第025話:有能すぎる中間管理職と、魔王からの「見積もり依頼」
1.朝のコーヒーと、有能すぎる部下たちの「業務報告」
「ふぅ……。やっぱり、朝の空気の中で飲むコーヒー(黒茶)は格別だな」
王都のインフラと経済の中心地となったマイホーム兼・巨大スーパー銭湯「芝崎湯」。 その豪壮な母屋の縁側で、芝崎一郎は首にタオルを巻き、湯上がりの黒茶を啜って至福の息を吐き出していた。
(昨夜は、風呂に乱入してきたアイツらを「長湯は湯あたり(労災)の元だ! 10分で上がれ!」と追い出すのに骨が折れたが……まあ、いい朝だ)
定時退社と完璧な福利厚生。インフラビジネスは完全に軌道に乗り、彼のスローライフは盤石のものとなっていた。
そこへ、彼を慕う(正妻の座を狙う)三人の極上美女たちが、それぞれ分厚いバインダーを抱えてやってきた。
「一郎様! スーパー銭湯の開業に合わせて進めていた本日の業務報告(朝礼)をよろしいでしょうか!」
一番乗りで進み出たのは、純白の特級聖女の法衣を纏った第一助手・リリィだった。
「ダンジョンを新米清掃スタッフ(初心者冒険者)の『研修施設』として解放する計画ですが、無事に完了いたしました! 入り口を隠すように、一郎様がデザインされた『太陽の塔』を建設しました!」
「おっ、あの焼却炉の煙突か。あれなら遠くからでも目印になるな」
「はいっ! さらに10階、20階、30階には試験官となる『中間ボス』を配置し、彼らを分別できれば次の階層への安全な転移陣が開放されるシステムを構築しました。これで後進の育成は完璧です!」
「おお、立派な社内研修施設ができたな」
「わたくしからもご報告ですわ!」
次に進み出たのは、ギルドの制服を大胆にはだけさせた副マスター・セリアだ。
「ダンジョンから産出されるエネルギー、素材、純水、食糧を一括で管理するシステムを構築しましたの。その莫大な資金力で王都の娯楽施設も次々と買収し、我が『芝崎清掃』は王都の全産業を牛耳る、超巨大コングロマリット企業へと成長いたしましたわ!」
「なるほど。社員の福利厚生(娯楽)まで充実させてくれるとは、さすが営業のプロだな」
「ふふん、わたくしの報告も聞いてくださる?」
最後に胸を張ったのは、ツナギ姿もすっかり板についた第二王女(特任監査役)・エレノアだ。
「わたくしも王家の権限と予算をフル活用し、王都の治安維持と外交を完全に掌握いたしましたわ。それと、一郎様のパッカー車が走りやすいよう、王都から他国へ続く主要街道を、すべて最高級の石畳で『インフラ整備(舗装)』しておきましたのよ!」
「おっ、そりゃ助かる。悪路はタイヤが傷むからな。社用車用の道路整備、ご苦労さん」
教会、ギルド、王家。
王都の「3強」のトップに君臨する彼女たちは、一郎の事業を裏から支えるため、もはや国を動かすスーパーウーマンへと成長していた。
だが、一郎の反応は極めてドライだった。
「おお、お前ら優秀な『中間管理職』に育ったな。社内研修施設の整備に、福利厚生の拡充、それに社用車用の道路舗装か。これで俺は、安心して現場のゴミ拾いに専念できるぜ。……で、今日の現場はどこだ?」
これほどのスケールインフレと莫大な権力を手にしながら、世界の支配には一切興味を示さず、あくまで「しがない有限会社の社長(清掃員)」としてのスタンスを崩さない一郎。
(((……ああ、なんという欲のない、気高きお方……! 私たちがどれだけ国を動かそうとも、一郎様のこの『ブレない精神(ブルーカラーの美学)』には到底及びませんわ……!)))
