3話。3467字。いずれ最強のバフスキルを手に入れた?
案内された神殿内部は想像より質素なつくりで出来ていた。
しかし、神聖な場所だと肌で感じる。
「こちらでーす」
この世界に来てから魔力や殺気など、妙なものを感知出来るようになったがこれまた不思議な……。
「ではこの魔法陣の上に立ってください」
案内のまま奥まった部屋についた。
地面の魔法陣に近づくにつれて、肌がビリビリと何かを感じ取っている。
俺の様子を見て心配したのか、お姉さんが頭を撫でた。
「大丈夫、怖くないですよ。スキルを授かるのも一瞬ですからね」
「……ありがとうございます。では、お願いします」
父親の手が背中を押した。
「安心して行ってこい、すぐ終わる」
意を決して、魔法陣へと踏み出し上に乗る。
チカリ。
足元が光り出した。
小さな光だが秘めたる魔力は甚大。
肌どころか、魂そのものが震えるようだ。
「…………………」
しかし、俺はこの間何をしていればいいのだろう。
お姉さんの応援でもしようかな。
これからきっと、神官のお姉さんが詠唱したり、道具を使って儀式をするんだろうし。
なんか、足元の光はもう消えてるけど。
疑問に思い振り返ると3つの椅子をいつの間にか出したらしく、2人はすでに座ってくつろいでいた。
「あの~スキルの儀式とかって直ぐにはやらないんですか?」
「さっきので終わりですよ?」
……え。
そんなアッサリ?
「こっちで一緒にスキルの内容を確認しましょう。クッキーもありますよ」
「どんなスキルが出ますかねー」
「レアだと良いですけどねえ」
観戦気分じゃん。
ポップコーン片手に他人のスキルをエンタメ扱いかこの2人。
もっと人生左右する感じで重く受け止めたかった。
「強力なのも良いですけど一般的なスキルのほうが練習法が確立されていていいのでは?」
「良し悪しですが、使いこなせば基本一般スキルより強くなるので何とも」
「まぁ神のみぞ知るってやつですかね、はははは」
「ですです。神官にある決定権なんて明日のおかず位ですからね」
今のは神官ブラックジョークなのだろうか、判断に困る。
黙っていると何時までも喋っていそうなので、椅子に座り話を切り出した。
「あのっ、スキルの確認は?」
「失礼しました。では、覚悟が出来次第どうぞ」
「……はい?」
こっちに振られても困る。
見回しても水晶とかそれっぽい物も無い。
キョロキョロしてると、神官としての顔をしたお姉さんがゆっくりと告げる。
「いつも通りで良いんです。ステータスオープンと言ってください」
「え? なんですそれ?」
「……マジですか?」
「マジかお前」
白けた空気に父親が呆れたようにため息をつく。
「ステータスオープンと叫べば自分の能力値や状態を見れるって前からずっと言ってきただろう」
「あれって正気だったの!?」
嘘じゃなかったのか。
神官のお姉さんも頷いているし、本当なんだろう。
「それしかないの?」
「はい」
仕方ない、今は恥ずかしがっている場合じゃない。
叫んでやりますよ。
「くっ、ステータスオープン!!」
目の前に半透明なステータスを表示したウィンドウが現れた。
【ステータス リクト
最大魔力量 500
攻撃力 130
防御力 110
素早さ 120
器用さ 250
スキル名────
】
…………スキル名から目を逸らし数値を見る。
この数値ってどんなもんなんだろうか。
「ステータスオープンと念じれば自分だけに見えるから今後はそうしろよ」
「えっそうする」
いや待て待て。
今まで叫べば出るとしか聞いたことなかったのはどういう悪意だクソ親父。
2人にもステータスウィンドウはみえているらしく視線が空をなぞる。
「7才の平均ステータスは100ほどですから、中々将来有望ですね。それに魔力量では大人顔負けの数値です」
「素早いとは思っていたが思いのほか素早さが伸びてる。しかしこのスキル…………」
ステータスを見ていた2人が唸る。
「「ううーん」」
パラメータと共に記載されたスキル。
その能力は『自身のステータスを一時的に減らし、その四倍の数値を自分以外に付与できる力』
「見たこともないレアスキルですが、どうやら他者を強化するバフを使えるようですね」
「……強力すぎるな。既存のバッファーの上位互換に限りなく近い」
話を聞きつつクッキーをつまむ。
これ美味いな。
「ねぇ、神官のお姉さん。俺にバフをかけてくれない?」
