第009話:温泉宿の攻防戦と、接待の流儀
1.早朝の王都と、密着のキャビン
冒険者ギルドでの圧倒的な「分別処理」と、莫大な富の換金を終えた芝崎一郎とリリィがギルドの外へ出ると、そこには異様な光景が広がっていた。
朝日を浴びて神々しく輝く白銀のパッカー車は、早朝にもかかわらず、王都の人々に何重にも取り囲まれていたのだ。
「なんだなんだ!? この美しき鉄のゴーレムは!」
「特級異端審問官様の御車だとよ! 見ろ、あの太陽の塔(焼却炉の煙突)の紋章を!」
「触れるな! 恐れ多くも神罰が下るぞ!」
王都の住人たちが、離れた場所からパッカー車に向かって平伏したり、拝んだりしている。
一郎は「うわぁ……」と顔を引きつらせた。ただ現場に乗っていくための業務用車両が、完全に御神体扱いされている。
「はいはい、ちょっとごめんよ。道を開けてくれ。仕事上がりで疲れてるんだ」
一郎が群衆をかき分けながら運転席のドアを開けると、ギルドマスターから直々に案内役を命じられた美形の受付嬢が、小走りで追いかけてきた。
「お待ちしておりました、特級審問官様! 本日はわたくし、セリアが、王都最高級の温泉宿までご案内して、精一杯、隅から隅まで『おもてなし』をさせていただきますぅ」
受付嬢のセリアは、豊満な胸の谷間を強調するように身を乗り出し、潤んだ瞳を上目遣いで一郎に向けた。
その視線の奥にあるのは、明確な「打算」だった。先ほど金庫を空にするほどの国宝級の魔石をポンと出してきた、底知れぬ権力と莫大な富を持つこの男を、何としてでも自分のモノにする(玉の輿に乗る)という、肉食獣の目である。
「ああ、悪いね。うちの車は3人乗りなんだ。お姉さんは真ん中のセンターシートに乗って、道案内してな」
「はいっ! 喜んでご一緒させていただきます!」
一郎が運転席に座り、助手席の窓際にリリィが座る。そして、その間にセリアが乗り込んできた。
2トン車の3人掛けシートは、当然ながら狭い。
「ああっ、す、少し揺れますねぇ。失礼しますぅ」
セリアはわざとらしくバランスを崩すふりをして、一郎の逞しい左太ももに、自分の豊満な太ももと柔らかい胸をピタリと密着させた。
30歳の男盛りの肉体に、フローラルな香水の匂いと、大人の女の柔らかい感触がダイレクトに伝わってくる。
「(……なるほど。ギルドの接待ってのは、ずいぶんとサービス精神が旺盛だな)」
47歳の精神を持つ一郎は、これを完全に「上得意客に対するキャバクラ的な営業」だと解釈していた。満更でもない気分になりながら、ギアをニュートラルからローへ入れる。
一方、助手席の窓際に押しやられたリリィは、ギリギリと歯を食いしばっていた。
(な、ななな、なんという破廉恥な女ですか! 神聖なる御車の心臓部で、あんなにも一郎様のお体に密着して……! だ、大賢者様も、不浄な女の誘惑に惑わされてはダメです!)
