9話。2389字。マチョゴブロードが1匹、2匹、あれぇ…………1匹足りないよぉ。ねぇ、どこにいるの?
声に向かっていくと、轟音が聞こえ出した。
どこかで聞いた事のある、力任せに空気を削り飛ばすスイングの音が聞こえてくる。
────暴力的な音は一つじゃない。
一体何匹いるんだ?
たどり着いた先の森はポッカリ開かれていて、木々がその範囲だけ軒並み切り倒れされている。
剣を打ち合う金属音が断続的に響く。
森のリングで戦っていたのは一人の少女と、3匹のゴブリンロードだった。
相変わらずのマッチョなゴブリンロードども。大振りの大剣をその手に持っている。
マチョゴブロードが力任せに大剣を振ると、彼女は踊るように避け森の木々に逃げ込む。
振るわれた大剣が追いかけるように木の横っ腹にぶつかった。
────ズガガガッッッ!!
大剣は何でもないように振りぬかれた。
木々がまとめて切り倒され森が開く。
そのまま逃げ切れたはずの少女はなぜか森から出てきてリングへ戻ってきた。
「やっぱり迷ってる! 助けっ、だれかーっ!」
少女は叫びながらも木々を盾に衝撃を減らし避け続ける。
ポッカリ空いた森の戦闘リングはこうして広がって今のサイズになったのだろう。
あの様子を見るに、もう少し耐えれるだろう。
必死の形相だが避け続けてくれるはずだ。
俺は俺の出来る事をこなそう。
三匹いるマチョゴブロードは全員で少女を襲っている訳ではなかった。
前に母親と戦っていた時もそうだったが、後に調べた所どうやら奴らはタイマン至上主義らしい。
群れのトップがそれでいいのかと思うが、トップだからこその意味があるのかもしれない。
魔物の思考は良く分からないが、結果としてまばらに生えた木々に背を預けるマチョゴブロードが2匹いた。
マチョゴブロード達の中、首に赤い宝石をつけた明らか怪しい奴が1匹。
それが戦闘に参加していない2匹の内の1匹だ。
影の間を縫うように近づくいて、赤い宝石付きのマチョゴブロードの背後に回り込んだ。
声は出さない、出させない。それが私たち魔物バスターのもっとーです!
つまり────奇襲!
木陰から思いっきり後頭部に剣を振り下ろし、赤い宝石付きマチョゴブロードをチリにする。
良しっ、うまくいった!
休んでいるもう一匹に体を向けると、目が合った。
まずいまずい。失敗だ、魔物バスターは本日もって店じまい!
「ギャ────!!!」
マチョゴブロードは咆哮する。
森へ逃げ込んだ俺の背骨に声が響く。
タイマン至上主義に反したのか強い怒りを感じる声をしていた。
「怖すぎ~」
森にできたハゲ山リングを迂回して少女を探す。
すると結構それた場所で発見。無事合流出来た。
「大丈夫?」
「全然。この先にゴブリンロードが3匹いるんです」
少女は五体満足で生きていた。
3匹目はもう倒したが見ていなかったのだろう。
「そうか。じゃあさっさと逃げない?」
「それは無理なんです。森に入ると迷ってあのゴブリンロードの元にたどり着く様になっているんです」
確かに森で迷った。
あれ魔法か、良かった良かった。
「とある赤い宝石には迷走魔法が込められており、その魔法が森を囲っています」
「…………それって」
「ゴブリンロードの1匹が持っています。どうか討伐を手伝ってもらえませんか!」
「…………その宝石って、これの事?」
宝石を取り出し渡すと彼女は目を見張る。
さっき倒したついでに剣先でかすめ取っておいたのだが、そこまでのキーアイテムだとは想定外だ。
「これがあれば森を抜けられます! でも、どうして?」
「隙をついて1匹倒したんだ。そんじゃ、さっさと逃げちゃおうぜ」
彼女はあっという間に宝石に魔力で細工を施していく。
ある程度は魔法にも精通しているつもりだが、とても真似できない腕前に思わず唸る。
「おお、すごいな。魔法式なに使ってるんだ?」
「ベルク式です」
「随分と古い魔法式だな」
「え、この魔法式って古いの?」
おばあちゃんっ子なんだろうか。
小さく輝くと、魔力は魔法へ昇華した。
数分はかかる作業を数秒で終わらせると、彼女は宝石を俺に手渡した。
宝石の魔法はもう発動することはないのだろう。
「すみませんが、宝石をギルドまで届けてくれませんか?」
「君は?」
「あいつらを倒さないと…………ダメなんです」
彼女は俯きながら、思いつめた様子で言う。
「助けてと君は言っていたはずだ。勝算はあるのか?」
「森で迷うことがなくなり、敵は2匹。勝算はそこまで低くありません。ですので、先に森を出て…………」
「まったまった」
明らかに勝算低いだろう。
森を使った動きに制限がなくなったとは言え、タイマンで苦しんでいただろうに。
だから、助けを求めたんだろうに。
「俺は助けに来たんだよ。2人の方が勝算はあるだろう」
「え」
顔を上げた彼女は、え、あ、と声を漏らし手をバタバタと振る。
夜の森では伺えないが、その顔は随分表情豊かな人なのだろう。
「そんで、俺はバフが使えるんだけどなんか作戦とかある? 各個撃破?」
あいつらタイマン至上主義者と俺たちの相性は悪くない。
何故なら俺たちはチームワークのチの字もない初対面2人だからな。
相性もちろん良くもない。
「死ぬかもしれませんよ?」
「そんな場所、余計に置いていけないだろ。観念して作戦を出せ、ないなら引っ張って逃げるぞ」
「はぁ、わかりました」
彼女が深くため息を吐いて、作戦会議が始まった。
「私のスキル名は…………まぁ、いいとして。スキルで出来る事は武器とステータスの強化です」
「俺は自信を除いたステータスの強化、普通のバフだな」
「となると…………」
「そうだな…………」
「「各個撃破?」」
「「ふふふ」」
結論は同じ。声がハモった事が少し可笑しくて笑ってしまう。
森が随分と静かで、笑い声と、葉のこすれる音虫の鳴き声ばかりが聞こえてくる。
「ふふふ」
「ははは」
「ギャギャギャ」
彼女の後ろに奴は居た。
音もなく背後に忍び寄るマチョゴブロードがそこに居た。
「「わぁーーー!!?」」
マチョゴブロードがタイマン至上主義者じゃなかったら死んでた!




