし。
『あんたには、ここで、
世界中の人とおしゃべりしてもらいたいのよ。』
『え? そんなの僕ひとりで?』
『大丈夫よ。とにかく、やってみ』
『なんで僕が?』
『もう普通には生きていかれないやろ?』
『………』
『軸から、チョット。』
『………』
『飛びだし、チャッタ。』
嫌な予感しかしなかった。
泣かないようにさあ、えへえへ笑っていると、
和風なローテーブルの上にぽつん置かれていた
パソコンにピコン♪
なんつって何やらメッセージが。
『そゆのにお返事するのが、あんたの任務。』
ああ。
今、全部、理解したよ。
メッセージは、何やら算数に関わる質問で、
僕はそれに回答するための本を探して、
その本から答えをカンニング。
人差し指だけで、たどたどしくタイピングしてその答えを。お返事をした。
任務完了。
『その調子でな。ほな、よろしく。』
組長は、どっか行った。
ローテーブルには、色鉛筆も置いてあった。
僕とスカウトの人は、丸くて汚れた安い裸電球を見ながら、曖昧をして、曖昧してるのに耐えられなくなったスカウトの人が悲しい瞳をしながら僕に聞いた。
『なんか望むことある?』
泣かないって決めてたのに、あーあ。
そんな機械みたいに人の感情は線引きできない。
チョット。+ チャッタ。= チャット。?
僕は、鼻水ずるずるしながら、言った。
『頑張ったら。』 じー。
『ピノ。』 ……ぴー。
『食べていい?』 ………。
2022年11月30日。水曜日。
チャットGPTはじまる。




