第026話:キャンピングカーの密着道中と、助手への『小型重機』教習
1.キャンピングカーの夜と、絶対防音結界の無駄遣い
王都を出発した白銀のパッカー車は、荒野に沈む夕日を背に受けながら、『神聖オートクルーズ(自動運転)』によって魔王領への最短ルートを猛烈なスピードで爆走していた。
周囲には時折、強力な魔獣が姿を現したが、パッカー車の常時展開される神聖魔力障壁に触れた瞬間、青白い閃光と共に浄化され、塵となって消えていく。
「よし、今日の移動はここまでだ。魔王領の入り口手前、この見晴らしのいい荒野で一晩野営(車中泊)とする!」
一郎がブレーキを踏み込み、パッカー車を安全な岩山の陰に停車させた。
第二形態へと進化したパッカー車のキャビンは四次元拡張されており、四人が十分に手足を伸ばせる広大なキャンピングカー空間となっている。
だが、その広さとは裏腹に、車内の人口密度――正確には「一郎の周辺半径五十センチ」の密度は、異常な数値を叩き出していた。
「さあ、一郎さま。運転お疲れ様でした。今夜こそ、わたくしがこの極薄のネグリジェ姿で、朝までみっちりと『夜の残業』のお相手をして差し上げますわよ……?」
黒いレースのネグリジェを纏い、豊満な胸の谷間をこれ見よがしに押し付けてくるのは、ギルド副マスターのセリアだ。
「泥棒猫は引っ込んでいなさいな! わたくしこそ特任監査役として、一郎様の夜の睡眠状況をこの紅いシルクの下着で隅々まで監査する義務がありますのよ!」
負けじと、王宮お抱えの職人が仕立てたという極めて際どい紅いシルクの下着姿で、エレノアが一郎の右腕に絡みつく。
「お二人とも不純です! 一郎様の第一助手の座(正妻)は私です! 今夜も一郎様のお隣は、この『彼シャツ』を着た私がいただきますっ!」
一郎から借りたダボダボの男物のシャツを一枚だけ素肌に羽織り、白く滑らかな太ももを剥き出しにした特級聖女リリィが、一郎の正面からダイブしてくる。
「お、おいっ! お前ら、狭いぞ! 暴れるな!」
三十歳の男盛りに若返った完璧な肉体を持つ一郎に、三人の極上美女が放つ甘い香水と石鹸の匂い、そして柔らかな素肌が四方八方から押し付けられる。
「一郎様ぁ……私のここ、触ってください……っ」
「一郎さま、わたくしの上に乗ってもよろしくてよ……っ!」
「わたくしの監査も、激しくお願いしますわ……っ!」
激しいキャットファイトが繰り広げられる中、一郎はふと、出発前にオンにしておいた新機能の「効果」を思い出した。
(しかし、すげぇな。おかげで、どれだけ車内で暴れても、外には一切音も揺れも漏れねぇ。カタログスペック通り、完璧に機能してるじゃねぇか)
その完璧な密室機能が、ヒロインたちの「誰にも邪魔されない愛の巣」という勘違いを極限まで加速させ、この凄まじい肉弾戦を引き起こしている原因だとは、鈍感な現場監督は微塵も気づいていなかった。
「ええい、いい加減にしろ! 明日の現場は魔王領の『湖のダンジョン』だぞ! 寝不足で労災を起こしたらどうするんだ! 明日の現場に響くから早く寝ろ!」
一郎のドスの効いた怒号が響く。
ビクッと肩を震わせた三人は、渋々ながらも争いをやめた。だが、結局「一郎の右腕」「左腕」、そして「胸の上」というポジションを三人がそれぞれ陣取る形で、ガッチリとホールドされてしまった。
(チッ……昨日「極大サスペンション」に強化しちまったせいで、「定員オーバーでサスがイカれる(過積載だ)」って言い訳が物理的に使えなくなっちまった……完全に自業自得か)
「……ったく、湯たんぽ代わりにはなるが、重てぇな」
一郎は呆れながらも、オッサン特有の図太さで目を閉じ、わずか数秒で規則正しいいびきをかき始めた。