「ふむ、良いですよ。とびきりの中級バフをかけて上げましょう!」
神官のお姉さんが俺に手をかざすと、魔力が手に集まり編まれていく。
すると突然、体が軽くなった。
────ステータス。
【ステータス リクト
攻撃力 130+200
】
「でも、どうしてバフを?」
「うーんと、お姉さんのバフで増えたステータスを4倍にして配れたら良いなーって」
「…………なるほど。え、初見でその発想にたどり着くの?」
神官のお姉さんが小さく呟いた。
けど前世のゲームでステータスを知っていたから、ちょっとズルだ。
「リクト。残念だけど、バフは基本基礎ステータスからだけだ」
「うーん、じゃあ、100人のバフ使いが1人の対象にバフを重ねるのは?」
「バフで重ね掛けは無理だと聞いた事がある。ステータス別にバフってなら出来たと思うけど」
これも駄目か。
なんか見逃してるメリット、デメリットがありそうだよなぁ。
テーブルのクッキーを頬張っていると、父親が立ち上がりお姉さんに礼を言った。
「本日はどうもありがとうございました」
「いえいえ、ご近所さんですし何かあれば何時でもいらして下さいな」
ニコニコして手を振るお姉さんに俺も頭を下げ礼を言う。
「ももふぁもももふぁもふぁふぁーふぁ」
「また来た時はクッキーだしますね!」
トンチキ神殿をでてお姉さんと別れ、村へと向かう。
道中で父親が心配そうに俺を見た。
「そのスキル、あんま人前では使うなよ。できればここぞって時以外は使っちゃだめだ、その力は強すぎる」
「あー、了解」
言われずともこのスキル名は言いたくないし使わないだろう。
ステータスオープンと心の中で念じて、ステータスのスキルをもう一度見る。
【ステータス
スキル名──『レート4倍みたいなバフで最強目指しちゃう的なスキル』
】
バッッカみたいな名前。
間抜けだ。
神殿名といい、随分ふざけた神らしい。
人前では使いたくないスキルだし、使うこともないだろう。
☆☆☆
帰り道。
家の方角から黒い黒い煙が空高く上がっていた。
火事……じゃなさそうだ。
殺気と魔力がここからでも感じ取れる。
父親が切羽詰まった様子で俺の肩をつかむ。
「来た道を戻れ、お父さんは急いで村に向かわなきゃならなくなった」
「待って!!」
俺は返事も聞かずに背を向ける父親を咄嗟に呼び止めた。
何もできないのは嫌だった。
あとから理由を考えて、スキルを思い出した。
「『レート4倍みたいなバフで最強目指しちゃう的なスキル』!! お願い、俺も連れてって!」
父親が言ったんだ。
俺のスキルは強いと。
「なっ! このバフは…………想像以上だな」
問答する時間はない事は百も承知。
でも、俺を置いていくよりバフを受けて走った方がずっと早く村につくのなら会話に意味はある。
父親は一瞬足を止めた。視線が空を泳ぐ。
おそらく自分のステータスを見てバフの影響を換算したのだろう。
「バフが効果時間でなく影響範囲なら確かに、いやでも、時間もないし」
父親が「あーっもう!」と叫んで、俺に浮遊魔法をかける。
「わかった連れていく。これだけ強化されるなら背負っても良いだろう。しかっり捕まれよ」
「了解!」
「やばいと思ったらすぐに逃げろ。行くぞ」
服の首元に捕まって、舌をかまないように歯を食いしばる。
父親の足に魔力が集まって徐々に魔法へと変わる。
出発までの数秒間。
父親が振り向きざまに言う。
「さっきスキル使った時に叫んでたけどさ」
「う」
必死になって恥じ入る暇もなかったが、思い起こすと恥ずかしい。
なんだよ、『レート4倍みたいなバフで最強目指しちゃう的なスキル』って。
この世界では慣れるしかないかも知れないが、もし弄ってくるならこれからクソ親父と呼ぼう。
そんな決意とは裏腹に、声には同情と哀れみが乗っていた。
「スキルは念じれば使えるぞ」
「…………先に言ってよぉ!」
ああっ恥ずかしい!
ステータスも念じれば使えたし、考えれば叫ばないで済んだんじゃないか?
歯を食いしばり叫ぶこともできぬまま、おぶられて村へと向かった。
「あぶしっ!」
「ぐべへっ!」
「とりどっ!」
親父は慣れないステータスの上昇により、道中数回転んだ。
バフ中はステータスが低下する俺が生きてたのは空中浮遊の魔法のおかげだった。
デメリットが大きい。
このスキル、ハズレか?
あ。
でもこのスキル、魔力を一切消費しなかったな。




