32話。vs上位魔族。
魔族との戦闘は二対一で始まった。
ステータスではこっちが部分的に勝っている部分もあるし、まだこちらの優位と言えるだろう。
問題は魔族のスキルと魔法だが、魔族の剣は折れているし速攻を決めに行く。
極論、瞬殺すればまだ見ぬ脅威など関係ない。
「てりゃっ!」
「ゴミどもがァ!」
剣にバフをかけてセレーネと左右同時に切りかかるが、防がれる。
マジでか。
俺には空中で炸裂する火魔法で、セレーネの剣には横合いから折れた剣を叩きつけて軌道を逸らす手を取る魔族。
バチ切れてる癖にどこか冷静さも保っている魔族は、シンプルに戦闘が上手い。
だが魔法と剣の二刀流、そのどちらもを防御に割いていた。
もし次も同じ手なら、迷わず剣を振り切れば首をとれるだろう。
これだけなら勝てる、確信と共に踏み込んだ二振り目は一つ目の魔法で減衰させられる。
「汚物がァ!」
魔族は同時、セレーネの剣に二つ目の魔法を当てて弾く。
「はぁ!?」
魔法の同時行使は一人一つまでであれよ!
近接戦に繊細で複雑な魔法を織り交ぜるだけで神業だ。
なのに二つ同時とかふざけたスペックしやがって。
魔族はセレーネを無視して俺との距離を詰めに来る。
俺たちの剣に魔法をあてがったため、魔族はまだ剣を残している。
剣を構えたままの魔族の方が、一手早い。
俺の懐に踏み込んだ魔族がそのまま一撃を振るおうとした瞬間────横合いから岩が飛んできた。
「ぐえっ!?」
岩は魔族の腹部にめり込み、吹き飛ばす。
ゴロゴロと瓦礫の山へ魔族は転がっていった。
「流石だセレーネ!」
流石はセレーネ。
三大希少種の一つと言われるダークエルフ。
長命種で、おまけに可愛い。
近接戦闘に魔法を交えるなんて芸当は上位存在にしか出来ない神業?
そうだね、上位存在だね。
「【器用さ】は丁度いいか?」
「はい。これ以上【器用さ】を上げれば操作ミスで暴発してしまいます」
そんな神業ゆえ、セレーネへの【器用さ】バフは抑えめだった。
慣れないステータスでは威力や発動速度が扱えず、焦りなどでも暴発する恐れがある。
調整は必要なさそうだな。
「ふざけやがってぇ…………!!」
魔族は腹部に受けた筈の岩をいつの間にかサイコロ状に切り捨てていた。
居合らしき構えの剣戟を岩に使いダメージを減らしたのか、大して食らった様子もなく立ち上がる。
これ、今の魔法じゃダメージ出ないな。
リスクを取って【器用さ】を上げるか、慣れた近接戦をするか。
剣は効いてくれよ、アイツ。
瓦礫から出てきた魔族は、地面を転がったせいで汚れきった体でこちらを睨む。
「殺す、貴様だけは許せん!」
魔族が、居合切りの構えをとる。
その対象は────。
「死ね」
「セレーネ!!」
「そして私の贄となれ」
コイツ生け捕りを諦めやがった!
魔法二発食らってキレたんだ。短気にも限度ってもんがあるだろうが!
魔族の剣が、抜かれる。
セレーネに駆け寄る。
でも、ほんの一瞬が足りなかった。
もう、間に合わない。
今のままじゃ、間に合わないから。
「「────ALL!!」」
心の中で叫び、声になったそれは、精霊さんを介した短縮命令文。
内容は────バフを解け、私にバフをかけさせろ。
前半のハブ解除だけでは、同時に命令した時にバフのない二人が出来上がる。
だから後半を足した。この二つの命令は同時に処理できない。
命令のバッティング!
この時、命令の優先権はどれだけ恩義を感じているかで決まる!
