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異世界ダンジョンの最強清掃員~パッカー車で転生したおっさん、ゴミをプレスし国宝錬成!悪党は分別処理して極上温泉スローライフを満喫します~  作者: トール
第二章:ホワイト労働の始まりと、冒険者ギルドの「分別処理」

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第005話:泥を被る者、泥を払う者

 


 1.甘い言葉と悪意の蹴り


「リリィ、後ろに下がって俺たちの回復に専念するんだ! 危険を冒さなくていい、俺たちの背中だけを見ていろ!」


 パーティー『青銅の牙』のリーダーである戦士、ケビンが頼もしげに剣を構えてそう叫んだとき、亜麻色の髪を後ろで一つに結んだ初心者ヒーラー、リリシャ・アルトマン――愛称リリィは、胸の中で小さな感動を覚えていた。


(ああ、なんて素晴らしい先輩たちなのだろう。冒険者登録をしたばかりの、何の役にも立たない私を、こんな高難度のダンジョンに連れてきて、温かく守ってくれるなんて……!)


 実家が貧しい農家であるリリィは、幼い頃に偶然目覚めた神聖魔術を手に、少しでも家計を助けようと王都へ出てきたばかりだった。右も左もわからず、お下がりの大きすぎる神官服の袖を何度も捲り上げながら途方に暮れていた彼女に、ケビンは「立っているだけでいいから」と甘い言葉で手を差し伸べてくれたのだ。


 だが、現実はリリィが夢見たほど甘くはなかった。


 ケビンたちに連れられて潜ったのは、近年「コアの不全」が噂される、極めて危険なダンジョンの中層エリア。

 彼らの目的は、最初からリリィを「いざという時のデコイ」として利用することだった。


「グガァァァァァァッ!!」


 不意に、前方の暗闇から這い出してきたのは、ただのゾンビではない。

 ダンジョン内に不法投棄された鉄屑や割れた冒険者の鎧を、肉体の一部として取り込み、異常に進化した変異種――『スクラップ・グール』の群れだった。


 その姿は、悪夢そのものだ。

 腐り落ちかけた黒い筋肉に、錆びた鉄板やひしゃげた兜が、抉れた骨肉を突き破って不自然に融合している。傷口からは酸性の緑色をした胃液と赤黒い血が混ざり合った、ドロドロとした不快な体液が滴り落ちて床をジュウジュウと溶かしていた。グールたちの足元には、かつて彼らに引き裂かれたであろう冒険者のちぎれた生首が転がり、腐った肉を咀嚼する凄まじい鉄錆と死臭の悪臭が風となって押し寄せる。


 耳障りな骨の軋み音を撒き散らしながら、五、六体ものバケモノたちが、飢餓に狂った凶悪な牙を剥いて四つん這いで迫ってくる。


「ひ、ひぃっ!? なんだよこの数は! 話が違うぞ!」

「リーダー! こいつら、俺たちの剣じゃ刃が通らねぇ!」


『青銅の牙』のメンバーが悲鳴を上げる。彼らはリリィを守るどころか、真っ先に散を乱して逃げ出し始めた。


「待って、ケビンさん! 『ピュリファイ』!」


 リリィは震える手で杖を掲げ、必死に浄化魔法を放つ。だが、彼女の放つ淡い光は、グールたちが身に纏うスクラップの鎧に遮られ、全く効いていない。


「ちっ、役立たずのヒーラーめ!」


 通路の奥へと逃げ込もうとしたケビンが、醜悪な表情で振り返った。リリィは縋るように手を伸ばしたが、ケビンは卑劣な笑みを浮かべ、リリィの細い胸元を、泥まみれの金属ブーツで思い切り蹴り飛ばした。


「キャッ!?」


 硬い床に強く転がるリリィ。肺から空気が押し出され、激しく咳き込む。


「お前みたいな農家上がりの役立たずの田舎娘、最初からこのための『囮』なんだよ! てめえみたいな底辺のゴミは、こういう掃き溜めで使い捨てられるのがお似合いなんだよ! 大人しく食われて死ね!」


 叫ぶや否や、ケビンは大剣を天井の脆い岩盤に叩きつけた。


 ガラガラガラガラッ!!!


「そんな……嘘……」


 凄まじい音を立てて瓦礫が崩れ落ち、リリィとグールたちのいるエリアを遮断する。

 信じられないことに、ケビンたちはリリィを見捨て、自分たちの退路を確保するために土砂で完全に道を塞いだのだ。


 リリィの背後は、崩落した土砂と瓦礫で埋まった完全な行き止まり。

 そして前方には、引き裂いた肉を咀嚼しようと、涎を垂らしながら迫るスクラップ・グールたちの群れ。

 お下がりの神官服の袖が、死の恐怖で細かく震える。


「いや……来ないで……!」


 死を覚悟したリリィが、ぎゅっと目を閉じた、その時だった。


 ――『ピーーーッ、ピーーーッ、ピーーーッ。バックします。ピーーーッ』


 グールたちが這い出してきた前方――すなわち、リリィの対面にある暗闇のさらに奥から、およそファンタジー世界には似つかわしくない、規則的で、妙に澄んだ「音色」が轟いた。


「え……?」


 リリィは思わず目を開けた。

 グールたちもその未知の音に困惑したように動きを止め、音のする暗闇の奥へと醜い頭を向ける。


「こ、この音は……? 邪悪を祓う、神聖な鎮魂の鈴……!? なんて厳かで、規則正しい、一切のブレがない魔力の波形……!」


 さらに、暗闇の奥から、不気味な紫色の瘴気を一撃で切り裂く、強烈な二条の白い「光の奔流」が放たれた。


 カッ!!!


