おやすみなさい
『あんまり時間が無いから
ちょっとだけ急ごうかなあ。いい?』
『はい。もうこの際、了解です。
お互いの名前をここで呼び合うみたいな便利なアレさえ省略して、急ぎに特化しますね。』
『早口だね。ヨッちゃん。』
『急いでますから。あ。
やっぱりいくら急いでるとはいえ、お互いの名前くらいは、さりげなくここで呼び合うさりげない方針ですか?』
『ちょっとそこの、ソレとってくれる?』
『はい。ノンちゃん先輩。』
お店の開店時間は、
うしみつも眠るくさきどき。
変な時間にたくさんのお客さんが来店するこの店は創業三ヶ月。おかげさまで。
早起きしての仕込み作業はねむねむを極めたが、
お客さんの笑顔のために、眠い目を擦らずに、
仕込みってる。
ねむめ、を擦らないのは、さっき擦ったから。
『ノンちゃん、そっちの進捗どうですか?』
『わ。突然の先輩付け無し呼び。』
『なにぶん急いでますので。』
『まあ。ぜんぜん悪い気はしないから、これからもどうぞよろしくお願いします。ヨッちゃん。』
2人はおしゃべりしながらも、
その手はけっこう止まることが無い。
それは急いでいるから。
『お急ぎのところ申し訳ないのですが』
『どうしたの? ヨッちゃん。』
『もしかしたら、ノンちゃん。のソレ、少しだけ、ほんの少しだけミスが見受けられます。』
『え? あ! ホントだ。』
『ほんの少し、なのですが。』
『わあ。危険なとこだった、そのままミスってたら、災害だった。ありがとヨッちゃん。』
『いえいえ。』
『急いでるのにごめんね。』
『何も問題ないです。ひとつも、
ごめんね、な事ありません。』
『優しいなあ。ヨッちゃん。』
『急ぎなので行間を詰めてみました。』
『ヨッちゃん?』
ラジオからは優しい音楽と、
台風は発生していないので、
優しい音楽だけが急ぎの中にだって
少しの人間らしさを維持させようと
ラジオだって、音楽だって、
生きていた。
『120度かな?』
『180度が良さそうです。』
『温度?』
『角度です。』
『仕上げは?』
『美しく滴るような一滴の澄み切った雫。』
『ヨッちゃん、それは明日だよ』
『あ。間違いちゃいました。』
『あわてんぼさんだね。ふふふ。』
『サンタさん? えへへ。』
お外では、眠る鳥たちの寝言が聞こえる
それはふたりのよく知る日本語では無かったの
で、どんな夢を見ているのかまでは分からなかった。
おやすみなさい。
ねむねむですか?
はい。