恩義の大きい奴ほど命令の優先度は下になる。
チョロインのセレーネ。
人生救われた俺。
俺の命令が優先されれば、俺のステータスはオール0になりセレーネのステータスが上がる。
魔法なり、屈伸なりでどうとでも対処できるだろう。
逆なら俺が剣に割り込んで解決。
どうなるか────ステータス。
【ステータス リクト
最大魔力量 7800
攻撃力 9700
防御力 9600
素早さ 6700
器用さ 6400
スキル名────『レート4倍みたいなバフで最強目指しちゃう的なスキル』
】
「俺!?」
既に踏み込んでいた足は高い【攻撃力】に勢い余って地を割り体を前へ推し進める。
どうにか体を制御して振りぬかれる居合に体ごと剣を差し込み、間に合った。
魔族の短くなった剣の根本を狙って剣を動かす。
居合を完全に振りぬかせる事だけは阻止したい、ついでに上手くいけば完全に剣をへし折れる。
それだけの一振り。
「ぐえっ!」
だったはずが、勢い余って魔族を吹き飛ばした。
砕けた氷鎧で軌跡をキラキラと光らせながら、崩れた瓦礫に頭から突っ込む魔族。
「威力こっわ!」
通販番組で切れ味の良すぎる包丁を見た時と同じ気分。
威力増幅に引きながら、急いでセレーネにバフをかけなおす。
「えーと、魔族は?」
「あっちの奥、瓦礫に生えてるヤツが魔族だよ」
セレーネはステータスが0だったせいで攻防を視認できなかったのだろう。
やっぱ危ないわコレ。
「魔法で中、遠距離って厳しい?」
「はい。今の威力では攻撃が通りません。威力を上げるため【ステータス】を上げると暴発のリスクが無視できなくなります」
やっぱそうか。魔法使いなら魔法防御高いだろうし今の魔法じゃキツイ。
となると二人で剣バフ使って近接戦が一番かな。
「理想は挟み打ち、出来るだけ同時攻撃。ALLで一撃の威力を伸ばすのは一旦なしで行こう」
「了解です!」
「あと、相手は魔法使う場合はプランKで行こう」
結構吹き飛んだ魔族は起き上がってなおプルプル震えるだけで、動こうとはしていなかった。
「そろそろ……………………魔族が動くかな?」
遠目にも魔族が完全に切れていると分かる。
ブツブツとなにかを唱えているが、なんだろう。
呪詛だろうか。
…………この世界ならガチの呪詛もありそうで嫌だな。
「リクト、あの魔法は止めないとマズイです」
セレーネの忠告が少し震えているのは恐怖からか。
魔族が、根本から折れた剣を捨てて両手を前に突き出す。
「多分街ごと消し飛ばすつもりです!」
向けられた手のひらに膨大な魔力が集まりだす。
洗練され美しいとすら思える魔法式を見て、嫌でもセレーネが正しいと察した。
「全部消し炭にしてやるよ!!」
本人もこう言ってますし。
この魔族の得意は魔法だ。
近接戦のスキルを授かっただけで、ひたすらに魔法に長けた上位存在。
だから────こんな事が出来るのだろう。
まず魔族は、四種類の魔法を同時使用。
「二種、混合…………!」
そして、二つの魔法を混ぜ合わせた。
「まさか、四種混合魔法────!?」
「街ごとセレーネまで消し去るつもりか!?」
あの魔法は、加減が出来る代物じゃない。
いくら試しても成功せず、不出来な失敗作で死にかける程の超威力。
「三種混合…………!」
魔族は、さらに魔法を一つ混ぜ合わせエネルギーを乗算で増やしていく。
「リクト…………三種混合は絶対に打たせちゃダメです」
魔族がコネるたび、エネルギーへ徐々に指向性が付与され、魔法へと変換されていく。
三種混合魔法がゆっくりと着実に出来上がりつつある。
魔族の横に浮いた魔法は、防衛のためのものか。
あるいは、四種混合魔法すら狙っているのか。
混合魔法。
それは人類には不可能とされている絶技。
思いついても出来ないロマン砲。
「それじゃあ、作戦通りに」
直接行って混合魔法を邪魔すれば作成途中の魔法か、宙に浮いた魔法に妨害されてしまう。
まず間に合わない。
それで倒しても、どの道エネルギーの爆発に巻き込まれてしまう。
よって────プランK。
今日の朝考えた作戦パート2。
そもそもの話、無理な魔法は全て暴発のリスクを孕んでいる。
四種混合魔法はその究極。
思いついても出来ないし…………やらないロマン砲。
ごくごく僅かな操作ミスで暴発する絶技は、今にも放たれようとしていた。
そこでプランK。
俺たちは互いにかけているバフを少しだけ解く。
俺は【器用さ】を、セレーネは【最大魔力量】を。
「これで、三種混ご────う!?」
魔族が三種混合魔法を完成させる直前に、俺たちのスキルが発動する。
これで勝ちだ。
────『レート4倍みたいなバフで最強目指しちゃう的なスキル』!
