第014話:悪徳の分別処理(プレス)と、大賢者の残業代請求
1.定時退社を阻むゴミの処理
午後4時55分。
マイホームの建設現場を囲う仮設の木門を蹴破って現れた、ガルシア商会の荒くれ者たちと、異端審問局の兵士たち。
彼らが放つ暴力と権力の気配に、保護された子供たちは怯え、ドワーフたちも息を呑んだ。
だが、現場監督である芝崎一郎の圧倒的な覇気と、冷たい声がその場を完全に支配する。
「残業代は請求させてもらうぞ」
「やっちまえ! そいつを殺して、ガキと女を捕らえろ!」
幹部の号令とともに、数十人の武装した男たちが一斉に襲いかかってきた。鋭い剣、無骨な槍、そして魔法の炎が、無防備に見える作業服のおっさんへと殺到する。
一郎は大きくため息をついた。
「こんな数のゴミをいちいち手で拾ってたら、完全に定時を過ぎちまう。まとめて『洗浄』だ」
一郎はバールを振るうのではなく、傍らに控える白銀のパッカー車へと駆け寄った。側面ハッチを素早く開き、先日解放されたばかりの『高圧温水スプレー洗車機(ピュリファイウォーター仕様)』のノズルを引き出す。
「現場の汚れは、水で洗い流すのが基本だぞ!」
一郎がトリガーを引くと、『――キィィィン、シャァァァァァッ!!!』という甲高い駆動音と共に、神聖な光を帯びた超高圧の温水が荒くれ者たちに向けて大噴射された。
「なっ、なんだこの水は!?」
「ぎゃあっ! 熱っ、いや、熱くない……力が抜けるぅぅっ!?」
最高位の対不死者特効呪文であり、不浄を徹底的に洗い流す極限の浄化水。それが毎分数十リットルという暴力的な湯量でぶちまけられたのだ。男たちが纏っていた邪悪な魔法や、武具に込められた呪い、さらには彼ら自身の悪意すらもが、水に触れた瞬間にジュワァァッと白煙を上げて完全に「洗い流されて」いく。
呪いを失った鎧や剣はボロボロと崩れ落ち、男たちは戦意を完全に喪失し、下着一丁の無様な姿で次々と地面に突っ伏した。
「よし、大まかな分別完了だな」
一郎は洗車ガンのホースを巻き取ると、一旦腰に差していた愛用の『解体用聖杖』を手に取り、地面に散らばった壊れた武具(不燃ゴミ)をフックで引っ掛け、手際よくパッカー車のホッパーへと放り込んでいった。
「ひっ……ば、化け物……!」
腰を抜かしている幹部と隊長を、一郎はバールで襟首を引っ掛けて持ち上げた。
「お前らのボスのところに案内しろ。不法投棄のクレームと、今日の残業代の請求に行かなきゃならねぇからな」
一郎は震える男たちをパッカー車のホッパー(一時保留域)へと乱暴に放り込み、そのまま王都の中心部へと車を走らせた。
2.二大悪役の祝杯と、白銀の乱入
その頃、王都の中心部にあるガルシア商会の豪奢な執務室。
商会主のガルシアと、次期教皇を狙うザルバ大司教は、最高級のワイングラスを傾けながら下劣な笑い声を上げていた。
「今頃、あの生意気な清掃員は死体となり、あの小娘は異端審問の地下牢で泣き叫んでいることでしょうな」
「すべては我らの筋書き通り。あの呪われた館の地下に隠した裏帳簿と禁断の魔導具さえ回収すれば、我が権力基盤は盤石となる」
二人が高笑いを上げた、まさにその時だった。
『ピーーー、ピーーー、ピーーー……』
窓の外から、妙に規則正しい、しかし地鳴りのような重低音が近づいてくる。
「ん? なんだこの音は……?」
ガルシアが窓際に歩み寄ろうとした瞬間。
――ドガァァァァァァンッ!!!
