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赤と青のハルハル  作者: 高野 ぱら
第二章 七不思議ゴースト
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第二章おまけ2 未熟な歩み寄り

 私の名前は伊吹 凛。どこにでもいる普通の女子高生だ。

 そんな華の女子高生はあと数年で訪れることのなくなる夏休みという日々を満喫していた。大量に出た課題は七月末の現時点で半分以上が終わっており、八月に遊びまくる準備は整っていると言っていい。


 もっとも、七月も課題漬けだったかと言われればそんなことはなく、昨日も一昨日も友人たちと遊びに出掛けていた。


 一昨日は親友である日和と夏に向けたアイテムを揃えようとショッピングに駆け出し、その際に文句を言いながらも荷物持ちを引き受けてくれた親友の柏木も同行する。最近は肝試し大会の準備で遊びに行くこともなかったため、久しぶりの外出に財布の紐も緩んだものだ。


 大型ショッピングモールで夏服やコスメを前にキャッキャ盛り上がる私たちに対し、柏木は所々で余計な口を挟む。その姿はまるでせっかくの休日に連れ出されたお父さんだ。

 私たちの買い物に付き合ってくれたお礼として彼には二段積みのアイスクリームをご馳走してあげた。私としても二人のアイスクリームを摘まむことで計六種類の味を堪能することができて有意義だった。


 昨日は柏木と安武と七瀬の三人とでボウリングに出向いた。安武がパーフェクトゲームを達成する傍らで、私は柏木と激戦を繰り広げる。結果は柏木が三位で私が最下位だ。これは非常に悔しいことで、甲子園で敗れる球児たちの気持ちがとてもよくわかった。

 私に勝利したことで調子に乗っていた柏木は、二位の順位を勝ち取った七瀬から心を抉る一言を浴びせられて表情が曇っていた。ざまあみろである。

 ちなみに私と柏木のスコアは百に届かないくらいで、意外と器用に何でもこなす七瀬は百五十に近いスコアを叩き出していた。レベルのおかしい安武は三百点満点だ。もはや悔しさすら湧いてこない。ただただ彼に敗北を教えたい。


 そうして七月の最終日が訪れたわけだが、今日は近くで開催されている夏祭りにやってきた。一緒に浴衣を着ようと何度も誘ってきた日和からのお願いは、動きにくい格好は嫌だという理由で突っぱねた。

 私が浴衣を着ないことで自分だけが浴衣姿になることを嫌った日和は、柏木へと浴衣を着るように懇願し、彼も浴衣を着る運びとなった。そこから柏木が他の人間も巻き込もうとした結果、安武も浴衣姿となって会場に現れる。


「似合ってんじゃん」


 着付けを終えた柏木と安武に向かって私は感想を伝える。実際、二人ともよく似合っていた。安武は茶色みがかった黒色の短髪に眉がやや太めでハンサムな顔立ちの男子である。そんな顔立ちと浴衣の相性がいいのかどうかはよくわかっていないが、彼の浴衣姿はかなり馴染んでいるように感じた。

 一方で赤髪長髪の柏木は似合わないだろうと踏んでいたが、これが意外にもマッチしていていい感じだ。顔の素材はいいからか、さまになっている。


「まあ、俺はイケメンだからな」


 そんな柏木の返答に、こういうことを言われると褒める気も失せるなと思いながら言葉を返す。


「柏木は確かにイケメンだけど、あくまでも平均的な顔立ちの人たちと比較すればって話だから、あんまり自分でイケメンとか言わないほうがいいよ。卓球勝負とかしている最中の必死な顔は結構ブサイクだし」


 私は今後柏木が自信過剰を原因として傷付かないように忠告する。己の優しさに惚れ惚れする。…あれ?おかしいな。柏木が傷付く未来を防ぐために言葉を掛けたつもりなのに、現在進行形で彼の表情は傷付いた人のものへとなっていく。


