16話。3304字。褐色肌のエルフはストーカーされがち、雨天中止は心の雨でも。
古びた書類が無造作に積まれた机、高低差バラバラの本が詰まった本棚、地面に平積みにされた資料。
資料室の様子は前に来た時から変わっていなかった。
s級パーティーになってすぐに数日読みまくった記憶があるので欲しい資料の場所に検討はつく。
「エルフ、異種族についてはあっちだったかな」
s級用の資料は思いのほか少なく、漁っていくと目当ては直ぐに見つかった。
セレーネの特徴と一致する記述を読んでいく。
赤い目。褐色肌。
スレンダーなエルフに比べて育ちが良い。
ステータスは戦士型に寄りやすい。
強力なスキルを持つ事が多い。
「これだ。種族名は────ダークエルフ。…………希少種?」
どうやらセレーネはエルフではなく、ダークエルフという滅びかけの種らしい。
最強の龍人と並ぶ希少種だとか。
────その血は魔族にとって価値があり、命を狙われ数を減らした。
へぇー。
「…………読み終わったな」
しばらく資料を探すが見つからない。
もしかして資料これだけ?
ギルド長に確認して帰るか。
…………ふむ、もしかしたらだが。
ギルド長は相手の立場を知れば守りやすくなると言いたかったのかも知れない。
セレーネはゴブリンロードが行く先々に現れたと言っていた。
しかしゴブリンロードは一度撒いた後にストーカーして再出現するほどの知性を持っていない。
故に偶然だろうと思っていたが、ダークエルフの希少性を見るに事実でも可笑しくないだろう。
ゴブリンロードの出現がセレーネの勘違いじゃないなら、頭脳役がバックにいる。
ゴブリンロード複数体を使役してセレーネを探索させる奴がいる。
それが出来るとしたら、強大な力を持ち、知性があり、魔物との親和性が高い存在。
「魔族が、ダークエルフの血を狙うんだったか」
マズイな。
資料数の確認ついでにギルド長に報告しとくか。
☆☆☆
「と、ゆう訳で。魔族が絡んでそうですね」
「ギルド内でダークエルフを見た時点で魔族がらみは覚悟していたがねぇ、それにしたってねぇ、ゴブリンロード3体と魔法を使える宝石は初耳なんだよね。脅威度が違ってくるよね、3体従えれる武力ってなると」
「申し訳ないっす、あとダークエルフの資料って一枚だけですか?」
「一枚だけだねぇ。クソガキ君さぁ、報告、連絡、相談! 分かってる!?」
いきり立つギルド長は徐々にヒートアップしている。
何とか宥めなくては。
「すみませんでした、ギルド長。落ち着いて下さい」
「むりだね。大体さぁ、自分のキャパ考えて助けなよ。突っ込んで死んでトラウマ植え付けるのが君の最後になるよ? 首突っ込んだ挙句には他者を頼ってぶん投げるのかい? 君のスキルの特性上そうなるって最初から分かりそうな物だけどねぇ?」
「ァ!?」
……………………ぁ~?
なんだとこの野郎。
「お言葉ですが単独でスキルの活用できるんですけど。だから準s級なんですけど。ダークエルフの件は個人依頼で守秘義務を守っただけですけど」
「いつもみたく無理やり余計なお世話しただけだろう、良いように語るんじゃないよ。そもそも…………」
ギルド長だって悪し様に事実を語るのはどうかと思いますがね。
まぁ事実なんですけども。
くっそー。ちょっと落ち着こう。
ギルド長の説教はヒートアップを極め、もはやBPM200はありそうだ。
聞き流して、考える。
ギルド長としてはダークエルフを街に置いておくのを危惧してる。
そして俺に対処させたい訳だから…………。
「もしかして、あの子を連れて街から出てって欲しい感じですか?」
「うん。そうだね」
急に落ち着くな気持ち悪い。
言いたい事は分かるけど、もうちょっとこう…………情とかないのかこのオッサン。
どこか相性が合わないのはこの辺のせいかな。
「…………嫌だと言ったら?」
「…………すっごく困る」
でも、悪人じゃないんだよなギルド長。
一か所に留まれば魔族に特定されて襲われるリスクが高まる。周りを巻き込むのは本意じゃないし、セレーネも同じだろう。
「…………分かりました。彼女も旅の身でしたし説得はできるかと思います。俺が荷物をまとめて出ていくまで、期限はどれくらいですか?」
「一週間。七日後にはこの街のから旅立つのが最善かな」
はぁ。禿げれば良いのに。
「『未来視』ですか?」
「そんな便利なスキルがあってたまるか。ただの知識の積み重ねだよ」
「才能ってやつですかねぇ」
スキルでなく、才能。
ステータスに記載されない群を抜く能力。
時にギルド長のように努力で獲得することもあるそれ。
別名、隠しステータスってやつだ。
しかし、スキル『未来視』が無いならギルド長の行動に同情の余地はない。
ギルド長の性格を許容する理由がなくなってしまう。
「やっぱ『未来視』って事にした方が良くないですか? もっと嫌われますよ」
「いや嫌われてないから。ほら、新パーティーの認可は明日に回したし、さっさと帰りなさいね」
「横暴ですよ」
「頼むからこれ以上問題を起こさないでね。今日はもう勘弁だからね」
ちぇ。
まぁ今日からクエストに行きたかった訳でもないし良いか。
セレーネを待たせるのも悪いし早く戻ろう。
というか、パンフェスティバルやるって言ってたの忘れてた!
