33話。ギルド帰還、ヒーローへの感謝、セレーネと。
ギルドに到着すると話は早かった。
「やったのか!」
「素晴らしいぞ!」
「ありがとう良くやった!」
何も言わずとも上位魔族の討伐を察知していたらしくお礼を言われ、もみくちゃにされる。
「賭けは私の負けか」
「引っ越しの準備が無駄になっちまったねぇ」
「まさかの大穴か…………」
「聞こえてンぞ先輩方!」
ふざけ倒す連中にザザが背中から叫ぶ。
すると直ぐにギルド長から静止の声がかかった。
「君たち全員やめやめ、んで三人ともお疲れ様。さっさと医務室に向かってね~」
「はーい」
俺たちは医務室へ向かい検査を受ける事に。
結果、俺とセレーネはほとんど何ともなかった。
ギルド長に簡単な報告を終え、医務室のベットで横になる。
気づかぬ疲れを自覚すると瞼がだんだん落ちていった。
☆☆☆
ギルドの医務室。
上位魔族の討伐から一晩経った早朝、俺たちはいまだ念のため療養中だった。
ザザは重症で無理したせいで隣室で寝てる。
借りていた剣は起きている昨夜のうちに無事交換。
その後ザザは医務室で酒を決め込もうとしてボコボコに止められたとかで相当に絶不調らしい。
まぁ回復魔法の専門家がいるし、肉体的には既に好調だろうけど。
やる事のない部屋でぼんやりと微睡んでいると、ガラリと扉が開く。
「お、起きてんの。元気だね~」
ギルド長だった。
なんでも魔族の特徴やスキルについて繊細な調書を取りたいとか。
「少ししたら受付嬢が伺いに来るけど大丈夫か?」
「ええ。部屋で待ってれば良いだけの簡単なクエスト、この準s級にお任せくださいよ」
「うん、ちゃんと本調子みたいで良かったよ」
てっきり何かのついでで顔を出しただけかと思っていたが、ギルド長は閉まった扉前から動かない。
仮にも自称『事務能力最強』だし、言伝ひとつで動くほど暇じゃないだろう。
「まだ何か?」
「うん。ギルド長として、『街のトップ』として礼を言わせて欲しい」
姿勢をただし、ゆっくりと頭を下げるギルド長に一瞬言葉が詰まった。
「ありがとう、リクト君」
「なっ…………!」
すぐ正気に戻り慌てて頭を上げるように言うが、首を振られる。
『街のトップ』が簡単に頭を下げて良いはずないのに。
そもそも、礼を言うなんて筋違いだ。
ギルド長だってそう言っていたはず。
「今回だって俺がいなければ魔族は来ていなかった、ギルド長は前から出て行って欲しいと言っていただろ?」
「ギルド長としての意見は変わらないけど、それはそれだ。スキルや才能は罪じゃない、魔族を倒して街を救ったのは君たちだろう。だから────ありがとう」
ギルド長は頭を上げない。
俺が礼を受け止めるまで動かないような気迫すら感じた。
ハゲ隠しの魔法を隠すためか絶対に見せない後頭部を晒しながら。
そして先に折れたのは俺だった。
「分かりましたよっ、礼は受け取りますから!」
その言葉でやっとギルド長が顔を上げ、姿勢を戻す。
誰かに褒められる事には慣れない。
マッチポンプと言われて否定できない自分が何処かにいた。
少し落ち込んでいると「言質はとったし」とギルド長は話題を変える。
「それはそれとして、だ。ダークエルフのセレーネちゃんだっけ? あの子連れて早ければ明日にでも出て行ってくれるかな?」
「あぁ…………ですよね」
存在が知られれば魔族に狙われるダークエルフ。
にしては派手に暴れ過ぎた。
「街では褐色エルフのヒーローって噂が流れてる」
避難は済んでいたが、城壁からなら魔族との戦闘を見れてしまう。
事前に口止めした訳でもないし見た人が広めたのだろうな。
「ギルド長でも噂消せない?」
「だから僕を何だと思ってるんだ、無理に決まってるだろう。前々から仕込む時間があるならともかくねぇ、一度広まった噂に街ごと箝口令を敷くなんて無茶だよ」
「それって…………期日は明日ですか?」
