18話。1732字。迷子、デート。
「こっちの森にセレーネちゃんは向かってた。ここなら私の孫息子が、良く虫取りをしてるから、聞けばすぐに場所が分かるよ」
「街にこんな場所あったのか」
畑の奥にあった小さな森。
虫と小動物が良く目につくが魔物や獣の痕跡は見当たらず、日が薄く差している穏やかな空間だった。
「セレーネが居なかった時のペナルティは?」
「精霊さんと好きに決めな」
しばらく歩くと、落ち葉を踏んで駆けまわる少年が見えた。
10才くらいで、手には虫取り網。首から籠をぶら下げている。
恐らくお孫さんだ。
そして直ぐ近くにはセレーネも居た。一安心だ。
「おーい」
「あれ? ばーちゃんどしたの?」
「お手柄だよ。その人は探し人でね、お菓子をあげる」
「…………えっこわ」
怖がる要素ないはずだけど、さては孫に碌なイメージを持たれていないな。
一丁前にしょげて居るババアに直すべきは性格だと教えるべきか?
「ちょっと待ってよ! お姉さんともうちょっとだけ…………」
「孫、やめておきなさい。馬に蹴られるよ」
「…………えっこわ」
ナマハゲみたいな効き方してる。
ババアはお菓子あげただけで同じ反応だったけど、あんたナマハゲと同列なの?
横の二人を気にしつつ俺はまた迷われると困るのでジッとセレーネを見つめる。
すると何故か照れながら、こちらへ来る。
「すみません、はぐれてしまって」
「あぁ、それは良いんだ。…………そのだな」
…………俺はババアと口約束をしている。
そう、精霊さんのいる世界で口約束をしているのだ。
「えっと、カラフルな蝶が居たんです」
破れば何らかのペナルティ。
最悪能力を失いブタになる。
そもそも破れない様に体が勝手に動くことすらある。
まぁ買い食いに誘うだけだが。
「それに少年から蝶を見せて貰ったり」
「この後良ければ買い食いでもしない?」
「文脈が……………………ぜひご一緒させて下さい!」
無事ミッションコンプリートだ。
精霊さんの魔力パスも切れ、約束の効力は完全になくなっていた。
予想通りだ。
俺がデートと認識出来る範囲内なら良しで、デートの実行の有無や成功失敗は契約に含まれていない。
「菓子が湿気る…………いやこれも味か」
横のは無視で良いだろう。
セレーネがお孫さんと少し挨拶を交わしてから、二人森を出る。
☆☆☆
しばらく歩いて街の大通りに戻って来た。
後はギルドに報告に行けば任務完了。
だからまぁ、ゆっくり歩く事にした。
「セレーネ、報告は後にしてこの辺を見ていかないか。少しは案内もできる」
セレーネと約束したのは変わらないし、わざわざ約束を破る事もないだろう。
「良いですね、何があるんですか?」
「露店で言うと…………歩いて食べれるバゲットサンド、服屋に花屋。アクセサリーも合ったかな…………」
「悩ましいですね、ここはパンで」
「即決だったけどなぁ」
直ぐ近くにあるパン屋の出店に向かう。
二人で味を決め、ババアに渡された袋から代金を支払った。
近くのベンチに座り、パンを食べる。
セレーネにサテトおばあちゃんがお小遣いで袋に少し駄賃を入れてくれたと説明し、ふと思う。
「今日はセレーネ大活躍だったし、今回の報酬でなにか奢らせてよ」
なにパンかな。
バゲットのお替りもあるぞ。
「では…………」
頬を染めたセレーネは俯きながら、いつもよりずっと小さな声で呟いた。
「アクセサリーとか、どうでしょう」
予想外。
だからこそ。予想外の趣向は、きっと勇気を振り絞った告白だったのだろう。
「良いね、きっと似合うよ」
褐色肌でも分かる程に顔は赤い。
「じゃ、食べながら露店を物色しようぜ。ここはそういう街だからさ」
下を見たまま動かないセレーネの、バゲットを持っていない手を引いて前を歩く。
前を歩くのは、セレーネが顔を見られたくないだろうと思ったから。
視線を地面に向けたまま歩くセレーネを連れて少しすると、目の前にアクセサリーを売る露店が見えた。
「次は、右に曲がろうか」
手を引いたまま、少し遠回りをする。
手をつなぐのは、セレーネが迷子になると困るから。
繋いだまま少し遠回りに歩くのは、顔から熱が引く時間が欲しいから。
繋いだ手が熱いのは、きっとセレーネの熱だ。
きっと俺の熱ではないはずだ。
しかし、顔から熱が引かない。
もう少しだけ遠回りをしようと、手を繋いだままゆっくりと街を歩いた。
☆☆☆




