第一章8 落雷
お助けクラブが活動の拠点としている部室へと駆け込むがドアが開かない。どうやら委員長が鍵をしてから俺たちを呼びに来たらしい。後ろから走ってきた委員長が鍵を開ける。そのままスライド式のドアを勢いよく開けると、日常では見ることの叶わない光景が広がっていた。
部室のカーテンは閉められ、隙間から日の光が漏れ出ている。そんな漏れ出た光が美しく照らすのは、灰色の肌に覆われた異形の存在だった。その姿は初めて彼女と出会ったときに似ていて、ざらついた灰色に近い白い皮、とても飛べそうにない小さな翼、長く伸びた尻尾、鋭利な黒い角、爬虫類の瞳に尖った牙、アニメや映画で見るドラゴンとはかなり異なるが、それでも知っている範囲で最も近いのはドラゴンだろう。
ただ、初めて出会ったときのドラゴンは三メートルの巨体だったし、灰色の炎を纏っていた。しかし目の前のソレは、二メートルには満たない大きさで、翼を始めとして全体的に小さく、何より顔の半分や体の所々が人間のままだ。
「伊吹!大丈夫か!?」
そう言いながら不用意に近づいた俺に対して、一メートル以上あるであろう尻尾が鞭のように振るわれた。俺の顔面に直撃する寸前、後ろにいた安武に制服の後ろ襟を引っ張られて、そのまま後方へと投げ飛ばされる。少し締め付けられた首を抑えながら、助けられたのだと理解する。
しかし、状況は最悪に近い。ドラゴンが、伊吹が、明確に人を攻撃したのだ。もし仮に寵愛現象管理協会に伊吹のドラゴン化がバレたとしても、様子見の決断が下される可能性は全然あった。だが危害を加える状態であることが確定してしまった。
「伊吹!話せるか!」
俺は伊吹に話しかける。顔の半分がドラゴンに成った伊吹は、もう片方の人間の瞳、いや、その瞳も瞳孔がはっきりと縦長に鋭く変化しており、普通の人とは言えない姿になっている。
「は、話せる。けど近づかないで!体が勝手に動いたりしてるから」
それでも伊吹は必死に言葉を返した。その声は紛れもなく彼女の声音なのに、僅かに低い音と、反対に高い音が混ざって、加工した音声のようになっている。
「まずは落ち着け!えっと…右手!右手を挙げられるか?」
「え?う、うん」
加工されたような声で返事をしながら彼女は右手を挙げる。見ればその腕も六割くらいが白っぽい皮に覆われ、人差し指と中指には鋭い爪が生えている。それでも体が完全に暴走しているわけではないのだとわかった。
「よし、じゃあ次は左手を前に出せ」
「わかった。…あ、あれ?」
どこまで体の自由が利かなくなっているのか確認しようと指示をしたが、伊吹の左手はぶらんと垂れ下がったままだ。見ればその左腕は右腕と違い完全にざらついた白っぽい皮に覆われ、四本になった指全てから鋭い爪が伸びている。
「左手!動かない!」
焦った伊吹の声が部室に響き、普段のどこかクールな彼女とは違って慌てふためく姿を見ることで、かえって彼女をパニックに陥らせてしまったのだと気付いた。
「大丈夫!ちゃんと戻れる!一回深呼吸して!」
そう言ったのは安武だった。彼の言葉の通り、伊吹が深呼吸をしようと息を吸い込んだ時だった。
「あ、まって、ヤバいかも!」
伊吹がそう言った瞬間、クルっと体を回転させ、見られないように閉めていたカーテンを開け、さらには窓も開けた。一体何をと問いかける前に、窓から外に向かって伊吹が息を吐いた。
「プハァーーー」
そんな可愛らしい音とは裏腹に、目の前の光景は想像を絶するものだった。彼女の口からは灰色の炎が大きな塊となって放たれた。
「なっ!」
その光景に驚き、口をあんぐりと開いている俺の横では、同じように委員長と安武が目を見開いて驚きを示していることだろう。
