31話。3067字。sideリクト、憧れた背中、上位魔族と魔法。
☆☆☆sideリクト☆☆☆
徐々に崩れた城壁を背にした魔族が目に入る、まさかの戦闘中だった。
剣を振るう魔族は直角に下向いた角を二本持った男。
マチが後方から魔法をうち、前衛には冒険者ギルドに居たオッサン仕草の女先輩もいた。
住人の命を見逃す約束で魔族は冒険者を殺せない。
でも足止めされれば、怪我を負わせるくらい出来る様子だ。
あるいは冒険者は根無し草だから殺してもいいと解釈出来るか?
魔族としては精霊さんのジャッジが曖昧な以上、殺すのは避けているだけかもな。
ボロボロになりながらも、住人の安全が確保されてなお、街を破壊しながら怪我をいとわず冒険者が戦う理由は────見ず知らずのダークエルフの為だけ?
やっぱり冒険者ってのは最高に格好いい!
「リクト、戦闘に割り込みましょう!」
「まだだ、そっちに気を取られて魔族がセレーネに気づいていない。情報を集めよう」
あの日憧れた背中が確かにここにあった。
「ここはっ…………通しませんよ!」
魔力切れ特有のグロッキーな青い顔をしたマチ。
元パーティーメンバーの背中が大きく輝いて見える。
どこか、かつての縁が誇らしい。
「うっぷ、前衛にもっと人を寄越せ…………!」
飲んべえ特有のグロッキーな赤い顔をした先輩。
文句を言いつつも前線に立つその背中は、魔族に腹を蹴られゲロをまき散らしながらこっちに吹き飛んできた。
なんか、かつての縁が恥ずかしい。
「オッサン大丈夫か!?」
「誰がオッサンだ、お前後で覚えとけよ愚図…………」
そうだ女性だった。言動がオッサンに過ぎたんだ。
「ごめん先輩ついでに敵のステータス教えて!?」
「技量含めてざっとオールステータス6000のs級並み、攻撃力は8000以上のバケモンだろうな。最悪な事に魔法も使う」
「マジ?」
「マジだ」
ここで言う魔法とは、本職の後衛魔法使いと同等の威力を示している。
俺が斬撃を飛ばせるのは簡単な魔法だからだ。強力な魔法は剣での戦闘中に使うには複雑すぎる。
悲しいが俺の飛ぶ斬撃は本来ロマンだけの小技で、せいぜい雑魚狩り用。
「スキルは?」
「不明」
剣を振りつつ魔法を行使出来るとしたら魔法を得意とする上位存在という事になる。
そうだね、上位魔族だね。
「だが城壁の断面を見てみろ」
崩れた城壁に目をやると、確かに断面が妙だ。綺麗すぎる。
魔法でも強化された城壁だし、流石にスキルで切ったと見ていいだろう。
「ゲロが出そうなシチュエーションだよ」
「…………出し切ってもう胃液なのでは?」
剣戟に織り交ぜられる魔法は厄介極まりないだろう。
簡単な魔法は最大魔力量で防げる、しかし威力のある魔法をスキルを警戒しつつの近接戦に混ぜられると正直キツイ…………だけど。
セレーネと目が合うと、一つ頷いてくれた。
うん。大丈夫そうだ。
「お前若いんだから下がっとけよ」
先輩が格好つけた様子で立ち上がり、再度前衛に向かおうとするのを肩に手をやり強引に引き留める。
ついでに簡単な解毒魔法と回復魔法をかけておくか。
酔いを醒ましつつ、魔力探知で軽傷を見つけ治すだけの魔法だ。
「安い遺言引っ提げて下がってくれませんか先輩、手はあります」
「へぇ? おっけー後でぶん殴る。いいな?」
魔力探知で…………うそでしょ。
先輩の内臓に深い傷を発見し、慌てて回復魔法で応急処置をする。
これで行くつもりだったの先輩?
…………ホンっト格好いいよ先輩!
