17話。4674字。初めてのクエスト、畑のサテトさん、報酬。
ソロs級試験の合格から1日。
今日から俺たちc級パーティーの活動が許可された。
そう、c級パーティーの活動が今始まる!
「なんでc級なんですかね? 私一応A級ですしリクトは準s級でしょう?」
「登録時点では元s級パーティーのソロc級だったから、俺のランクに引っ張られた形かなぁ」
もう一度登録しなおせばA級パーティーとして再登録されるはず。
「再登録してこようか?」
「いえいえ、ゆっくり実績を積んでいくのもありかと思いますよ」
「一理ある、そうしようか」
俺たちの連携を確認する必要もあるし、慎重に行くのも悪くない。
セレーネは賭けでも勝っていたし、意外と冷静な判断が得意なのだろうか?
「一緒にお喋りしながら薬草集めとか一回してみたかったんですよね!」
「それも良いかもね」
やっぱエルフ、じゃなかった。
ダークエルフ分かんない…………。
長寿感覚が影響しているのかもな。物事を長い目で見れるだろうし。
しかし、ダークエルフ関係なくセレーネの特性の可能性高いんじゃなかろうかと根拠もなく思う。
「では、どんなクエストを受けますか?」
セレーネがいくつものクエスト依頼が貼られた壁を指さす。
初めての依頼。そして俺たちのパーティー方針でもある。
「俺は人助けがしたい」
薬草採取もそういう意味でありだ。
「君は?」
「あなたの側なら何処でも………………あ。その、えと、恩返しをさせて下さい!」
「あ、いや。気にしないでホント」
…………ビックリした。プロポーズされたのかと思った。
「ええっと、じゃあc級クエストのこれとかどう?」
「行きましょう行きましょう」
そのまま紙を壁から取り、逃げるように受付に向かった。
馴染みの受付嬢に苦い顔で「イチャつくな」と指導を受け、平身低頭に無事クエストを受注。
c級クエスト。
依頼主、サテトおばあちゃん。
依頼内容、畑仕事の手伝い。
これが俺たちの初任務だ。
☆☆☆
「ギルドから手伝いにきました、リクトです」
「セレーネです!」
「サテトさんでお間違えないでしょうか?」
「依頼書は持ってきてるかい? ああこれだね、うん、うん、間違いなくあたしの依頼だ。頼めるかい?」
「「はい!」」
セレーネと二人返事を返す。
やってくぞー。
…………何をやってくー?
セレーネを見ると既にサテトおばあちゃんに鍬を貰っていた。
「これで畝を立てて欲しくてね」
「分かりました。これでも経験者ですのでお任せください」
「助かるよ、土作りは終わってるから高さと幅を、このくらいで畝を作ってくれるかい」
「お任せください!」
よく分からない会話を済ませ、ウキウキした足取りで畑へ進むセレーネ。
生温かい目で取り残された俺を見るサテトおばあちゃん。
「リクト君ね、初心者でも簡単に覚えられるから安心してね」
「はい…………」
ちゃうんす。
箱入り息子じゃなくて、村では狩りをやってて…………。
思えば狩りだけだったような。
もしや甘やかされていたのか?
「箱入り息子です。やる気はあります、教えてもらえませんか?」
「うん、うん。後でお小遣いあげるからね」
文脈を無視ししないで欲しいなぁ。
その後、ほんの5分で畝立てのレクチャーは終わった。
やりながら修正した方が速いとの事。
俺が畝を作り、横でサテトおばあちゃんがアドバイスをしていく。
畝の半分ほどが出来るとアドバイスも言われなくなってきて、雑談が始まった。
せっかく人を雇ったのだし家で涼めば良いとも思う。
しかし自分の大切な畑なら、監視という意味もあるかも知れないなと何も言わずにおいた。
持ち運び椅子に座って、大きな帽子を被り、コップの水を飲む、そんなサテトおばあちゃんを見るに話したいだけかも知れないし。
「もう年でねぇ、土作りしたら腰を痛めちゃって。今年で最後って決めた所だったから、あなた達みたいないい子が来てくれて嬉しいわぁ」
「簡単な回復魔法ならかけましょうか?」
「あら、お願いできる?」
サテトおばあちゃんの曲がった腰に手を当て、魔法を使う。
みるみる内に背が起き上がりサテトおばあちゃんがピンと張った背で鍬を持ちあげた。
回復魔法にそんな効能は無い!
