27話。3177字。side潔癖二本角魔族、ぶち切れ深呼吸、sideギルド長、ザザの帰還。
☆☆☆side二本角の魔族☆☆☆
「なんですかこれは…………!?」
拠点のツリーハウスが倒壊していた。
土埃を払うため川で水浴びをし、帰ってきたらこれだ。
配下の一本角の魔族が消滅したのはきづいていたが、まさかアレがここまで無能とは考えていなかった。
「誰だ、誰だ、誰がやった!!」
土だらけの本。
壊れたインテリア。
ぐちゃぐちゃの戦利品たちに眩暈がする。
「ああ、汚らわしい!」
ぞわぞわと鳥肌が立つ。
私の物が汚れた。その事実がひたすらに気持ち悪い。
拳を握りしめると指先で手のひらが破けチリが滲む。
落ち着け、落ち着くのです私。
開いた手には既に傷がない。やはり私は完璧な生命体だ。
誰よりも美しい生物とは魔族だ。
人類を殺そう。
寿命の概念を持つものが知的生命体を名乗るなどお笑い草。
矮小なら大人しくしていればいい物を。
ああ、殺してやろう。殺さなくては。
下手人は誰だ?
配下が死んだ時、水浴びを途中で切り上げていれば下手人を殺せていただろうに…………いや違う。
何故私が下手人のためにわざわざ予定を変えねばならない?
汚らわしい人類風情が。
頭の中で何かが切れる音がする。私に血管はないのに。
体が怒りで満ちていく。
思考と知性がどんどん侵食されていく。
「辺り一面皆殺し、ではなく。冷静になりましょう私。暴れてはダメ…………だったはず」
そうだ、ゴブリンロードの魔力パスが切れたからここに来たのだ。
ダークエルフ以外との戦闘を避けるように命じたゴブリンロードが倒れた。
ならこの付近にダークエルフが隠れている可能性がまだある。
「殺す殺す下手人はこの手で確実に!!」
つまり…………なんでしたかね?
殺しちゃダメだったはず。そう考えていたはず。
「汚い、汚れた、汚らわしい!」
ああ、そうですそうです。
ダークエルフが近くの街にでも潜んでいた場合に暴れると逃げかねない。
なので、大きく暴れる事も出来ないのでした。
特にドラゴンの後で魔族が人を殺すとあらば、あのダークエルフは逃げるでしょう。
今、怒りを人間にぶつける事は出来ない以上、ただただ自身の内側で怒りをためるしかなかった。
「下手人を絶対に殺す。殺してやる、ぶち殺してやる!!!」
下手人の調査をしないと、殺さないと、暴れたい、ダメです、なぜ、分からない、下手人を殺さなくては、落ち着かないと、なぜ。
このままでは怒りに体の支配権を乗っ取られてしまいそうで、思考を増やす。
下手人を殺すためです、ダークエルフを捕まえるためです。
知性で怒りを何とか抑え込む。
「下手人を、殺す」
ああ、しばらくは落ち着けそうもない。
だってこんなに汚れてる。
☆☆☆sideギルド長☆☆☆
「大変ですギルド長! 重症でザザさんのパーティーが帰ってきました!」
「分かった、今は医務室?」
「いえ、ギルド一階ホールに居ます。なんでも、伝言があると」
わざわざギルドホールを指定するとは、どういう事だろう。
「分かった今すぐ向かうよ」
部屋を出て、ギルドホールへ足を早める。
夜更けとは言え、まだボチボチ冒険者が酒を飲んでいる時間。
聞かせて良い事なのか…………むしろ聞かせたい?