「了解了解、避けますけどね」
「よし、死んで来い!」
「お断りですよ、帰ったら奢らせて下さい」
目線を前線に向けると、既に戦闘は止まっていた。
セレーネが来ていると双方が気づき、戦闘の意味がなくなったのだろう。
足を止めて、セレーネを見て笑う二本角の魔族。
「素晴らしい偶然! ああ、気分が晴れ渡る。足止めする一方で差し出してくるとは、人類も一枚岩とはいきませんでしたかね? 汚い汚い、ですが今回は見逃しましょう! ダークエルフの生き血さえあれば許せそうです!」
テンション高いなコイツ。
直角の角が肩に突き刺さって自滅すればいいのに。
とりあえずやる事やっとこ。
「冒険者各位ー! この魔族はこっちで倒すので避難して下さーい!」
「おや生意気ですね。邪魔をしないとでも?」
何故か魔族がわざわざ話しかけてきた。
煽り耐性が種族で軒並み低いくせに、殺戮対象にコミュニケーションを取ろうとは変な奴め。
「オマエは約束のせいで冒険者をうっかりでも殺せないんだ、邪魔出来ないだろ」
「腹がったたのでやりましょうかね~」
この魔族「止めて欲しいならば」と口約束を求めているのか?
人間への悪意に少しの知性を足した存在の癖に、随分と冷静だ。
力による驕りが他の魔族と比べて少ないのは上位魔族だからか?
そして交渉の真似事と来た。
「オマエが見逃さなきゃ戦闘中にコイツ等を盾にするぞ?」
「そういう脅しは私の手では?」
「無理でしょ、間接的な死に関わったらどうなるか分からないし」
「ですねぇ。じゃあ……………………ダークエルフだけ貰っていくとしますか」
瞬間。舐めた態度で一直線に向かってきた魔族に、少し安堵する。
魔族の特性はそうそう変わらないらしい。
舐められてるなら倒しやすくて好都合。
俺が魔族のスピードに合わせて正面に踏み込み切上げると、剣で受けられる。
あと少しで腕を落とせたのに反応しやがった。
剣も使えるとか面倒くさい。
しかも、つば競り合いはこっちが劣勢。
ステータスで負けてる事は確定だ。
にやり、と魔族が嗜虐的な笑みを浮かべた。
「なかなかやりますねぇ?」
こちらを力だけで潰そうとしたのか、魔族の重心が前へ崩れる。
「そりゃどう────も!」
舐め腐ったタイミングに合わせ剣バフをかけつつ、おまけで斬撃を飛ばすために魔力をまとわせて強引に振るった。
────スパッ。
軽い音と共に、魔族の剣が真ん中で切れる。
そのまま剣を突き出し、確かな手ごたえが手に伝わった。
「なかなかやりますねぇ!?」
「どーも」
バックステップで距離を取った魔族は、無傷だった。
避けれる間合いではなかったはずが、いつの間にかその胸元に氷の鎧を纏い、致命傷を避けられた。
近接戦で魔法の同時使用!?
「オマエ、なんです? ダークエルフを渡してくれればそれで良いんですよ、私は」
「こっちの台詞だ。ダークエルフの血を狙ってるとか最低だぞ、そもそもなんで今攻めてきてんだよ?」
「ツリーハウスが壊した下手人を……………………あ。ああああぁぁっ!! オマエは昨日の!!」
半狂乱で身をちぢめ、肩に角をめり込ませながら魔族は叫んだ。
どこか朝のホームルームで転校生に叫ぶ主人公のように。
「昨日私のツリーハウスを倒壊させた魔力跡はオマエのですかっ!!」
「あ、うん」
「私はオマエを殺しに来たんですよ!! 許さないダメだ、待ちなさい私、落ち着かねば落ち着けるか!! 殺してやるぞ貴様ァ!!!」
「えっ!?」
この魔族を呼び込んだ原因って俺かよ!
怒ったままに魔族はグッと身をかがめ剣を低く構える。
折れた抜き身の剣を、いつの間にか魔力の鞘が覆っていた。
どこか、既視感。
まるで────居合?
魔族は構えたまま再度、一直線に突進してきた。
先程とは踏み込みの鋭さが段違いの魔族。
その横合いから────瓦礫が飛んでくる。
「ぐえっ!?」
セレーネの魔法が突き刺さり、吹き飛ぶ魔族。
魔力の混ざった攻撃だったのに思いのほかダメージは少なそう。
【最大魔力量】が高い魔法使いタイプだろうか。
「流石だセレーネ! 作戦はプランGで行こう!」
「はい!」
元気よく頷くセレーネが頼もしい。
今日の朝食中に決めた一度も試していない作戦を今、実行するとしよう。
よし、ガンガンいこうぜ。