「ふんっ!そういう伊吹だって昨日のボウリング勝負で負けたときは酷い絶望顔を披露してたけどな。顔が良くてもブサイクな瞬間があるのはお互い様だ!」


「なんだとーっ!」


 彼に言い返された私はギャグマンガのように頭から煙を放出し怒りの声を上げる。


「はいはい、そこまで。醜い争いはしないよ」


 勃発しかけた戦争を未然に防いだのは安武だ。彼は穏やかな声音で言葉を続ける。


「柏木も伊吹も黙ってれば美男美女なんだけどなー」


「「なんだとーっ!」」


 私と柏木の怒りの声が同時に響く。その反応に安武はクスクスと笑う。優しそうな顔をしておいて意外とワルな男である。


「えっと、どういう状況…?」


 憤怒した私たちの後ろからそう呟いたのは日和だ。白を基調とした浴衣に身を包み、所々にピンク色の花びらのような模様が入っていて可愛らしい。その優しく華やかな印象を与える浴衣の上に超絶美少女の顔面と綺麗に染められたパステルグリーンの髪があり、その美しさはもはや国宝級である。


「めっちゃいいじゃん!かっわいー!今日ここに来た甲斐があったわ!もう解散でも全然いいくらいの満足度!」


「全然よくねえよ。解散しようとするな」


 テンションが上がった私に柏木の余計な口が挟まれるが、右から左へと聞き流す。


「へへ、ありがとう。でも浴衣を見てそんなに喜んでくれるなら凛も着ればよかったのに」


 照れ笑いを浮かべながらも彼女はそう言ってくるが、私は反論する。


「日和は何にもわかってないなぁ。私は超絶美少女の浴衣姿に欲情したいのであって、動きにくい浴衣を自分で着たいわけではないんだよ。唐揚げは食べたくても唐揚げを作りたいわけじゃないのと一緒だよ」


「速川の浴衣姿に欲情しようとしてんじゃねえよ。あと妙にわかりやすい例え話するのもやめろ」


 熱弁する私にまたも柏木が余計な口を挟むが、今度は左から右に聞き流す。


「そ、そういうものかなぁ。あ、二人とも浴衣似合ってるね。私に合わせて着てくれてありがとね」


 困惑したままの日和は男共二人に目を向けてそう言った。私としては日和の浴衣姿がここにある以上、男共の浴衣姿など視界に入れる気もなくなったのだが、彼女はまじまじと彼らを見つめ微笑んでいる。


「まあ、たまには浴衣姿も悪くねえな。レンタル代がこんなに高いのには納得いかねえけど」


 相変わらず余計な一言を添えてしまう柏木がそう答えた。


「速川も浴衣似合ってるな。柔らかい色合いが速川に合ってていい感じだ」


 そう言った安武に対して日和は満面の笑みを返した。やはり安武はできる男である。その一方で鼻をほじり出した柏木に呆れた眼差しを向ける。


「なんだよ?」


「だから柏木はモテないんだよ」


「なに?俺はこう見えてモテるんだぞ。小学生のときとかバレンタインチョコをクラスで一番貰ってたんだぞ」


「うわー、そこで小学生のときの話を持ち出すあたり、ここ数年の恋愛事情が窺えるね…。過去の栄光にいつまでも縋っちゃダメだよ」


 ためになるアドバイスをした私に対して彼は「ムキ―!」と声を上げた。「ムキ―!」って擬音であって声に出すものじゃないよな…。


「まあ、今年のバレンタインデーは私が友チョコ作ったげるからそれを楽しみにしてな」


「本当か!?そこまで言うなら楽しみに待ってやらんでもない!」


 友チョコを渡すと言っただけで機嫌を取り直した彼をチョロいと思いつつ、私チョコとか作れないんだよなーと考える。まあ、コンビニに売ってるようなチョコを与えればいいだろう。


「わ、私もチョコあげるから楽しみにしてて」


 意を決したような口調で日和がそう言った。


「え?ほんと?うれしいー。日和のチョコ楽しみにしてるね」


「おい、文脈的にどう考えても俺へのチョコだろ。横取りしようとするな」


「私を差し置いて日和からチョコを貰えるだなんて思うな」


「ちゃ、ちゃんと皆の分も用意するよ」


 また柏木と争いが起きそうになったところを、日和の一声によって平和が保たれる。最近、速川 日和を崇めるために開設された『陽姫ファンクラブ』に入会した私としては、こうして彼女からチョコを貰える立場にいられることは鼻が高い。

