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異世界ダンジョンの最強清掃員~パッカー車で転生したおっさん、ゴミをプレスし国宝錬成!悪党は分別処理して極上温泉スローライフを満喫します~  作者: トール
第三章:規格外のマイホーム建設と、定時退社を阻む黒い影

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第011話:設備投資の快感と、高圧洗浄の神聖儀式

 


 1.粗大ゴミ解体の極意


「――オラァッ!!」


 薄暗いダンジョン中層に、ギィィィンッ! という甲高い金属音が響き渡った。全長五メートルを超える金属の巨躯――中層の主たる変異種「アイアン・ゴーレムの廃棄体スクラップ・ロード」の胸部の装甲の継ぎ目に、一郎の振るったバールのフックが深々と食い込んでいる。そこからテコの原理で強引に装甲をこじ開けられると、何百年も癒着していた強固な結合がメキメキと歪み、ひび割れていった。


「……ギ、ギギ、ギギギガガガ……ッ!?」


 ゴーレムの全身を構成していた錆びた大剣や鉄盾が、その結合を維持できずにパラパラと剥がれ落ちていく。動力源である魔力核に強烈な打撃圧が通り抜け、スクラップ・ロードは断末魔の軋み声を上げて、その場にどうっと崩れ落ちた。


「ふぅ……。やっぱり、このバールは手馴染みがいいな。重心のバランスが完璧だぜ」


 一郎は額に浮かんだ汗を、蒼い作業服の袖でぐっと拭い、満足げに微笑んだ。


 その背後で、へたり込んだまま一部始終を目撃していたリリィは、信じられないものを見る目で硬直していた。


「(な、ななな……なんという破邪の極大打撃……! 軍隊を動員してなお、数日間の包囲戦の末にようやく討ち果たせるかどうかという中層の主を……ただの『鉄の棒』による素振り一発で沈黙させるだなんて……!)」


 リリィの丸いヘーゼル色の瞳は完全に潤み、恐怖を通り越した圧倒的な崇拝の熱が、その小さな胸の中で爆発していた。


「い、一郎様……! いまの神速の一撃(刺突)は、もしや万物の結合を瞬時に見切り、対象の分子構造を解体する、伝説の超上位物理障壁貫通術『崩界アース・クエイク』っ!?」


「あ? アースなんとか? いや、ただの『粗大ゴミ解体』のスナップだよ。ほら、金属の結合部ってのはな、錆びて固まってることが多いだろ? そこをめがけて、テコの原理で一点に力を集中させて引っぱたくんだ。ちょっとコツを掴めば、誰でも簡単にバラせるようになるさ」


「テ、テコの原理……! それはすなわち、万物の天秤を操り、極小の支点から無限の斥力を生み出すという、失われた古代魔導の幾何学ジオメトリ……! それを『誰でも簡単に』だなんて……。ああ、大賢者様の深淵なるお仕事論は、なんと底が知れないのでしょう……っ!」


 リリィは感極まって頭からプスプスと湯気を出している。


 そんな助手の凄まじい「認知の歪み」など意に介さず、一郎はスクラップ・ロードの巨躯を見上げ、プロの厳しい目つきで顎を撫でた。


「よし、リリィ。見ての通り、このデカブツはそのままじゃパッカー車のホッパー(投入口)に入らねぇ。こういう時は、現場で『分別と解体』を同時に行うのが基本だ。手早くバラしていくぞ」


「は、はいっ! この不浄なる巨人の肉体を、因果の最小単位へと『分別解体デコンストラクション』するのですね! 私、しっかりとこの目に焼き付けます!」


「大げさだな。まあ、見てな」


 一郎はバールを両手で構え直すと、巨体の隙間に差し込み、グイッと体重をかけた。


 ガキィィィン! と心地よい金属音が響き、頑強な魔鉄のボルトが軽々と弾け飛ぶ。さらに、ひしゃげた装甲の隙間にバールのフックを引っ掛け、力任せに引き裂いていく。


 物理的な筋肉美。三十歳に若返ったその肉体は、無駄な贅肉が一切なく、バールを操るたびに作業服の背中がはち切れんばかりに躍動していた。はだけた襟元から覗く鎖骨には、ダンジョンの微光を反射して汗の滴がきらめいている。


