表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤と青のハルハル  作者: 高野 ぱら
第二章 七不思議ゴースト
PR
28/49

第二章7 生徒会役員登場

 東浜高校の教室の扉は横にスライドさせて開閉するタイプだ。それは特段珍しいものでもないだろう。この国の学校の過半数はスライド式の扉を採用しているのではないかと思っている。

 そして今、安武 晴間は学校内に存在するとある一室の扉の前に立っていた。隣には非常に整った容姿と非常に目立つ髪色を両立させた女子生徒、速川 日和が並んでいる。


 扉を軽く三回叩く。跳ね返った音が耳心地よい音域として廊下に響く。硬い木製の扉を叩いた指の第二関節の感触を味わいながら、僅かに気を引き締めた。叩いた扉は横にスライドさせて開くものではない。ドアノブを下方向に傾け、押し引きして開閉するタイプの扉だ。これも珍しいものではないだろう。しかし、スライド式の扉ばかりのこの学校で、それと異なるタイプの扉が備え付けられた部屋には他とは違う役割があった。

 例えば校長室。だけど目の前の部屋は校長室ではない。きっと今代の東浜高校の生徒は、扉を開くのに校長室よりも緊張してしまうだろう部屋だ。


 東浜高校第十八期生徒会役員が拠点とする部屋だった。


 なぜ生徒会室の扉を叩くことになったのかを思い出す。

 我らがお助けクラブは西山 飛雄馬という男子生徒からの依頼により、夏休み直前の終業式の日の夜、校内で肝試し大会を開催することに決定した。決定したと言ってもまだ運営メンバー内で活動を始めただけであり、イベント実現のための各方面への許可取りは本日から着手を始めたところだ。


 つい先程、教師陣から渋られながらも条件付きの開催許可をいただいた。条件は五つ。

 一つ、全ての作業を生徒のみで行うこと。

 二つ、イベント当日、二人以上の教師を会場に付けること。

 三つ、イベント後は必ず元の状態に戻すこと。

 四つ、危険な行為・問題となる行動が起きないように予め対策しておくこと。

 五つ、生徒会役員に開催許可を得ること。


 二人以上の教師についてはお助けクラブの顧問として名前だけ置いている先生の了承を得た。残り一人も割とすぐに見つかった。自分で言うのもなんだが、俺と速川は教師陣からの評価がかなり高い。林間学校での肝試しを立案したときもそうだったが、一般生徒の中で最も教師へのお願いを通せるのは俺たちなのである。


 その他の条件は言われずともそうする内容なので問題ない。しかし、最後の生徒会役員の許可を得るという条件が特殊であり不安要素であった。


 今代の生徒会の特殊性、というより生徒会長の特殊性は数刻前に司へと説明した通りだ。

 どの教師よりも能力が高く、その手腕で様々な実績を残し、そして何より、言葉では伝えきれないカリスマ性とでも言うべき特別な力を持っている生徒会長。


 教師陣はその生徒会長の許可が下りていないところでイベント開催を良しとしたくないらしい。それは彼女が許可を下したのであれば企画は良い結果を生むのだろうという信頼が理由の一つ。もう一つは仮に彼女の知らないところで話を進めた結果、彼女の反感を買ってしまうことへの恐怖。


 優秀という意味での優等生であり、いつも問題の渦中を踊っているという意味での問題児である彼女は、生徒・教師問わず影響力が大きすぎて、彼女の手中である東浜高校は決定を下す際に彼女の許可を求める。


 鳳凰会長とは何度か面識がある。司の姉である翼さんと違って彼女は人の顔も名前も基本的に覚えない。だから俺も覚えてもらうのに随分と時間を要した。

 顔と名前を覚えてもらえたということは、ある意味で俺は彼女に認められているわけだが、それが肝試し大会の許可取りをプラスに傾かせられるかと言えば全く以てそんなことはない。

 いつだって彼女は気まぐれで判断を下す。かと思えば先の先まで見通した判断だったのではと、後から結果を知ると思えることもある。底知れない…というやつだ。


 だからこそ、ここからは言葉選びが重要になる。鳳凰会長の好奇心を引き立てつつ、地雷を踏まないように注意し、イベント開催の許可を得る。司をここへ連れて来なかったのは、彼が不敬な態度を取るからではなく、鳳凰会長の地雷の上を全力疾走しそうだったからというのが実のところである。


