第028話:ブラック同業者の出現と、悪徳の「分別処理(ざまぁ)」
1.定時直前の乱入者と、不法投棄の真犯人
「今は16時50分。定時まであと少しだな。よし、お前ら! 現場は綺麗に片付いた! 王都へ帰るぞ!」
「「「はいっ! 一郎様!!」」」
魔王領の絶望的な「汚泥ダンジョン」を超高圧バキュームで更地に変え、最強の古代兵器を「社用車の牽引トレーラー」としてヒッチメンバーに接続し終えた芝崎一郎。
リリィ、セリア、エレノアの三人が、満面の笑みでパッカー車に乗り込もうとした――まさにその瞬間だった。
「ガラガラガラッ……! ガシュン、ガシュンッ!」
浄化されて澄み渡っていた魔王領の空気を再び汚すように、吐き気を催すような黒煙と、耳障りな金属の摩擦音が響き渡った。
湖の跡地へと続く崖の上から現れたのは、黒い煤にまみれたキャタピラ式の魔導ブルドーザーのような「ポンコツ重機」と、数十人の武装した薄汚い男たちの集団だった。
そのブルドーザーの巨大な荷台には、新たに不法投棄するつもりで持ってきたらしい、強烈な酸を放つ猛毒のヘドロや、呪われた武具の山がうずたかく積まれている。
「あ、あれは……!」
パッカー車の見送りに残っていた魔王が、顔を引きつらせて叫んだ。
「あの紋章は、人間の大国に裏で雇われているという悪徳清掃業者『ダスト・イーター』! 我が領地にあの古代兵器を捨てていった、不法投棄の真犯人どもです!」
崖の上から、下劣な笑い声が降ってきた。
「ゲハハハッ! さぁて、今日も隣国の連中からたっぷり報酬をもらって、魔王領への『不法投棄ツアー』といこうじゃねぇか……って、あァ!?」
ポンコツ重機の操縦席にふんぞり返っていた、顔に大きな傷のある大柄な男――ダスト・イーターのボスであるザックが、崖下の光景を見て目を丸くした。
「な、なんだこりゃ!? 湖を埋め尽くしてた数万トンの猛毒ヘドロが、一滴残らず消え失せてやがる! しかも、俺たちが捨てた超弩級の古代兵器が、ピカピカに洗われて謎の白銀の鉄馬車に繋がれてるじゃねぇか!」
ザックの驚愕をよそに、一郎の視線は、彼らの「重機」の背後へと向けられていた。彼の瞳が、スゥッと氷のように冷たく、そして鋭い怒りの色を帯びていく。
「い、一郎様……。あの子たち……」
助手席に乗ろうとしていたリリィが、両手で口を覆って悲鳴のような声を漏らした。
ザックが乗るポンコツ重機。その動力源として重機に太い鉄の鎖で繋がれ、無理やり魔力を搾り取られていたのは、ボロボロの衣服を纏った数十人の奴隷たちだったのだ。
ガリガリに痩せ細った彼らは、猛毒の廃棄物を積んだ荷台のすぐ真後ろを歩かされているというのに、防毒マスクはおろか、安全靴すら履かされていない。咳き込み、血を吐きながら、鞭で打たれて必死にポンコツ重機を引っ張っている。
「……なるほどな」
一郎は、パッカー車のドアから手を離し、ゆっくりと向き直った。
いつもは「人のいいオッサン」である彼の顔に、百戦練磨の現場監督としての、凄まじい「鬼の覇気」が宿る。
2.ブラック企業の実態と、現場監督の逆鱗
「ゲハハハ! なんだか知らねぇが、あの古代兵器の修復が終わってんなら好都合だ! 俺たちで奪い取って、高く売り飛ばしてやるぜ!」
ザックが下劣に笑いながら、ポンコツ重機のアクセルを乱暴に踏み込む。黒煙を吹き上げながら、数十人の荒くれ者たちと共に崖を下り、一郎たちを取り囲むように展開した。
「おい、そこのおっさん! その白銀の馬車と、後ろの古代兵器を置いて失せろ! 逆らうなら、うちの優秀な『従業員』たちの血の海に沈めてやるぜ!」