「(はわわわわ……っ! 一郎様の、お仕事中の御姿、あまりにも逞しくて、その……男の色気というものが、全身からあふれ出ておられます……っ!)」


 リリィは、一郎の鍛え上げられた筋肉の動きに、なかばトランス状態に陥りながら、顔を真っ赤にして熱い視線を送り続けていた。


「よし、これで大体、ホッパーに入るサイズに分解できたな。リリィ、そっちの鉄屑をパッカー車の後ろに運んでくれ。安全第一でいくぞ」


「は、はいっ! 一郎様! この『聖なる供物ゴミ』、喜んでお運びします!」


 2.想定外のトリプル・アンロック


 パッカー車後部のホッパーに、バラバラになったスクラップ・ロードの骸が、次々と放り込まれていく。


『ピーーー、ピーーー、ピーーー……』


 パッカー車がセンサー音を響かせ、投入された廃棄物の質量を自動で計測し始める。


 その時、一郎の前に、淡いブルーの『ステータス画面』がポップアップし、激しい警告音アラートを鳴らした。


『――ピピピピピピッ! 警告!』


一時保留域ホッパーに、安全基準値、および硬度上限を大幅に超える金属系極大廃棄物を検知。通常プレスを一時保留します】


【特殊実績感知:ダンジョン中層ボス級廃棄物『アイアン・ゴーレムの廃棄体』の初回収・処分プロセスを開始しました】


【システム:特殊条件の早期達成により、未解放機能『超油圧プレスブースト』を試験的にアクティブ化します。承認しますか? [YES] / [NO]】


「おっ、なるほどな」


 一郎の口角が不敵に吊り上がった。


「こういうデカい不燃ゴミや固い廃棄物を処理するための、専用のブースター機能があるってわけか。現場の重機に、ターボスイッチがついてるようなもんだ。当然、[YES]だ!」


 一郎が画面の[YES]を強くタップした瞬間、白銀の車体が『ズゴゴゴゴ……』と地響きのような重低音を立てて激しく震え始めた。


 荷箱の左右にある魔力シリンダーが、まばゆい黄金の光を放ちながら膨張していく。


「よし、分別回収完了! これより、特殊油圧プレスを開始する!」


 コントロールパネルの赤いボタンを、一郎が力強く押し込んだ。


 ――『ドゴォォォォォォンッ!!!』


 ホッパーの奥から、普段とは比較にならない速度と質量で、白銀のプレス板が動き出した。


『超油圧プレスブースト』の起動である。


「ギ、ギギギ……ッ!? ガガガガガッ!!!」


 ホッパーの中で、バラバラにされたはずのスクラップ・ロードの超硬度装甲が、最後の抵抗とばかりに火花を散らした。しかし、神聖なる魔力で極限まで強化されたシリンダーの、数百トンに達する『異次元の油圧エネルギー』の前には、そんな抵抗など無駄でしかなかった。


 ――『メキメキ、バキバキバキバキッ!!!』


 凄まじい金属の断末魔が響き渡る。


 魔鉄の鎧も、呪縛の盾も、一瞬にして平らな「鉄板」へと押し潰され、荷箱の奥へと豪快に引きずり込まれていく。


『プシャァァァァッ!』


 心地よいエアブレーキの音が響き、排気口からミントの香りの清風が吹き抜けた。


 同時に、一郎の視界のステータス画面に、怒涛のシステムメッセージが流れ込んできた。


【システムメッセージ:処理完了】

【回収量:4,200kg(金属系粗大不燃ゴミ)】

【無害化効率:100%】

【リソース峻別結果:超高純度魔石(特大)×5、エルフの伝説級ミスリルインゴット×10】

【実績累計:5,050kg / 1,000kg】

【祝・累計回収実績「5トン」を突破しました!】


【仕事の実績に応じ、以下の機能が正式アンロックされました】


『有毒瘴気吸引フィルター』(必要実績:1トン)


 機能:周囲の有毒ガスや瘴気を強力吸引し、完全無害化された清涼な空気へと一瞬で変換する常時展開型フィルター。


『高圧温水スプレー洗車機(対不死者特効呪文:ピュリファイウォーター仕様)』(必要実績:5トン)


 機能:車両を常にクリーンに保つための高圧洗浄機。噴射される水は神聖なる浄化水であり、車両の汚れを落とすと同時に、周囲の邪悪を完全消滅させる。


『超油圧プレスブースト』(実績:ボス級廃棄物処理1体)


 機能:硬度・質量の極めて高い粗大廃棄物を一瞬で圧殺・粉砕する、プレス機能の常時最大出力化。


「しゃあぁぁぁっ!!」


 一郎は思わず拳を握りしめ、ガッツポーズをとった。


「一気にきたな! これだよ、これ! 仕事の実績を積み上げて、新しい道具や便利なオプションを自社ビルドしていく、この『設備投資』の瞬間がたまらねぇんだよ!」


 これまでは、予算(実績)が足りずに指をくわえて見ていたアップグレードツリーが、一気に鮮やかな色彩を帯びて解放されていく。その快感は、一流の職人にとっても、何物にも代えがたい喜びだった。


「リリィ! やったぞ! これで今日から、この現場の労働環境が劇的に変わる!」


「お、おめでとうございます、一郎様……!」


 リリィは、一郎の少年のように輝く笑顔と、圧倒的な奇跡の連続に、もはや感動の涙をボロボロとこぼしていた。


「(一挙に三つもの神聖領域の封印アンロックを解除されるなんて……。やはり、一郎様は世界の歪みを正すために神が遣わした、天上のインフラ大賢者様……っ!)」


 3.高圧洗浄の神聖儀式(洗車)