三人のヒロインたちは、そんな一郎の姿にさらに惚れ直し、熱い溜め息を漏らした。
2.新展開:魔王領からの使者と『古代兵器』の不法投棄
その時だった。
『芝崎湯』の立派な門を、ドンドンと必死に叩く者が現れた。
「おいレオ、お客さんか?」
「現場監督殿! な、なんだかスゴいのが来ました!」
門番をしていた孤児のレオに案内されて入ってきたのは、黒いマントをボロボロに引き裂き、青ざめた顔で震えている、巨大な角を生やした「魔族の使者」だった。
かつては人類の敵であったはずの魔族が、なぜか地面に這いつくばり、一郎に向かって勢いよく土下座をしたのである。
「も、申し訳ございません、突然の訪問を! 私は魔王様からの使者でございます! 芝崎清掃の『インフラ大賢者様』に、どうか、どうか我々の窮地を救っていただきたく……!」
「魔王からの使者? まあいい、顔を上げな。で、依頼ってのはなんだ?」
一郎は縁側に腰を下ろしたまま、ビジネスライクに尋ねた。使者は震える手で、一枚の書類――『お見積り依頼書』を差し出した。
「実は……魔王領の奥地にある『湖のダンジョン』に、突如として起動した『古代の超巨大魔導兵器』が不法投棄されたのです! その兵器から絶望的なヘドロと瘴気が撒き散らされ、我々魔族の生態系が崩壊寸前でして……っ! どうか、芝崎清掃様に分別処理をお願いしたく……!」
「……不法投棄、だと?」
一郎の目の色が変わった。
ファンタジー世界最大のイベントである「魔王からの依頼」や「古代兵器の復活」という事実よりも、一郎にとっては『他人の土地に粗大ゴミを捨てる』というマナー違反の方が、遥かに許せない大問題だったのだ。
「おいおい、古代兵器だか何だか知らねぇが、他人の敷地に粗大ゴミを捨てるなんて、同業の風上にも置けねぇマナーの悪い奴らがいるもんだな」
一郎はバインダーに挟まれた見積書をパラパラとめくり、ニヤリと不敵に笑った。
「それに、そのデカい兵器ってやつは、直せばうちの『新しい社用車』として使えるかもしれねぇな。よし、依頼は受けた!」
「お、おおおっ! ありがとうございます! 魔王様も、国庫を傾けてでも報酬はお支払いすると!」
「報酬はキッチリもらうぞ。だが、デカい粗大ゴミは現物(現場)を見ねぇと正確な見積もりが作れねぇ。まずは現地調査だ。即出発するぞ!」
3.出張準備と、キャビンの『防音』福利厚生
「よし、お前ら! 準備しろ! 今日から魔王領へ、一泊二日の『出張見積もり&粗大ゴミ回収』に行くぞ!」
「「「はいっ!! 一郎様!」」」
一郎は白銀のパッカー車の前に立つと、空中に半透明の『ステータス画面』を呼び出した。
「魔王領までの長旅になるし、相手は超巨大な古代兵器だ。溜まっていた実績ポイントを使って、相棒の『グレードアップ』をしておくか」
一郎の指が、アップグレードツリーの新たな項目をタップする。
【システムメッセージ:『神聖魔導ヒッチメンバー(重牽引システム)』をアンロックしました】
パッカー車の後部バンパーの下から、ズゴゴゴ……と地響きを立てて、極太の魔導合金製フックと、牽引時の車体のブレを防ぐ魔法のスタビライザーが展開された。
「よし。いくら古代兵器だろうが、公道を引っ張って帰るなら牽引免許の範囲内だ。これで帰りの『お持ち帰り』の準備は万全だな」
さらに一郎は、もう一つの機能をタップした。
【システムメッセージ:キャビン機能『絶対防音結界&極大サスペンション』をアンロックしました】
「い、一郎様。その『絶対防音結界』というのは……?」
不思議そうに首を傾げるリリィに対し、一郎は現場監督としての真っ当な「配慮」を口にした。
「ああ。魔王領までは遠いし、今日は車中泊になるだろ? お前ら、寝相が悪かったり、夜中に騒いだりするからな。車外で野宿してる子供たちや現地の魔族に騒音で迷惑がかからねぇように、キャビン(キャンピングカー)の防音機能をオンにしたんだ。サスペンションも強化したから、どれだけ車内で暴れても、外には一切音も揺れも漏れねぇよ。完璧な福利厚生だろ?」
「「「…………っ!!?」」」
その言葉を聞いた瞬間、リリィ、セリア、エレノアの三人の脳内で、一斉に凄まじい大爆発(勘違い)が起きた。
(((そ、それってつまり……!!)))
三人のヒロインたちの顔が、耳の裏まで一気に真っ赤に茹で上がった。
(((夜の車内で、どれだけ激しく、破廉恥な喘ぎ声を上げようとも……どれだけベッドが揺れようとも、外には一切漏れない『完全密室(愛の巣)』が完成したということっ!?)))
「あ、あああ……っ! 一郎様、なんて恐ろしく、そして用意周到な方……っ!」
リリィが内股になって身悶えする。
「今夜の車中泊……一郎様のお隣(上)は、絶対にわたくしがいただきますわ!」
「泥棒猫っ! わたくしが王女としての監査(夜のご奉仕)を……っ!」
4.魔王領へのロードムービー、開幕
男の理性を限界まで試すような、極上のキャットファイトの火種がすでにキャビン内でくすぶり始める中、一郎は全く気づかずにパッカー車の運転席へと飛び乗った。
「よし! 忘れ物はねぇな! レオ! 俺たちが留守の間、風呂屋と仕分け現場の『監督代行』はお前に任せたぞ! 安全第一で回せよ!」
「はいっ! 現場監督殿! いってらっしゃいませ!」
レオの元気な敬礼に見送られながら、一郎はパッカー車の運転席へと飛び乗った。
「それじゃあ魔王領の『湖のダンジョン』に向けて、出発だ!」
「ドゴォォォォォォンッ!!!」
神聖オートクルーズ(自動運転)を搭載し、防音機能と牽引システムを備えた完全無欠の白銀のパッカー車が、威勢の良いエンジン音を響かせて王都を出発する。
過酷な環境での汚泥バキューム、ブラック同業者の出現、そして逃げ場のないキャンピングカー内での密着ラブコメ(車中泊)。
最強のおっさん清掃員と三人の極上美女による、利益率100%のドタバタ出張清掃が、今、華々しく幕を開けた!




