第031話:抜き打ち労働監査とお仕置き
1.出張準備と、自室から響く不審な工事音
一郎が広場で隣領への出張を宣言してから、数時間が経過した昼下がり。
昼食を終え、パッカー車の点検を済ませた一郎は、助手席の前で待機していたリリィに声をかけた。
「よし、リリィ。お供の準備はいいな?」
「はいっ! 一郎様! 第一助手として、いつでも出発できます!」
リリィが気合十分に返事をする。
「おう。俺もちょっと自室に戻って、バールのメンテナンスキットを取ってくる。パッカー車の前で待っててくれ」
一郎はリリィにそう告げると、完成したばかりの豪壮な母屋(宿舎)にある、自分専用の現場監督室へと足を向けた。
だが、部屋に近づくにつれ、一郎のプロの耳は「あり得ない異音」を感知した。
『ガガガガッ! ズドドドドッ!』
静かなはずのマイホームの奥から、明らかに重機や魔法を使った「掘削音」と「破壊音」が鳴り響いているのだ。
「……なんだ? ドワーフの親方には、今日は外の大浴場の配管工事を頼んだはずだが……」
一郎が眉をひそめ、自身の部屋の襖を勢いよく開け放った、その瞬間だった。
2.権力者たちの暴走と、不可抗力のエロス
「なっ……お前ら、俺の部屋で何やってんだ!?」
一郎の視界に飛び込んできたのは、目を疑うような惨状だった。
完成したばかりの真新しい畳の床が見事にひっぺがされ、ぽっかりと巨大な「大穴(地下道)」が開いている。さらに、部屋の奥の頑丈な土壁までもが、魔法で綺麗に円形にぶち抜かれていたのだ。
そして、その二つの穴から、見知った二人の極上美女が這い出してきたところだった。
「ふぁぁっ……あ、暑いですわね……。おや、一郎さま。お戻りになられていたのですね」
床下の大穴から這い上がってきたのは、ギルド副マスターのセリアだった。
しかし、彼女の格好はいつものカチッとしたギルドの制服ではない。
「物流の効率化のための『軽装』ですわ」と言わんばかりの、男物のワイシャツを一枚だけ素肌に羽織った姿だった。地下トンネルの掘削作業の熱気で汗だくになったワイシャツは、彼女の極上の素肌にピタリと張り付き、豊満な胸の谷間と、その奥にある下着のレースのラインまでが、極限まで透け透けになっていた。むせ返るような大人の女の匂いが、部屋中に充満する。
「ちょっと! わたくしの方が先に『監査ルート』を開通させましたのよ!」
一方、壁に開いた大穴から颯爽と飛び出してきたのは、特任監査役(第二王女)のエレノアだった。
彼女もまた、いつもの作業服ではない。「王家の極秘潜入監査」と称して特注で作らせたと思われる、漆黒の極薄スパイ風ライダースーツ(全身タイツ)に身を包んでいた。
動きやすさを重視しすぎたそのスーツは、彼女の豊満な胸の膨らみから、引き締まったウエスト、そして腰骨の艶かしいラインまでを、まるで裸以上に浮き彫りにしている。ファスナーは胸の谷間のギリギリまで下げられ、熱い吐息と共に白い肌が露わになっていた。
「おい……お前ら、その格好と、この部屋の惨状は一体どういうことだ」
一郎の低い声に、二人は悪びれる様子もなく、むしろ胸を張って自身の「有能さ」をアピールし始めた。
「ふふっ。一郎さま、驚かれましたか? わたくし、ギルドの権限を使って、王都の地下物流網から一郎さまのお部屋(ベッドの下)まで直結する『緊急物資搬入ルート』を開通させましたの! これで、夜中であっても、わたくしが『極秘の物資(夜のご奉仕)』をいつでもお届けできますわよ……っ!」
セリアが、透けたワイシャツ越しに胸を揺らしながら、ねっとりと微笑む。