 ちなみに『陽姫ファンクラブ』は非公式のため日和には存在がバレないように細心の注意が必要だ。


 そうして話が盛り上がっていたところに二人の女の子が遠目に見えた。七瀬と加藤さんだ。加藤さんは七瀬の後ろに隠れるようにして歩いている。


「おーい、こっちだ」


 柏木が二人に向かって手を振った。私も真似して手を振るが、身長が低いせいで居場所を示すという目的を果たせているかは微妙なところだ。


 六人全員が集まり、肩を並べて夏祭りの舞台へと歩き出した。もう十八時半を過ぎているのに空はまだ仄かに明るく、蝉は喧しく鳴いている。人々の雑多な声が混じり合い、一気に夏祭りらしくなる。


 私は少し歩くスピードを落として、前を歩く五人の後ろ姿を撮影した。確かに今この瞬間、ここに友情があるのだと実感し、二か月前に私を助けてくれたお助けクラブに対して感謝の心が湧く。私はこの二か月と少しの時間で一体どれだけ彼らに感謝の気持ちを抱いたのだろうか。特に柏木 司に対して強い恩を感じていた。


 彼らの下に戻ろうと、再び歩くスピードを上げる。夏祭りの会場は人で溢れかえり、一瞬にして私と彼らの間に人々がなだれ込む。


 そして、私は皆とはぐれた。十七歳にして迷子になった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 迷子になったからといって私は焦ったりしない。私は文明の利器であるスマホを有しているのだ。電話をすれば一発で合流できるだろう。そうして私は柏木へと電話を掛ける。


「あ、もしもし柏木?ごめん、はぐれちゃった。今どの辺にいる?」


『おう、奇遇だな。俺も皆とはぐれたところだぜ。お前はどこにいるんだ?』


 結果、役に立たない柏木との通話を終了し、私は次の相手へと電話を掛ける。


「あ、もしもし日和?ごめん、はぐれちゃった。今どの辺にいる?」


『あ、今勝手にたこ焼き屋のほうに吸い込まれちゃった司君を追ってるとこ。また司君と合流したら連絡するね』


 愛しの日和は私よりも柏木を優先し、ポツンと私は独り佇む。


「あ、もしもし七瀬?ごめん、はぐれちゃった。今どの辺にいる?」


『今、柏木を追った日和に付いて行って迷子になりそうなラブちゃんを追いかけてるとこ。あ、見失った』


 どうやら全員がはぐれたらしい。この人混みとはいえ、全く統率の取れていない集団だ。次は安武に連絡しようとしたときに、私は声を掛けられた。


「ねえねえたこ焼き食べたくない?俺ら奢るよ」


 そう声を掛けてきたのは三人組の男だ。全員が前髪を目元辺りまで伸ばし、整っていない顔のパーツを上手く誤魔化している。カッコよく見えるように努力している点は評価に値するが、三人の顔の区別がつかずに誰が喋っているのかわからない。


「いや、自分で買うからいらない」


 私は感情の籠っていない口調で答える。ひ弱な私に三人組の男が手を出そうとすれば碌に抵抗できず敗北するだろうが、私の心は驚くほどに平常心だった。


「じゃあさ、買ったたこ焼きを一緒に食べようよ」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら男がそう提案する。


「え、やだ」


 反射的に私はそう返事をしてしまう。


「そう言わずに。話してみれば結構楽しませられると思うよ。俺らトークには自信あっから!」


 もう一人の男がニマニマとした表情でそう言った。


「人捜してるからもう行っていい?てか行く」


 淡々とした口調でそう告げて私は歩き出す。すると私の進行方向を塞ぐ形で男三人が壁を作る。


「邪魔~、どいて~」


「まあまあ、そう言わず。捜している子は友達?それなら俺ら一緒に捜すよ」


 食い下がる男たちのナンパ魂を称えつつ、私はどうしたものかと考える。金的を蹴り上げたらこの壁崩せるかなぁ?暴力罪みたいなのに該当しちゃうかなぁ?