嫉妬と焦りで頭から湯気を出しそうになるリリィ。しかし、相手は特級審問官(と勘違いされている)一郎を案内する公的な使者だ。無下に追い出すわけにもいかない。
「それじゃ、安全運転でいくぞ。しっかり掴まってな」
一郎がアクセルを踏み込むと、パッカー車は静かなエンジン音を響かせ、群衆が道を空ける中を王都の奥深くへと走り出した。
2.最高級温泉宿と、「ひとっ風呂」の攻防
セリアに案内されて到着したのは、王都の貴族街のさらに奥にある、広大な日本庭園のような景観を持つ温泉宿『翠明閣』だった。
「ひええ……っ! こ、こんなお城みたいな宿に、私のような農家上がりの小娘が足を踏み入れてもいいのでしょうか……!?」
リリィが怯える中、一郎はパッカー車をエントランスに横付けし、堂々と降り立った。
「へぇ、こりゃ見事な門構えだ。いつか建てるマイホームの参考にさせてもらおう」
宿の女将や従業員が総出で平伏して出迎える中、三人は最上階にあるVIP専用の豪華絢爛な特別室へと案内された。
部屋の奥からは、湯けむりと共に、ほのかに硫黄の香りが漂ってくる。
「……よし。まずはひとっ風呂浴びようか。昨日はダンジョンの中で汗を流せなかったからな」
一郎は作業服のフロントファスナーを下ろし、大きく伸びをした。
その瞬間、セリアの目の色が変わった。
(なっ……!?)
はだけた作業服から覗く、黒いタンクトップ越しの圧倒的な筋肉美。分厚い胸板と、引き締まった腹筋、そして大人の男の色気を放つ汗ばんだ鎖骨。
セリアは、金目当ての打算とは別の、純粋な「メスとしての本能」を強烈に刺激された。
(こ、このお方……お金と権力だけじゃなくて、お体までこんなに極上なんて……! 絶対に、絶対に今夜、私が美味しくいただいてみせるわ……っ!)
「お待ちしておりました、一郎様!」
セリアは素早く立ち上がると、頬を紅潮させながら宣言した。
「VIP専用の広大な露天風呂が、すでに貸し切りでご用意されております! ささ、わたくしがお背中を流させていただきますねっ!」
「おい、この泥棒猫! 抜け駆けは許しませんよ!」
リリィも負けじと立ち上がる。
(つ、ついに……ついに待ちに待った『混浴の儀式(ご褒美)』の時! ここで引いては、一郎様の第一助手の名が泣きます! 私だって、昨日から心の準備だけは完璧なんですから!)
3.混浴大浴場の限界突破
数分後。
広大な岩風呂の露天風呂には、極上の源泉掛け流しの湯がなみなみと注がれていた。
「ふぁぁぁぁ……。極楽だぜ……。やっぱり現場仕事の後は、デカい風呂に限る」
一郎は湯船の縁に頭を預け、手足を大の字に伸ばして深く息を吐き出した。
30歳の逞しく引き締まった肉体が、湯の底でゆらゆらと揺れている。腰痛など全くない完璧な肉体だが、彼の中では「47歳の疲れが溶け出していく」ような錯覚に陥っていた。
そこへ、カランコロンと木桶の音が響いた。
「一郎さまぁ……。失礼いたしますぅ」
現れたのは、セリアだった。彼女は薄く透けるような白い湯浴み着を一枚身に纏っただけで、その豊満な胸の谷間と、滑らかな太もものラインがはっきりと透けて見えていた。
「おや、受付のお姉さんも入るのか」
「ええっ! ギルドの『おもてなし』の基本ですからっ。さあ、お背中をお流ししますね」
セリアは湯船に入ると、一郎の背後にぴたりと回り込んだ。
そして、持っていた手ぬぐいに石鹸の泡をたっぷりと立てると、一郎の広い背中に、自身の豊かな胸の双丘を押し付けるようにして密着した。
「んっ……一郎様、なんて逞しいお背中なんでしょう……。まるで鋼のように硬くて、でも温かい……」