商会の堅牢な石壁が、まるで飴細工のように砕けて吹き飛び、執務室の中に巨大な白銀の鉄獣――パッカー車が乱入してきた。
「な、なんだぁっ!?」
粉塵が舞う中、パッカー車のホッパーが逆回転し、ドサドサと下着姿の幹部と隊長が吐き出され、ガルシアたちの足元に転がった。
運転席のドアが開き、蒼い作業服を着た男が悠然と降り立つ。
「テメェらが、この街の不法投棄と悪徳ビジネスの元凶か」
3.重機による『分別処理』
「おのれ、下賤なゴミ掃除風情が! 私は次期教皇たるザルバ大司教だぞ! 神の裁きを受けよ!」
ザルバは狂乱し、手にした宝杖から最高位の攻撃魔法『業火の神罰』を放った。
執務室を焼き尽くさんばかりの灼熱の炎が一郎とパッカー車を包み込む。
だが、一郎は慌てることなくパッカー車のコントロールパネルを操作した。
「ルール違反の焼却炉外での火気使用は禁止だ。『有毒瘴気吸引フィルター』最大出力!」
パッカー車上部の吸気口が猛烈な勢いで回転し始める。パッカー車のシステムが、ザルバの放った極大の炎を『高濃度の魔力燃焼ガス(有毒)』と自動判定したのだ。
すると、ザルバが放った極大の炎は、まるで換気扇に吸い込まれる煙のように、一瞬にして強力なフィルターへと吸い込まれてしまった。そして次の瞬間、排気口からはぽかぽかと温かいミントの香りの風が吹き出すだけだった。
「なっ!? 私の極大魔法が、排気フィルターに吸い込まれただと……!?」
「く、くそっ! ならばこれでどうだ!」
ガルシアは隠し持っていた古代の呪術具を懐から取り出し、床に叩きつけた。ドス黒い瘴気が渦を巻き、瓦礫や商会の調度品を取り込んで、全長十数メートルにも及ぶ異形の『闇のゴーレム』が顕現した。
「おおっ! 殺せ、その男をすり潰せ!」
重機のような巨体を誇るゴーレムが、パッカー車に襲いかかる。重機でなければ解決できないスケールの課題だ。
「デカい粗大ゴミが出たな。よし、パッカー車の出番だ」
一郎は素早く運転席に乗り込むと、アクセルを深く踏み込んだ。
『ドゴォォォォォォ!』
神聖魔力エンジンが咆哮を上げ、パッカー車が強固な白銀のフロントバンパーで闇のゴーレムに正面衝突する。
ズガァァァン! という轟音とともにゴーレムの巨体が後ずさりするが、呪術具を核とした装甲は異常に硬い。
「少しばかり殻が厚いな。なら、ちょっと手伝ってやる」
一郎は運転席から飛び降り、手にしたバールをゴーレムの装甲の継ぎ目へと正確に突き立てた。テコの原理でグイッとこじ開け、強固な装甲に「隙間」を作る。
「今だ!」
一郎は瞬時に運転席へと飛び乗ると、
「バールはあくまで補助だ。本命はこっちだぞ!」
と叫び、装甲が剥がれて剥き出しになったゴーレムの核に向かって、一郎はパッカー車をバックさせ、ホッパー(投入口)を密着させた。
「超油圧プレスブースト、起動!」
ホッパーの回転板が、隙間をこじ開けられたゴーレムの巨体を強引に噛み込み、荷箱の奥へと引きずり込んでいく。
『――メキメキ、バキバキバキバキッ!!!』
数百トンに達する『異次元の油圧エネルギー』が、巨大な闇のゴーレムを呪術具の核ごと一瞬で粉砕し、無害な鉄屑へと圧縮してしまった。
圧倒的な重機の力と、それを手足のように操る清掃員の姿に、ガルシアとザルバは完全に絶望し、腰を抜かして震えた。
「離せ! わ、私を誰だと思っている! 教会の権力と、商会の全財産をくれてやる! だから命だけは……!」