直径二メール程のその炎は、そのまま別棟の二階から本校舎の四階辺りまで飛んでいく。飛んだ先の窓辺に人の姿は見えないが、最悪火事になりかねない。いや、ドラゴンのブレスであることを考えると校舎の一部が吹き飛んでもおかしくなかった。
「クソ!」
絶対に間に合わないにも拘らず、己に授けられた憤怒の寵愛を発動し、炎を止めようと駆け出した。そして、一瞬で伊吹のいる窓辺に到達したところで、放たれた灰色の炎の行方を見届ける。
炎は四階の窓にぶつかる直前で、大気の中に溶けるようにふわーっと消えていった。その結果によかったと胸を撫で下ろしたのも束の間、すぐ隣の伊吹が叫ぶ。
「ヤバい!離れて!」
そう叫びながら彼女は窓から飛び出す。ここは二階なので高さは大したことないとしても、普通なら怪我をする高さだ。そんな高さから飛び出した伊吹の体を掴もうとしたところ、伊吹は下ではなく上へと落ちていった。否、浮遊したのだ。二メートル近い巨体に見合わない小さな翼ははためくこともせず、そのままドラゴンはグングン浮遊していく。
焦った俺は二階から飛び降りて中庭のコンクリートに着地し、頭上の高度を上げ続けるドラゴンをただ見上げていた。
周りの生徒に見られているかなど気にする余裕もなく頭上の光景を目に焼き付けていると、部室から俺の傍まで急いで下りてきた委員長と安武も頭上を見つめる。
目算何メートルかなど測ることもできず、少なくとも学校の屋上くらいならジャンプで到達できる俺でも届かない高さまでドラゴンは浮遊していた。そして、ドラゴンの体がピカッと光る。いや、違う。光ったのはドラゴン本体ではなう、胴体の中心、伊吹の胸とへその間くらいの部分だった。そこがほんの一瞬黄色い閃光となって、次の瞬間、、、
『ドーン!!!』
と、落雷のような音がした。音だけならばよかった。俺も、委員長も、安武も、確かに見ていた。それは紛れもなく落雷だった。
ドラゴンは雷を落とした。
雷は本校舎に設置された避雷針に誘導され、そのまま消えていく。確認している余裕はないが、晴れ間に急に落ちた雷に、学校にいる人間どころか近隣住民まで驚き、空を見たことだろう。
そうして、人々が空を見上げる前に間に合ったかはわからない。
雷を落としたドラゴンは消え去っており、空からは人間の姿に戻った伊吹が空気の抵抗のみを受けながら落下していた。俺は発動中だった憤怒の寵愛を駆使して、屋上まで跳躍し、屋上からさらに跳躍した。俺のジャンプの精度はよいらしく、自由落下する伊吹を受け止めることに成功する。そのまま別棟の屋上に叩きつけられた。
「伊吹!大丈夫か!」
高所から落下した俺は血塗れで骨も折れているが、この程度で済んでいるのは寵愛の力のおかげだ。そんな重症の傷も数秒で治るのが憤怒の寵愛である。しかし、伊吹はどうかわからない。俺が下敷きとなって落下したことでクッションの役割にはなれたが、それでもあの高さから落ちれば普通は即死である。
伊吹の返事はない。呼吸をしているか確認しようと口元に手を近づけてようやく気付く。骨も折れ、血塗れになった俺と違い、完全に人間の姿に戻った彼女は無傷だった。乙女の柔肌には一切の小傷もなく、口元まで近づけた手は彼女の呼吸を感じ取った。
とりあえず彼女は無事らしい。無傷なのは確実に龍の寵愛の影響だろう。ホッとした瞬間、体の力が抜け、その場に倒れ込む。大丈夫だ。死にはしない。絶対に死ぬとすら思えた傷を受けたときも、ギリギリ俺は生き延びたのだ。これくらいの怪我では死なないという確証があった。それでも痛みと疲労に抗うことをやめ、一旦は倒れた状態で休憩する。
「司!無事か!?」
跳躍により文字通りひとっ飛びで屋上に辿り着いた俺と違い、先程まで中庭にいた安武が速すぎる速度で屋上に辿り着いた。運動神経がいいにも程があるだろと内心呆れつつ、返事をする。
