第022話:労基署設立と、ブラック同業者の「分別処理」
1.ギルドの完全下請け化と、逃亡者の来訪
王都における『芝崎清掃』のマイホーム兼・巨大スーパー銭湯の建設現場は、ドワーフたちによる熱気と活気に包まれていた。
そんな中、現場監督の芝崎一郎のもとへ、見慣れた受付嬢が小走りで駆け寄ってきた。
「一郎さまぁっ! 朗報でございますわ!」
セリアは、いつもより少し豪華な意匠の施されたギルドの制服の胸元を、これ見よがしに揺らしながら一郎の腕に抱き着いた。
「わたくし、一郎さまからお預かりした国宝級の魔石の取引実績が評価され、なんとギルドの『副マスター』に大抜擢されましたの!」
「おお、そりゃすごい。出世街道まっしぐらだな、セリアさん」
「ええ! これでギルドのシステムは、わたくしの裁量でいかようにも動かせます。これからは、王都の優秀な土木スキル持ちの冒険者や素材の納入を、すべて優先的に『芝崎清掃』の独占下請け窓口として回させていただきますわね!」
セリアの有能すぎる手腕(と、己の利益と一郎を独占するための打算)により、王都の冒険者ギルドは、事実上一郎の事業所の「人事・資材調達部門」へと作り変えられてしまったのである。
「ははは、こりゃ助かる。人件費の管理から採用の手間まで省けるなんて、最高のビジネスパートナーだぜ」
一郎が笑ってセリアの肩を叩いた、その時だった。
「た、助けて……っ!」
現場の仮設門から、ボロボロの衣服を纏った一人の少年が転がり込んできた。
彼の背中には、彼自身の体重の何倍もありそうな、巨大で異常に重い荷物袋が括り付けられている。顔や腕には無数の打撲痕と鞭の跡があり、泥と汗にまみれたその姿は、極限の疲労で今にも息絶えそうだった。
「おい、大丈夫か!」
一郎が咄嗟に駆け寄り、重い荷物袋の紐をバールで切断して少年を抱き起こす。
「こ、ここは……休日に休めて、お給料がもらえるっていう、『芝崎清掃』の現場ですか……? 僕、もう、夜通しの荷物持ちは……っ」
少年はそこまで言うと、完全に意識を手放してしまった。
「……リリィ! 急いで回復魔法だ! 監査役は、子供たちの宿舎から毛布と温かいスープを持ってこい!」
「はいっ、一郎様! 『聖女の癒やし』!」
「わ、分かりましたわ! すぐに手配します!」
一郎の鋭い指示に、ツナギ姿のリリィとエレノアが迅速に動く。
保護された少年の身体の傷はリリィの神聖魔術で瞬時に癒やされたが、その小さな身体に刻まれた「長期的な虐待の痕」を見た一郎の目は、氷のように冷たく、怒りに沈んでいた。
2.ブラック冒険者と『労基署』の設立
「おい! うちの逃げた『所有物』はどこだ!」
少年の手当てを終えた直後、現場の入り口から、下品な怒声が響き渡った。
現れたのは、派手な魔法の武具で全身を固めた、五人の柄の悪い冒険者パーティーだった。リーダー格の男が、土足でズカズカと現場に踏み込んでくる。
「そこのガキは、俺たち『赤蠍の刃』が金で買った専属の荷物持ち(奴隷)だ! 勝手に匿ってんじゃねぇぞ、おっさん!」
「所有物、ねぇ」
一郎は、愛用の『解体用聖杖』を肩に担ぎ、リーダーの男の前にゆっくりと立ち塞がった。
「なあ、あんた。この子を荷物持ちとして使ってんなら、雇用契約書はあるんだろうな? 一日の労働時間の上限や、時間外労働の取り決め(サブロク協定)は結んでるのか? それに、あの子の身体にあるあの鞭の跡。現場で怪我させたなら、労災はきっちり下りるんだろうな?」
ビジネスライクに詰め寄る一郎に、リーダーの男は鼻で笑った。
「はあっ? 労災だぁ? 時間外労働だと? バカ言ってんじゃねぇよ! ダンジョン探索に休みなんかあるわけねぇだろ! 24時間365日、俺たちのために荷物を運んで罠の盾になるのが、あいつら底辺の役目なんだよ! 給料なんか払うかよ!」
その言葉を聞いた瞬間、現場の空気がピーンと凍りついた。
ドワーフの職人たちも、リリィも、エレノアも、一郎から放たれる「三十歳の男盛りの覇気」が、かつてないほどの危険な怒りを帯びていることに気づいたのだ。
「……なるほどな。安全配慮義務違反、違法な長時間労働、給与の未払い、おまけに悪質なパワーハラスメント。お前らのパーティーは、俺がこの世で一番嫌いな『ブラック企業』そのものだ」
一郎はバールを構え、地を這うような低い声で宣言した。
「王都にはまともな労働監査機関がねぇみたいだからな。今日、今この瞬間から、俺の事業所を王都初の『労働基準監督署』とする。――悪質なブラック同業者は、俺がバールで直々に『強制捜査』してやる」
3.未払い残業代の強制徴収(分別処理)
「狂ってんのか、このおっさん! ぶっ殺してやる!」
激高したリーダーが、魔法の炎を纏った大剣を振りかざして一郎に襲いかかった。
並の人間なら一刀両断される一撃。
だが、一郎は半歩スッと横にずれ、バールの先端を大剣の腹に軽く叩きつけた。
ガキィィィンッ!!