僕に『未来視』なんて物があれば良いんだがね。
「やぁザザ君、本当に重症だね。それに、医務室に行かずに伝言とは似合わない真似をする」
そもそも『未来視』があるならザザ君を重症になんてさせないけどね。
まぁ無いものねだりに意味はない。
思考を重ねるのが僕流だろう。
ザザ君は数人に囲まれて回復魔法を受けていた。
支える冒険者の顔が赤い、さっきまで飲んでいたんだから当然か。
座り込んだまま倒れないように支えられ、ザザ君は血を吐きながら言った。
「命令なもんでね」
…………なるほど、ザザ君は負けたのか。
そのうえ生かされて伝言役とはいやらしい。
「命令はこれだけ、一回きりだ。一度しか言わないからよーく聞けよ、ギルド長」
「ああ」
「『ダークエルフを差し出せば見逃す』!!」
そこが来るか。
ダークエルフを追う存在でザザ君たちより強い、上位魔族関連かなぁ。
胃が痛い。
しかし相手さんは相当にダークエルフの優先順位が高いらしい。
これは使えそうだ。
「よし、ここに居る全員にギルド長として命令する!! たった今s級パーティーのリーダーであるザザ 君が発言した内容について漏らす事を禁ずるよ!! いいね!!」
一拍すると「はい」、の声が多重に聞こえてギルドホールを揺らした。
ギルドにいた全員がまとめて返事をくれたはず、これで口約束は成立だ。
対価もなく立場も僕が上、約束に効力はまず無いが多少の意味はある。
特に『未来視』を信じる子には効果的だろう。
「それじゃ、ザザ君を医務室へ運んでくれるかい」
「了解です!」
憎まれ口を叩く余裕もなくなったザザ君に睨まれながら、僕たちは医務室へと向かった。
☆☆☆
医務室にてザザ君はいくらか回復した。
他二人、ゴルド君とマチちゃんはまだ起きないが命には別状ない。
安堵のため息を吐くザザ君に、リクト君とダークエルフ含めた状況を簡単に伝えれば深い深いため息を吐いた。
「やっぱり厄介事はあのクソが関連してやがったか、クソ」
クエストに向かってからザザ君に何があったかを聞いていくと概ね予想通りだった。
やはり上位魔族がダークエルフを狙っている。
となると、ダークエルフに置いておく価値が出てきたか。
ザザ君からザックリと報告を受けて繊細は後日。
休む時間も必要だろうと立ち上がるが、しかし直ぐにザザ君に呼び留められた。
「なぁ。あのクソがダークエルフとパーティー組んでるんだな」
「うん」
「二人まとめて街から追放すんのか?」
まさか、今それは悪手だろう。
ザザ君はリクト君が関わっていない事に関しちゃ正義漢だよなぁ。
どうもある程度は感づいているみたいだ。
「いいかいザザ君、相手は上位魔族だよ? 今街にs級は居ない。街にs級を集めるにしても後数日かかる。いざとなれば引き渡すのが最善だよ」
「俺は人を守るために戦っている。クソが死ぬのは構わないが、ダークエルフを生贄に街を生かすのは反対だ」
「街を守ってきた君に発言権はあるだろう。でも勝てないなら決定権はない。これはもう決定事項だよ、下がりなさい」
「魔族の目に着くようにダークエルフを逃がすくらい出来るだろ」
「却下」
「クソしかいねぇ…………」
魔族に仲間意識は存在しない。だから魔族配下を殺したことは問題にならないだろう。
上位魔族はダークエルフを優先している素振りがある。
そして今、手元にはダークエルフが居る。
手放せばいざ攻め込まれた時に街を守る策はなくなる。
s級が複数人この街に集まるまでは手元に残して、その後さっさと出て行ってもらおう。
その時は、上位魔族が偶然リクト君とダークエルフの痕跡を発見し、この街に興味を失くすように仕向けて見せる。
「話は終わりかな?」
「まだだ、一つ懸念がある」
「なにかな?」
「あいつが引き寄せた厄介事が、一筋縄で終わった試しはない。あんたの毛根が良く知ってんだろ」
リクト君、常識人ぶってるけど頭おかしいからなぁ。
…………というか。
「僕、禿げてないからね。マジで」
なんでバレてるんだろうなぁ。マジで。
リクト君は妙な噂まで流しているようだし。
育毛魔法については情報統制を徹底している。
絶対に、確実に、疑うような情報は一つとして漏れていない。
だというのに。
才能ある冒険者は勘が鋭くていけないねぇ。
ああ、ギルドホールで『ダークエルフを差し出せば見逃す』って話の情報統制をワザと緩くしたのは失敗だったな。
リクト君たちを速く追放したかったが、魔族の強さが予想以上だ。
リクト君が倒せるレベルの魔族の上司ならと舐めていた。
しくじったなぁ。明日リクト君を呼んで暫く街に留まるよう言わなきゃ。
「…………ん、ザザ君まだ何か要件ある?」
「んん~? 次のギルド長ストレス作戦には俺も参加する事にしたわ」
「えー?」
最近の若い子分かんね~。