「無事だ。伊吹も寝てるだけだ。俺の怪我もすぐ治る」
その返事を聞いて安心した彼は俺の傍まで駆け寄ってくる。
「ほんと、お前といると心配が絶えないな」
「今回に限っては俺ファインプレーだったろ?」
「フッ、そうだな。悪い」
あの高さから落ちる伊吹を助けたのだ。まあ、今の伊吹の状態を見るに、俺が助けなくても無傷だった可能性が高そうだが。
「大丈夫!?」
遅れてやって来た委員長が息を切らしながらそう言った。
それに対し、安武への回答と全く同じ返事をしながら、体勢を変えて空を見た。
雷なんて落ちる気配のない気持ちの良い青空だ。半分ドラゴンの姿に成った伊吹がとりあえずは元に戻って一件落着、とはとても言えない。むしろドラゴンにここまでの力があると証明されてしまった以上、より深刻な事態となった。
「まったく、世話の焼ける女子高生だ」
そう言いながらスヤスヤと眠っている彼女を見ると、彼女は人間の姿に戻っていた。それは先程も確認しただろうと言われるかもしれないが、そうではない。角は生えておらず、角の断面もなくなっている。髪は黒く染めたばかりなのでわからないし、寝ているので瞳孔も確認できないが、今の彼女の姿は正真正銘のただの女子高生だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
幸いにも、ドラゴンが雷を落とす光景を目撃した人はいなかった。正確には、写真や動画が出回っていおらず、SNSの類を確認してもそういった投稿は見られなかった。もしかしたら話題になっていないだけで、校内にいた人間や近隣住民が目撃しているのかもしれないが、広すぎる人間関係を有する委員長も安武もそういった話題は耳にしていないとのことだった。
伊吹が部室のカーテンを開け、炎を吐き、飛び出し、空へと浮遊し、雷を落とすまでの一連の流れはおおよそ三十秒程の出来事だ。そんな短い時間に人目が多くない場所であったとしても、昼休みが終わる直前で校内各地に生徒は散らばっていた。そんな中で大事にならなかったのは運が良かったとしか言えない。
俺についても憤怒の寵愛を発動し、中庭から屋上への跳躍をしている。その姿もおそらくは見られていないようだ。
思い返せば四月も寵愛現象絡みで力を使い、ゴールデンウィークも厄介ごとに巻き込まれて力を使っている。そしてゴールデンウィーク明けも伊吹の件で力を使っているので、この一か月は常に筋肉痛に苛まれている。力の代償が筋肉痛のみで済んでいるのは有難い話ではあるのだが、その激痛と気怠さを抱えたまま生活するのは辛い。それでも俺は体に鞭打って翌日も真面目に学校へと足を運んでいた。
丘の上にそびえ立つ東浜高校が遠目から視認できたくらいの位置で、俺が来るのを待っていたのであろう安武と出会う。
「おはよう。調子はどうだ」
「おはよう。最悪だよ」
憤怒の寵愛の重いのか軽いのかよくわからない代償を知っている安武は、俺の体の調子についてそれ以上は聞かずに早速本題へと入る。
「昨日の夜に電話した通り、学校内で空飛ぶ化け物を見たという情報はなかった」
まずは改めて情報共有がされる。あの後、体調不良と嘘をついて俺と伊吹は早退している。といっても、伊吹が目覚めたのは五限目が終わった後だったから、それまでは屋上で俺が見張っていた形である。
「特に噂になってないようで安心したよ」
俺がそんな感想を漏らすと、安武は半笑いを浮かべながら答えた。
「噂…というより話題で言えば司の話で持ち切りだな」
「なぜ俺の話題…?まさか屋上まで跳躍した俺の姿を誰かに見られていたのか!?」
焦りが全身を駆け巡る。ドラゴンの存在が知られるよりはマシだが、俺の秘密について知られるのもマズいのだ。学校を辞める、どころか最悪の場合は寵愛現象管理協会の連中に排除されかねない。