「どうぞ」


 スライド式ではない分厚めの扉越しから声がした。男の声だ。声質がやや低い。俺はドアノブを下げて、扉を押した。


「失礼します。二年七組の安武 晴間です。生徒会の皆さんに用件があって来ました。入ってもいいでしょうか?」


 砕け過ぎず、かしこまり過ぎずない言葉遣いを意識する。実質的な交渉相手は鳳凰会長なのだが、ここは敢えて生徒会の皆さんという呼びかけを選択した。鳳凰会長の性格上、自分に対して向けられた話より、組織全体に向けられた言葉のほうが食い付いてくるというのが俺の見解だった。


「あ、安武君じゃん。それに日和ちゃんも」


 生徒会役員の一人が反応した。俺も速川も生徒会の手伝いをよくするから役員の半分以上とは面識がある。その中でも彼女は特に接点の多かった生徒会メンバーである。確か役職は生徒会会計だ。


「やっほー。なんか話すの久しぶりだね」


「だねー!一週間ぶりくらい?」


 速川が彼女に言葉を返す。俺も彼女とは仲が良いが、誰かと仲良くなることにおいて速川には勝てない。

 僅か一週間で久しぶり扱いになることに疑問を覚えつつも、余計な口は挟むまいと喉に留めた。


「一週間で久しぶり判定なのヤバいだろ」


 俺と同じことを思ったのか、部屋の右奥にいる男子生徒が口を挟んだ。やや低めの声質から、入室を許可する返事をしたのが彼だとわかった。その男子生徒の顔は知っているが、面識はないに等しい。


「一週間は久しぶりですよー。一カ月も経とうものなら絶交してるのと同じではと思えるまである」


「そんなこと言ったら俺は何人と絶交してることになるんだ。一年以上連絡が途絶えるなんてざらだぞ」


「それは先輩が友達いないだけ」


 会計の女子生徒が男に物申す。それに対して呆れながら男は返事をしたが、返ってきたのは辛辣な言葉だ。


「まあ、俺に友達が少ないことは今はいい」


「少ない…?いないの間違いでは?」


「俺を傷付けるために余計な口を挟むな。話が進まん」


 そう言って男は会話に置いてきぼりだった俺たちへと顔を向けた。男と目が合う。目つきが悪い。少し隈もある。一重で生気を感じられない目が悪い印象を与えてくるが、それ以外の顔のパーツは整っている。俺だったら鬱陶しくて切りたくなってくる頃合いくらいの伸びた黒髪からハイライトの入っていない瞳が覗いていた。


「それで用件というのは何だ?」


 男の言葉はぶっきらぼうだが、声音に苛立ちや嫌味は感じられない。どうやら司と同じく、言葉遣いが丁寧ではないというのがデフォルトらしい。


「七月二十四日の夜、校内で肝試し大会を開催したいんです」


「…」


 静寂が訪れた。その反応は予想外で生徒会役員を観察する。生徒会役員は確か九名。現在、部屋にいるのは四名だ。そのうちの三名が何かを察したような様子で「あぁ」と声にならない息を吐いた。ただ一人、用件を聞いてきた男だけが僅かに眉を動かしたのがわかった。


「下校の時刻も迫っていることだし、手短に答えてほしい。それで生徒会に何を求める?」


「肝試し大会のスタッフとして生徒会の皆さんにも協力いただけないかと思い、お話をしに来ました」


 教師から提示された条件はあくまでも生徒会からの許可。それなのに協力依頼を申し出たのは司からの提案を採用したからだ。生徒会を巻き込んで人員と予算を得る。


「もちろんただ手伝ってほしいというわけじゃありません。イベントの準備と並行して終業式の準備や夏休みの」


「いや、いい。交渉材料を用意してきてもらったのに悪いが、今は時間がないんだ」


 司から生徒会の引き込みを提案されたことで、この部屋に来る前に十分ほど速川と話し合った。そうして出来上がった交渉材料は提示する前に少し焦っている様子の彼に遮られる。


