第034話:古代兵器の真価(二号機無双)と、解体・物流業の幕開け
1.安全無視の代償と、瓦礫の雨
隣領の巨大魔城・解体清掃現場。
かつて強大な魔族が拠点としていたその堅牢な城は、今や未曾有の大災害の中心地と化していた。
「ひ、ひぃぃぃっ! 防げ! 魔法の盾を最大出力にしろ!!」
隣国のエリート貴族たちで構成された「清掃魔法騎士団」の団長が、血走った目で叫ぶ。
彼らは「最新の魔法理論があれば防護服も足場も不要」と豪語し、安全基準を極限まで削ってこの大型案件を不当な低予算で横取りした。
しかし、ダンジョン化していた魔城の地下には、目に見えない未知の有毒ガス(瘴気溜まり)が充満していたのだ。
それに気づかず、力任せに高火力の爆破魔法で城壁を吹き飛ばそうとした結果――ガスに引火し、魔城全体を巻き込む大崩落を引き起こしてしまったのである。
ゴゴゴゴゴゴォォォォ……ッ!!!
数万トンにも及ぶ城壁と巨大な鉄骨が、崩壊して頭上から降り注ぐ。
エリート騎士団は慌てて魔法の盾を展開したが、魔法のバリアは「魔法攻撃」には強くても、これほどの絶対的な物理質量を受け止めるようにはできていない。
「だ、だめだ! 盾が物理の重さに耐えきれない! 押し潰される!!」
「ゲホッ、ゴホォッ! 有毒ガスで、魔力が練れない……っ!」
防塵マスクすら着けていない彼らの肺は瘴気に焼かれ、一人、また一人と膝をついていく。
頭上の盾にヒビが入り、巨大な城壁が彼らを完全に押し潰そうとした、まさにその絶体絶命の瞬間だった。
――ピーーーッ、ピーーーッ、ピーーーッ……
崩壊の轟音と絶望の悲鳴が渦巻く現場に、不釣り合いなほど澄んだ、規則正しい「鎮魂のブザー音」が鳴り響いた。
2.インフラ災害救助隊、現る
「なっ……なんだ、あの鉄の巨獣は!?」
もうもうと舞い上がる土煙と有毒ガスを切り裂き、猛烈なスピードで突っ込んできたのは、二台の規格外の神聖魔導重機だった。
先陣を切るのは、見慣れた白銀のパッカー車。
その上部に設置された「有毒瘴気吸引フィルター」が、耳障りな吸引音を立ててフル稼働している。
シュゴォォォォォォッ!!
エリート騎士団を苦しめていた高濃度の有毒ガスと土煙が、まるで竜巻のようにパッカー車へと吸い込まれ、代わりにミントの香りのする清涼な空気が吹き出された。
「ゲホッ……い、息が吸えるぞ!?」
そして、パッカー車に続いて姿を現したのは――魔王領から持ち帰った古代魔導兵器のシャーシをベースに、ドワーフの親方が徹夜で組み上げた「二号機(超大型ダンプ兼クレーン車)」であった。
全長五十メートル。純度100%の魔鋼鉄で作られた漆黒のボディ。数十トンの瓦礫を軽々と吊り上げる極太のクレーンアームと、広大なダンプ式荷台を備えた、まさに現代重機とファンタジーの融合の極致。
「マニュアルと魔法だけを過信して、現場の安全を舐めた連中の末路だな」
パッカー車の運転席から降り立った芝崎一郎は、愛用の「解体用聖杖」を肩に担ぎ、へたり込むエリート騎士団を見下ろした。
「き、貴様は……『芝崎清掃』の土方(現場監督)! なぜここへ!」
「他所の現場の尻拭い(災害救助)に来てやったんだよ。お前らには後でたっぷり救助費用と残業代を請求するから、大人しくすっこんでろ。……よし、レオ!」
一郎が背後を振り返ると、二号機の後部居住スペース(キャンピングカー部分)から、黄色いヘルメットを被った孤児の少年・レオたち「仕分けスタッフ(玉掛け部隊)」が次々と飛び出してきた。
「はいっ! 現場監督殿!」
「瓦礫の撤去を始める! お前らは俺の指示に合わせて、迅速かつ安全に玉掛けを行え!」
「了解しました! ご安全に!!」
3.重機マニアの血と、二号機の圧倒的パワー
「親方、交代だ!」
一郎は、巨大な二号機の操縦席へとひらりと乗り込んだ。
三十歳の男盛りに若返った肉体が、重機の重いレバーとステアリングにピタリと馴染む。
「さあ、見せてみろ。ドワーフの職人魂が組み上げた、最高の相棒(二号機)の力をな!」
一郎の瞳に、プロの現場監督としての冷徹さと、少年のように目を輝かせる「重機マニア」としての情熱が同時に宿る。
ドゥルルルルルルッ!!