ザックが鞭を振るうと、鎖で繋がれた奴隷たちが悲鳴を上げ、無理やり武器を持たされて前へ押し出された。
「……優秀な従業員、だと?」
地を這うような、恐ろしく低い声が響いた。
三十歳の男盛りに若返った完璧な肉体から放たれる、圧倒的なプレッシャー。一郎が一歩前へ踏み出すと、武装した悪徳業者の男たちが、目に見えない重圧に気圧されて思わず後ずさりした。
「てめぇら、他国から金をもらって、他人の土地(魔王領)に粗大ゴミを不法投棄してんのか。マナーが悪いにも程があるぞ。不法投棄は立派な犯罪だ」
一郎は、腰のベルトから愛用の神器「解体用聖杖」を静かに引き抜いた。
「さらに最悪なのは、その奴隷たちの扱いだ。有毒な廃棄物を扱う現場だってのに、防護服一つ支給してねぇ『安全配慮義務違反』。適切な休憩もなしに魔力を絞り取る『過酷な長時間労働』。……お前らのやってることは、俺がこの世で一番嫌いな『ブラック企業』そのものだ」
「はあっ? 労災だぁ? ブラックだぁ? バカ言ってんじゃねぇよ!」
ザックが鼻で笑って唾を吐き捨てた。
「こいつらは金で買った使い捨てのゴミ(道具)だ! ゴミを片付けるためにゴミを使い潰して何が悪い! 清掃業なんてのはなぁ、いかに底辺の奴らをこき使って、適当な場所にゴミを隠して(捨てて)儲けるかが勝負なんだよ!」
その言葉を聞いた瞬間。
魔王領の空気が、ピーンと凍りついた。
リリィも、セリアも、エレノアも、一郎の背中から立ち上る「本気の怒り」に息を呑んだ。
「……そうか。なら、同業の風上にも置けねぇな」
一郎はバールを肩に担ぎ、冷酷な宣告を下した。
「テメェらみたいなマナーの悪いブラック企業は、業界から退場だ。俺が直々に『強制捜査(分別処理)』してやる」
3.同業他社との「重機戦」とバール無双
「狂ってんのか、このおっさん! やっちまえ! 奴隷ども、前へ出ろ!」
ザックの号令で、荒くれ者たちが一斉に襲いかかろうとし、奴隷たちが盾として前に出されそうになった。
「リリィ! 奴隷たちを浄化(回復)してやれ!」
「はいっ! 一郎様! 『聖女の極大浄化』!!」
リリィが神官の杖を掲げると、純白の光のドームが奴隷たちを包み込んだ。
光に触れた瞬間、彼らを繋いでいた呪いの鎖がサラサラと塵となって消え去り、彼らの身体に満ちていた毒と疲労が完全に癒やされていく。
「なっ!? 呪いの鎖が!」
「盾がねぇなら、お前らが直接来いよ。……ほら、残業代(手当)は払ってやるからな!」
一郎が地を蹴った。
三十歳の完璧な肉体と女神の加護が乗った、プロの清掃員による神速のステップ。
「死ねぇっ!」と斬りかかってきた荒くれ者の大剣を、一郎はバールのフックで的確に引っ掛け、テコの原理でいとも簡単にへし折った。
「粗大ゴミの解体は、結合部を狙うのが基本だ!」
ガキィィィンッ! バシュゥッ!
一郎のバール捌きは、もはや芸術の域に達していた。男たちが着ている不正な魔法の鎧や、違法に改造された武具の隙間にバールをねじ込み、次々と「分別(解体)」していく。
ものの数秒で、数十人の荒くれ者たちは自慢の装備をバラバラにされ、下着一丁の無様な姿で地面に転がされた。
「ひぃっ!? ば、化け物……!」
「クソッ! ならばこの重機でミンチにしてやる!!」
完全に理性を失ったザックが、魔力を暴走させ、黒煙を上げるポンコツの魔導ブルドーザーで一郎に向かって突進してきた。
(あんな下品な鉄の塊で、一郎様を轢こうだなんて!)
