34話。パンフェスティバル。先輩にお酌、ドット先輩と新人くん、ザザとゲーム、マチとゴルドと贈り物、愉悦ババアと虫取り少年。
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一夜明けた朝。
街を出ていく日。
そして────パンフェスティバル当日!!
今日はギルド長に急遽予定を組んでもらい開催されるイベント日だ。
無事上位魔族を倒せた祝いの場として、みんな集まってくれていた。
貸し切りの広い店内には複数のテーブルが並び、中央にはひときわ大きなテーブル。
テーブルには多種多様なパンとその付け合わせ、そして大量の酒が置かれている。
これらがギルド長の奢りで戴けるとあってか、多くのギルド関係者が足を運んでいた。
ちらほらと見知らぬ人も顔を出しているのを見ると、タダ酒目当てで関係ない人も混ざっていそうだが。
「あの、マジでギルド長の奢りで良いんですか?」
中央のテーブル付近。
今回、俺は会場の費用を一切出させてはもらえなかった。
「魔族討伐の名目だが、これは君への別れの席でもあるからねぇ。怒られちゃうよ」
いつもなら、後で俺が奢ったと知ったとてギルド長を怒る人はいないだろう。
別れの席、とはまぁ街を出る事。
きっと、俺が今日を境にこの街に戻らないつもりだと知れば「最後に奢らせるな」と怒ってくれる人もいるかもしれない。
しかし俺は誰にも言った覚えはない。
目線でギルド長に「誰かに言った?」と尋ねるが首を振られる。
言ってないのに俺が出て行くと知っている…………別にこれは矛盾していないか。
ダークエルフの噂が広まった時点で何となく先輩連中なんかは俺の性格を読み、街を出ると察していても不思議じゃない。
そうなると黙って出て行こうとした不義理が気になって来るなぁ。
でも巻き込む可能性上がりそうだし。
謝るべきだろうけど、どうするか。
「いて」
長考しているとギルド長に頭を軽く叩かれた。
ぷらぷら手首を揺らして息を一つ吐く。
「あのね、周りはそんなに気にしてないよ。適当に挨拶でもしてきなさいな。ほら、行った行った」
「……はーい」
この件で謝るのは無しとしよう。
とすれば最初からその予定である。
フェスティバル会場に着いて早々セレーネと別れ、ギルド長に顔出ししたのもそのためだ。
ギルド長から離れ、目についた世話になった人に片っ端から挨拶を交わしていく。
あん時は助かった。
アレは笑えた。
ありがとう、と伝えていく。
今更だけど怪奇植物事件の犯人は俺。
前の幽霊騒動の主犯はアイツで俺はサポート役。
ごめん、アレは笑った。
☆☆☆
大体の人に挨拶を交わし終え、次に目についたのはタダ酒と聞いてきた赤ら顔の先輩。
先日世話になった先輩にうっかり禁酒しろ、と口に出しそうになりギリギリで引っ込める。
「あれ、リクトじゃん。こっち来いって、ちゃんと飲んでる?」
「酒は苦手でなんで遠慮させて下さいね」
「ままま、聞けって。これは珍しい酒でな? あぁ、注いでやるよ。先輩の酒が飲めねぇとは言わせねぇぜ~?」
相変わらずのオッサン仕草だ。
ほんと禁酒すればいいのに。
…………あれ、シラフの先輩を見た事ない気がする。
「グラスないの? お猪口でも良いけど…………あれ、最近指の数増えた?」
これって禁酒しても手遅れだったりするのか?
一応、頭に回復魔法をかけておこう。ついでに解毒魔法。
ま、この世界なら魔法でどうとでもなるだろう。
「良ければ一杯お注ぎしますよ、先輩」
「おぉっ、悪いねぇ」
事前に買っておいた酒をお酌する。
どうせタダ酒を飲みに来ると思っていたのだ。
「おっ、これはなかなかイケるな。お前も飲んで…………」
先輩がグラスを傾けた瞬間を逃さずに気配を絶って退散。
絡まれたら面倒だし。
テーブルに買った酒は置いといたから、暫くは持つだろう。
「…………あれ? 飲んでかないのぉ~?」
酒がなければ良い先輩なのだ。
ずっと飲んでるから厄介なオッサン女性先輩でしかないのだが。
☆☆☆
気配を絶って壁際に移動。
すると、横から声をかけられた。
「リクト君何しているの?」
「うわっ、ドット先輩!?」
気配を絶っていたんですけどもね。
流石s級だ。
剣狂い以外は尊敬している真面目で誠実な先輩。
それから、以前のs級試験でバフをかけた新人くん。
ドット先輩は皿に控えめに料理を盛り、そこに居た。
「剣を新調してクエストに出ていた筈では!?」
新調した日はバーサークモードで一日言語を介さないと聞いたが、誤情報だったらしい。
「もう24時間が経過しているのさ」
誤情報であって欲しい。
素直に尊敬させてはくれないのだろうか、この先輩方は。
「ギルド長に上位魔族襲来だと呼ばれてね、急ぎ戻って来たんだ」
「良かった、カッコいいです先輩」
剣が絡まなければ本当に欠点がない良い人なのだと再確認。
安心して頷くと、新人くんが同調するように深く頷いていた。
そう言えば気に入られていた新人くん。
きっと身近で剣狂いを見てきたのだろう。
「大変だったね、新人くん。正気が無くなっても善性は保っている様子だから、安心してね」
「ありがとうございます。むしろ怖いです」
「二人ともなんの話だ?」
「いえいえ、なんでもないですとも」
確かに怖いな。
自覚があるんだか無いんだか分からない。
でも善性の怪物だから、大丈夫だから、多分。
「そっ、そういや新人くんの名前は?」
「ああっ自己紹介がまだでしたね!」
ドット先輩の追及を誤魔化そうと二人で話をそらす。
周囲では酒の回って来たオッサンどもがどんちゃん騒ぎを繰り広げている頃合いだ。
ドット先輩もきっと酒を飲んでいるのだろう。
尊敬させて欲しい。
シラフとか勘弁して欲しい。
「僕の名前は──です、リクト先輩」
「あっ、へー良い名前だね!」
今なんて言ったんだ?