「わざわざ出向いて来てもらって悪いが、一旦場所を変えよう」


「場所を…ですか?構いませんがどこへ?」


 生徒会が関係する話をするとき、生徒会室以上に適している部屋もないだろう。しかし、彼はそこから離れようとする。


「どこか…地味な場所だ。そこへ行こうという候補にすら上がらないよな地味な場所がいい」


「は、はぁ」


 流石に俺も困惑のリアクションしか返せない。隣の速川も頭を傾けて不思議そうな顔をしている。


「この件は俺が担当する。だからお前らは引き続き予算整理と生徒総会でのアンケート集計を頼んだ」


 彼は他の生徒会メンバーに向けてそう声を掛けた。


「はぁ、どうせ無駄なのに」


 会計の女子生徒が溜息を吐いてからそう呟いたのが聞こえた。


「とりあえずついて来てくれ。妥協案は俺も考えるから」


「え、妥協案って…肝試し大会は却下ってことですか?」


 席から立ち上がり俺たちの目の前まで来た彼の言葉に速川が反応する。


「結論から言うとその通りだ。生徒会は協力しないし、教師陣が生徒会の許可を条件にしたのであれば、生徒会としてはベント開催を却下する」


 衝撃の発言をされた。生徒会の協力を得られないのは仕方がないにしても、イベント開催まで却下されてしまっては困る。それに言ってもいないのに教師陣が出した条件について彼のほうから口にしたのにも驚く。


「それは判断が早すぎるんじゃ」


「そう思うよな…。だからお互いが妥協できる案は一緒に考えるし、君たちの意見もちゃんと聞くから、今は早くこの場を離れて」


 俺が抗議の言葉を向け、彼が焦りながらも説得を試みているその時だった。「ぐえっ」というカエルが潰れたような声が生徒会室に響いた。

 突然の声にその場にいた全員が驚く。そして声の発生源に目を向けた。そこには赤い何かが倒れていた。いや、何かではない。俺はそれを見慣れている。赤い長髪の男が倒れていた。


「うわー!」


 生徒会役員の一人が悲鳴を上げた。それもそのはず、突然人が現れたのだ。しかも、俺たちがいる扉からではなく、生徒会室の奥に現れた。


 生徒会室を見渡すとカーテンが風で揺れているのが見えた。七月の暑さにも負けず、生徒会は冷房ではなく扇風機を稼働させているようだ。そして室内の温度を下げるために窓も全開に開けられていた。


「いや、まさか」


 俺はそう呟く。頭を抱えるように額に右手を添えながら、ちらりと急に現れた彼のほうを見た。彼、柏木 司は今もべちゃりと床に伏している。


「ないない」


 俺は引き続き呟きながら、己の頭に浮かんだ考えを否定する。急に生徒会室の奥、窓辺に出現した司。彼の出現方法が頭に浮かんだが、それは窓から入ってくるというものだった。


「流石にない」


 もはや自分に言い聞かせるように俺は呟く。ないと言い切れる理由は単純明快。生徒会室は二階にある。窓からは入れないのだ。例えば、彼が憤怒の寵愛を発動したのであれば二階の窓に飛び乗ることはできるだろうが、いくら司でもそんなことはしないだろう。だって生徒会室には普通に入り口として設けられている扉から入れるのだから。


 そうして彼の出現方法の理解を脳が拒んでいる感覚を味わいながら、視線を窓へと向けると次の光景が己の瞳に飛び込んできた。


 二階の窓、つまり俺の視界には地面は映っていない。人類は地面に体のいずれかの部位を設置させていないと活動できない。もちろん水中やジャンプした僅かな時間は例外だが、通常は地面に足を付いているものなのだ。しかし、俺の瞳に映るのは女子生徒用の制服に身を包んだ美しき褐色肌の女王が空に浮いている姿だ。


 我が校の生徒会長が超人だとは知っていたが、まさか空も飛べるとは知らなかった。そんな現実逃避を始めたところで、窓から生徒会室に侵入した彼女は華麗に着地を決める。着地と同時に「うぶっ」という不細工な音が下敷きとなった赤髪の男から鳴ったが、生徒会室にいる全員の視線が彼ではなく、文字通りその上に立つ彼女に注がれていた。