「ま、眩しいっ!? これほどの光……太陽神の神罰、『極陽の双眸(ライト・オブ・審判)』!? 闇を討つ大賢者様が降臨されたのですか!?」


 光に目を細めるリリィの視線の先。

 暗闇の中から、凄まじいエンジン音を響かせながら、白銀に輝く巨大な鉄の獣――パッカー車が、猛スピードで「バック」で突っ込んできた。


 2.絶望の底に響く「鎮魂の鐘」と、微かなときめき


『――ドゴォォォォォォン!!!』


 強固な神聖合金のリアバンパーが、逃げ遅れたスクラップ・グール三体を背面から容赦なく轢き潰した。

 どれほど硬い錆びた鉄屑の鎧も、2トンの質量と超高密度の魔力障壁の前には、お菓子のアルミホイルも同然だった。グールたちは悲鳴を上げる間もなく物理的に粉砕され、肉と骨を泥のようにまき散らして、床へとへばりついた。


『プシャァァァァッ!』


 心地よい神獣の息吹のような排気音が響き、白銀の巨躯がリリィとグールたちの間を遮るようにして完全に停止する。


 リリィが呆然と見上げる中、その巨躯の側面にある『キャビン』と呼ばれる神域の扉が開いた。そして、一人の男が軽やかに地面に降り立った。


 その姿を見た瞬間、リリィはドクン、と大きく鼓動が跳ねるのを感じた。


(な、なんと神々しく、そして……凛々しいお方……!)


 そこにいたのは、引き締まった頑強な肉体を、あらゆる穢れを弾く『万色を拒む蒼の法衣(芝崎清掃のロゴ入り作業服)』に包んだ、30歳ほどの男盛りの青年だった。

 汗をかいて少しはだけた作業服の襟元から覗く、小麦色に引き締まった頑丈そうな鎖骨と、逞しい胸板。無駄のない筋肉の躍動が作業服の上からでもはっきりと分かり、その精悍な顔立ちは、幾多の死線をくぐり抜けてきた大人の風格と、若々しい覇気に満ちていた。その端正な横顔を伝い落ちる汗が、パッカー車のライトを反射して妖しくきらめく。


 リリィは自分が死の淵にいたことも忘れ、思わずその圧倒的な肉体美と色気に見惚れてしまい、顔が耳の裏まで真っ赤に染まっていくのを感じた。


(い、いけないわ……! お姿に気圧されて、鼓動がうるさいほど脈打って……。は、張り詰めた神聖なオーラにあてられて、身体が熱くなってしまっているのだわ……っ!)


 リリィが必死に「信仰的な感動」だと己に言い訳をする中、青年――芝崎一郎は、首をコキコキと鳴らしながら、ひどく疲れた様子でため息をついた。


「ふぅ……。やっぱり、もう若くねぇな。ちょっと悪路を運転しただけで、腰にズシッとキやがる。おっさんの身体には、この現場は骨が折れるぜ」


 一郎は自分の身体が30歳の肉体に若返っていることに全く気づいていなかった。

 ポンコツ女神が、白亜の空間から異世界へ転移させる直前の光の渦の中で、『せっかくですから肉体も一番動く30歳の頃に戻しておきましたからね!』と言い忘れたため、一郎は主観的な感覚のまま「自分は47歳のおっさんで、腰痛持ちのボロボロの体だ」と思い込んでいたのだ。


 だが、リリィの耳には、その言葉は全く違う意味に聞こえていた。


「(腰にズシッと……!? おいたわしや……! 大賢者様は、この空間の瘴気をその身に肩代わりし、世界の重みを背負う代償として、肉体に多大な負荷を受けておられるのだ……! それなのに、なんて気高いお姿……!)」