ガヤガヤしていて肝心の名前が聞き取れなかった…………!
しかも新人くんは俺の名前覚えてる、どうすれば良いんだ?
聞き直すのは気まずい。
どうすれば。
…………よし、今日限りもう会わないだろうし上手い感じに逃げよう。
「ドット先輩、今の剣の型は先輩あっての物です。改まってですが、ありがとうございます」
「そうか、気にするな。冒険者同士なんだし、また会う事もあるさ」
言葉には含みがあった。
やはりドット先輩は俺が今日街を出ると気付いていたらしい。
もう一度深く頭を下げ、新人くんに向き直る。
「それと…………ンンンン君もありがとう!」
「いや僕の名前は──ですって!」
隣テーブルの乾杯音でまた聞きそこねた…………!
「…………ありがとう新人くん!」
「いえ、ですから────!」
俺は雑音に混じる音を背にし、やっぱり聞き取れる事もなく、その場を後にした。
ごめん新人くん。
☆☆☆
俺は移動した先で、またもや流石s級に捕まった。
「おいカスゥ~、勝負といこうや」
いきなり肩を組んできたザザは、一つゲームを提案してきた。
ルールはジャンケンで負けた方が一杯呷る、それだけ。
「いつものか、上等だね! ジャン、ケン────!!」
ポン。
勝ち~。
ジャンケンにおいて、俺はザザの手を完全に読める。
伊達に2年も旅していない。
グイッ、とザザが毒瓶を呷った。
「運だけで調子に乗んじゃねーぞ雑魚がァ! ジャン、ケン────!」
ポン、グイッ。
ザザが毒瓶を呷る。
ザザには後天的な才能で『毒耐性』がある。
まだザザは毒に耐えていた。
症状を見るに小瓶の中身は神経毒か。
「クソ、舌がしべれてきやがった。さっさと手を出へ! ジャン、へン────!」
ポングイッ、ポングイッ、ポングイッ。
5連勝。
「クそぁ…………!」
5杯呷った時点でザザが硬直してゲームセット。
計算通り…………!
ザザの『直感』は命の危機じゃなきゃ精度も粗く、発動も稀!
一発で俺を殺さずに死なない程度の神経毒を使用したこと、『毒耐性』で安全マージンを取っていた事がザザの敗因…………!
2年の付き合いは伊達じゃない、ってね。
☆☆☆
「あのー、バカは終わりました?」
「リーダーはこっちに座らせとくねー」
ザザの座っていたテーブルから、こちらにジト目を向けるマチ。
隣にはリーダーと呼びながら雑にザザを椅子に押し込むゴルド。
元パーティーメンバーの二人だ。
「…………あれ、固いな。うりゃ、あれ?」
「待てゴルド、ザザの右足が引っかかってる。それだと折れる」
パズルを力で押し込むタイプの男、ゴルド。
ザザを座らせようと、右足へのテンションのかかり方が明らかに間違っているが強引に椅子へ押し込んでいた。
慌てて止めると、マチが割って入る。
「そんなの今はどうでもいいでしょう。リクト、その気持ち悪い魔力パスはなんですか?」
「どうでもいい事ないだろ、仮にもリーダーだろ?」
「待ってリクト仮じゃない」
マチの目は俺越しに確かに魔力パスを捉えているらしい。
どういう仕組みだろう。そんな芸当が出来る者を俺は一人しか知らない。
流石s級だ。
「ただの4年命令権だよ」
「はぁ!? 奴隷契約の同義語ですよ、バカですか? 散々忠告しましたよね? ドン引きです」
マチは軽蔑と侮蔑の目で俺を捉える。
あ。魔力パスの内容自体は読み取れてなかった?
藪蛇だったらしい。
「…………命令権の基本、教えましたよね。覚えてます?」
「当然!」
説明しよう!