かくして、三人のヒロインたちは「一郎様とベッドを共にする」という幸せな密着空間を満喫しながら、甘く熱い夜を過ごすのだった。
2.朝のSA休憩と、女神からの支給品
翌朝。
清々しい朝の空気が荒野に満ちる中、一郎はキャビンの外へ出て、携帯コンロで沸かしたコーヒー(黒茶)を啜っていた。
「ふぅ……。やっぱり朝の空気は美味いな。魔王領に近いってのに、フィルターのおかげで瘴気もねぇし」
そこへ、身支度を整え「特級聖女の法衣(芝崎清掃のロゴ入り作業服)」に着替えたリリィが、少し眠そうな目をこすりながら降りてきた。
「おはようございます、一郎様。昨夜は……その、とても温かかったです……えへへ」
思い出し笑いをして顔を赤くするリリィに、一郎は「おう、おはよう。よく眠れたか?」と人のいい笑顔を返す。
その時だった。
「――ピロリロリロリンッ!!!」
一郎の視界に、半透明のステータス画面がポップアップし、黄金の光を放った。
【システムメッセージ:スポンサー(女神)より、特別ボーナスが支給されます】
【対象:第一助手・リリィ】
【理由:これまでの献身的な助手業務、および特級聖女としての高い現場貢献度を評価】
【支給品:神聖魔力駆動『小型魔法重機』】
「おっ!? 本社(女神)からボーナス支給だぞ、リリィ!」
一郎が声を上げた瞬間、パッカー車の後部バンパーが自動で展開し、ホッパーの下部ハッチがスゥッと開いた。
眩い光と共にそこから姿を現したのは、白銀の神聖合金で装甲された、ピカピカの小型重機――『フォークリフト』だった。
「おおおおっ!! フォークリフトじゃねぇか!」
一郎はコーヒーのマグカップを放り投げんばかりの勢いで駆け寄り、その車体をバンバンと叩いた。
「すげぇ! 小回りが利くカウンターバランス式のバッテリー(魔力)フォークだ! 前の爪も頑丈そうだし、これなら狭い現場でもパレットに積んだ魔石をひょいひょい運べるぞ!」
「い、一郎様……? この小さくて可愛らしい鉄の馬車は、一体……?」
不思議そうに首を傾げるリリィに、一郎は満面の笑みで振り返った。
「こいつはな、パッカー車へ効率よく資源を積み込むための最強の相棒だ。昨日の魔王からの見積もり依頼によれば、現場は『湖のダンジョン』でヘドロまみれらしいからな。俺がバキュームでヘドロを吸って出てきた大量の魔石を、手作業で運んでたら日が暮れちまう」
一郎は、フォークリフトの運転席を指差した。
「よしリリィ! 今日はお前に、こいつの乗り方を教えてやる! これが運転できれば、お前はただの助手から『重機オペレーター』へ昇格だ!」
「わ、私が、この神聖な鉄の馬車を操縦するのですか!?」
「ああ! 現場の華(花形)だぞ!」
3.密着の重機教習
フォークリフトの運転席は、当然ながら一人用だ。
一郎は、おずおずと運転席に座ったリリィの背後から、ひらりと身をかわして乗り込んだ。
「おっ、ちょっと狭いな。失礼するぞ」
一郎はリリィの背後にピッタリと密着し、彼女の小さな身体を背後から完全に包み込むようにして、左右のレバーとステアリングに手を伸ばした。
「ひゃああっ!?」
リリィの口から、悲鳴とも喘ぎ声ともつかない声が漏れた。
三十歳の分厚く逞しい胸板が、背中にダイレクトに押し付けられる。そして、一郎の太く力強い両腕が、自分の腕を外側からホールドしている。鼻腔をくすぐるのは、大人の男の汗とフェロモンの混ざり合った、どうしようもなく雄々しい匂い。
「い、い、一郎様っ……! ち、近いです……っ! お身体が、こんなに……っ!」
「バカ野郎、離れてたらレバーの感覚が教えられねぇだろ。いいか、フォークリフトの操作は繊細さが命だ。俺の手の動きをしっかり覚えろよ」
