第029話:定時退社のアフターケアと、極上スーパー銭湯の「福利厚生」
1.古代兵器の洗車と、新規スタッフの歓迎
「よぉし、オーライ! オーライ! そこでストップだ!」
プシャァァァッ!
魔王領から超大型転移ゲートを抜け、定時退社ギリギリで王都に帰還した白銀のパッカー車。
その巨大なホッパーの後部「神聖魔導ヒッチメンバー」に牽引されていた全長五十メートルの超巨大な「古代兵器」が、マイホーム兼・巨大スーパー銭湯「芝崎湯」の広大な裏庭(資材置き場)に、ズシンと重い音を立てて留め置かれた。
「ふぅ。これで出張の『牽引物の片付け(駐車)』は完了だな」
パッカー車から降りた芝崎一郎は、首に巻いたタオルで汗を拭いながら、夕日に照らされる古代兵器を見上げた。
出張前に魔王領のヘドロ沼に沈んでいたため、バキュームで粗方の汚れは吸い取ったものの、まだ装甲の隙間には嫌な臭いのするヘドロがこびりついている。
「さて、風呂に入る前に、まずはこいつの洗車だな。備品の手入れも仕事のうちだ」
一郎はパッカー車を古代兵器の巨体に沿ってゆっくりと前進させながら、側面から「高圧温水スプレー洗車機(ピュリファイウォーター仕様)」のノズルを引き出すと、五十メートルの古代兵器に向かって、神聖な超高圧温水を容赦なくぶちまけ始めた。
――キィィィン、シャァァァァァッ!!!
「い、一郎様!? なぜ出張からお帰りになられて早々、あのような超絶級の古代兵器に水をかけておられるのですか!?」
パッカー車から降りてきたリリィが、目を丸くして尋ねた。
「ん? ああ。いくら頑丈な社用車(牽引トレーラー)だからって、泥がついたまま放置したら錆びるだろ。道具は大事に長く使うのが、プロの鉄則だからな」
「し、社用車……! 神々ですら封印するしかなかった古代の破壊兵器を、ただの荷車として洗車しておられる……っ! ああ、なんという圧倒的なインフラ管理能力!」
リリィが感極まって祈りを捧げている横で、一郎は「よし、ピカピカになったな」と満足げにホースを巻き取った。
そこへ、現場監督見習いの少年レオが、孤児たちを引き連れて元気よく駆け寄ってきた。
「現場監督殿! お帰りなさいませ!」
「おう、レオ。留守番ご苦労だったな。それと、こいつらは今回の出張先(ブラック企業)から保護してきた新規スタッフだ。お前らと同じように、今日からうちの事業所で面倒を見る。風呂と飯の案内をしてやってくれ」
一郎の後ろでオドオドと縮こまっていた数十人の元奴隷たちに、レオは満面の笑みを向けた。
「ようこそ、「芝崎清掃」へ! 君たち、すごく疲れてるね。まずは、うちの最高の「一番風呂」に入って、その傷と疲れを洗い流してきなよ!」
2.一番風呂の奇跡と、忠誠の誓い
数分後、一般客向けの営業が17時にきっちり終了し、従業員専用の貸し切り時間となった「芝崎湯」の広大な男湯と女湯から、信じられないような歓喜の絶叫と号泣が響き渡った。
「あ、あああ……っ! 痛くない! 鞭で打たれて化膿していた背中の傷が、お湯に浸かっただけで完全に塞がっていくぞ!?」
「呪いの鎖の痕が消えた……! 肺の奥の毒気も、嘘みたいにスッキリして……っ!」
「こ、こんな極楽のような温かいお湯に、僕たちみたいな奴隷が入ってもいいのか……!?」
エルフの伝説級純度100%ミスリルで作られた浴槽に、ダンジョンコアの純結晶で沸かされた神聖エネルギーのお湯。
その圧倒的な自浄作用と治癒能力は、過酷な労働でボロボロになっていた彼らの肉体と心を、一瞬にして完璧に修復してしまったのだ。
「すげぇ……。これが、あの現場監督殿の福利厚生……!」
湯船の中で、元奴隷たちは顔を覆い、子供のように声を上げて泣いた。
これまで、彼らに与えられていたのは暴力と泥水だけだった。それが今、この世の何よりも温かく、清らかなお湯に包まれている。
彼らは湯船の中で、一郎のいる方向(男湯の入り口)に向かって深く頭を下げた。
「俺たち、芝崎清掃のために一生、骨の髄まで働きます……! 現場監督殿、万歳っ!!」
(あらら、現場監督殿が聞いたら「うちの現場は残業禁止、定時退社が絶対だぞ」ってなるな)