「あのギルド長、予定思い出したので帰ります」
「うんじゃあね」
「本日はありがとうございました! それでは!」
☆☆☆
ギルドの一階にセレーネはいた。
迷っていないか心配だったが、どうもテーブルゲームに夢中だったらしい。
テーブルの上には銅貨の山とトランプ。テーブルを囲っているのはセレーネ含め3人。
どうも賭けていたらしい。
カモられているのなら後でオッサン達をしばこうと決意し近づく。
「おいおい凄いな嬢ちゃん。10連勝じゃないか」
しかし戦況は逆だった。
セレーネは勝ち続けているらしい。
確かに言われてみれば、強そうな勝負師の顔つきをしている…………気がする。
真剣な表情をジッと見つめていると、顔が上がった。
「あっリクト!」
セレーネもこちらに気づいたらしい。
目元の凛々しさを霧散させ満面の笑みを浮かべて、ゲームを切り上げ始めた。
「待ち人が来ましたので、今日はこの辺で」
「あ、リクトの連れだったのかよ生意気な。あとおめでとう」
「s級試験合格したんだ? おめでとさん!」
「ありがとーございます、先輩方。この子は貰っていきますね」
この空間はセレーネにとって絶対に悪影響だろう。
速く移動しないと。
「おーい、セレーネ?」
「…………不束者ですが貰ってください」
壊れた。
人間は可燃かな。いやまぁ、ダークエルフだけども。
「パンフェスティバルするんだろ、美味しいパン屋知ってるから行こうぜ」
「そうでした! どんどん行きましょう」
セレーネは飛び起きる様に再起動した。
上機嫌に、誰が見ても見惚れる笑顔で駆けだしたセレーネの、背を見て思う。
道を知らないのに前を歩くな。
「次で左ー!」
「分かりました!」
曲がり角の先。
何故かセレーネはいなかった。
は?
まさかセレーネ…………迷った?
「流石にない。誘拐の方があり得るだろ」
ここギルド前なのに?
いや、敵を魔族とするなら最悪を想定するべきで。
思考を回していると背後から声が掛かった。
「あ、リクト。探しましたよ」
セレーネだった。
「大きな猫がいたのに、見逃してしまいましたね」
「別にいいよ」
もしかして、それで迷子になったんじゃなかろうか。
「俺が前を歩くね」
「はい!」
返事は良いが不安が残る。
…………いっそ手でも繋ぐべきか?
それか腹にロープを繋いでお互いに連結する?
どちらも流石に恥ずかしいが、迷子よりはマシだろう。
腹はくくった。ロープはない。
背後を振り向いて声をかける。
「なあセレーネ、手でも…………」
────いない。
セレーネがいない。
何処にも見当たらない。
「うそでしょ」
その後、セレーネを探し回って見つけた頃には日が落ちきっていた。
パン屋は閉まった。
第一回パンフェスティバル────延期!!
後日「いつもパン食べてるから実質毎日パンフェスティバルじゃない?」と言った所セレーネの逆鱗に触れたらしく、徹底的なリサーチをして選んだパン屋で本物のパンフェスティバルを開催することになった。
本物ってなんだよ。これ第一回だぞ。
第一回パンフェスティバル────大幅延期決定!!