「全員よく聞け!夏の夜にこの地で祭りを開く。貴様ら、付き合え」


 沈みかけの太陽の光が世界を照らす中、太陽よりも輝く煌々としたオーラを纏った彼女は堂々と宣言した。


「何やってんだお前ー!!!!」


 全員が息を呑む中で、目つきの悪い男だけが鳳凰会長に向かってそう叫んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「私に向かってその物言いはなんだ?文句があるなら叫ぶのではなく言葉を並べて話せ。そんなこともできないのであれば」


「猿以下だって言いたいんだろうが、この状況はまず叫ばないとやってられねぇよ。ツッコミどころが多いが、まずは…なぜ窓から入ってきた?」


 鳳凰先輩の言葉を遮ったのは男の声だ。聞き覚えはない。現在進行形で踏み台にされながら頭を上げるが、机が邪魔をして男の顔は見えない。ただこの女王様の言葉を遮ることのできる存在がいたことに僅かな勇気を貰う。俺も今度貶されそうになったら言葉を遮って反論してやろう。


「ぐへぇ。おい!なぜ俺を踏みつける力を強めた!?」


 そんなことを考えた矢先に、彼女に右足に比重が寄って、俺の右胸辺りがさらに床へと密着した。


「何となくだ。余計なことを考えていそうだったからな」


「憶測で人を踏みつけるんじゃねぇ!あと、さっさと退きやがれ!」


 理不尽に理不尽を重ねた状況に苦言を主張する。彼女の体重自体は軽いので大した負荷ではないが、そもそも女子高生に踏まれているという状況が心を抉ってくる。


「退かん。これは有言実行したお前への褒美と、着地に失敗したお前への罰だ」


「罰を与えられる筋合いはねえし、俺は踏まれることをご褒美とは捉えねえよ!」


 相変わらず思考パターンが読めない鳳凰先輩に対して叫び声を上げるが、彼女の耳に届いているようには見えない。


「なぜ窓から入ってきたかと聞いたな。そんなもの決まっている。窓から入りたくなったからだ」


 室内がシーンと静まり返る。先程から叫んでいた生徒会役員らしき男ですら唖然として言葉を失っている。


「おい、ちゃんと説明しろ。じゃないと俺も同類だと思われるだろうが」


「お前と私が同類なわけがあるまい。口を慎め」


 あまりに自分勝手な女王様を背中から落としてやろうと腕に力を込めて立ち上がる準備をする。そのタイミングで部屋に高い声質の鈴のような美声が響いた。


「鳳凰会長、一旦柏木君から降りてくれませんか?話はそれから聞かせてもらえると…」


「委員長ー!流石は我らが委員長だ!この状況で俺の味方をしてくれるって信じてたぜ!」


 控えめな口調で俺の開放を要求した委員長に、思わず喜びの反応をしてしまう。やはり持つべきものは委員長である。


「日和ではないか。久しいな。一週間ぶりだな」


「お前も久しぶりの基準は一週間なのかよ」


 委員長の姿を見て機嫌良く声を掛けた鳳凰先輩に生徒会の男がよくわからない反応をした。


「お久しぶりです。えっと、その、柏木君を…」


 委員長の困惑した声が耳に届くが、伏せている俺からでは机に遮られて表情まで見えない。きっと俺を心配して涙を浮かべていることだろう。


「ん?お前、いつまで私の下で転がっている。早く退かんか」


「アンタは言ったことをすぐにひっくり返すな!」


 俺は両腕の筋肉を稼働させて無理やり体を起こした。勢いよく起き上がったので乗っていた鳳凰先輩が転びでもすれば大変だが、彼女は軽やかに床へと着地した。


「それで、なんで窓から入ってきたのか教えてくれるか?」