 リリィの瞳に、感動の涙がじわりと浮かぶ。


「おいおい、そこのお嬢ちゃん。怪我はねぇか?」


 一郎は、迫り来るグールたちを完全に無視して、リリィに声をかけた。


「は、はい……! 私は、リリシャと申します! あ、あの、後ろに魔物がっ!」

「あ? ああ、この動く不法投棄どものことか。作業の邪魔だからな。ちょっと下がってな、お嬢ちゃん。手早く片付けちまうからよ」


 一郎はそう言うと、助手席から持ってきた神器『解体用聖杖(長さ60cmの炭素鋼製バール)』を軽く握り直した。


 3.バール一閃、ホールインワン


「ガルゥゥァァッ!」


 生き残った一体のスクラップ・グールが、腕に巻き付けた大鉄剣を振り回して一郎に襲いかかる。

 並の冒険者なら一撃で両断される突撃。だが、一郎は「作業服」の襟を少し正しただけで、半歩スッと横に避けた。


「ゴミ袋は口をちゃんと結ばねぇと、中身が飛び散るんだよ!」


 無駄のない、流れるようなステップ。

 一郎は「ちょっと強めに叩いて、分別の手間を省こう」と、バールの尖ったフック部分を、グールの錆びた兜の隙間へと正確無比に突き立てた。


 バールのフックをグールの錆びた兜の隙間に引っ掛け、テコの原理で後ろ(ホッパー)へ放り投げる。ただの軽いスナップのつもりだった。だが、30歳に若返った肉体の異常な膂力により、重い装甲を纏った100キロ近い巨体が、綺麗な放物線を描いて宙を舞い、パッカー車のホッパーへとスッポリと『ホールインワン』した。


「お、おい。なんか随分と軽く飛んでったな。おっさん、少し力加減を間違えちまったか」


 一郎は「身体が少し軽くて調子が良いから、元気が余っていたのだろう」と、自身の異常な戦闘力に全く気づくことなく、一人で納得して深くうなずいた。


 しかし、その背後で、へたり込んだままの一部始終を目撃していたリリィの衝撃は、測り知れないものだった。


「(な、な……なんという神の御業……っ!? バールの一振りで、ダンジョンを覆う深淵の瘴気を一瞬で霧散させ、さらにはただのスナップで軽々とスクラップ・グールを葬り去るなんて……!)」


 リリィは全身の震えを止めることができず、ただただ圧倒的な畏怖と、そして胸の奥から湧き上がる熱い情熱に、その身を焦がすのだった。


「ほら、次! 溜まったゴミは、その日のうちに回収するのが芝崎清掃の鉄則だ!」


「ガガッ!?」

「ウガァ!?」


 襲いかかるグールたち。だが、一郎のバール捌きはまさに神技の領域だった。

 迫り来るグールの装甲の隙間に次々とフックを引っ掛け、先ほどと同じ『ホールインワン』の要領で、わずか数分のうちに、数体のスクラップ・グールはすべてパッカー車のホッパーの中へと「分別回収」されてしまった。


 4.次元圧殺結界プレス・ディメンションによる超蹂躙


「よし、ホッパーが一杯だな。床にへばりついた三体分のロードキル(轢死体)もスコップで大まかにすくい取って投げ込んだし、相棒、プレス開始だ」


 一郎は車両の側面にある赤い操作ボタンを、迷いなく押し込んだ。


 ――『ブゥゥゥン! ギギギギギギ!』


 強烈な油圧駆動音が響き渡る。

 ホッパーの奥から、白銀の「回転板」と「押し込み板」が、絶対的な質量を持って動き出した。


「な、何が始まるのですか……?」


 リリィが固唾をのんで見守る中、ホッパーの中に押し込められたスクラップ・グールたちが、プレス板によって荷箱の奥へと容赦なく押し潰されていく。

 まだ生きて蠢いていたグールたちが、鋼鉄のプレス板に挟まれ、逃げ場を失ってひしめき合った。


『――メキメキ、バキバキバキバキッ!!!』


 骨が木っ端微塵に砕け、肉が容赦なく圧搾され、不浄の膿汁が凄まじい勢いで吹き飛ぶ。

 錆びた鉄板の皮膚や冒険者の甲冑が、紙細工のようになす術なくひしゃげていく。グールたちの肉体を形成していた不浄の魔力、怨念、そして頑強なスクラップの鎧が、数十トンの超高圧プレスの前で、物理的かつ魔術的に完全に「均され」、圧縮されていく。


「(あ、あり得ない……! あらゆる物理攻撃を無効化するアンデッドの骨格と、魔導鉄の鎧が、あのような鉄の板によって、一瞬で塵へと還元されていく……!? あれは……空間そのものを圧縮し、不浄を世界の彼方へと追放する、絶対神術『次元圧殺結界プレス・ディメンション』……!!)」


 リリィは衝撃のあまり、その場に膝をついた。

 神聖教会の最高司祭(大司教)クラスが、一生に一度使えるかどうかの超広範囲浄化術。それを、この目の前の青年は、ただの「赤いボタン」一つで、実にあっさりと、平然と起動してみせたのだ。


『プシャァァァァッ!』


 プレス完了のエアブレーキ音が響くと、パッカー車の上部排気口から、ミントのように爽やかで清らかな風が吹き出した。

 その風が周囲を吹き抜けた瞬間、洞窟を覆っていた、あれほど濃密で息苦しかった紫色の『瘴気』が、完全に消滅した。

 後に残ったのは、まるで新緑の森の中にいるかのような、清涼な空気だけだった。


「ふぅ……。やっぱり、この排気フィルター、いい仕事するなぁ。夏の現場の異臭を思い出すと、天国みたいだぜ」


 一郎は爽やかな風を肺一杯に吸い込み、資源排出トレイからカラン、カランと転がり落ちてきた結晶を拾い上げ、パッカー車に積んであったガラ袋(麻袋)に放り込むと、満足そうにダッシュボードへと仕舞い込んだ。



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