「悪いが、俺は金や権力より『ホワイトな労働環境』が好きなんだよ。お前らみたいな特大の産業廃棄物がいると、現場の空気が汚れるんだわ」
一郎はバールで二人の豪華な衣服を引っ掛けると、そのままパッカー車後部のホッパーへと放り込んだ。
「ま、待て! やめろぉぉぉっ!」
一郎はコントロールパネルの赤いボタンを強く押し込んだ。
『次元圧殺結界』、起動。
『ブゥゥゥン! ギギギギギギ!』
白銀のプレス板が、ホッパーの中の二人に迫る。
パッカー車に初期から備わっている『因果の峻別』機能と『超油圧プレスブースト』が合わさることで、極悪人に対してその真価を発揮する。
数十トンの油圧と神聖な魔力が迫る。だが、パッカー車に備わった『生命体保護センサー(安全装置)』が作動し、人間そのものはプレス対象外として弾かれた。代わりに『因果の峻別』が、彼らが身に纏っていた『権力の象徴である豪奢な衣服』『不正に蓄えた魔力』『呪いのアイテム』、そして懐に隠し持っていた『極秘の密約書』だけを物理的・魔術的に引き剥がし、極限まで圧縮していく。
『プシャァァァァッ!』
エアブレーキの音と共に、後部の排出口から「カラン」と透き通った特大の魔石と、圧縮された書類の束が吐き出された。
そして、ホッパーのハッチが開き、二人の男が地面に転がり落ちた。命はあるが、身ぐるみ剥がされた下着姿となり、これまで培ってきた絶大な魔力も権力もすべてを奪い取られ、完全に心が折れた廃人と化している。
「よっしゃ。不正の証拠と呪物の回収、完了だ。今日の残業代は、こいつらの資産からキッチリ払ってもらおう」
圧倒的な重機(パッカー車)の暴力と機能により、王都の裏社会を牛耳っていた二大巨悪は完璧に「清掃」されたのだった。
4.残業の終わりと、極上のご褒美へ
一郎がパッカー車に乗ってマイホームの建設現場に戻ってきた時、時計の針は18時00分を指していた。
「悪い悪い、1時間残業になっちまったな」
一郎がキャビンから降りると、心配して待っていたリリィとセリアが「一郎様!」と泣きそうな顔で駆け寄ってきた。
「不法投棄と嫌がらせの元凶は、パッカー車で分別処理して憲兵に突き出してきた。これで、明日からは邪魔者なしの完全に定時退社だ」
あっけらかんと言う一郎の言葉に、二人のヒロインは再び雷に打たれたような衝撃を受けた。
「(王都の闇を牛耳る二大巨悪を、重機の力で完全に滅ぼしてしまわれるなんて……! ああ、大賢者様の圧倒的な浄化の御力、一生ついていきます!)」
リリィは感極まって、一郎の右腕にギュッと抱き着いた。
「(商会と大司教をまとめて潰した!? この方の権力と暴力は文字通り底知らずだわ! 絶対に、絶対に私のモノにしてみせる!)」
セリアも負けじと、一郎の左腕に豊満な胸を力強く押し付けた。
「おいおい、暑苦しいぞお前ら。……ドワーフの親方! ガキども! 危険は去った、仕事終わりだ!」
一郎が声を張り上げると、現場にいた全員から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。巨悪は滅び、ホワイトな労働環境は完全に守られたのだ。
「さあ、今日はもう上がりだ! セリアさんが用意してくれた『翠明閣』に行くぞ。残業でかいた汗と埃を、でっかい風呂で綺麗さっぱり洗い流そうぜ!」
最強のパッカー車と、最高のお仕事仲間たち。芝崎一郎の異世界スローライフは、今日も完璧な定時退社と極上のご褒美に向けて、最高の輝きを放っているのだった。