「なっ!?」
一点に集中したテコの原理と、若返った三十歳の異常な膂力により、魔法の大剣が飴細工のようにあっけなく粉砕された。
「装備の手入れもロクにしてねぇな。そんな脆い剣で現場に出るな」
一郎の動きは止まらない。
流れるようなステップで男の懐に潜り込むと、バールのフック部分を、男が着ている高級な魔法の鎧のバックルやベルトの隙間に次々とねじ込んでいく。
「粗大ゴミの解体は、結合部を狙うのが基本だ!」
『バチンッ! ギギギッ、ボロッ!』
ものの数秒の出来事だった。
バールの恐るべき解体技術により、リーダーの男が身につけていた数十万ゴールドは下らないであろう魔法の鎧、籠手、具足が、次々とバラバラに解体され、宙を舞った。
「ひぃっ!? お、俺の伝説の防具がっ!?」
気がつけば、リーダーの男は薄汚れた下着一丁の無様な姿で、地面に尻餅をついていた。他の四人のメンバーも、一郎の神速のバール捌きの前に、瞬く間に身ぐるみを剥がされ、パンツ一丁で震え上がっている。
「よし、解体完了だ。お前らの不法投棄物(装備)は、あの子の『未払い残業代』の代わりに、うちの労基署で差し押さえ(強制徴収)させてもらうぞ」
一郎は剥がした装備一式を掻き集めると、アイドリング状態だった白銀のパッカー車の後部ホッパーへと容赦なく放り込んだ。
「相棒、プレス開始だ」
コントロールパネルの赤いボタンを押す。
『ブゥゥゥン! ギギギギギギ!』
パッカー車の『次元圧殺結界』が起動した。男たちの悪意と呪いがこもったブラックな魔法装備が、数百トンの油圧によって物理的・魔術的に完全に圧壊・浄化されていく。
『プシャァァァァッ!』
エアブレーキの音と共に、パッカー車の排出口から、純度100%の魔石と、精錬された美しい金属インゴットがジャラジャラと吐き出された。
「ほらよ、坊主。これが、お前が血と汗水流して働いた分の『未払い残業代』と『退職金』だ。今日からお前は自由だ、好きなように生きろ」
一郎は、目を丸くして見ている少年の手に、どっさりと高純度魔石を握らせた。
「ひ、ひぃぃぃっ! ば、化け物だぁぁっ!!」
圧倒的な力と、理不尽なまでの重機の暴力を前に、ブラック冒険者たちは完全に心が折れ、下着姿のまま涙と鼻水を撒き散らして王都の彼方へと逃げ去っていった。
「悪徳業者の分別処理、完了。定時にも間に合ったな」
一郎はバールを肩に担ぎ、オッサン特有の人のいい笑顔を浮かべた。
4.狭いベッドの極上キャットファイト(夜の残業)
その日の夜。
マイホームの建設現場の片隅では、保護した少年の歓迎会が開かれていた。
ツナギ姿の第二王女エレノアが「ほら、新人! 栄養補給も仕事のうちですわよ!」と、すっかり現場に染まった様子で、孤児たちと一緒に作った温かいシチューを少年に振る舞っている。
少年は「こんな温かいご飯……休める場所があるなんて……」とボロボロと涙をこぼしながら、それを頬張っていた。
「よしよし、いい職場になってきたな」
平和な光景に満足した一郎は、宴の途中でこっそりと抜け出し、パッカー車のキャビン(キャンピングカー部分)へと戻った。
シャワーを浴びてさっぱりした一郎は、ベッドスペースに横たわり、目を閉じた。
――その直後だった。
『ガチャリ』
静かにキャビンのドアが開き、甘く、むせ返るような女の香水が漂ってきた。
「一郎さまぁ……起きていらっしゃいますか?」
暗闇の中、一郎のベッドに滑り込んできたのは、副マスターのセリアだった。