 迷った結果、とりあえずは蹴ってから考えようと右足を浮かせて後ろに持っていく。そうして助走距離を確保した右足は勢いよく金的目掛けて放たれる、その時だった。


「いーぶーき、乱暴したらダメでしょ」


 そんな穏やかな声音と共に私の体は宙に浮く。両脇を抱えられ、幼児のように持ち上げられてしまった。


「あ、安武。もう、捜したんだよ。どこ行ってたの?」


「それはこっちのセリフ。わざわざ迎えに来たんだから。このまま抱えて皆のところまで運ぼうか?」


「え?いいの?らくちんだね。よし、全速全身~!」


「なんで乗り気なの…。冗談だよ。伊吹って結構子供っぽいよね」


 そんなやり取りの末、私の両足は地面に戻される。チッ、楽しそうだったのに。


「それよりこの男の人たちはお友達?」


 この場に安武が現れてしまったからか、男三人衆は露骨に嫌そうな顔をしている。


「んーや、知らん人。やっつけちゃっていいよ」


「いいわけないでしょ。俺の友達がすみません」


 そう言って安武は彼らに頭を下げる。


「チッ、なんだよ、男と来てるなら最初に言えよ」


 三人衆のうちの一人がそう口にした。悪態をつく、という表現がぴったりの口調だ。もっとも、どうでもいい相手に何を言われても気にならなくなってしまった私はその態度に何とも思えない。


「なるほど。男子と来ていることを伝えればよかったのか。参考になった。ありがとう」


 冷静になって考えてみれば男はナンパの撃退方法を伝授してくれたのだから、私はお礼を述べることにした。人生というのは誰が自分に学びを与えてくれるかわからないものである。


「あ?」


 非常に不機嫌で威圧的な音が呟かれた。場に緊張感が走る。その恐ろしい声を上げたのは三人衆の男たちではない。私のすぐ後ろに立つ安武だ。私は恐る恐る彼の顔を見るが、眉間に皺が寄り鬼のような形相で男三人衆を睨んでいる。


「お前、俺の友達に悪態ついたか?」


 静かに発せられた声なのに、かなりドスが利いていて男たちの身が震えるのをこの目に映す。私までちょっと震えちゃったじゃないか。


「あ、いや、その、、、すんません」


 顔面蒼白となった男は謝罪の言葉を口にし、残りの二人を引き連れて去っていく。まさか普段は温厚な安武にこんな恐ろしい一面があったとは。面白い友人を持ったものだ。


「助けてくれてありがとう。これぞ虎の威を借る狐ってやつだね」


「えー、俺は別に虎ってほど恐くないよー」


 いつもの口調になった彼は穏やかな声音でそう言った。説得力は皆無だ。


「ナンパ避けには柏木が最適だと思ってたけど、安武もなかなかだね。今度どっちがナンパ避けとしての性能が高いか、日和を餌にして試してみようよ」


「とても速川の友達とは思えない発言…。というか、それで俺が司よりナンパ避けとしての性能が高かったらショックだなー」


「とても柏木の友達とは思えない発言…。まあ、日和を餌にってのは冗談だよ。私の日和をそんなことに使ったりはしない。むしろ私が日和というご馳走に食いつく」


「急に友情重くなったな…」


 そんな軽口を叩いていると私のお腹からぐうぅぅぅと音が鳴った。早く胃に何かをぶち込まなければ。たこ焼きにしようかな。いや、でも今の気分は焼きそばだ。


「お腹減ったから焼きそば買ってくるー」


「あ、ちょっと待って!また迷子になるでしょ!」


 既に動き出してしまった私は足を止めることなく焼きそばの屋台へと進んでいく。香ばしいソースが鼻孔をくすぐるので抗えない。そんな私を安武は追いかける。


 そうして無事焼きそばを購入した私と安武は、人が密集していないエリアへと非難し、共に麺を啜るのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 友人たちと合流すればはぐれて、はぐれてはまた別の友人と合流する。そんなのを一時間以上繰り返し、私たちはようやく六人全員集結できた。そうして六人で屋台を回り、お腹が満たされた後に射的に挑戦する。