「違うよ。目撃者はいなかったって言ったろ?昨日の出来事をよく思い出せ」
そう言われて安心しつつ、昨日を振り返るが特に何も思い当たらない。ドラゴンの衝撃が強すぎて、どの出来事も些細なものに感じてしまう。
「なんでそんなキョトン顔ができるんだよ…。まさか本当に忘れたのか?昼休みに二年六組に対して一方的な説教をしただろ?」
「それは覚えているが…というか別に一方的な説教じゃなくて、ちゃんとした対話だっただろ?」
「あれを対話と言える司のコミュニケーション能力の高さには舌を巻くけど、さすがにあれだけのことをしておいて話題にならないってことはないよ」
「ドラゴンは目撃されなかったにせよ、晴天の空に雷が落ちているんだから、そっちの方が話題になりそうなものだけどな」
理を外れた天変地異より、一生徒が一クラスに乗り込んだことの方が話題になるとは、東浜高校の生徒は少し変わっているらしい。
「まあ、ある意味では司のおかげで東浜高校の話題が雲一つない空に生じた雷についてではなくなったのかもね」
「それなら結果的にやってよかったな。あまり手応えは感じなかったが」
二年六組に乗り込んだときを思い出すが、クラスの反応は我関せずというような雰囲気だった。
「司の説教の効果が出ているかどうかは今日にでもわかるよ」
安武がそう答える。これが普通の状況であれば、俺の行動は効果を発揮しない可能性のほうが高い。当然だろう。よく知らん奴が馴染めていないクラスメイトについて説教してくるのだ。
しかし、これが予想している通り寵愛現象に該当するのであれば話は変わってくる。普通の状況であれば効果を見込めないお説教も、普通ではない寵愛現象であれば効果を発揮する可能性が高い。いや、高くはないか…低くないという表現が正しい。
「昨日の説教で不干渉の寵愛を発動している奴が控えてくれるといいが」
「もしくは他のクラスメイトに影響を与えている寵愛の力が弱まるか」
俺の言葉に安武が補足する。寵愛現象というのは基本的に異常な事態を引き起こしているものだが、その影響を受ける者たちは起きている異常を認識できない場合が多い。だから昨日の俺の行動のように対象者へお前は異常な状態だと訴えることで、彼らに影響を及ぼしている寵愛の力は弱まるのだ。
「伊吹さんの様子はどうだった?」
安武が俺に尋ねた。俺は屋上で目覚めた伊吹の様子を思い出す。
「元気そうだったよ。びっくりするほどに。本人はなんか凄いスッキリしてるって言いながらデカい欠伸をしてた」
伊吹は起きた出来事の内容に対して随分と呑気な様子だった。こちらの苦労も知らないでと内心呆れてしまったものだ。
「それはよかった。体のほうは?」
俺の報告に安心した様子の安武が追加の質問をしてくる。体、というのは何も外傷のことでも調子のことでもない。
「無くなってたな。角の生え際も、縦に伸びた瞳孔も」
初めて出会った日、ドラゴンから人の姿に戻った後も彼女には人とは異なる部分があった。鋭利に伸びた黒い角、灰色になった髪の毛、日に日に鋭さを増していく瞳孔。それらが完全に無くなっていた。髪色は黒く染めた後だから確認が取れていないが、他二点の変化が明確だった。
理由はわからないが、これで彼女は人間に戻ったのだと判断してもいいのかもしれない。しかし、
「それはよかった。…けど、伊吹さんの件は協会に任せるべきだ」
そう言ったのは安武だった。寵愛現象管理協会。異常に対応する集団。対応方法は協会員それぞれで異なり、中には過激派も存在する。
「あんな連中に任せて堪るか」
彼の意見を俺はそう一蹴する。
「司が懸念していることはわかる。最悪はドラゴンの排除というケースも考えられる。でも、それは可能性としては低いだろ?」
「低くてもゼロではないんだ!」