彼女が身に纏っているのは、極限まで透け透けの、黒いレースのネグリジェ一枚。豊満な胸の双丘が、はだけた胸元からこぼれ落ちそうになっている。
「セリアさん? なんでこんな時間に……」
「ふふっ……。今日は、わたくしの副マスター昇進のお祝いと、あのブラック冒険者を成敗してくださったお礼にまいりましたの。今夜は、わたくしを……一郎さまのお好きにしてよろしいですわよ……?」
セリアは熱い吐息を漏らしながら、一郎の逞しい胸板に、自らの豊かな胸をねっとりと押し当ててきた。三十歳の男盛りの肉体に、極上の柔らかさと体温がダイレクトに伝わってくる。
「おいおい、ちょっと待て……」
一郎の理性が警鐘を鳴らした、まさにその瞬間。
『バァァァンッ!!』
今度は勢いよくドアが開け放たれた。
「泥棒猫っ! 抜け駆けは許しませんっ!!」
暗闇に飛び込んできたのは、純白の特級聖女リリィだった。彼女は以前一郎から借りた『彼シャツ』を一枚だけ素肌の上に羽織り、白く滑らかな太ももを惜しげもなく剥き出しにしている。
「一郎様の第一助手の座(正妻)は、絶対に譲りません! 一郎様のお世話をするのは、この私ですぅっ!」
リリィはベッドにダイブし、一郎の反対側の腕に抱き着いた。石鹸の清らかな香りと、若い娘の瑞々しい肌の感触が、一郎の太ももに絡みつく。
「ちょっと! あなたは引っ込んでなさいな!」
「セリアさんこそ、副マスターの分際で神聖な御車に不法侵入しないでください!」
狭いベッドの上で、二人の美女が一郎を挟んでバチバチと火花を散らす。
「お、おい、お前ら! 狭い! 暴れるな!」
さらにそこへ、とどめとばかりに『ギィ……』とドアが開いた。
「な、ななな、何をしておりますの、あなたたちっ!」
顔を林檎のように真っ赤に茹で上げて立っていたのは、特任監査役のエレノアだった。
彼女が着ていたのは、いつものダサいツナギではない。王宮お抱えの職人が仕立てた、極めて際どいデザインの『紅い高級シルクの下着』である。腰骨に食い込む妖艶なレースの紐と、透き通るような白い肌が、暗闇の中でも強烈な扇情力を放っていた。
「エ、エレノアまで!? お前、その格好は……!」
「こ、これは監査ですっ! と、特任監査役として、現場監督の『夜の睡眠状況(ベッドのシェア率)』に不正がないか、わたくしが直々に、密着して調査する義務があるのですわっ!!」
めちゃくちゃな言い訳を叫びながら、エレノアまでがベッドの足元から潜り込み、一郎の足に彼女の柔らかく熱い身体を密着させてきた。
「ひゃうっ……! い、一郎様の足、すごく逞しくて、熱いですわ……っ」
「ず、ずるいですエレノアさん! 私はもっと上に行きます!」
「わたくしは胸元を独占させていただきますわ!」
「お、おい! このベッドの積載量(定員)は一人だぞ! 完全に労働安全衛生法違反だ!」
甘い香水と石鹸の匂い、そして三人の極上の美女たちの柔らかい素肌が、三十歳の完璧な肉体を持つ一郎に四方八方から押し付けられる。
「ああっ、一郎様……っ」
「一郎様、私のここ、触ってください……っ」
「わ、わたくしの監査も、激しくお願いしますわ……っ!」
最強のブルーカラーの理性が、甘く危険なフェロモンの海に沈んでいく。
王都の悪を分別処理したおっさん清掃員は、こうしてヒロインたちによる『極上の残業』という、逃れられない最高のご褒美の夜を過ごすのだった。