セリアとエレノアが悲鳴を上げそうになったが、一郎は眉一つ動かさない。
「整備不良のポンコツ重機で現場に出るな!!」
一郎は突進してくるブルドーザーのキャタピラの隙間に、バールの先端を正確無比に叩き込んだ。
「ガギィィィィィッ!!」
致命的なギアの噛み合わせをテコの原理で狂わされたポンコツ重機は、凄まじい金属音を上げてキャタピラが外れ、バランスを崩してその場にひっくり返った。
「ぐわぁぁぁっ!?」
操縦席から放り出されたザックが、泥まみれの地面に無様に転がった。
「よし、解体完了だ。お前らの不法投棄物(ポンコツ重機と不正装備)は、まとめてうちのパッカー車で分別処理してやる」
一郎は転がっているザックの襟首を掴み上げ、バラバラになった荒くれ者たちの武具と一緒に、白銀のパッカー車の後部ホッパーへと放り込んだ。
4.ポンコツ重機の解体と、次元圧殺結界
「ま、待て! なにをする気だ! やめろぉぉぉっ!」
ホッパーの中で、ザックが悲鳴を上げる。
「チッ……! せっかく古代兵器の牽引ロック(玉掛け)を終わらせてたのによ。ホッパーが塞がっててゴミが入れられねぇじゃねぇか」
一郎は忌々しげに舌打ちすると、車体後部の「神聖魔導ヒッチメンバー」を一度ガチャリと解除した。
「てめぇらのせいで『二度手間』が増えたぞ! この分の残業代も高くつくからな!」
さらに一郎は、横転したポンコツブルドーザーにパッカー車の「多目的重機アーム」を引っかけ、古代兵器を切り離して広く空いたホッパーへと、強引に押し込んだ。
「安全配慮義務違反のブラック企業に、明日からの営業許可は下りねぇよ。相棒、プレス開始だ」
一郎はコントロールパネルの赤いボタンを、迷いなく押し込んだ。
「ブゥゥゥン! ギギギギギギ!」
強烈な油圧駆動音が鳴り響き、白銀のプレス板がホッパーの奥へと迫る。
「次元圧殺結界」と「超油圧プレスブースト」の同時起動。
数十トンの油圧と神聖な魔力が、ホッパーの中のザックたちに襲いかかる。
だが、パッカー車に備わった「生命体保護センサー(安全装置)」が作動し、人間そのものはプレス対象外として弾かれた。
代わりに「因果の峻別」機能が、彼らが身に纏っていた「不正に蓄えた魔力」「悪意の呪術具」、そして「違法なポンコツ重機」だけを物理的・魔術的に引き剥がし、極限まで圧縮していく。
「――メキメキ、バキバキバキバキッ!!!」
ブラック企業の象徴であったポンコツ重機と悪徳装備が、数百トンの油圧エネルギーの前で紙屑のように圧壊し、塵芥へと変わっていく。
「プシャァァァァッ!」
エアブレーキの心地よい音が響き、パッカー車の後部排出口から、カランカランと純度の高い魔石や精錬された鉄のインゴットが吐き出された。
そして、ハッチが開き、ザックたち悪徳業者の面々が地面に転がり落ちた。
命はあるが、身ぐるみ剥がされた下着姿となり、これまで不正に蓄えてきた財産も、違法な重機もすべてを「分別処理」され、完全に心が折れた廃人と化していた。
「ひぃぃ……っ、お、俺の商売道具が……!」
「よっしゃ。不法投棄業者の強制捜査、完了だ。お前らはそのまま魔王の旦那に引き渡してやるから、たっぷりと罪を償え」
一郎の圧倒的な重機の暴力と、ブレないブルーカラーのロジックの前に、他国から裏で手を引いていた悪徳ブラック企業は、完璧に「退場」させられたのだった。
5.出張終わり! 最高の報酬と定時退社
「あ、ありがとうございます……! 僕たちを、助けてくれて……!」