古代の魔力炉を改造したツインエンジンが咆哮を上げる。
一郎の両手が、いくつもの操作レバーをまるでピアノを弾くかのように、流れるような手つきで操作し始めた。
ウィィィィン……ガシャンッ!
二号機の上部に備えられた巨大なクレーンアームが、まるで一郎の腕の延長であるかのように、精密かつ滑らかに動き出す。
(すげぇ……! 操作のタイムラグが一切ねぇ。これほどの巨体なのに、ミリ単位の繊細な動きができるぞ! たまんねぇな、このトルク感!!)
一郎の重機マニアとしての血が、激しく沸き立っていた。
「レオ! 崩落した城壁のメイン柱にワイヤーを掛けろ!」
「はいっ! 重心確認ヨシ! ワイヤーの角度ヨシ! 巻き上げ、お願いします!」
レオが赤い誘導灯を振り、完璧な合図(玉掛け)を送る。
「地切りヨシ! いくぞオラァッ!!」
一郎がレバーを手前に引いた瞬間。
二号機のクレーンが、数百トンはある巨大な魔城の城壁の残骸を、いとも簡単に「フワッ」と空中へと持ち上げたのだ。
「ば、馬鹿な……っ! 我々の魔法の盾でも防ぎきれなかった数十万キロの城壁を、あんな鉄のアーム一本で軽々と吊り上げるだと……!?」
エリート騎士団長が、目玉が飛び出るほど驚愕し、顎を外して絶叫する。
「魔法だか何だか知らねぇが、解体現場じゃ『物理的なパワー』がすべてなんだよ!」
一郎は吊り上げた巨大な城壁を、二号機の後部にある広大なダンプ式荷台へと、寸分の狂いもなくそっと下ろした。
4.不可抗力のエロスと、完璧なる現場連携
「すごい……っ。一郎様のあのレバー捌き、無駄が一切ありませんわ……!」
安全な位置に停めたパッカー車の助手席から特級聖女リリィが、そして広大な後部居住スペース(キャンピングカー部分)の窓からはセリアとエレノアが、恍惚とした表情でその光景を見つめていた。
「あんなに巨大で乱暴な鉄の腕を、まるで絹糸を紡ぐように優しく、そして激しく操るなんて……。ああっ、一郎様のあの『テクニック』で、私の身体もあのように思いのままに操作されたいですわ……っ!」
「キーッ! また破廉恥な妄想を! でも……確かに、あの一点を見つめる真剣な眼差しと、汗ばんだ逞しい腕の動き……たまらない大人の色気ですわね……っ」
セリアも、ギルドの制服の胸元をギュッと握りしめ、顔を真っ赤にして息を荒くしている。
「あの方にかかれば、どんな強固な城壁(理性の壁)も、いとも簡単に崩されてしまうのですね……!」
エレノアも、ツナギ姿で太ももをモジモジと擦り合わせている。
重機を華麗に操るプロの男の姿は、三人のヒロインたちのメスとしての本能を限界まで刺激し、極限のフェティシズム(ラブコメ空間)を生み出していた。
そんな彼女たちの熱視線など露知らず、一郎とレオたちの完璧な連携(お仕事ロジック)は加速していく。
「よし次だ! そっちの鉄骨の山! 崩れる前に一気に吊るぞ!」
「ワイヤー固定ヨシ! 退避ヨシ! 巻き上げ!」
ドゴォォォォン! ガシャァァァン!