【器用さ】+20、解除。【器用さ】+424、解除。
【器用さ】+74、解除。【器用さ】+952、解除。
「なにをして…………!?」
ボフンッ、と軽い爆発音がした。
魔族の近くに浮いていた四つ目の魔法が制御を失い、暴発する音だ。
「ぐっ…………!」
【器用さ】+509、解除。【器用さ】+42、解除。
【器用さ】+1008、解除。【器用さ】+407、解除。
「ふっ、ふざけないで下さい!!」
混ぜ合わせた三種混合魔法が暴れ回る。
明らかに制御を失っていた。
魔族を中心に爆発するのを待つだけの巨大なエネルギー。
三種混合魔法の制御権は、もはや誰の手にもない。
怒りすら忘れて魔族が叫ぶ。
「待ってください! ちょっと!!」
俺たちのスキルは範囲内なら対象が視界に入ればバフをかけれるので、魔族からさっさと距離を取って遠巻きに眺めている。
既に魔族には歩く余裕すらないだろうが、念のため【素早さ】も上げ下げする準備はおっけー。
【器用さ】+657、解除。【器用さ】+739、解除。
【器用さ】+132、解除。【器用さ】+23、解除。
【器用さ】+99、解除。【器用さ】+686、解除。
【器用さ】+424、解除。【器用さ】+290、解除。
「冗談っ…………でしょう!?」
ポップコーンなら塩味の気分だ。今食べれば、さぞや美味かろう。
もはや魔族は三種混合魔法を手放す事すらできず、暴発を抑える為だけに莫大な魔力を消費し続けている。
魔族の頬が引き攣りだした。
「セレーネ、距離も取ったしテンポアップしていこう!!」
「はいっ!」
俺は【器用さ】を、セレーネは【最大魔力量】を乱高下させる。
精密機器の性能が乱高下する中で。体力が乱高下し、少しでも集中を乱せば暴発する中で。
奇跡的なバランス感覚の中で、ギリギリ魔族は首の皮を繋げていた。
「あの、待ってください! 謝りますから、ねっ?」
そして魔族は死を遠ざけるために、命乞いを始めた。
それで許されると思っているのだろうか。
人間への理解が浅すぎて引く。
「えぇ…………セレーネなんか言ってやれ!」
【器用さ】+385、解除。【器用さ】+409、解除。
【器用さ】+31、解除。【器用さ】+757、解除。
【器用さ】+274、解除。【器用さ】+15、解除。
【器用さ】+144、解除。【器用さ】+389、解除。
「あの世で身なりを整えてから出直して下さい!!」
「は、はは。そのぐらい今すぐにでも…………」
【器用さ】+730、解除。【器用さ】+289、解除。
【器用さ】+4、解除。【器用さ】+196、解除。
【器用さ】+63、解除。【器用さ】+90、解除。
【器用さ】+1、解除。【器用さ】+596、解除。
「無理です。だって、あなたの魂は汚れ切っているから」
「ぁ!? ンだと小娘、もう一度言って見ろ!! 誰が汚れて────?」
怒りによる集中力の乱れ。
奇跡的に保たれていたバランスは、あっという間に崩れた。
「────あ」
三種混合魔法は、制御を失い解き放たれた。
そして、爆発。
真っ先に直撃を食らい、チリになる魔族。
世紀の大暴発でもある。
勝利した。
大勝利である。
しかし、大爆発でもある。
「うおぉぉぉぅ! 飛ばされるぅぅ!」
辺り一面を包む閃光。
身を低くして目を細めつつ辺りを見る。
冒険者ふくめ、住人はとうに逃げ切っていたし当然無事。
建物の倒壊はかなり酷いが許容範囲内だろう。
吹き荒れる爆風の中を踏ん張っていると、近くの低い位置から声がした。
「リクトこっちです! 魔法で塹壕を作りまし…………ぐえっ!」
爆風で横合いから飛んでくる瓦礫。
直撃したセレーネ。
「セレーネぇぇ!?」
「…………なにボケてんだカスども。戦況は?」
振り返るとザザが居た。
返事をする気力もあまりなく、そっけなく告げる。
「上位魔族の消滅を確認したよ。そっちは?」
「敵は上位魔族だけだったらしい。上等だよ、カス」
「あの、リクトはカスじゃありません!」
思いのほか元気だったセレーネに、ザザは面倒くさそうにため息を吐く。
爆風は案外直ぐに落ち着いた。セレーネも元気。
しかし俺は疲れていた。歩いて帰るのが面倒だし、ザザにバフかけるから背負ってもらいたい所。
「はぁ。背負わねぇぞ、歩けるだろ」
「もしかしてエスパー?」
「リクト私が背負いましょうか!」
「結構です」
セレーネに背負われるのは恥ずかしいので却下。
ザザが深くため息を吐いて、ギルドに向かう。
ある程度歩くと、振り返り叫ぶ。
「報告すんだよっ、早くついて来いカス!! …………背負わねぇーからな!? お前のが元気だからっ、絶対!!」
ザザは何だかんだ言って、結局のところで、背負ってはくれなかった。
病み上がれなかった病みザザらしい。
なので、俺がザザを背負う事にした。
「…………はぁ」
「リクト、私がまとめてリクトごと背負いましょうか?」
「結構でーす」
俺たちはギルドに向かった。
☆☆☆