「おっ、そりゃどうも。清掃員は背筋と腰が命だからな。ああ、そこ、肩甲骨のあたりをもう少し強く頼む」
「はいっ、心を込めて……んっ、ああっ……」
セリアは背中を流しながら、自らの肌と一郎の筋肉が擦れ合う感触に、本気で声を漏らして息を荒くしていた。金目当てだったはずが、完全に一郎の雄としての魅力に当てられ、発情し始めている。
「(すげぇな、最近のコンパニオンは。背中流すだけでこんなに色っぽい声出すのか。さすが最高級宿のオプションだ)」
一郎は完全に「そういうサービス」だと割り切り、目を閉じて極上のマッサージを堪能していた。
――その時だった。
「い、い、一郎様っ……! お待たせ、いたしました……っ!」
ガラッ、と引き戸が開く音と共に、リリィが露天風呂に姿を現した。
彼女もまた、宿に用意された湯浴み着を着ていたが、農村育ちの素朴な彼女には、その薄着はあまりにも刺激的すぎた。胸元を両手で必死に隠し、顔はすでに茹でダコのように真っ赤に紅潮している。
「おっ、リリィ。お前も早く入れよ。ここのお湯、最高だぞ」
一郎が振り返り、湯船からざばりと上半身を乗り出した。
お湯を弾く、芸術的なまでに鍛え上げられた大胸筋と、割れた腹筋。そこから滴り落ちる、男の色気に満ちた水滴。
さらに、その後ろには、一郎の背中にしなだれかかり、恍惚とした表情を浮かべるセリアの姿があった。
その光景を目撃した瞬間、リリィの脳内で処理できる「刺激の許容量」が、完全に限界を突破した。
(あ、あああ……っ! 一郎様の、神々しい全裸っ! そ、それに、あの泥棒猫が、一郎様のお体に直接触れて、あんな破廉恥な声を……!? こ、これが、大人の『混浴の儀式』……!? 私も、私もあの輪の中に加わって、一郎様に私の純潔を……っ!!)
「い、一郎様ぁっ! 私も、私めも、お背中をっ……!」
リリィは決死の覚悟で湯船に飛び込み、ザバザバとお湯をかき分けて一郎の正面へと突撃した。
そして、一郎の逞しい胸板に、自分の小さな手を、ぺたりと触れた。
ドクンッ、と一郎の力強い心音と、圧倒的な大人の体温が、リリィの手のひらを通じて全身に流れ込んでくる。
「あぅ……っ! ふ、ふはあっ……!」
「ん? どうした、リリィ。顔が真っ赤だぞ。のぼせたか?」
「だ、だめ、です……っ! 一郎様の気当て《フェロモン》が、強すぎ、て……っ。私、もう、頭が、真っ白に……っ」
ぷしゅぅぅぅぅっ! と、リリィの頭のてっぺんから、本当に幻覚のような湯気が噴き出した。
限界まで達した緊張と、強烈すぎるエロティックな刺激に当てられたリリィは、白目を剥いてふにゃりと崩れ落ちた。
「おいおい! 大丈夫か!」
一郎は間一髪で湯に沈みそうになったリリィの細い腰を抱き止め、ひょいと横抱き《お姫様抱っこ》にして湯船から立ち上がった。
「あーあ、こりゃ完全にのぼせてるな。お姉さん、悪いが背中流しはここまでだ。こいつを部屋に運ぶ」
「ええっ!? そ、そんなぁっ! まだ前の方を洗って差し上げてませんのにぃっ!」
背後でセリアが悔しそうに身悶えするのをよそに、一郎は意識を手放したリリィを抱えたまま、脱衣所へと急いだ。素早く備え付けの浴衣を羽織ると、特別室のふかふかのベッドにリリィを寝かせ、一郎は布団をしっかりと首までかけてやった。
4.湯上がりの宴と、接待の流儀
特別室のふかふかのベッドにリリィを寝かせ、一郎は布団をしっかりと首までかけてやった。
スゥ、スゥと、リリィは安心しきったように幸せそうな寝息を立てている。
「まあ、昨日はキャビンで一睡もできなかった(寝付けなかった)ようだし、いきなり広い風呂に入って疲れが出たんだな。仕方ない」
一郎は優しく彼女の頭を撫でてから、障子を閉めて居間へと戻った。
