21話。1812字。迷いの森…………嫌な予感、チートスキル。
お姉さんのクエストを受けた俺たち。
緊急性から流れるように馬車に乗せられ、揺られ揺られて三時間。
馬車の外、景色の中に森が見えてきた。
「あちらに見える迷いの森でドラゴンが確認されました」
迷いの森か…………嫌な予感しかしない。
「セレーネ、こうなったら単独行動になる前提で動こう。俺が見えなくなったら呼んでくれ」
「それが良いですね」
「警戒のし過ぎかと。この森は魔法の迷宮とかではなく、気をつければまず逸れる事はないですよ」
「…………もちろん依頼は完璧にこなします!」
「…………俺は一応準s級なんだ、安心してくれよな!」
「…………頼らせていただきますね」
沈黙の数だけ冷や汗をお互いにかきつつ、馬車は止まった。
道中でも聞いた話を、繰り返すように彼女は言った。
「ドラゴンが出てからは誰も入っていませんが、まだ山菜取りから帰らない者が一人います。私の同村で、名をスズ。どうか、どうか、よろしくお願いします」
深く頭を下げる彼女に頷いて俺たちは森に向かった。
森の入り口についてから、準備不足を思い出し立ち止まった。
「どうしました?」
あぁ、これ馬車で先にやれれば良かったな。
「早速だが戦闘に備えておきたい。セレーネは俺に、俺はセレーネにバフをかけよう」
「うーん、リクトに【攻撃力】と【防御力】を+4000くらいかければいいですか?」
「えっ?」
それだとセレーネの【攻撃力】が1100も余るがどういう意図だ…………?
「全種類のステータスを、あるだけ全部だ」
「ええっ!? でも自分のステータスが0に…………あ、なるほど。バフで増えるからですね」
手元で抱えてもステータスは1にしかならないが、バフに変換すれば4倍になる。
俺たちなら余すことなく渡すのが基本になるだろう。
「操れる範囲なら、だけどな」
「救助者もいますし、全ステータスで」
ステータス減少とそれを戻した時のステータス上昇を俺たちのスキルは多くこなす。
バフでいくらかステータスが伸びても、慣れるのに時間はいらないと確信があったが、セレーネも同じらしい。
「…………あ。【最大魔力量】はいくらかお互い残しましょう」
「え……………………あ。そうじゃん忘れてた!」
剣バフはバフだ。
バフは+ステータスではかけられない以上、剣へのバフように【最大魔力量】を残す必要があったのだった。
「超ナイス、【最大魔力量】は300も残せばいいかな?」
「十分かと思います」
「んじゃ、せーのでバフな。せー、のぉー」
手を前に出してハイタッチの要領で軽く打ち合わせる。
────『レート4倍みたいなバフで最強目指しちゃう的なスキル』
そうして、俺たちはステータスを4倍にしてトレードした。
────ステータスオープン。
【ステータス リクト
最大魔力量4400
攻撃力8400
防御力8000
素早さ5200
器用さ4400
スキル名────『レート4倍みたいなバフで最強目指しちゃう的なスキル』
】
とんでもないステータスだ。
見たことない数字が並んでいる。
一部ステータスで言えば、寝物語の伝説にすら届いているかも知れない。
「魔力はここまで使わないしセレーネにいくらか戻したいが…………」
「ええ、私も【攻撃力】が。ですが…………微調整は後ですね」
「ああ。────助けに行こう!」
俺たちは森へと踏み入った。
ドラゴンのねぐらへと続く道。
警戒しながら、俺は走る。
俺だけで走る。
隣には誰もいない。
「…………もう迷いやがった」
互いにかけたバフがまだ切れていない。
そう遠く離れてはいないだろう。
────ふわり、と魔力が震える。
精霊さんのジャッジでセレーネの命令が通った証だ。
命令は離れていてもぼんやりと理解出来た。先の取り決め通り「はぐれたから迎えに来て」との命令だ。
体の操作権を精霊さんに預け、俺はセレーネと合流する。
「リクトに提案があります。人を探す以上、二手に分かれませんか? 私が5分置きに呼び戻せばバフの効果範囲から出る事もないではずです」
ドラゴン自体は今のステータスならお互いに一人でも対処できる。
もしも万が一、セレーネがドラゴンと出会って動けなくなったとしても…………精霊さんで俺を呼ぶことが出来るしどうとでもなる。
「……いいね。セレーネ、追加でこう命令しないか? 異常を感じたら、スズかドラゴンを見つけたら、可能なら合流しろ、って」
「リクト側から私の位置に合流するためですね、おっけーです」
セレーネが命令を口にしたのち、俺たちは自分の意思で森へと散った。
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