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異世界ダンジョンの最強清掃員~パッカー車で転生したおっさん、ゴミをプレスし国宝錬成!悪党は分別処理して極上温泉スローライフを満喫します~  作者: トール
第四章:最下層(未踏の地)の大規模修繕工事

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第016話:過酷な深層ルート開拓と、一郎の「気づき」

 


 1.未踏の地は「冒険」ではなく「道路工事」


 ダンジョン中層の最奥。冒険者たちが絶対に立ち入らない進入禁止区域の巨大な石扉を粉砕し、白銀のパッカー車は未踏の最下層への縦穴へと突入した。


 強固な神聖装甲と極大の魔力障壁に守られた車内は、どれほどの衝撃を受けても揺れを最小限に抑え込み、ミントの香りのするエアコンが快適な空間を維持している。

 しかし、ヘッドライトが照らし出した最下層への道のりは、ファンタジーのロマンに溢れた神秘的な迷宮などでは決してなかった。


「……こりゃあ、ひでぇな。道幅なんてあったもんじゃねぇ」

 運転席でステアリングを握る芝崎一郎は、目の前に広がる惨状に深い舌打ちを漏らした。

 急勾配の下り坂となっているそのルートは、何百年分もの「巨大な廃棄物」と、地殻変動による「崩落した岩盤」とが複雑に絡み合い、物理的に完全に塞がっていた。


 城の城壁の残骸、超大型魔獣の白骨、無数の壊れた攻城兵器。それらが瘴気と自重で圧縮され、何層にも重なった巨大な「ゴミの地層」を形成している。ダンジョンのコアが処理を拒絶し続けた結果、未踏の地は、もはや巨大な産業廃棄物の地層と化していたのだ。


「い、一郎様……! 前方が完全に塞がっています! どう見ても車が通れるような隙間はありません!」

 助手席で『特級聖女の法衣』の胸元を握りしめ、リリィが悲鳴を上げる。

 魔法の罠や、強力な魔物が待ち受けているのであれば、聖女の結界や魔法で対処できるかもしれない。しかし、目の前にあるのは数千トンに及ぶ純粋な「物理的障害」だ。


 だが、一郎の表情には焦りなど微塵もなかった。

「道がねぇなら、作ればいい。土木と清掃の基本だ」

 一郎はパッカー車のギアを入れ直し、『超油圧プレスブースト』の出力を足回りに直結させた。

「しっかり掴まってろよ、リリィ。こっからは道路工事(ルート開拓)の時間だ!」


『――ドゴォォォォォォンッ!!!』

 マルチハイブリッドエンジンが咆哮を上げる。パッカー車は、フロントに備えられた頑強な合金製バンパーを、巨大な瓦礫の山に真っ向から叩きつけた。

「突破するだけじゃ後で通れなくなる。砕いて、ならすぞ!」

 一郎の巧みなレバー操作により、パッカー車の底部から魔法的な排土板ブレードが展開される。巨大な岩石や魔獣の骨を粉砕し、それをそのままタイヤの下に敷き詰めて路盤材とし、即席の「舗装道路」を形成しながら、強引に前進していく。


 通常の冒険者であれば、何ヶ月もかけて爆破や採掘を行うべき崩落箇所を、一郎は圧倒的な重機の質量と、長年の現場で培われた「土木・清掃のロジック」を用いて、凄まじい速度で切り拓いていった。



 2.圧倒的な重労働と「補助ツール」としてのバール


 しかし、最下層へ近づくにつれ、障害物の規模はさらに常軌を逸し始めた。

「チッ、こりゃデカすぎるな」

 前方を塞いでいたのは、崩落した岩盤と、超硬度の魔鉄の塊が完全に癒着した、直径十メートルはあろうかという超巨大な障害物だった。パッカー車のバンパーで無理に押せば、周りの岩盤ごと崩落し、生き埋めになりかねない。


「車内からのプレスじゃ無理だ。手動でウインチをかけるぞ」

 一郎はパッカー車を停止させると、ドアを開けて外へ飛び出した。

 濃密な瘴気が渦巻く中だが、パッカー車の『有毒瘴気吸引フィルター』が常時稼働しているため、周囲の空気は清涼に保たれている。


 一郎は腰のベルトから、神器『解体用聖杖(長さ60cmの炭素鋼製バール)』を引き抜いた。

 しかし、今回はバールで岩を打ち砕くことはしない。

「バールはあくまで補助だ。本命はこっちだぞ!」

 第一章の戦闘での経験から、一郎はバールを「装甲の隙間をこじ開ける」ためのツールとして割り切っていた。岩と鉄の塊のわずかな隙間にバールのフックをねじ込み、テコの原理で限界まで力を込める。


「グッ……オラァッ!!」

 メキィッ! という音と共に、巨大な塊にわずかなクラック(亀裂)が入る。

 一郎はその隙間を逃さず、パッカー車のフロントから引き出した、直径十センチはある極太の牽引ワイヤーを担ぎ上げた。

 数百キロはあるはずの強固な魔導ワイヤーと固定用のアタッチメント。それを一郎は、まるで軽いロープでも扱うかのように一人でヒョイと肩に担ぎ、崩落した岩盤の亀裂へと駆け上がり、瞬く間にワイヤーを幾重にも巻き付けて固定した。


「よし、セッティング完了だ! 相棒、巻き上げろ!」

 一郎がパッカー車の外部パネルを操作すると、強烈なウインチの力と『超油圧プレスブースト』の動力が連動し、直径十メートルの巨大な障害物が、メリメリと音を立てて引き剥がされ、谷底へと投棄されていく。


 その信じられない光景を、リリィは助手席から息を呑んで見つめていた。

(あ、あり得ません……! 数百キロの魔導ワイヤーとアタッチメントを、たった一人で、しかもあんな足場の悪い岩山を駆け上がりながら、一瞬で換装してしまうなんて……! 一郎様の御力は、重機をも凌駕しているのでは……!?)