居間には、すでに豪華絢爛な懐石料理の数々と、冷気に包まれた極上の酒瓶が並べられていた。
そして、その中央に座っていたのは、しっとりとした薄紅色の浴衣に着替えたセリアだった。
浴衣の胸元は意図的にはだけさせられ、深い谷間が惜しげもなく披露されている。湯上がりの上気した肌からは、むせ返るような女の匂いが漂っていた。
「お待ちしておりました、一郎さま」
セリアは三つ指をついて微笑むと、一郎の隣にすり寄ってきた。
「お連れ様は、お休みに?」
「ああ、子供にはちょっと刺激が強すぎたみたいだな」
「ふふっ。では……ここからは、大人の時間、ですね」
セリアは熱を帯びた瞳で見つめながら、徳利を傾け、一郎の杯にトクトクと美しい琥珀色の酒を注いだ。
「では、一郎さま。こちらをお召し上がりくださいませ。わたくしの、精一杯のお酌ですわ」
そっと差し出された杯。その際、セリアの柔らかな腕が、一郎の腕にねっとりと絡みつく。
「おお、こりゃいい香りだ」
一郎は杯を煽った。
透き通るような冷酒が、湯上がりの火照った喉を爽快に滑り落ちていく。
「くぅぅっ! うまいっ! いやぁ、美形の受付嬢のお酌で飲むお酒は格別だねぇ。風呂上がりのビールも最高だが、こういう極上の酒も悪くない」
「うふふ、ありがとうございます。……一郎さまは、お酒、お強いんですか?」
「まあ、並にはな。現場の連中との飲み会じゃ、最後まで潰れずに介抱する役だったからな」
「わたくしも頂戴してもよろしゅうございますか?」
「おぉ、これは気が利かず申し訳ない。ささっ、お近づきの印に一杯」
一郎からお酌をされたセリアは、色っぽく微笑んで杯を掲げた。
「では、一郎さまのご活躍を祈念して乾杯を」
「ああ、今日はこんな素晴らしい宿をありがとう」
一郎が次々と料理に舌鼓を打ち、酒を飲み干すたびに、セリアはすかさず体を密着させてお酌を続ける。
「一郎さまは、本当に素晴らしい殿方ですね……。あんな恐ろしいダンジョンの魔物を退治して、これほどの富を手に入れられるなんて。わたくし、一郎さまのような強くて逞しい方に、ずっと憧れていたんです……っ」
セリアはついに、一郎の肩に自らの頭をこてんと乗せ、甘い吐息を彼の耳元に吹きかけた。
「今夜は……わたくしが、一郎さまのすべてを、優しく癒やして差し上げますわ。朝まで、寝かせませんからね……?」
美形ギルド受付嬢の自身の人生を掛けた最大火力の色仕掛け。
「(はっはっは、すごいなこのお姉さん。ギルドのVIP接待、完全に銀座の高級クラブのナンバーワンレベルじゃねぇか。営業トークの極みだな)」
「いやぁ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。早速だが、俺は明日も朝から現場に出なきゃならねぇんだ。定時退社は絶対だが、遅刻も厳禁だからな」
一郎はセリアの肩をポンと優しく叩くと、残っていた酒をぐいっと飲み干し、ふうと満足げな息を吐いた。
一郎は爽やかなイケメンスマイル(本人は人のいいオッサンの笑顔のつもり)を向けると、「それじゃ、おやすみ!」と、一人でさっさと畳の上に敷かれた高級な布団に潜り込んでしまった。
(こ、ここで寝落ちするの!? 待ちなさいよ一郎さまぁっ……!)
静寂に包まれた高級旅館の特別室で、受付嬢の焦りの心の叫びがこだまする。
一方、別の部屋のベッドではリリィが「一郎様ぁ……えへへ……」とエロティックな寝言をこぼしている。
異世界に降り立ったおっさん清掃員は、自らの30歳の肉体が引き起こす「絶大なフェロモンと勘違いの嵐」に全く気づかぬまま、明日のダンジョン大掃除に向けて、極上のおもてなしを貪るのであった。