「既に街を離れた旅人にも伝わってるだろうし、時間の問題。早めに動いてくれればこっちでも噂を流したり痕跡を偽造したり出来る。まぁ明日か明後日までには頼みたいかな」
「了解です」
俺の返事を聞いて一つ頷き、ギルド長は部屋を出ていく。
「じゃあね」
扉が完全に閉まる。
────シャッ。
カーテンレールの滑る音がして振り返ると、隣のベットとを仕切るカーテンが開かれ、セレーネが顔を出した。
途中からずっと聞いていたらしい。
セレーネは眉を下げながらこちらを窺って来ると、意を決するように告げた。
「街を出ていくのは、やっぱり私一人で…………」
「一蓮托生、だろ?」
あの日、セレーネが言った事だ。
初めて会った日。
森林破壊の共犯者になる時に言っていた…………。
改めて思い起こすと出会いがヒドイ。
セレーネも考える事は同じか、小さく笑う。
「ええ…………そうでしたね」
「旅は俺にとっても都合が良いし、行きたい場所とか決めようぜ」
旅をしたいとずっと考えていたが、今まで実力不足で旅に出る事は叶わなかった。
魔族を呼ぶほどでは無くとも、災害を呼び寄せている自覚は昔からずっとあった。
『巻き込まれ』の才能。
s級冒険者を多く抱えるこの街に来たのはそのためだ。
スキルも才能も、一人じゃ俺は何も出来なかった。
死にたくないと巻き込んで、せめて誰かのために死にたいと命をかけて。
「リクトは相変わらず善意が多すぎて『魔力探知』で上手く感情を探れませんね」
「旅がしたかったのは本音だよ?」
「もちろん。嘘じゃない事くらいは分かりますし、信じますよ」
いつか強くなって一人で『巻き込まれ』を解決出来るくらい強くなりたい。
ずっとそう足掻いてきた。
そして今、旅に出るという夢を叶えられるだけの力を手にしたんだ。
その力を教えてくれたセレーネが一緒に旅をしたいと言ってくれるなら、俺は喜んで着いて行こう。
「期待には応えたいけど……………………あ。延期してたパンフェスティバルを────」
「────そうでしたね!!」
パンと聞いてたちまちセレーネの口角が上がり、心底楽しそうに、太陽みたいにキラキラと笑った。
太陽を直接見るなと習っていた俺は視線をそらす。
俺は優等生だったのでね。
目が焼けるからね。
まぁ既に網膜に焼き付いた感覚があるけど。
「…………会場はギルド長に抑えて貰おうぜ」
「なるほど。お店に目星はつけてあるのですが、ギルド長さんの伝手を借りれるとしたらアッチもコッチも選択肢に…………。ギルド長さんや皆さんに声をかけて、とかどうです?」
「いいね。ギルド長なら人集めるのは得意だろうし。ついでにギルド長に奢らせよう」
ギルド長は人心掌握を苦手としている、あるいはサボっているのだが、ギルド長としてなら声掛けは得意だろう。
つーかタダ酒なら大抵の知り合いは来る。
奢ればギルド長への心象も多少マシになるはず。
その時は裏で全額を払わせてもらおう。
なにかとお世話になっていたし、いつか暗殺されそうな『事務能力最強』への恩返しはそれくらいしか思いつかない。
「うーん…………」
「うーん…………」
…………でもギルド長、弱みとか考えて嫌いそうだなぁ。
なんか奢るの断られる気がしてきた。
まぁ、そん時は良いか。
面倒だし。
「決めました! では早速ギルド長に伝えてきます!」
「走るなよ、一応療養中の身だからな」
元気に返事を返し、速足にセレーネが部屋を飛び出していく。
10分後。
────ふわり、と魔力パスが揺れた。
「…………あっ!」
セレーネが迷子になったらしい。
そりゃそうだ、忘れていた。
体の操作権を精霊さんに譲るれば、自動的に俺は立ち上がる。
あれ?
…………知らなかった。
遠隔で命令出来るのかよコレ。
精霊さんのジャッジで決まり、俺の意思も不要なら確かに出来そう。
「行くか」
俺は迷子になったセレーネを迎えに、医務室を抜け出した。
その日。
俺はベットで待っている事もできない準s級の称号を手に入れる。