エリート騎士団が魔法で何日もかけて解体しようとしていた巨大魔城が、二号機の圧倒的なパワーと積載量、そして鬼教官(一郎)に鍛え上げられた孤児たちの完璧な玉掛け技術によって、瞬く間に解体・撤去されていく。
ダンプの荷台が一杯になれば、横で待機しているパッカー車へと瓦礫を流し込み、「次元圧殺結界」で超圧縮し、純度100%の魔石やインゴット(資源)へと即座に分別していく。
解体、回収、分別、資源化。
すべてが現場で完結する、利益率無限大の究極のエコシステムである。
5.新規事業(解体業)の幕開けと、定時退社
作業開始から、わずか数時間後。
あれほど絶望的だった大崩落の現場は、巨大な瓦礫一つ落ちていない、綺麗に整地された「ただの広大な更地」へと変貌していた。
プシャァァァッ!
二号機のエアブレーキが小気味よく鳴り、一郎が操縦席から降り立った。
「ふぅ。初陣にしちゃあ、完璧な動きだったな。やっぱ解体現場は、重機のパワーがモノを言うぜ」
首に巻いたタオルで汗を拭う一郎の前に、エリート騎士団長がフラフラと歩み寄り、そのまま泥まみれの地面に両膝をついて平伏した。
「わ、我々の……完全な敗北だ……。清掃とは、解体とは……ただ魔法で吹き飛ばせばいいというものではなかった。強靭な機械の力と、それを安全に運用する人間たちの『規律』……それが、これほどまでに偉大なものだったとは……!」
マニュアルと魔法を過信し、泥臭い土方を嘲笑っていたエリートのプライドは、ブルーカラーの徹底した現場ロジックの前に完全に粉砕されたのだ。
「分かったなら、二度と安全基準をケチるんじゃねぇぞ。命があって儲けもんだと思え」
一郎はそう言うと、バインダーからビリッと一枚の用紙を破り取り、騎士団長の顔面に叩きつけた。
「そ、これは……?」
「今回の『災害救助費用』と、お前らが投げ出した魔城の『尻拭いの解体費用』、そして『うちの従業員の特別出動手当』だ。しめて、お前らの国家予算の3倍ってところだな。キッチリ耳を揃えて払ってもらうぞ」
「こ、こっ……国家予算の3倍ぃぃぃっ!?」
泡を吹いて白目を剥く騎士団長。
法外な、しかし現場の命を救った正当な対価。
一郎は不敵な笑みを浮かべ、さらに高らかに宣言した。
「それとな。今日この日をもって、俺たち『芝崎清掃』は、ただのゴミ拾いだけじゃなく、『巨大建造物の解体・物流業』という新規事業に正式に参入することにした!」
一郎は、背後にそびえ立つ二号機の巨体をポンと叩いた。
「これからは、王都だろうが隣領だろうが、デカい城の解体や大規模な運搬案件があったら、全部ウチを通しな。ウチの重機とスタッフが、安全第一で完璧に更地にしてやるよ!」
「「「おおおおおっ!! 芝崎清掃、万歳!!」」」
レオたち孤児のスタッフから、割れんばかりの歓声が上がる。
清掃業からの事業拡大。
それは、芝崎清掃が名実ともに、この世界のすべての土木・インフラを掌握する巨大コングロマリット企業へと進化を遂げた瞬間であった。
「よし! 新規事業の初陣は大成功だ! 時計を見ろお前ら!」
一郎は腕時計(魔法具)を掲げた。
「今は16時55分! 完璧なスケジュール管理だ! 今日の現場はこれにて完全撤収! 王都に帰って、うちのスーパー銭湯でデカい風呂に入るぞ!」
「「「はいっ!! 現場監督殿!!」」」
「一郎様ぁっ! お風呂ではわたくしが、重機のように激しくお背中を……っ!」
「泥棒猫はすっこんでなさい! 私が玉掛けの要領で『奥まで深く』お流ししますっ!」
ヒロインたちのエロティックなマウント合戦を心地よいBGMとして聞き流しながら、一郎はパッカー車の運転席へと飛び乗った。
ドゴォォォォォォンッ!!!
最強のパッカー車と、超大型解体重機『二号機』。
二台の規格外の神聖魔導エンジンが歓喜の咆哮を上げ、王都の定時退社スローライフに向けて、夕日の中を意気揚々と爆走していくのであった。