「元気になったわ」
「ボケないで下さい。処理しかねます」
「まだボケてないわ」
「頭にも回復魔法かけときますね」
なんか疲れる。鍬を振るうための筋肉とは別の所が疲れていく。
やっぱり喋りたいだけか、この人。
隣のレーンではセレーネが黙々と鍬を振り一つ目の畝を完成させていた。
サテトおばあちゃんが目を見開く。
「完璧な畝…………」
そんなのあるのか?
「引き続きお願いねえ~」
「はーい!」
「それでねリクト君」
会話のバトンはしばらく俺らしい。
まぁ、会話が苦な訳でもなし、セレーネの方が優秀とくれば仕方ない。
「せっかくだし、ちょっと鍬持たせてくれる? お手本よお手本」
「腰、腰。本気ですか?」
これで腰壊れたら責任問題にならないか?
ならないとは思うけど責任感じちゃうって。止めた方が良いって。
「慣れれたものよ畝くらい、かんたんかんたん。それに最後だし、思い出にと思って」
「…………では、バフをかけさせて下さい。それなら予防にもなるし負担もグッと減るはずですので」
自分の意思の弱さが嫌になるね。
────『レート4倍みたいなバフで最強目指しちゃう的なスキル』
対象サテトおばあちゃん。バフ【オールステータス】+400【防御力】+4000【器用さ】+5000。
バフをかけ終わると、サテトおばあちゃんが一振り。
すると続けざまに二振り三振り。
「鍬が軽い! 鍬が軽いわ! もっとバフ盛れたりするかしらリクト君!」
「あっ、はーい。【オールステータス】+100」
みるみる内に畝が立っていくと、残り半分を全て終わらせてしまった。
「そろそろ変わりますよ、サテトさん」
しかし返事はない。
その視線は、いつの間にか一人で2つ目の畝を完成させたセレーネに向いていた。
「リクト君、バフは盛れる?」
「あっはい。【素早さ】+400」
【防御力】も高いし、コレくらいなら大きな怪我もしないはず。
しかし、はしゃぎすぎ過ぎだ。万が一もあるし注意はしておこう。
「無理はしないで下さいね! 関節とかは抜けるんで!」
「これなら…………行ける!」
…………無理してでも敵を止める主人公みたいな事言いやがった。
「勝負といきましょうセレーネちゃん!!」
「分かりました!」
なにも分かってないよ。
寿命使っても勝ちにいく腹づもりだよその人。
どうにかして止めようと絞りだす言葉は空を切る。
畑にはどんどん畝が出来ていく。
もういいや。聞く気ないもの。
日陰で涼もう。
持ち運び椅子と、その上におきっぱのコップを持ち日陰に移動。
少し離れた位置から二人を見る。
速い。特にサテトおばあちゃんが速い、というか上手い。
ステータス【素早さ】ではセレーネが上だがテクニックで埋め合わせている。
しかも慣れないステータス上昇のハンデを背負ったままに…………!
畝立てはあと少しで終わりそうだが勝敗はまだ分からない。
熱い戦いだ。
……………………なんでこんな熱くなってるんだ俺は?
