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異世界ダンジョンの最強清掃員~パッカー車で転生したおっさん、ゴミをプレスし国宝錬成!悪党は分別処理して極上温泉スローライフを満喫します~  作者: トール
第一章:異世界の清掃員と、白き鋼鉄の相棒

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第002話:大いなる神託と、新規開拓現場の雇用契約

 真っ白な空間の中、芝崎一郎はあぐらをかいたまま、目の前のまばゆい女神を見上げていた。


「私の世界――『ダンジョン』を、あなたのその手で清掃してほしい、ですか」


 一郎は首に巻いた使い古しのタオルを弄りながら、その言葉を繰り返した。

 てっきり、よくあるファンタジー小説のように「魔王を倒して世界を救う勇者になってくれ」とでも言われるのかと思っていた。しかし、提示されたのはあまりにも生々しく、そして彼にとって耳馴染みのある「清掃」という単語だった。


「ええ、その通りです」


 女神は神々しい光を放ちながら、深くうなずいた。


「私の管理する異世界『テラ・アルビオン』には、星の魔力の循環を司る『ダンジョン』と呼ばれる超常の遺構が数多く存在します。ですが今、そのダンジョンたちが未曽有の危機に瀕しているのです」


「危機、ねぇ。魔物が溢れ出して街を襲うとかか?」


「いえ」

 女神は悲しげに目を伏せ、首を横に振った。

「もっと根本的で、致命的な問題……すなわち、『環境汚染』と『インフラの崩壊』です」


 女神がそっと白美な手をかざすと、何もない純白の空間に、立体的な映像が浮かび上がった。

 それは、どこか暗く、不気味な洞窟の光景だった。だが、そこに映し出されていたのは、冒険者たちが胸を躍らせるような神秘的な迷宮ではない。


 異様な悪臭がこちらまで漂ってきそうなほど、生々しく荒廃した「ゴミ溜め」だった。


「これは……」

 一郎の目が、プロのそれへと細められた。


「本来、ダンジョンというシステムは、完璧な循環環境クローズド・ループであるはずでした。ダンジョン内で発生した魔物の死骸、冒険者が持ち込んで遺棄した武器や防具、生活ゴミ……それらすべては、最深部にある『ダンジョンコア』が吸収し、純粋な魔力へと還元して大地に還す。そういう仕組みだったのです」


「なるほど。ダンジョン自体が、巨大な『全自動ごみ処理場』兼『リサイクル施設』ってわけか。よくできたシステムだな」


「ええ。しかし、数百年前に起きた大変動、そして急激な『冒険者人口の増加』によって、ダンジョンコアの処理能力は限界を迎えました。現在、多くのコアが過負荷による『機能不全システムダウン』に陥っています」


 映像が切り替わり、アップになったのは、赤黒くひび割れて弱々しく明滅する巨大な結晶――ダンジョンコアだった。その周囲には、コアに吸収されず、拒絶されるようにして積み上がった凄まじい量の廃棄物が映し出されている。


「コアが廃棄物を拒絶した結果、ダンジョン内には魔物の腐乱死体や不法投棄された物資が山積みとなりました。腐敗した肉からは致死性の『瘴気』が立ち込め、それを苗床にして恐るべきアンデッドや変異種の魔物が無限に発生しています。今やダンジョンは、生態系が完全に崩壊した『有毒な産業廃棄物処分場』と化しているのです」


「……あー。そりゃひどいな」


 一郎は深くため息をついた。

 彼が日常的に経験している、マナーの悪い住民によるゴミステーションの崩壊。あれの規模を数千倍、数万倍にして、さらに有毒ガスと動く死体のおまけをつけたようなものだ。

 想像しただけで、凄まじい頭痛がしてくる現場だった。


「これまでは、名だたる勇者や高位の冒険者たちを送り込んできました。ですが……」

 女神は苦渋に満ちた表情で肩を落とした。


「彼らはただ、力任せに魔物を倒し、剣を振り回して壁を崩すだけ。倒された魔物の巨大な死骸はそのまま放置され、壊れた装備品はダンジョン内に捨てられます。彼らが戦えば戦うほど、ダンジョンの中は『ゴミ』が増え、環境破壊は加速していきました。彼らには、インフラを維持するという意識モラルが決定的に欠けていたのです」


「まあ、戦うのが仕事の奴らに、後片付けの美徳を求めちゃ酷だな。あいつらは壊すプロであって、片付けるプロじゃねぇ」


「その通りなのです! 私が本当に求めていたのは、敵を蹂躙する圧倒的な武力ではありません。地道に、確実に、安全に『現場』を管理し、ゴミを分別し、インフラを維持し続けることができる――本物の、プロの廃棄物処理業者だったのです!」


 女神は一歩、また一歩と一郎に寄り、熱のこもった瞳で彼を見つめた。


「芝崎一郎。あなたは猛暑の中、過酷な労働を何十年も黙々と続け、街の美化と平穏を支えてきました。そして最期には、ルール違反の不法投棄による爆発事故の中、自らの命を顧みず、冷静に後輩の命を救い上げた。その強靭な精神、現場での高い状況判断力、そして何より『ゴミとインフラに対する誠実さ』こそが、私の世界を救う唯一の鍵なのです」