レオが、心の中で苦笑した。
3.現場監督の湯船のぼやき(明日の段取り)
一方、そんな感動のドラマが繰り広げられていることなど露知らず。
一郎は、従業員たちが入っている大浴場とは別の、マイホームの奥にひっそりと作らせた「社長(現場監督)専用の貸し切り露天風呂」の湯船に、ザバァッと肩まで浸かっていた。
「ふぁぁぁぁぁ……っ。やっぱり、出張上がりの風呂は最高だな」
一郎は手足を大の字に伸ばし、星空を見上げながら至福の息を吐き出した。
三十歳に若返った完璧な筋肉が、お湯の中で心地よく弛緩していく。腰痛など微塵もないが、四十七歳の精神を持つ彼にとっては「長旅の腰の張りが取れていく」ような極上の気分だった。
「さて……」
一郎はお湯で顔を洗いながら、一人でぶつぶつとぼやき始めた。
「魔王から貰った国庫半分の特大魔石の山……あれはギルドの金庫じゃ収まりきらねぇから、うちの地下に専用の『第2資材置き場』を増築するか。セリアさんに手配させよう。
それから、あの五十メートルの古代兵器。さすがにデカすぎて王都の門を通るたびに王様に撤去(分別)させるのも悪いから、あいつ専用の超大型車庫証明と通行許可証を監査役に作らせねぇとな。
……やれやれ、出張から帰ってきても、現場監督ってのは明日の段取り(仕事)で頭がいっぱいだぜ」
どこまでいっても、女や権力に溺れることなく、真面目に「明日の仕事の段取り」を考えてしまうブレないブルーカラーの性。
彼がそんな健全極まりない思考を巡らせていた、その時だった。
――ガラッ!!
露天風呂の引き戸が、勢いよく開け放たれた。
4.極薄湯浴み着のアンジャッシュ・マッサージ
「い、一郎様っ……! 出張のお疲れを癒やすための『特別マッサージ』にまいりました……っ!」
「ふふっ。今夜は、わたくしたち三人がかりで、一郎さまの全身のコリを徹底的にほぐして差し上げますわよ……?」
「か、監査役として、現場監督の疲労度を直々にチェックする義務がわたくしには……っ!」
湯けむりの向こうから現れたのは、特級聖女リリィ、ギルド副マスターのセリア、そして第二王女エレノアの三人だった。
「お、おいおい……お前ら、またか」
一郎は呆れたように片手で顔を覆った。
彼女たちが身に纏っているのは、先日のグランドオープン時で一郎の理性を限界まで揺さぶった、あの「極薄の湯浴み着(ほぼタオル一枚)」である。 お湯で濡れて素肌にピタリと張り付いたその破廉恥な破壊力は、一郎の記憶に深く刻み込まれている。だが、今回は少しだけ「アプローチ」が違った。
「一郎様! 私、今日こそは第一助手として、一郎様のお疲れを完璧に癒やしてみせます!」
リリィはザバザバとお湯をかき分け、一郎の背後にピタリと密着した。
「フォークリフトの教習で一郎様から直々に教わった「奥まで深く」のテクニック……! 今度は私が、一郎様の肩甲骨の「奥深くまで」、しっかりと指を挿し込んでマッサージいたしますぅっ!」
「ひゃんっ」と自分で言いながらエロティックな妄想に火をつけ、リリィの柔らかい双丘が一郎の背中にギュウギュウと押し付けられる。
「ちょ、ちょっとリリィさん! 抜け駆けは許しませんわ!」
セリアが慌てて一郎の正面に回り込み、その豊満な太ももを一郎の足に絡みつかせた。
「一郎さまぁ……。わたくしは副マスターの権限で取り寄せた、極上の「スライムローション(マッサージオイル)」を持参いたしましたの。これで、一郎さまの前の方も、滑らかに、ねっとりと……ああっ」
セリアは自らの胸元にローションを塗りたくり、それを一郎の分厚い胸板に直接擦りつけるという、銀座のナンバーワンどころか完全に一線を越えた接待を仕掛けてきた。
「あ、あなたたち! はしたないですわよ!」
エレノアが顔を真っ赤にしながら横から飛び込んでくる。
「わ、わたくしは王家のマッサージ術で……そ、その、一郎様の逞しい腕の筋肉の張りを、こうして……っ!」
エレノアがしがみついたのは、一郎の右腕だった。彼女の豊かな胸の谷間に一郎の腕がスッポリと挟まれ、極上の弾力がダイレクトに伝わってくる。
(おいおいおい……っ! 勘弁してくれ!)