 そう言ったのは安武だ。彼の視線は俺のほうに向いている。どうやら鳳凰先輩から聞き出すのは諦めたらしい。流石の判断力だ。俺は数分前の出来事を思い出す。


 中庭で男子生徒三人と共に投げ飛ばされた後、俺は彼女の後を追って本校舎の三階へと来ていた。そこは理科室であり、広々とした部屋だ。


『あれ?なんで理科室に?生徒会室に行くんじゃないのか?』


『そんなこと聞かんでもわかるだろう。生徒会室はこの真下だ』


『?だから、なんで理科室に…まさか生徒会長ともあろうお方が階数を間違えたのか?別に恥ずかしがることなんてないぜ。誰にでも間違いの一つや二つ…ぶへっ』


 そんな気遣いの言葉を掛けているところに、彼女はどこから出したのかわからない扇子で俺の頬をべチンと叩いた。


『何しやがる!?』


『不快な態度を取られたから愉快になるための行動をしただけだ。それより、早く行け』


 そう言って鳳凰先輩は窓のほうを指差した。


『行けって…まさか三階の窓から飛び出て二階の窓に飛び移るってわけでもないだろう』


『わかっているなら早く行け』


『お前どうかしてるのか!?どこの誰がそんなアクション映画でしか見ないことするんだよ!』


『幼い頃によくしていたが、最近はしていなかったと思ってな。久しぶりにやるから付き合え』


『そんな理由で命を危険に晒すわけねぇだろ!』


『おいおい、愚者よ、まさか恐いのか?』


『はぁ?恐いわけないだろ。ただ公共のルールというか、常識というか』


『もういい。私は先に行くから腰抜けは理科室の埃の数でも数えていろ』


『腰抜け!?おいおい聞き捨てならねえな。俺ほどの度胸を持った漢はこの世にいねぇぜ。この窓から生徒会室に飛び移るなんざ余裕すぎるくらいだ』


『ならばグチグチ言ってないで早く行け。それとも口だけの男か?』


『ハッ、そんな偉そうな態度できるのも今のうちだぜ。俺が華麗に着地を決めるところをこの窓からよく見ておけよ』


「と、言うわけだ」


 俺は生徒会室にいる全員に説明を終える。これでいかに鳳凰 明日香という女がイカれているのかわかっただろう。


「はぁ」


「柏木君…」


 そんな俺の予想とは裏腹に、安武は頭を抱えながら溜息をつき、委員長は哀れな男でも見るような目つきで俺の名前を呟いた。


「とりあえずうちの会長と噂の柏木 司がイカれているというのはよくわかった」


 扉近くに立っている目つきの悪い男がそう発言した。悲しいことにこの場の誰もその発言を否定しない。


「以前はもう少し面白かった気がするが、久しぶりにやってみるとつまらんかったな」


 そんな空気の中で場違いな発言をする鳳凰先輩を睨む。


「俺を下敷きにしておいて感想がそれかよ」


「お前の上に着地したのがいけなかったのかもしれん」


「この人、何を言っても反省しないな」


 またも俺と鳳凰先輩でのやり取りが始まりそうになったところで、目つきの悪い男が咳払いをして注目を集めた。


「何にせよ大問題の行動だ。誰にも見られてないだろうな?」


「当たり前のように隠蔽する気だ」


 目つきの悪い男の発言に、生徒会役員らしき女子生徒が反応した。俺は窓の外に視線を向ける。本校舎と若干の距離は開いているが、サッカー部と陸上部が活動しているグラウンドからこの部屋は見える。しかし、幸いにもグラウンドにいる生徒や教師でこちらに目を向けている者はいない。三階の窓から二階の窓へと飛び移ったところを目撃されていれば、グラウンドにいる彼らから注目を浴びていたであろうから、それがないということは大丈夫だったということらしい。