「よし、私が優勝する」


「射的って優勝とかあったっけ?」


 私の宣言に対して七瀬がそう口を挟んだ。優勝などの概念がなくとも、この世界は勝負事でできている。常に勝つつもりで生きなければならないのだ。


「いーや、優勝するのは俺だ」


「射的に優勝とかないよー」


 対抗心を燃やしてきた柏木に対して日和が口を挟んだ。そうして私たち六人は射的に挑む。


 五分後。


「まさかこの私が敗れるとはね」


「まさかこの俺が敗れるとはな」


 私と柏木が屋台の隅っこでそう呟いた。


「いや、予想通りだったよ。二人って器用さとかクソ雑魚じゃん」


「クソ雑魚て…」


 ローテンションなハスキーボイスで辛辣なことを言うのは七瀬だ。私は彼女に異議を唱えるような視線を向ける。


「だって的に掠りもしなかったのは二人だけだよ」


 事実とは時に残酷なものである。私と柏木は心を抉られ、目に涙が浮かびそうだ。ちなみにそういう七瀬は少しずつ的を押し出す形で駄菓子の詰め合わせをゲットしていた。私たち三人はその駄菓子に手を伸ばしながら、最後の挑戦者となった加藤さんの勇姿を見守る。


 現在はいつもの如く安武が一位だ。彼は五発のチャンスで三つの景品を勝ち取っていた。駄菓子の詰め合わせ一つをゲットした七瀬が二位。何も落とせなかったが的に弾が掠りはした日和が三位。一発も的に当たらなかった私と柏木が同率最下位だ。


「いってやれ加藤!なんでも涼しい顔で勝ちやがる安武にギャフンと言わせるんだ」


「そーだそーだ。頑張れ加藤さん。安武の敗北顔を拝ませてくれー」


「この二人、悪い意味で性格そっくりだな」


 安武が呆れた顔で私たちを見てくる。


「昨日のボウリングで惨敗を喫している私たちとしては、ここいらで勝利をもぎ取りたいんだよ」


「その通りだ」


「いや、二人はもう負けてるんだけどね。加藤さんが俺に勝っても、二人が射的で惨敗した事実は変わらないんだけどね」


 痛いところを突いてくる安武に私たちは渋い顔をしながらも、最後の希望である加藤さんに勝利のための念を送った。


「な、なんか凄いプレッシャーを感じる…」


「バカ二人のことは気にせずリラックスして狙えばいいよ~」


 緊張した様子の加藤さんに七瀬が失礼なことを口にする。それを聞いて軽く深呼吸をした加藤さんは的に標準を合わせた。

 その結果は、


「おー!よくやった加藤!お前は俺たちチームの誇りだ!」


「流石だよ加藤さん!やってくれると信じてた!私たちの勝ちだよ!」


 なんと四つの景品を撃ち落とすことに成功した加藤さんに歓声が上がる。というか私と柏木の二人が歓声を上げている。


「加藤さんを勝手にクソ雑魚チームに含めるなよ」


「フン!敗北者は黙ってな!」


 安武の発言に柏木がムカつく表情を浮かべながら煽りの言葉を口にする。普段は穏やかな安武は笑顔のままイラっとしているのが伝わる雰囲気を纏う。その心は笑っていない笑顔の状態で柏木へとデコピンが放たれた。