三十歳の完璧な男の肉体に、王都の頂点に君臨する三人の極上美女の素肌と、甘い香水、そしてローションの滑らかな感触が四方八方から押し付けられる。
男の理性が、限界点を超えて激しい警告音を鳴らしていた。
5.湯あたりの回避と、ブレないブルーカラー
「ああっ、一郎様……私の指、奥まで届いておりますか……っ?」
「一郎さま、ここ、もっと激しくほぐしてよろしいですか……?」
「わ、わたくしの監査も……っ!」
完全に発情しきったヒロインたちの破廉恥な声が、密室の露天風呂に響き渡る。
これ以上流されれば、間違いなく危険領域へと突入し、一郎の「健全なスローライフ」が崩壊してしまう。
「――ストップ!!」
一郎の、ドスの効いた現場監督の怒号が響いた。
ビクッ!と、三人の動きが同時に止まる。
「お前ら、風呂場で走って飛び込んでくるな! タイルが滑るんだから転倒(労災)するだろ! 足元ヨシの確認を怠るな!」
「えっ……? ろ、労災……?」
「それにリリィ! 肩甲骨のマッサージはありがてぇが、力が入りすぎだ! フォークリフトの爪(指)をそんなに深く挿し込んだら、荷物(筋肉)が傷むだろ! セリアさんのオイルも、湯船に混ざったら水質が落ちる(濾過機のメンテが増える)からほどほどにしろ!」
「は、はいぃぃっ!?」
極限までエロティックな空気に持ち込んだはずが、返ってきたのは「安全配慮義務」と「水質管理」の真っ当すぎるお仕事ロジック(説教)だった。
一郎は、三人の誘惑を「純粋な健康管理とマッサージ」として完璧にアンジャッシュ(すれ違い)処理してのけたのだ。
「まったく……。お前らのマッサージの気持ちは嬉しいが、長湯は「湯あたり」の元だ。風呂で倒れられたら、それこそ明日の業務に響くからな」
一郎はザバァッと立ち上がると、三十歳の引き締まった肉体から男の色気に満ちた水滴を滴らせながら、宣言した。
「よし! 今日の福利厚生(風呂)はこれにて終了! あと10分で全員上がれ! 湯冷めしないようにしっかり拭いて、明日の現場に備えて早く寝るぞ!」
「「「えええええええっ!?」」」
またしても、一郎の「ブレない理性の壁(健康管理ロジック)」に阻まれ、大人の階段を上り損ねたヒロインたちの悲鳴が、夜の「芝崎湯」に空しく響き渡る。
(あ、ああ……! 露骨な色仕掛けにも一切惑わされず、常に私たちの健康と明日の仕事を第一に考えてくださるなんて……! なんてストイックで、気高いお方なの……っ!)
(一郎さまのあの理性の壁、高すぎますわ……! でも、だからこそ燃えますわね……っ!)
結果として、一郎の株(カリスマ性)は彼女たちの中でさらに限界突破し、三人の「次こそは絶対に!」という闘志をますます燃え上がらせてしまうのだった。
出張の成果を完璧にケアし、新規スタッフの心を掴み、そしてヒロインたちの暴走を華麗にスルーする。
最強のおっさん清掃員と白銀のパッカー車による利益率100%のインフラビジネスは、極上のスーパー銭湯での「ブレない定時退社スローライフ」と共に、今日も平和な夜を迎えるのであった。