「案ずるな。パフォーマンスの一環だ」


「案じろ。お前のせいで俺はいつも胃が痛い」


 一応は目撃者がいなかったか気にした俺とは違って、鳳凰先輩は見られていたとしても堂々としていたであろう態度だ。その態度に目つきの悪い男が胃を押さえる素振りをする。


「悪いが今回のことは他言無用で頼む」


 男が振り返り、安武と委員長に向かってそう言った。二人は頷きながら、


「こっちも彼の奇行がバレたら困るのでお互い様です」


 と声を揃えて言った。今回の件、俺は被害者だと言うのに酷い言われようだ。


「えっと、あー、ツッコミどころが多すぎて処理が追い付かねぇな。次に聞くべきこと…鳳凰が言った夏の夜の祭りってのは何のことだ?」


 目つきの悪い男が眉間に手を添え、顔をしかめながら次の質問をする。


「あぁ、それはそこにいる安武と委員長の話とつながってる。二人がいるってことは概要は説明してるだろ。鳳凰先輩が祭りって言ってるのは…うぶっ」


「なぜお前が話す。私に話をさせろ。私が話したい」


「ここまで来るとただの駄々っ子だな…」


 話をしている俺の横顔を畳んだ扇子で突き刺し抗議をしてくる彼女に呆れながら言い返す。


「お前が弁えなかったのを私の問題のように言うな。処すぞ」


「発言がいちいち恐いんだよ。中世の貴族か何かなのか」


 中世の貴族が彼女のような自分勝手さだったのかは完全に俺の脳内イメージでしかないが、彼女を見ていると漫画とかに出てくる意地悪貴族と重なる部分がある。


「時は文月の二十四。月が私を照らす時刻。様々な趣向の化け物が退屈を覆す。以上」


「何にもわかんねえよ!」


 目つきの悪い男が声を荒げるが、鳳凰会長は「己の理解力の欠如を棚に上げて叫ぶな」と安定の反応だ。


「まあ、この二人から概要は聞いていたから大枠はわかるが…。要は七月二十四日の夜に学校で肝試しするんだろ。そのことなんだが、生徒会としては却下だ」


 男は何もわからないと叫んだわりには内容をちゃんと理解していた。その上でイベントの却下を言い渡す。


「お前に生徒会の判断を下す権限はない。全ては私が決める」


 男の発言に対し、鳳凰先輩がそう言い返した。正直、この女ならそう言うと思っていたので予想通りだ。


「せーんぱい、諦めましょ。どうせ最初から鳳凰会長の意見を覆すなんて無理なんだから潔く従えばいいのに。どうせ却下したい理由もめんどくさいからとかなんでしょ?」


 俺の知らない女子生徒が男をなだめるように言葉を並べる。


「そ、そんなことはない!生徒会は一学期中に終わらせないといけない仕事が残っているし、三年は受験勉強が本格的に始まっている。そんな中で浮ついたイベントを開催するのは如何なものか。修行式の前々日と前日は球技大会もあるんだ。そんなにイベントを短期間に詰め込んでも生徒の負担だろう。先生方も嫌がるだろうし…。えっと、それから」


 一生懸命にイベント却下の理由を説明する男に、女子生徒は近づいて一言囁いた。


「本当は?」


「ここ最近の忙しさからやっと解放されそうなときに新しい仕事とか引き受けたくねぇ…。鳳凰がやる気になってるから絶対にめんどくさいことになるし。そもそも肝試し大会なんて開催しても、普段から騒いでいる連中が参加するだけだろ。ああいう奴らが青春を謳歌するためにこっちが頑張りたくなんかねぇ…」


 俺としては非常に共感できる意見だった。俺だって加藤を応援すると決めなければイベントには後ろ向きな姿勢だったのだ。


「というわけで喜べ。日和、丸武。お前らの要求を生徒会は承諾する」


「安武です。まだ名前覚えてもらえてなかったんですね…」


 不満を吐き出した男のことなど気にせず、鳳凰先輩はお助けクラブである二人にそう告げた。安武が名前を訂正するが、その声も彼女に届いているかは微妙なところだ。


「そうと決まればすぐに行動に移すぞ」


 そう言いながら鳳凰先輩は右腕を伸ばしてそこに注目が集まるように誘導する。ただでさえ存在感が強い彼女が声を上げながら立てた人差し指に視線誘導をしたことで、生徒会室内の全員が耳を澄まして彼女に視線を集中させた。そして、とんでもない発言をする。


「なお、祭りは全校生徒強制参加とする」


「「「はぁ!?」」」


 俺を含めたお助けクラブの三人は揃って大きな声を漏らした。生徒会の面々も驚きを顔に出していたが、声にまでは出さなかったらしい。


「はぁ…だから嫌だったんだ」


 ただ一人、目つきの悪い男だけが驚いた様子を見せず、ただ肩を落としながらそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