 リリィの瞳に、畏敬の念がさらに深まる。



 3.ルームミラーの真実と、消えた腰痛


 巨大な障害物を撤去し、再び運転席に戻った一郎は、ふうと短く息を吐いた。

 そして、ふと、自身の身体に「明確な違和感」を覚えた。


「……おかしいな」

 一郎は、自分のゴツゴツとした手のひらをじっと見つめた。

 王都を出発してから、すでに何時間も過酷なルート開拓を続けている。未舗装の悪路を重機で強引に進むための超絶G(挙動)に耐え、数百キロの機材を担いで車外作業を行い、重いレバーを高速で操作し続けているのだ。

 前世の47歳当時の自分であれば、とっくに腰が爆発し、肩で息をして、全身の筋肉が悲鳴を上げているはずの運動量である。


 だが、どうだ。

 息一つ上がっていない。腰の痛みなど微塵もない。それどころか、徹夜同然の過酷な労働をしているというのに、体の底から無限に力が湧き上がってくるような万能感すらある。

「いくらパッカー車のシートが快適だからって、オッサンの体がこんなに軽いのは変だぞ。それに、さっきワイヤーを担いだ時も、あんなに軽くはなかったはずだ」


 不審に思った一郎は、パッカー車のルームミラーの角度を調整し、自分の顔をまじまじと覗き込んだ。

「…………は?」


 そこに映っていたのは、白髪交じりの無精髭を生やした、疲れた47歳のオッサンの顔ではなかった。

 肌にはツヤがあり、シワの一つもない。精悍な顎のラインと、引き締まった筋肉質な首元。

 それは間違いなく、自身の人生の中で最も体が動き、最も体力に満ち溢れていた「30歳の頃の屈強な男盛り」の自分の顔だったのだ。


 一郎は自身の顔をペタペタと触り、何度も瞬きをした。

「……あのポンコツ女神。俺にパッカー車を渡すついでに、俺の体まで一番無理がきく年齢(新品)にオーバーホールしてやがったな?」

 転移の直前、女神が「せっかくですから肉体も一番動く30歳の頃に戻しておきましたからね!」と言い忘れていたことに、ここに来てようやく気付いたのである。


 自分が異常な膂力を発揮し、何トンものアタッチメントを軽々と換装できていた理由。そして、強烈なGに耐えられた理由。それは、神の加護を受けたパッカー車の性能だけでなく、自身の肉体が「30歳の最強の労働用ボディ」に最適化されていたからだ。



 4.最高の福利厚生と、深淵の底へ


 若返りと能力の向上を認知した一郎。

 普通のファンタジー小説の主人公であれば、「俺TUEEE! これなら魔王でも片手で倒せるぜ!」と歓喜し、バールで無双しようと考えるだろう。

 しかし、47歳の精神を持つブルーカラーのプロ・芝崎一郎の思考回路は、全く異なる方向へと向かった。


「……はっはっはっ! やりやがるぜ、あの女神!」

 一郎はステアリングをバンバンと叩き、歓喜の笑い声を上げた。

「俺一人でバールを振り回して魔物を倒すための力じゃねぇ。俺がこのパッカー車の過酷な挙動に耐え、何トンもある重機のアタッチメントを現場で一人で素早く換装できるように、最高の体力と肉体を支給してくれたんだな!」

 一郎にとって、自身の異常な身体能力は、あくまで「パッカー車(重機)の性能を100%引き出すためのオプションパーツ」に過ぎなかった。


「腰痛がねぇ。徹夜しても疲れねぇ。重い機材も一人で運べる。……おいおい、これならもっと効率よく、何日でもぶっ通しで残業(作業)できるじゃねぇか! 最高の労働環境(福利厚生)だぜ!」

 自身の若返りを、「労働時間の延長」と「作業効率の向上」としてポジティブすぎる解釈で受け入れる一郎。


 その様子を見ていた助手席のリリィは、またしても凄まじい勘違いを爆発させていた。

「(ああ……! ついに大賢者様が、この深淵の瘴気に打ち克つため、あえて自らに課していた『老いの封印』を解き放ち、全盛期の神々しい御姿を取り戻されたのですね……!)」

 リリィは両手を組み合わせ、恍惚とした表情で一郎の精悍な横顔を見つめる。

「一郎様……! 封印を解かれたそのお姿、あまりにも凛々しく、そして逞しくて……私、胸の鼓動が止まりません……っ!」

「おう、リリィ! 俺、今めちゃくちゃ調子がいいぞ。このままのペースでいけば、あっという間に最下層の底まで片付くぜ!」


 身体の謎が解け、最高の体調を自覚した一郎のモチベーションは最高潮に達していた。

「よし、行くぞ相棒! 残業代(魔石)は稼ぎ放題だ! 最下層のゴミども、覚悟しやがれ!」


『ドゴォォォォォォンッ!!!』

 白銀のパッカー車が、歓喜の咆哮を上げる。

 一郎の異常な膂力による素早い土木作業と、パッカー車の圧倒的な重機ギミック。二つの力が完全に噛み合った無敵の『清掃コンビ』は、崩落した岩盤を蹴散らし、巨大な廃棄物をプレスしながら、かつて誰も足を踏み入れたことのない最下層の奥深く――悲鳴を上げるダンジョンコアの元へと、猛烈なスピードで突き進んでいった。





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