そもそも、サテトおばあちゃんと真っ向勝負するなよセレーネは。
若年が勝つだろ普通に。
あ。
違うダークエルフだった。
セレーネもおばあちゃん────。
ブオン、と空気を抉るような音がして、鍬が思考を遮るように頬を掠めた。
「手が滑りました!」
「セレーネちゃん何を…………うそ! 既に畝を作り終えてるですって!?」
日陰で冷や汗の止まらなくなった俺を無視して実力差に驚くサテトおばあちゃん。
数秒の差で鍬を振り終え、一面の畝を二人で完成させきる。
ちょっとした偉業にも思えたが、サテトおばあちゃんは満足せず二つの畝を見比べてため息を吐いた。
「それにこの完成度、あたしの完敗みたいだね」
「いえいえ、慣れないステータスじゃなければ結果は違ったでしょう」
「ふふ、ありがとね」
まだ日は高い。
俺たちの初任務は想定よりずっと早く進んだ。
後は依頼書へ完了の印を押して貰い、ギルドで報酬を頂いて終わりとなる。
日陰へと歩く二人を見て、椅子を立つ。
冷や汗は収まっていた。
足は震えていた。
「サテトおばあちゃんは椅子をどうぞ」
「あたしの椅子だねえ」
「温めておきました」
「気遣いが下手だねえ」
サテトおばあちゃんと席を変わり、セレーネに近づく。
「お疲れ様、セレーネ」
「はい! …………でもなんで足が震えてるんですか?」
【防御力】475の俺は無言でサテトおばあちゃんに付与していたバフを解除して、セレーネを引っ叩いた。
コイツめ。
「いて」
さっきの鍬、顔の位置がズレてたら死んでいた気がしてならねぇ。
だから足が震えているんだよ。
コイツめ。コイツめ。
「いて、いて」
コイツ…………防御力が高いな。
そういえば防御力と攻撃力はセレーネのが高いのだったか。
「いい加減に反撃しますよ!」
「すいませんでした」
「よし、許しましょう」
サテトおばあちゃんが咳払いを一つ。
慌てて依頼主へ振り返ると、その手には依頼達成を示す印をつけられた依頼書があった。
「はいこれ依頼達成書ね。今日来てくれて本当に感謝しているよ、最後と決めた畑で、良い出会いに恵まれたんだからねえ」
「楽しかったなら最後じゃなくても…………」
つい零した言葉にサテトおばあちゃんは笑う。
「またバフ使いを呼ぶかい? 善意だけじゃあないんだ、難しいだろう。それにね、来年は手芸教室を開く予定がはいっているんだ」
水の入ったコップを傾けながらの言葉に悲壮感は微塵も感じない。
「カッコいいです。畑の後、セカンドライフが充実しているのですね」
「ありがとうセレーネちゃん、照れちゃうわねぇ」
心配するだけ無駄だったか。
「その依頼達成書でギルドから報酬金を貰うんだ、って流石にしってたかい?」
そういえばサテトおばあちゃんは俺たちを初心者c級パーティーと思っているのか。
報酬の話に、少し気まずく感じつつ断りをいれる。
「あのー、サテトさんが半分ほど作業しましたし、全額貰う訳には」
今日俺は何もしていなかった。
ギルドに連絡すれば合意の上で返金も可能だ。
「愚かだねぇ。リクト君のバフのおかげで想定の5倍は早く仕事が進んだ、善意で回復魔法をかけてくれた。十二分の活躍さ」
日陰で休んでたら終わってただけで、意図はない。
それにサテトおばあちゃんはバフを差っ引いても少し疲れている筈だ。
「君だから出来た仕事で、あたしは満足してるんだ。報酬はしっかり受け取んなさい。胸を張んな」
「…………ありがとうございます」
良い人だなぁ。
感じ入っていると、サテトおばあちゃんが手招きしていた。
近づくと袋を渡され、何も分からぬままジェスチャーに応じ、口に耳に寄せて話を聞く。
「それからこれ、報酬の色付けさ。セレーネちゃん誘って何か食べて帰りなさい」
…………本当にお小遣い貰っちゃった。
変な気遣いの気配もあるが、まぁ明言された訳でもないし突っかかっても変か。
「ありがとうございます」
「今誘いなさい」
「あんた娯楽にしてるな?」
「観戦させなさい」
恐ろしいババアだ。
命令口調だし、どこからかお菓子を取り出している。
面倒だし帰ろう。
振り返ると────セレーネはいなかった。
「冗談でしょう?」
「向かった先に心当たりがあるけどねぇ、知りたかったりするのかい?」
知りたいなぁ~。
嫌な予感しかしないなぁ~。
「…………お菓子の味がしなくて困ってるんだよねぇ」
「…………それって、俺がセレーネをデートに誘えば解決したりするの?」
「そうさ」
「分かったよクソババア」
今はセレーネを早く見つけないと。
どこまで行くか分かったもんじゃない。
「お菓子が美味いねぇ!」
「まだ誘ってねぇーよ愉悦ババア!!」
☆☆☆