「ギルドの地下道なんて不衛生ですわ! わたくしは王家の予算で、隣の迎賓館から直接繋がる『特任監査用の視察隠し通路』を設置いたしましたのよ! これでいつでも、抜き打ちで一郎様の寝顔を『監査(添い寝)』することができますわ!」
エレノアも、スパイ風スーツの腰をくねらせながら、勝ち誇ったように笑う。
二人は、隣領への出張(視察)に出る前に一郎を癒やす(既成事実を作る)ため、それぞれの莫大な権力を乱用し、勝手にマイホームの構造を改造して「自分専用の夜這いルート」を構築していたのだ。
男の理性を木端微塵に吹き飛ばすような、汗だくの極薄ワイシャツと、ピッチピチのライダースーツ。
並の男であれば、その圧倒的なエロスと権力者のアプローチに鼻の下を伸ばし、そのままベッドへとなだれ込むだろう。
だが、芝崎一郎の精神構造(ブルーカラーの美学)は、そんなものでは一ミリもブレなかった。
3.現場監督の逆労働監査
「……お前ら」
地を這うような、恐ろしく低く冷たい声が響いた。
一郎の三十歳の男盛りの肉体から、百戦練磨の現場監督としての「本気の怒り(覇気)」が立ち上る。
「ヒッ……!?」
セリアとエレノアは、その凄まじいプレッシャーに思わず後ずさりした。
「ギルドの緊急搬入ルート? 監査用隠し通路? ……ふざけんじゃねぇぞ!!」
『ガキィィィンッ!』
一郎は手に持っていたバールを、部屋の柱の横に思い切り叩きつけた。
「俺はな、『建築基準』と『現場の安全』を無視する奴が一番嫌いなんだよ! 柱の配置や荷重計算も考えずに、勝手に床や壁をぶち抜きやがって! 強度が落ちて家が倒壊したらどう責任取る気だ! コンプライアンス(建築基準法)違反も甚だしいわ!」
「えっ……? け、建築基準法……?」
「だ、だって、一郎様にお会いするためには、こうするしか……!」
「言い訳すんな! それに、なんだそのだらしない格好は!」
一郎の雷は、二人の「勝負服(エロス衣装)」にも容赦なく落ちた。
「地下や壁の中の工事現場を通ってきたってのに、ヘルメットも被らず、防塵マスクも着けてねぇ! しかもそんな薄着で、釘でも引っ掛けたら大怪我するだろ! 何度言ったら分かるんだ、現場に出るなら指定の作業服を着ろ! 完全に『安全配慮義務違反』だ!」
極限まで色気をアピールしたはずの勝負服が、「不適切な作業着」として真っ向から全否定されてしまった。
二人は、一郎の絶対的な「お仕事ロジック」の前に、完全に言葉を失い、へたり込んでしまった。
4.絶対的公平なるお仕置き(ペナルティ)
「いいか。ギルド副マスターだろうが、王家の特任監査役だろうが、この事業所(現場)の敷地内にいる以上は、俺の『社内規定』に従ってもらう」
一郎は腕を組み、冷酷な宣告を下した。
「職権乱用、建築基準法違反、および安全配慮義務違反。この重大なペナルティとして、俺から直々に『逆労働監査』を実施する」
「ぎゃ、逆労働監査……!?」
エレノアが青ざめる。
「お前ら二人は、今回の隣領への出張(現場視察)への同行を禁ずる! 罰として、俺が帰ってくるまでに、この敷地内の『全トイレの清掃』と、『裏庭の草むしり』を命じる! 終わるまで晩飯はお預けだ!」
「「えええええええええっ!?」」
王都の裏と表の権力を牛耳る、傾国の美女とギルドのトップ。
そんな彼女たちに下されたのは、容赦のない「便所掃除と草むしり」という究極の下働きだった。
「わ、わたくしは王女ですのにぃ! なぜ便所掃除を……っ!」
「副マスターのわたくしが草むしりなんて、手が荒れてしまいますわぁっ!」
「文句があるなら今すぐ荷物をまとめて出ていけ。……おい、レオ!」
一郎が廊下に向かって大声を上げると、現場監督見習いのレオが元気よく走ってきた。
「はいっ! 現場監督殿!」
「こいつらに掃除道具を渡して、しっかり監視しとけ。サボってたら残業扱いにするからな」