解放された奴隷たちが、涙を流しながら一郎の前に跪いた。
一郎はパッカー車から吐き出された魔石の山を無造作に掴むと、彼らの手にどっさりと握らせた。
「これはお前らが血と汗流して働いた分の『未払い残業代』と『退職金』だ。これで故郷に帰るなり、自由になれ。……もし、行くあてがなけりゃ、王都にあるうちの『芝崎清掃』に来な。ホワイトな現場で、キッチリ飯を食わせてやるぞ」
「い、行きます! あなたのような立派な現場監督の下で、一生働かせてください!!」
奴隷たちの歓喜の涙と、魔王や魔族たちの割れんばかりの拍手が、浄化された魔王領に響き渡った。
「芝崎清掃様ぁぁっ! ブラック業者の成敗までしていただき、何と御礼を申し上げればよいか! お約束通り、国庫を傾けるほどの報酬を……っ!」
魔王が涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、莫大な量の魔石と宝物をパッカー車の四次元収納へと運び込んでいく。
「おう。報酬はキッチリもらったぞ。」
一郎の言葉に、魔王が揉み手で進み出る。
「芝崎清掃様! 本日は大変お疲れ様でございました! ささやかな御礼として、我が魔族の総力を挙げ、王都のすぐ傍まで繋がる『超大型の空間転移ゲート』を開かせていただきました! どうぞ、お帰りの際にお使いくださいませ!」
「おっ、そりゃ助かる。帰りの移動時間も勤務時間(残業)に含まれるからな。ゲートで一瞬にして帰れるなら、完全に定時退社だ。保護した奴隷たちも、そのゲートで安全に王都まで送れるな。……さて、古代兵器の牽引ロックも完了したし、これにて出張はすべて完了だ」
一郎は腕時計(魔法具)を確認し、フッと笑った。
「今は16時55分。よし、ギリギリ定時退社に間に合ったな!」
定時退社を阻む者への怒りと、三十歳の最強ボディ、そして女神の加護がもたらす「定時退社ブースト」。戦闘から分別プレス、そして魔王からの莫大な報酬の積み込みに至るまで、実質体感30分の作業を、一郎は神速の5分間で終わらせてみせたのだ。
「「「はいっ! 一郎様!!」」」
リリィ、セリア、エレノアの三人が、満面の笑みでパッカー車のキャビンへと飛び乗る。
人類の敵である魔王を「ただのクライアント」として圧倒し、絶望のヘドロ湖を超高圧バキュームで更地にし、最強の古代兵器を「社用車の牽引トレーラー」としてお持ち帰りする。
おまけに、マナーの悪いブラック同業者を完璧に「分別処理」し、有能な新規スタッフ(元奴隷たち)までスカウトしてしまった。
「よし、出張終わり! 定時で帰って、みんなで『芝崎湯』の最高のお湯に入るぞ!」
「『ドゴォォォォォォンッ!!!』
神聖オートクルーズ(自動運転)を搭載し、超巨大な古代兵器を軽々と牽引する完全無欠の白銀のパッカー車が、威勢の良いエンジン音を響かせる。
魔族たちが開いた超大型の空間転移ゲートを潜り抜け、一瞬にして王都の敷地の傍へとワープした一郎は、整備された道を走りながらほくそ笑む。
(ゲートからマイホームまでの短い道のりでも、エレノアが街道を最高級の石畳で舗装し直しておいてくれたおかげで、50メートル級の牽引でもおもちゃを引っ張るようにスムーズだな。王都の門? デカくて通らないなら王様に言って一時的に撤去(分別)してもらえばいいだけだ)
最強のおっさん清掃員と三人の極上美女による、利益率100%の痛快無比な出張清掃は、魔王領に永遠の伝説を残し、最高の福利厚生が待つ王都へと、爽やかに帰還していくのであった。




