19話。2509字。デート、受付にて。
歩いている内に顔の熱も収まり、バゲットサンドを食べる余裕も出てきた。
半分ほど食べ進めて、後ろをちらと振り返る。
「手を繋いだって事は、色々あって、つまり…………プロポーズですか?」
「違うんじゃないかな」
セレーネもいつも通り百面相していて元気そうだ。
切り替えてアクセサリーの露店に足を向ける。
すぐに着く距離だ。
セレーネを見ると…………手にバゲットサンドを持っていない。パン好きも相変わらずかな。
いや、俺より先に正気に戻って食べていただけか?
恥ずかしいので、この考えは止めよう。
切り替え大事。
「よし、着いた」
品ぞろえが良いと噂のアクセサリーショップ。
露店なので洒落た雰囲気でもないが、ぱっと見でも種類とデザインに富んでいた。
ネックレス、イヤリング、ブレスレット、指輪…………。
小さな宝石がはめ込まれていたり、凝った意匠が彫られていたり。
しかし露店だけあってかお安めだ。
俺の受け取る分の畑仕事の報酬だと少し予算オーバーしそうだが、まぁ仮にも元s級に居た身だ。
問題ないだろう。
「ではこれで」
「決断が早いね」
もう少し悩んでも良い物だけど。
セレーネの手元を確認すると、指輪を持っていた。
四つ葉を彫られた簡単な物で、店頭に並ぶなかでも相当安め。
値段はざっくりとクエストで受け取る俺の報奨金半分ほどだろうか。
…………うむむ。
なんだこの気持ち。
どこか俺の中に高い物を奢りたい気持ちがあったのだろうか。
いや、違うか。
かける言葉を探っていると、露店の店主が営業を始めた。
「おいおい嬢ちゃん、もっと綺麗な宝石付きもあるぜ?」
「これが良いんです」
「後ろの兄ちゃんにも男を見せるチャンスをあげねーとよぉ?」
「今日二人で手に入れたお金で、彼に贈ってもらうから、良いんです」
俺としては、喜んで欲しいだけだ。
最善を決めるのはセレーネで、遠慮を排したいだけ。
喜んでいるなら俺も笑えばいいのだろう。
言葉も纏まったと、セレーネと店主の会話に割って入る。
「同じ理屈でも予算を倍にするくらい出来るよ?」
「いえ、これをお願いしたいんです」
「兄ちゃん、そりゃ野暮だぜ。俺は受け取れねぇよ」
店主が、金を、拒むな。
…………まぁいいか。
店主にセレーネの持つ指輪の代金を聞き、支払う。
「まいどー。あ、それね。幸運の指輪、ってのが売り文句だ。幸せになんな!」
「あんがと、おっちゃん」
「ありがとうございます、おかげで幸せになれそうです」
手に入れた四つ葉の指輪をセレーネが渡してくる。
うーん、良く分からない。
とりあえずそのまま返してみる。
「えーっと、どうぞ?」
「はい、ありがとうございます!」
花咲くように笑うとセレーネは弾む足取りで前を行く。
可愛い。
とっても可愛いセレーネは雑踏に紛れて消えた。
「これ才能だぁ!」
しかし慌てる時ではない、策はあった。
ババアとの接敵で気づいた事だが、精霊さんを介した契約では互いに魔力パスが繋がる。
命令権を何とか辿ればセレーネと会えるはず。
「あんまり魔法得意じゃないけど、このくらいの距離なら…………」
…………居場所、分かんない。
慌てる時らしい。
「セレーネ~! どこ~!?」
恥は一旦捨てよう。
切り替え大事。
ひとまず、ギルドに向かい馴染みの受付嬢に来たら引き留めるように頼む。
次いで宿屋にも伝言を頼み、キラキラした露店を速足で通り過ぎる。
「いない! もしかしてこのままパーティー解散するのか…………?」
それから、セレーネが見つかったのは日が暮れだす頃。
ギルドに戻ると、馴染みの受付嬢と雑談しているのを見つけたのだ。
「あ、リクトこっちです! 達成書を提出しましょう!」
「お前あとで言いたい事があるからな」
「…………指輪ありがとうございます!」
「それじゃないよ」
セレーネは一旦置いといて、受付嬢に達成書をさっさと渡して報酬を貰う事にする。
軽く声をかけると、どこか呆然としていて笑顔も引き攣っていた。
「あのー、クエストの達成書を受理して欲しいのだけど…………」
「え、はい。ちがうちがう、え、指輪って何ですか?」
「なんか…………流れで?」
手渡した達成書を素早く処理していくなか、器用に雑談を振って来る。
しかし、どうも指輪を贈った合理性は説明できそうになかった。
「そ、そうですか。まぁ君はそういう人です、分かっていましたとも。…………ではこちら報酬金です」
「あぁ、どうもありがとう」
良く分からないが納得したらしい。
後ろにいたセレーネと報奨金を半分に分ける。
これからどうするか。
外を見るともう暗くなり始めているし、今からクエストは危ないだろう。
「セレーネ、今日の予定だが解散でいいか? なにか提案とかあれば言って欲しい」
「帰る自信ないので一緒に宿屋へ帰りたいです」
────バキリ、と背後で砕ける音がした。
振り返り受付嬢の方を見るとペン先がどうも壊れたらしい。
まぁ問題なさそうだな。
「おっけー、でも寝るには早いし暇じゃないか?」
「でも、また迷うといけませんし」
「うーん、じゃあさっきの言いたい事は今言った方が良さそうだな」
周りには馴染みの受付嬢しかいないし、コレくらい喋っても問題はないだろう。
セレーネを探すなか思いついた迷子を解決する方法を早いうちに伝える事にした。
「俺への命令権を使ってセレーネが「4時間後に来い」と言えば良いんだよ。魔力パスがあるし精霊さんのパワーで俺が操られて合流できるんじゃないかな」
「なるほど! しかしタイミングしだいで大変な事になってしまいますし、そもそも迷惑に…………」
「そもそもは結構だ。これは対価なんだし。ただタイミングはちょっと検討しよう」
セレーネは、体感で4時間後に俺を呼ぶ、と街に繰り出していった。
これで話は纏まった。
夜の街に、好奇心旺盛な美女。
少し心配だがステータスを思えば心配するべきは相手だろう。
「色々すまん、受付前で騒がしくして…………」
「……………………」
受付嬢へ振り返り、謝罪を告げる。
そんな中で気づいた。
返事がない。
それどころか意識がない。
「大丈夫か!?」
受付嬢は気絶していた。
回復魔法をかけて人を呼ぶと、速やかに医務室に運ばれていく受付嬢。
「いったいなぜ、誰かが仕組んだ? …………いや、考えすぎか?」
原因は一体…………?