思わず声を荒げてしまった。対して彼は冷静に話を続ける。
「ゼロではない理由は、ドラゴンという存在が危険性を多く孕んでいるからだ。実際、昨日は炎を吐いて雷を落とした。偶然被害は出なかったが、死傷者が出ていてもおかしくなかったんだぞ」
伊吹が危険な目に遭う可能性に対して不満をあらわにする俺に対して、彼は伊吹によって他者が危険な目に遭う可能性を指摘する。
「…それは、、、そうだが、でも、さっきも言った通り伊吹の姿は人間に戻ってる」
「もうドラゴンに成らない保証はどこにもない。ドラゴンだ。炎や雷以外の力もあるかもしれない。どんな規模の被害が出てもおかしくない。危険性を考えれば専門家の協力は必要だろ?」
冷静に、しかし言葉は強く発される。彼が正しい。だが、その選択をした結果、もしも伊吹に何かあってしまったら…。
「これは一番最初に俺が踏み込んだ問題だ。俺が最後まで責任を持って解決する」
俺がそんな発言をした瞬間だった。ピリッと場の空気に緊張感が走る。普段は温厚な安武 晴間という男を怒らせたのだとわかった。
「大きなリスクに対して自分一人で解決を試みることが責任じゃねえぞ。自分の意見を通そうとするのはいいが、そのために責任とかそれらしい言葉を使って誤魔化すな」
ぐうの音も出ないほどの正論だった。彼の言う通り、俺は本気でそう思ってではなく、自分の意見を通すために責任なんて言葉を持ち出した。
「翼さんに相談するべきだ。実の姉に相談するのが嫌だってんなら、俺から話をしてやる」
何も言い返せずにいると、姉の名前が出される。柏木 翼。俺の恐ろしい姉であり、協会の幹部。そして、まだ安武にも伝えていないが、おそらくこのドラゴンの件の担当者だ。
「…もう少し、経過を観察すべきだ。まだわからないが本当に龍の寵愛は消え去ったのかもしれない。俺とお前で注意深く見ておこう。少しでもまだ危険性があるとわかった場合は即座に協会に報告する」
苦し紛れな答えではあるが、無謀な方針というわけでもない。実際、現時点で協会に報告したところで、伊吹からドラゴンの特徴が消え去っている以上は協会側も経過観察しかできないはずだ。過激派の連中は抹殺か人体実験をするかもしれないが。
「…はぁ、わかった。現時点で協会には報告しない。けど、少しでも違和感を感じたら司に相談することなく協会に連絡するからな」
「相談はしてほしいんだけど…」
「絶対に今みたいに駄々こねるだろ?」
「駄々こねるってそんな子供みたいな…」
そう反論しようとするが、安武の一重だが割と大きいその目でジーっと見られ、反論の力は弱ってしまう。
「わかったよ。その時は俺を通さず速攻で協会に連絡でいい」
彼の眼差しに降参して、そう返事した。優しい目つきの彼ではあるのだが、結構目力があるのだ。短髪に形の良い太眉がトレードマークの彼だが、そんな目の下睫毛が長い点も特徴的なポイントであると、彼の目をよく見ていて気付いた。
「もしものときは安武がドラゴンに成った伊吹をぶっ倒してくれよ」
「さすがの俺でも勝算は低いぞ」
「ゼロとは言わないのかよ」
一旦は結論が出たので軽口を叩いてみる。軽口で言ってみたが、ヤクザ相手に拳のみで勝ってしまう彼なら本当にドラゴンも倒しかねない。姉といい、安武といい、俺の周りはただの人でありながらおかしいスペックの人間が多いものである。
「何はともあれ、二年六組の異常事態も、伊吹の身に起きた異常事態も、すでに解決しているのが一番いいがな」
「司がそういう発言をして、その通りになっている試しがないよな」
そんな不穏な安武の発言に対して、事態は驚くほど良い方向に傾いていった。
手始めに、林間学校の班決めでどこにも属せないという問題は、心優しいクラスメイトが伊吹を班に招き入れることで解決していた。