「痛ってぇー!おい!お前は馬鹿力なんだから手加減しろよ!頭蓋割れた頭蓋割れた!」


「ちゃんと砕かない程度に手加減したから安心しろ」


 悲痛の声を上げながら地面をのた打ち回る柏木のことは無視し、私は加藤さんに駆け寄った。


「加藤さん凄かったね!天才だよ天才!プロ目指せるよ!」


「何のプロ…?」


 興奮冷めぬ私の発言に対して七瀬が疑問の声を口にするが気にしない。


「ふえっ!?あ、その、あ、ありがとう。頑張ってプロ目指してみるよ!」


「ラブちゃん、無理に合わせなくて大丈夫だから。凛は時たま変なこと言うから」


 真剣な表情で返事してくれる加藤さんに対して日和がそう言葉を掛けた。さっきから私の友人たちは失礼な発言が多い気がする。


「あ、でも、私が取った四つの景品はお菓子の入った小さい袋ばかりだから、実際は大きいのも落としてた安武君のほうが凄いと思う」


 控えめな発言をする加藤さんの謙虚さに胸を打たれながら、私は彼女に言葉を返す。


「いーや、今回は間違いなく加藤さんの勝ちだよ!取った景品の数が全てだよ!安武なんて雑魚だよ!」


「どうやら伊吹にもデコピンを浴びせたほうがよさそうだな」


 私の発言に安武が反応するが、所詮は負け犬の遠吠えの類だ。


「その通りだ安武!伊吹にもデコピンを食らわせてやれ!俺だけなんて理不尽だ!」


「そうやって友人を売る奴には罰が必要だな」


「イダアァァァァー!」


 再びデコピンをされた柏木は醜い悲鳴を上げる。愚かな男である。


「あ、あの、これ、その、い、伊吹さんに…どうぞ」


 目の前の加藤さんは緊張しているのか震えた声で私にお菓子の袋を差し出してきた。


「え?くれるの?ヤッター。まじサンキュー」


 そう言いながら私はお菓子を喜んで受け取る。


「にひひ。私からも今度何かお返しさせて」


「え!?本当ですか!?また私と会ってくれるんですか!?」


「何言ってんの、当たり前じゃん。私たちもう友達じゃん」


 今更そんな確認をしてくる彼女に私はそう告げる。すると加藤さんの表情はパァッと明るくなり、ブンブンと頭を縦に振った。


「友達、私たち友達。ぐへへへへ」


「うん、友達。それにしても変な笑い方だね」


 そう言った瞬間、場が凍り付く。なぜか加藤さんの表情も急速に曇っていく。


「あー、やっぱり伊吹はデリカシーのない発言をしやがった。加藤に最初に紹介したのが七瀬でよかったぜ」


「え、私なんかした?ごめん!」


 柏木の発言から私のせいで場が凍り付いたのだと気付き、急ぎ謝罪の言葉を口にする。


「い、いえ、変ですよね。私の笑い方」


「それはそうだけど…別にそんなの気にしなくていいのに。私もたまにガハハとかわっはっはとか変な笑い方するよ」


 そうフォローするが加藤さんの表情はシュンとしたままだ。そして私は思い出す。そういえば中学の頃はこういう不用意な発言をしないように気を張り詰めていたのだ。高校からそれをやめたのと、ここ二か月軽口を叩き合う友人とばかり接していたため気が抜けていた。

 中学の頃はできていたことができなくなっていることに気付き、反省する。


「加藤さん!ごめん!私の配慮が足りてなかった!気にしてる部分は誰にでもあるよね。本当にごめんなさい!」


 私は頭を下げて謝る。柏木たちが何を言っても気にしない性格のため、私はいつの間にか甘えてしまっていた。そもそも私は人とのコミュニケーションが下手くそで友達が少ないのだ。


「私はね、加藤さんの笑い方を馬鹿にする意図はなかったの。誰にだって変なところはあるから、それも個性くらいに思って生きていけばいいってのが私の考えなの。だから、加藤さんは別に笑うのを無理に抑えなくていいし、気にしなくていい」


「…伊吹さん」


 私なりに誠心誠意を籠めて彼女に語り掛ける。青ざめていた彼女の顔色が元に戻っていく。


「だからさ、思う存分笑い合おうよ。他の人の目が気になるなら笑ったりするのを抑えてもいいけど、私といるときは気にせず一緒に大笑いしよう」


 まっどろっこしいのが嫌いで、めんどくさいのが嫌いな私は、正面から真っ直ぐに想いを伝える。伝えながらに思う。きっと過去の私だったらここまでして加藤さんと友達になろうとはしなかった。でも、今はめんどくさくても彼女と友達になって楽しく生きていきたいと思った。


「…うん。わかった。ありがとう。私、こういう姿を見せてしまったら、いつもめんどくさいって言われて皆が離れていってたから、こうして離れずに真っ直ぐと言葉にしてくれて嬉しい」


 加藤さんがそう言った。それが本心だと彼女の潤んだ瞳が語っている。私はなんだか胸の辺りがポカポカした。


「伊吹さん、私、変だけど、めんどくさいけど、友達になってくれる?」


「うん、もちろん。私のほうこそ見ての通りコミュニケーション能力に難あるし、最近になって自分自身でも意外とめんどくさい性格しているなって思うけど、それでもいいなら」


「うん、それでもいい。これからよろしくね。り、凛ちゃん」


「にひっ、よろしく、加藤」


 私は彼女と握手を交わす。その手の温度は温かい。そんな私たちを友人たちは優しく見守っていた。

 こうして、また私に友達が増えた。


 アナウンスが流れる。夏祭りが終わる。七月が終わる。

 それでも、夏休みは続く。新しくできた友人との夏休みが始まる。

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