 長い説明を終え、女神はすがるような表情で胸元に手を当てた。


「どうか、私の世界の掃除を引き受けてはいただけないでしょうか。あなたには、そのための特別な『力』と、あなたの『相棒』を授けます」


 沈黙が、白亜の空間に流れた。


 普通の男なら、あるいは物語の主人公となるような若者なら、ここで「俺が世界を救ってやる!」と胸を張るか、あるいは「自分にそんな大役は……」と謙遜する場面だろう。


 だが、一郎は違った。

 彼は47年の人生を、地に足をつけて泥臭く生きてきた、生粋のブルーカラーだ。

 感情論や正義感だけで、未経験の現場に飛び込むほど青くはなかった。


 一郎は首のタオルをきゅっと締め直すと、懐から(死んで魂だけになっているはずなのに、なぜかそこにあった)愛用の胸ポケットのメモ帳とボールペンを取り出した。


「お言葉ですが、女神様。まずはいくつか、現実的な『労働条件』を確認させてください」


「……え? ろ、労働条件、ですか?」

 女神は拍子抜けしたように、パチパチと大きな瞳をまばたかせた。


「ええ。どんな現場であれ、仕事を引き受ける以上、事前の確認は基本です。後から『こんなはずじゃなかった』じゃ、お互い不幸になりますからね」


 一郎はペン先をカチリと押し込み、メモ帳に「テラ・アルビオン派遣業務」と書き留めた。


「まず第一に。雇用主クライアントは、あなたということでよろしいですか? つまり、俺はあなたの直接雇用、あるいは専属の委託業者という形になるのか」


「は、はい……! 私の神託のもとで動いていただく形になりますので、実質的なクライアントは私、ということになります」


「了解。では、次に『給与』について。神様相手にお金の話をするのも野暮かもしれませんが、ただ働き(ボランティア)で命を張る趣味はありません。現地での活動資金や生活費、資材の購入費はどうなるんですか? 『世界の危機』だからって、残業代ゼロのブラック労働を強いるつもりなら、その場でお断りします」


「も、もちろんです! 給与、と言いますか……ダンジョン内の廃棄物を処理・浄化する過程で、あなたは膨大な『魔石』や『高純度の希少金属』を手に入れることができます。これらは現地のギルドや国で、国家予算並みの高額で取引されるものです。つまり、あなたが働けば働くほど、回収した資源そのものがあなたの純利益となります」


「ほう……なるほど、資源回収の直販権ダイレクトセールスをくれるわけか。中間マージンを抜かれないなら、粗利率は相当高いな」


 一郎は顎を撫でながら、手元のメモに『報酬:完全出来高制(資源回収による100%利益還元)』と記入した。


「よし、それはいい。では、最重要事項だ。『安全管理(労災)』と『医療保障』について。現場は有毒ガスが立ち込め、ゾンビやバケモノがうろつく超危険エリアだ。万が一、作業中に俺がケガをしたり、あるいは不慮の事故で……いや、今回は本当に死ぬかもしれない。その場合の補償(労災保険)はどうなってるんですか?」


(な、なんて現実的で……理にかなった条件提示! これまで召喚してきた勇者たちは、聖剣一本と名誉だけで無給で戦ってくれたのに、この方は世界の危機を完全に『ビジネスと労働』として捉えている……! これが、本物のプロの精神……!)


「そ、それについては、私が全力でバックアップします! あなたには、あらゆる毒や病、瘴気を無効化する『神聖なる加護』を付与します。また、現地でサポート役や、あなたのケガを癒やすことのできる優秀な人材ヒーラーと巡り合えるよう、運命の糸を調整しましょう。万が一、肉体が損壊するような致命傷を負っても、ダンジョン内であれば、私の力で一度だけ『全回復リザレクション』させるセーフティ機能も用意します!」


「なるほど、実質的な健康保険と、死亡時の特別保険(リトライ権)付きか。現場監督としては、かなり手厚い補償内容だな」


 一郎はペンを走らせる。


「最後に、道具について。手ぶらでダンジョンのゴミ掃除なんて、それこそ自殺行為だ。さっき『相棒』を授けると言っていたが、俺が使い慣れたパッカー車と同等、いや、それ以上の性能を持つ機材は支給してくれるんでしょうね?」


 その問いに対し、女神は誇らしげに微笑み、大きくうなずいた。


「もちろんです。あなたと共に爆発した、あの『プレス式パッカー車』。あなたの魂と共に私の領域へ流れ着いたあの鉄の車両に、私の神聖魔術を惜しみなく注ぎ込みました。物理的な装甲の強化、異次元収納アイテムボックスの搭載、呪いや穢れを圧縮・浄化するプレス機能、そして資材を分析・抽出するシステム……。それは、この宇宙で唯一無二の『対ダンジョン専用環境浄化重機』として新生しています」


「……うちのパッカー車が、か」


 一郎の脳裏に、長年共に走り、嫌な顔一つせず動いてくれた、あの白き鋼鉄の相棒の姿が浮かんだ。

 あいつが、神の技術でアップグレードされて、また一緒に働ける。

 そう思った瞬間、一郎の胸の奥に、かつてない熱いものが込み上げてきた。


「よし」


 一郎はメモ帳をパチンと閉じ、胸ポケットに差し込んだ。そして、ゆっくりと立ち上がる。

 47歳、くたびれたおっさんの顔には、もう迷いも戸惑いもなかった。あるのは、新しい「現場」を前にした、熟練の職人だけが持つ、静かで強固な覚悟だった。


「条件はすべて了解した。女神様、その新規現場(異世界ダンジョン)、俺が引き受けましょう」


「受けて、いただけますか……!」


「ああ。どんなゴミ屋敷だろうが、どんな汚いドブだろうが、片付かない現場はねえ。それが俺たちプロの仕事だ。……「まずは、その『アップグレードされた相棒』とやらを拝ませてもらおうか」


「はい! あなたの行く道に、大地の祝福と、清浄なる風の加護がありますように!」


 芝崎一郎の、異世界での「ファースト・シフト(最初の勤務)」が、今、幕を開ける。



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