26話。1673字。恩とこれから。
ギルド一階のホール。
最後の一口を丁度食べ終えたセレーネを見つけた。
席も変わっておらず、報酬金の袋が少し瘦せているだけ。
この子、パンを渡して大人しくして貰うのが一番かもなぁ。
「あ、リクト。報告お疲れ様です」
「ん、ありがとー」
「それはこっちのセリフなんですよ」
腰に手を当てて頬を膨らませ、わざとらしく怒ったフリをするセレーネ。
「今回また助けてもらって、返す恩が増えちゃいました」
魔族との戦闘と、恐らく上位魔族がまだセレーネを狙っている事は帰りの馬車で伝えてあった。
セレーネ本人の事だし、俺がドラゴン戦に遅れた時に戦闘音を聞かれていたので、誤魔化せなかったのだ。
選択ミスったかな?
「十分返してもらったけど」
恩返しをしたいと言うセレーネに腰の剣を指さす。
剣バフという大きすぎる恩を俺は受けている。
むしろ俺が恩を返し切れていない立場だろう。
「そちらの対価は既に貰ってるので結構です。返品対応は致しかねます。そのため、恩返しは別途行わせていただきます」
なんて平坦な声でしょう。
命令権を破棄して帳消しとかでは無いのか。
まぁ流石に釣り合わないしな。
「なので何でも言ってくださいね!」
…………セレーネも似た事を考えているから引きさがら無いのかな?
俺がもう十分と言っても、セレーネは「まだ恩を返せていない」と言う。
お互いに気持ちの問題なのかもしれない。
恩を恩で打ち消す事をセレーネが望んでない以上、俺は別のお願いをして恩を消した方が良いか。
あぁ、丁度いいのがあった。
「じゃあ一つお願いしたいんだが良いか?」
「何でもどうぞ!」
「無理にとは言わないんだが、出来れば数日中…………3日内に、この街を出て、あちこち旅をしたいんだ」
一か所に留まる事は魔族の目に留まるリスクになる。
人助け旅行くらいのノリでセレーネを誤魔化しつつ上位魔族の追っ手を完全に振り切りたい。
追っ手は渡航しても撒けなかったらしいが、ゴブリンロードが共通している事から1グループなはず。
なら追っ手を一度振り切れば、どこかで根を下ろし他の魔族に見つからないよう地味に活躍するくらい出来るだろう。
考え事をまとめつつ、ふとセレーネを見てぎょっとする。
「絶対に嫌です」
震えた声だった。
目尻に溜まった雫は今にも零れ落ちそうで。
心配の声をかけようとして、セレーネに遮られる。
「もしかして、私の種族について知ったんですか」
「え?」
「だから母親みたいに旅を提案するんですか。私の所為でリクトがこの街を出ていくなんて絶対に嫌です」
セレーネは前に田舎者と言っていたが、きっとセレーネ達は身を隠していたんだ。
そして魔族に見つかった。
あれ。
じゃあ俺の提案って?
「…………俺が君と世界を見て回りたくなった、とか駄目?」
「なら私だけで街を出ます。逃げ切って見せます」
…………逃げ切れるかもしれない。
そうだ、セレーネは極度の迷子だ。
自分で制御できないが、予想外の逃げ方においては右に出る者はいないだろう才能。
才能『迷子』はダークエルフとして身を隠して生きていくための種族特性?
なら、逃げて過ごす一生を許容しろってのか?
「悪かった。前言撤回する」
ふざけやがって。
一緒に逃げるなんて論外だった。
そこで掴める幸せなんて高が知れてる。
「だから、そう。魔族だろうが何だろうが、ぶっ倒そう」
「敵は上位魔族ですよ?」
「仲間だろ、困ってるんだろ。敵が誰かは関係ない」
そんときゃ頼ってね、って話だ。
セレーネが数秒ぽかんとフリーズし、再起動すると頭を抱えて悩みだした。
「………………………………二人で逃げるか、二人で戦うか選べって事ですよね。どっちが良いと思います?」
「戦って勝つ。そんでセレーネは自由になってハッピーエンド!」
セレーネはため息を吐いて少し笑った。
「はぁ、笑えて来ますね」
「セレーネは笑顔が似合うよ」
「なら…………もう少しだけ、一緒にいて良いですか? ハッピーエンドを、一緒に笑ってくれますか?」
二人で戦う事を選んだセレーネの作り笑いに頷いて、手を差し出す。
「ああ、これからもよろしく」
「はいっ!」
握手と同時、セレーネは満面の笑みを浮かべた。