「さて、アンロックされた機能はすぐに使うのが、プロの鉄則だ。まずはこれだな」


 一郎はステータス画面を操作し、新機能『有毒瘴気吸引フィルター』を起動した。


 その瞬間、パッカー車の上部に設置された吸気口が『シュゥゥゥン……』と静かな音を立てて回り始めた。


 驚くべきことが起きた。


 周囲の空間にどんよりと立ち込めていた、あの呼吸するだけでも肺が焼けるような紫色の瘴気が、まるで竜巻に吸い込まれるように、ものすごい勢いでパッカー車へと吸い込まれていく。


 そして次の瞬間、上部排気口から、ミントとユーカリをブレンドしたような、鼻に抜けるほど清涼で美しい空気が、ブワッと周囲に吹き出された。


「――っ!?」


 リリィは、驚きのあまり自分の喉を両手で押さえた。


「す、すごい……! あんなに息苦しかった瘴気が、一瞬で消え去って……。ここ、本当にダンジョンの中なのですか!? まるで、最高神殿の奥の院にある、大精霊の森のような清らかさです……!」


「だろ? これで瘴気マスクもいらねぇし、お前が体調を崩す心配もなくなった。安全管理は、すべての現場の基本だからな」


 一郎は満足そうに頷き、次に車両の側面へと回り込んだ。


「よし、次はこれだ。仕事が終わったら、機材の手入れ(洗車)をするのが一流の職人だからな。泥だらけのままじゃ、明日からの仕事の効率が下がる」


 一郎がパッカー車の側面ハッチを開けると、そこには白銀に輝く頑丈なガンタイプのノズルと、高圧ホースが綺麗に巻かれて収納されていた。


 新機能――『高圧温水スプレー洗車機(ピュリファイウォーター仕様)』である。


「ほう、ガンタイプか。使い勝手が良さそうだ」


 一郎はノズルを引き出し、トリガーを軽く引いた。


『――キィィィン、シャァァァァァッ!!!』


 ノズルの先端から、神聖な光を帯びて白く煙る、超高圧の温水が勢いよく噴射された。


「よし、いくぞ。相棒をピカピカにしてやる」


 一郎は慣れた足取りでパッカー車のフロントへと歩み寄り、泥や魔物の反り血で汚れた白い車体に、勢いよく高圧温水を吹き付けた。


『シャー、シャーーッ!』


 強力な水圧が、車体にしがみついていた不浄な粘液や泥汚れを一瞬で弾き飛ばしていく。温水が触れた箇所は、まるで鏡のようにピカピカとまばゆい白銀の輝きを取り戻していく。


 だが、驚愕すべきは、その『飛び散った水』の効果だった。


 ちょうどその時、洗車の音と光に誘われて、洞窟の奥から十数体の『スクラップ・グール』やゾンビたちが、ゾンビ特有の不快な声を上げて這い出してきた。


「ガルゥァァァ……!」


「あっ、一郎様! 新たな魔物の群れが!」


 リリィが慌てて防護壁を張ろうとした。


「慌てるな、リリィ。今、洗車中だ」


 一郎は眉ひとつ動かさず、ただボディを洗いながら、ノズルをスッと魔物たちの方向へと向けた。


「作業エリアに勝手に入ってくるんじゃねぇよ。水がかかるぞ」


『――ザザーーーーッ!!!』


 一郎が何気なく放った、洗車の「おこぼれ」のような神聖温水の水飛沫が、突撃してきたグールたちに容赦なく降り注いだ。


 その瞬間。


「――グギャ、グガァァァァァァッ!?」


 水がかかったグールたちの全身から、凄まじい白煙とまばゆい光が立ち上った。


 対不死者特効呪文『ピュリファイウォーター』。


 それは、最高位の聖職者が丸一日かけて祈りを捧げ、ようやく数滴作り出せるかどうかという極限の聖水。それが、パッカー車の高圧洗車機から、毎分数十リットルという「圧倒的な湯量」でドバドバと噴射されているのだ。


「あ、温かい……。体が、溶けるように……軽くなっていく……ガガ……」


 アンデッドたちは、怨念や呪縛、腐った肉体を神聖な温水で綺麗さっぱり「洗い流され」、苦しむどころか、どこか恍惚とした表情を浮かべながら、まばゆい光の粒子となって、その場に崩れ去り、天へと成仏していった。


「「「…………」」」


 一瞬にして、静寂が戻る。


 残されたのは、綺麗に洗い流された無垢な石床と、ピカピカに磨き上げられた白銀のパッカー車。そして、空中に漂う心地よいミントの香りのみ。


「よし、足回りも綺麗になったな」


 一郎はフッと満足そうに息を吐き、洗車ガンのトリガーを戻してホースを慣れた手つきで巻き取った。


 リリィは、腰が抜けそうになりながら、その光景をただ呆然と見上げていた。


「(あ、あり得ない……。軍隊を壊滅させるアンデッドの群れを……ただの『お掃除(洗車)』のついでに、一瞬で成仏ピュリファイさせてしまわれるなんて……。これこそが、世界の汚れを根底から洗い流す、究極の神聖儀式……!)」


 リリィの心臓は、崇拝とときめきで、もう破裂しそうだった。


 最強の「おっさん清掃員」と「勘違いヒロイン」の、利益率100%のインフラ再生お仕事ライフは、劇的な設備投資アップグレードを経て、さらに加速していく。





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