「了解しました! さあ、セリアさん、エレノアさん! ゴム手袋とトイレブラシです! 安全第一でいきましょう!」
レオに掃除道具を押し付けられ、涙目になりながらトイレへと連行されていくセリアとエレノア。
権力や色仕掛けが一切通用しない、徹底した「公平性」と「現場のルール」。これこそが、芝崎一郎という男が誰からも信頼される最大の理由であった。
「はぁ……出発前からドッと疲れたぜ」
一郎がため息をつきながらバールのメンテナンスを終えると、背後から「ふふんっ」と勝ち誇ったような声が聞こえた。
「さすがは一郎様ですわ! ルールを守らない泥棒猫たちには、相応のペナルティが必要です!」
純白の特級聖女の法衣をキッチリと着こなしたリリィが、満面の笑みで立っていた。
「私は一郎様のお部屋に勝手に穴など開けませんわ!(いざとなれば、合鍵を作って正面から堂々と夜這いに行けばいいだけですから!)」
心の中で恐ろしい別ルートを画策しつつも、表面上は優等生を装うリリィ。
「おう、リリィ。お前はちゃんと作業服の着こなしができてるな。よし、出張にはお前だけ連れて行く」
「はいっ! 第一助手として、全力でお供いたします!」
(しゃあぁぁぁっ! ついに一郎様を独占しての出張旅行! 今度こそ、キャンピングカーの中で既成事実を……っ!)
5.二号機への伏線と、隣領への出撃
一郎はリリィを引き連れて母屋を出ると、基礎工事を急ぐドワーフの親方の元へと向かった。
「旦那! どうしたんで、出発じゃなかったのかい?」
「親方、悪いが仕事が一つ増えた。俺の部屋の床と壁に大穴が空いてるから、至急塞いで補強しておいてくれ」
「あん? 誰だ、そんな非常識な工事をした馬鹿は。任せとけ、鉄筋入れて絶対に崩れねぇようにしといてやる」
「ああ、頼む。……それと、親方」
一郎は、資材置き場に鎮座している、魔王領から持ち帰った『超巨大古代兵器』の骨組みを見上げた。
「隣領の視察だが……相手は安全基準を無視した魔法のエリート集団だ。何をやらかすか分からねぇ。嫌な予感がするんだ」
一郎のプロとしての直感。それは、現場で数々の修羅場を経験してきたからこそ得られる、確かな危機察知能力だった。
「この古代兵器をベースにした『二号機(超大型ダンプ兼クレーン車)』の魔改造……急ピッチで進めておいてくれ。残業代と特別ボーナスは弾む。俺が『出動要請』を出したら、いつでも現場に駆けつけられるようにな」
「……へっ! 旦那の頼みとあっちゃ、ドワーフの血が騒ぐぜ! 徹夜で最高の化け物を組み上げておいてやるよ!」
親方がニヤリと笑い、ハンマーを打ち鳴らす。
「バカ野郎! うちの現場は徹夜(残業)禁止だと言ってるだろ! 夜勤シフトの班にしっかり引き継いで、24時間体制の安全第一で組み上げろ!」
「へへっ、分かってまさぁ! ブラックな無理はしねぇよ!」
「よし、後顧の憂いはねぇな」
一郎は振り返り、アイドリング状態だった白銀のパッカー車の運転席へと飛び乗った。
助手席には、やる気に満ちたリリィが座っている。
「行くぞ、相棒! 隣領のブラック企業に、プロの現場の恐ろしさを教えてやる!」
『ドゴォォォォォォンッ!!!』
神聖魔力エンジンが重低音の咆哮を上げ、パッカー車が事業所の門を勢いよく飛び出していく。
その背後では、最高級のシルク下着と極薄ワイシャツの上からエプロンを着せられた二人の権力者が、涙ながらに便所を磨いているという、シュール極まりない光景が広がっていた。
王都の平和とコンプライアンスを守るため、最強のおっさん清掃員は、新たなる「ざまぁ」の舞台となる隣領へと、痛快なエンジン音を響かせて爆走していくのであった。