一郎は全く邪心のない真剣な現場監督の顔で、リリィの手の上に自分の手を重ねた。
「まず、右手のこのレバー。こいつを手前に引くと、前の爪が上がる。奥に倒すと下がる」
「ひ、引く……っ! 奥に……倒すぅ……っ!」
リリィの脳内で、凄まじいエロティックな単語変換が始まった。
「そうだ。で、こっちのレバーは爪の傾き(チルト)だ。荷物を刺す時は、爪を水平にして、穴の奥まで深く挿し込むんだ。中途半端だとバランスを崩して落としちまうからな」
「つ、爪を……穴の奥まで深く、挿し込むぅっ……!!? ひゃんっ!」
一郎の低く響く声と、耳元に吹きかかる熱い吐息。そして「奥まで深く挿し込む」というパワーワードの連打に、リリィの理性は完全にレッドゾーンを振り切った。
「よし、実際に動かしてみるぞ。ステアリングは左手で軽く握れ。アクセルは優しく踏み込むんだ。前後確認! 優しくレバーを引け!」
「や、優しく引くぅっ……! ああっ、一郎様ぁっ! 私、もう……開発されてしまいますぅっ!」
「おいおい、なんだその声は。力を抜けって。ガチガチに緊張してたら操作を誤るぞ」
密着状態での手取り足取りの指導。
リリィは過呼吸寸前で目を白黒させながらも、一郎の手の動きに合わせて必死にレバーを操作する。
その一部始終を、キャンピングカーの窓から見ていたセリアとエレノアは、ギリギリとハンカチを噛みちぎらんばかりの形相で嫉妬の炎を燃やしていた。
「キーーーッ! あの田舎娘、指導を口実に一郎さまとあんな密着プレイを! ズルいですわ!」
「わたくしだって! わたくしだって王女の特権であの鉄の馬車に乗って、一郎様に後ろから抱きしめられながら『奥まで挿し込む』指導をされたいですわっ!」
4.免許皆伝と魔王領への到着
「よし! いいぞリリィ、その感覚だ!」
勘違いで身悶えしながらも、さすがは特級聖女。持ち前の高い魔力コントロール能力と集中力で、リリィはあっという間にフォークリフトの繊細なレバー操作をマスターしてしまった。
パレットに見立てた木箱を、爪でスッとすくい上げ、滑らかな動きで荷台の高さまで持ち上げる。
「完璧だ! お前、すげぇ筋がいいぞ! これで立派な重機オペレーター(助手)だな!」
一郎は運転席からひらりと飛び降りると、満面のイケメンスマイルで親指を立てた。
「えへへ……っ。ありがとうございます、一郎様!」
リリィはフォークリフトの運転席で、真っ赤な顔に汗を滲ませながら、極上の笑顔を咲かせた。
(一郎様と一つになって、同じ重機を操る感覚……! 私、一郎様のためにどんな重い荷物(愛)でも、一生運び続けますわっ!)
「よし、教習はここまでだ。機材は四次元収納にしまっておくぞ」
一郎がシステムを操作すると、フォークリフトは光の粒子となってパッカー車のホッパーへと収納された。
「さあ、お前ら! 休憩終わりだ! 車に乗れ!」
一郎の号令で、セリアとエレノアも慌ててパッカー車へと乗り込む。
『ドゴォォォォォォンッ!!!』
再び神聖魔力エンジンが咆哮を上げ、白銀のパッカー車が荒野を蹴立てて走り出す。
やがて、フロントガラスの向こうに、空を覆うほどの巨大な紫色の瘴気の渦が見えてきた。魔王領の奥地、『湖のダンジョン』である。
「見えてきたな。あそこに不法投棄されたっていう、超巨大な古代兵器。俺たちの新しい社用車候補だ」
一郎はステアリングを握る手に力を込め、不敵な笑みを浮かべた。
最強のおっさん清掃員と、重機オペレーターのスキルを習得した勘違い聖女。そして絶対防音の密室キャンピングカーで欲求不満を募らせる二人の美女。
彼らを乗せたパッカー車は、魔王が待つ絶望の汚泥ダンジョンへと、痛快なエンジン音を響かせながら突入していくのであった。