命令権とは、野良の精霊さんが決めた天秤に乗っ取り成立する。
モラルや法律も精霊さんが判断。
しかし当人間での納得があればその枷を外すことも可能。
基本外さない。外すわけない。
これは契約魔法全般に通ずる。
「こんな感じでしょ?」
「定義を広くとるのはご法度、ってちゃんと言いましたよね?」
「アレだよ、相互にだから。抑止力持ってるからセーフ」
「は? いや、え? …………………………はぁ。難しいですけど、解約手続きしたかったら相談乗りますよ」
なんか雑な仕事して本職に怒られている気分だ。
…………そのまんまだな。
「リクト~、はいコレ」
ザザパズルを終えたゴルドが、こちらに来たかと思うと箱を取り出した。
中を開けると…………これは腕輪だろうか。
「どったん?」
「マチと昨日選んだんだよ、門出の祝いにって」
わざわざ昨日からプレゼントを用意してくれていたとは、動きが早い。
相変わらず察しが良いなコイツ等。
「ザザはまぁ、その、重症だったから、ね?」
ザザからの贈り物はないのだと、気まずそうにゴルドが言葉を濁す。
だろうな、としか。
しかし気にし過ぎだ。餞別はもう十分貰っている。
「大丈夫、ザザには剣を貸して貰ったから」
「うそだー」
「マジです?」
「まじまじ」
多分『直感』に従っただけでマイナス感情しか詰まってないけど。
試しに、箱の腕輪を取り出してつけるてみる。
貰った腕輪は、ピッタリと腕に収まり急な戦闘でも邪魔にもならない代物。
「気に入ったよ、ありがとう二人とも。それと──」
「リクト、しみったれた言葉は不要です」
お返しは次に会った時にでも。
「ああ────またな」
まぁ、暫くこの会場で顔合わせるけども。
そのくらいの恥ずかしさは許容していこう。
☆☆☆
会場とはいえ、言うてパン屋。
パン屋にしては異様に広いが、見渡せば全員の顔くらいわかる。
次は誰に話しかけようか、暇な人を探していると意外な人物を発見した。
「あれ、愉悦ババアさん。何してるの?」
「孫もおるからね、リクト君。言葉は丁寧におねがいね」
愉悦ババアこと、サテトおばあちゃん。
それと山盛りの揚げ物を手にした孫の虫取り少年。
「ギルド関係者のフェスティバル会場に何故あなたが?」
「ギルド長に誘われてね。あたしゃ元s級だし魔族も倒したことがあるんだよ」
「嘘つけよ。俺の幻想の為にも嘘って言ってよ」
「ほら、古いけど金のネームプレート見るかい?」
手首から覗く金属板は、確かにs級の証。
しっかり確認したが準s級でもない。
なぜ出会ったs級はみんな頭がぶっ飛んでいるんだ。
資格要項で頭のネジ提出義務とかあるの?
「しかし今まで顔出した事ないでしょサテトおばあちゃん、どうしてまた?」
「ギルド長ごしなら孫もあたしがs級だと信じるだろう?」
「あぁ、疑われているのか。どうせ日常的にくだらない嘘でも吐いたんでしょう」
「大人の義務だよ?」
「ダウトダウト。それ止めた方が良いです」
疑われる要素しかないじゃねーか。
信用回復に努めて欲しいが、そもそもギルド長は信用とは真逆じゃないかな。
件のお孫さんは隣で揚げ物と格闘中、全然周りに興味なさそうだし。
無理やり連れてこられたんだろうか。
揚げ物を食べつつ、ふと目線を上げたかと思うと俺を見て食べる手を止める。
すると目を見開き、駆けよって来た。
「なんでいるの、なんでいるの!? 前にばーちゃんの畑手伝った人でしょ!? 昨日魔族を倒しったって聞いてからずっとスゴイって思っててさ!」
「お、おう。ありがとう」
勢いよく喋り出した少年の声には憧れや尊敬がにじみ出ていて、むず痒い。
それに、少年の後ろにヤマンバが現れた。
愉悦ババアから「孫の尊敬を奪いやがって」という殺意と妬みがにじみ出ていた。怖い。
少年は背後に化け物がいると気づかない。
まくし立てるように、続けた。
「街を救ったって聞いてすぐ、格好いいなって思っちゃってさぁ。でさでさ、良ければなんだけど冒険譚とか聞かせてくれない…………ませんか!」
増大する殺気。
俺にだけ器用に、周囲の冒険者にすら悟られぬよう殺気を飛ばすババア。
化け物が!
「ごめん、今は時間が作れなくて。でも、君のおばあちゃんはs級の凄い人だから、色々教えてくれるんじゃないかな」
殺気がやわらいだ!
「え~、ばーちゃんか…………」
孫は正直だ!
冷や汗が止まらないぞ!
「あっ、じゃあさ一個だけ聞いていい? …………ですか?」
「良いよ良いよー」
答えたら逃げる。
答えたら逃げる。
答えたら逃げる。
「なんで、命をかけて戦えるの?」
「…………そんな冒険者に憧れたからかな」




