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有毒



ピノちゃんは気が狂っていた。


僕のバンドにピノちゃんが

ボーカルとして加入してきたのは、冬だった。

よろしくね。

って挨拶をした。


たったの1曲で喉がつぶれちゃうような歌い方をするものだから、2時間のバンドリハーサルは、これから先を不安にさせるのに充分だった。

歌声は不快な金属だった。


クリスマスに植物園で開催される

イルミネーションライブのイベントが決まっていたので、これから新しくボーカルを探す時間も無くて、あまりにもあまりなピノちゃんをボーカルとしたまま、僕らはリハーサルを重ねた。


リハ終わり、インチキ青春の遺体みたいなベンチと自販機と灰皿の休憩ルームで、

バンドのみんなとピノちゃんとで親睦を深めた。


『ピノちゃんライブ大丈夫そう?』

『わ。わたし、破裂します。』

『それは大丈夫って事でいーのかな?』

『魂を投げ捨てます。』


『ロックだね。』

『違います。』


『あはは。』

『てへへへ。』




きっと僕らとは違う意味の笑顔で笑うピノちゃんは、可愛い女の子みたいだった。



ピノちゃんには毒があった。


他のメンバーにはひみつで、

僕はピノちゃんといつの間にか

なんだか良い感じになって、

舐めたり、舐められたり、

いれたりだしたりした。



本当の名前も知らないくせに。



僕もピノちゃんも先っぽの方から

少しずつ腐っていった。



クリスマスイブのライブ当日。


いちおう無駄だとは知りながらも、本番前に最後の確認の意味も含めてスタジオに入る。


不安は増した。

ライブ当日の朝の緊張がピノちゃんの狂いを

さらに狂わせていて、まるで神聖に狂っていた。


植物園はクリスマスなので、

イルミネーションが嘘みたいに綺麗で、

ふだん酒。タバコ。酒。なんて強がりばかり言ってる僕らも心が少しだけファンタジーを信じた。


ピノちゃんは屋台のケバブを食べていた。

ポロポロとこぼしながら、

食べるの下手くそだった。


タバコを吸いながら、ふと目にしたピノちゃんは冬の澄んだ夜の空気の中でただそこにいて、

拉致したイルミネーションの電球が

ピノちゃんの瞳の中でキラキラと輝いていた。


キラキラが今もまだ忘れられない。



ステージでは、

可愛らしい子供達のハンドベルの演奏が終わり、

僕らのバンドのライブが始まる。

会場はさっきのハンドベルの無垢な音色に

心を柔らかくしたお客様でいっぱい。

誰もがみんな幸せを感じてほんわりしていた。

ファンタジーを、信じていた。


少しのハウリング。

演奏が始まる。


ピノちゃんの鼻が。唇が。

低気温を呼吸する。




普通。



とても普通だった。


極度の緊張と、場の雰囲気、電球のキラキラ。

ハンドベルの子供達。

そんなのに嫌われないように。

歌うピノちゃんの歌声は、とても普通だった。

言葉が白くて綺麗だった。



金属と金属がお互いを嫌悪しているような

いつもの歌声は、クリスマスに死んだ。


ライブ終わり。


お客様や主催の人に囲まれて、歌声への賞賛の声の中、ピノちゃんはその誰とも目を合わせられずに、ぎこちなく笑いながら足元ばかりを見ていた。


夜が終わりそうな頃、

バンドメンバーとも別れて、

僕とピノちゃんは手をつないで歩いた。


弔いの夜みたいな気分。


僕も、ピノちゃんも、

それぞれが自分勝手に失恋をしていて、

それでも、発情期みたいに

シーツの中で朝まで何度も肌を重ねた。


感情の根本は死んでしまっているのに。



先っぽから始まった腐敗は、

身体を飛び出して、景色までも腐らせた。


さようなら、さえ言わずに、


誰の心にも「傷」として残る資格すらないまま


この恋のふりをした何かは、


静かに呼吸を止めた。























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