14話。4071字。一次試験はバフ強化、二次試験はs級冒険者ドット先輩と対決。決着。
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俺はギルド長と訓練場に向かい、着いてすぐ集まった人数に驚いた。
試験会場にはガヤガヤと喋る数十人の冒険者が輪を作る様に居た。
輪の中心には二人。
ソロs級のドット先輩が一人。
ギルドで最近見かける新人が一人。
距離を取っている冒険者たちにギルド長が声をかけると道が開けて、あっという間に中心へとたどり着いた。
「長い時間待たせて悪かったね」
ギルド長の声にざわめきが一瞬で収まる。
もしかして、この人たちは朝に試験を受けると俺が言ってからずっと待っているのだろうか。
s級のスキルがタダで見れるとなれば、夕方まで待つ連中。
あるいは。
ぐるりと見渡す。
「この中にはバフ魔法使いもいるだろうが、これから見るスキルを参考にするのは止めておけ」
…………あるいは興味本位で赴くままに足を向けた奴。
良く見るとその中にはセレーネが居た。
目が合ったので軽く手を振ると大きく振り返される。
「それじゃ、バフでs級パーティーに入った奴が試験受けるからよーく見定めてくれ」
ギルド長の合図で、s級のドット先輩と新人冒険者くんが剣を構えた。
準備は既に出来ているらしい。
何をさせたいかは察したが、念のため確認しよう。
「ギルド長、新人にだけバフをかけてドット先輩と戦わせようって事ですか?」
「そうだ」
「勝ち目無いでしょ。それに新人がズッコケて終わりかねないんですけど」
「ドット君にはバフに慣れるまで回避に専念するよう伝えてあるから問題ないよ」
ほんと嫌なオッサンだこと。
そもそも強力な魔物や魔族はステータスが人間より高い事もままある。
s級はそいつらと戦うのだ。
足りないステータスを埋める為にスキルや技術、知識を身につける。
「バフかけたよー! がんばれ新人くん!」
「はいっ! ドット先輩もよろしくお願いします!」
「気軽に気軽に。たとえどんなステータスでも本気で来てくれよな」
俺のバフを受けた新人くんが勝てるとしたら最初の一回でのまぐれだろう。
新人くんのバフありきの動きにドット先輩が見慣れたら、新人くんの勝算はなくなる。
新人くんは空に視線を彷徨わせると目を見開いて、数秒考えこんだ。
恐らく自身のステータスを見たのだろう。
すると剣を突き出す様に構えた新人くんは、距離をひとっ飛びで縮めた。
上手い!
「やあっ───!」
「はやっ!?」
転ばなかった、えらいぞ新人!
ドット先輩も想像以上のスピードだったのか少し慌てている。
バフはざっと5000から8000のプラス。
s級は基本オール3000以上のステータスを持つと言うがこの様子なら新人は今、ドット先輩よりステータスにおいては上だろう。
「危なっ」
しかし、ドット先輩は既に読んでいた。
剣を添えて刃先を横に流し、屈んで足払い。
あ、っという間に新人くんは慣性に振り回されてド派手にぶっ飛んだ。
「やりすぎたか…………?」
ドット先輩が壁に刺さった新人くんを見て呟き、観客は慄いているが、まぁ問題ない。
時期に出て来る。
「あいつあんな動き無理なのに、早すぎたから」
「死んだんじゃあ」
「ステータスの上昇値が異常すぎねぇか、適応できなきゃ…………死?」
「でも血が出てないぞ?」
「奥で潰れたトマトになってるんじゃ?」
雲行きが怪しい、でも本当に問題ないんだって。
ちょっと出て来るの手こずってるだけで。
しかし、ギルド長が肘で突っつくので説明役を引き受ける事になった。
「えー、壁の新人くんは大丈夫ですので安心してください! 今の新人くんの【防御力】はプラスで6400オーバーです!」
「6400!? s級に並ぶ、なんならs級上位ステータスじゃないか!?」
「凄いでしょ、あれ私のパーティーメンバー」
「ステータスの変換率が100%を超えるとは思えない、魔力が数万あるのか?」
「彼は品質良好な健康トマトでーす!」
生産者は彼の故郷にいます。あと変換率は400%です。
ざわめきの中、一人の男が声を上げた。
「そろそろ壁の中で息が持たないのでは?」
どうやら新人くん、すっぽり挟まってしまったらしい。
道理でなかなか出てこない訳だ。
「ごめん今助ける!」
「ごめん新人!」
ドット先輩と壁から抜き出した新人くんは無傷で生きていた。
あっぶね、あっぶね、とギルド長と呟いていると、青い顔した新人くんがギルド長に尋ねる。
「試合って…………」
「君の意思しだいかな、自由に決めてくれ」
s級賛辞のパフォーマンスとしてはもう少しやりたいだろうに、ギルド長はそう言った。
こりゃあ…………新人くんに控えがいると見たね。
「やります、やらせて下さい! こんな経験滅多に出来ませんから!」
「いいガッツだ、新人!」
ドット先輩が新人くんを引き起こし、再度冒険者で周囲を囲って戦いが始まった。
その後、二人の戦闘はほとんど指導と言っていい物だった。
ドット先輩がどうにも新人くんを気に入ったらしく、なかなか見もので周りの冒険者も大盛り上がりだ。
s級冒険者vs魔族並みのステータスを持った新人。
見世物として上等。
ギルド長の許可を貰い、どこからか現れた移動販売をする冒険者からパンを買い、セレーネと観戦をする。
ドット先輩もステータス差があるとどうしても手は限られる。
勢いを利用して自滅させるため、新人くんを再度投げ飛ばしたり。
人間の構造を利用して関節技をかけたり。
最後は武器を奪われた新人くんが何故か防具の留め具をいかに守るかの戦いになり、新人くんの降参宣言で終わった。
セレーネと別れ、食いかけのパン片手にギルド長の元へ戻る。
「ステータスに振り回されすぎたな新人」
「ヒドイですよ!」
「ごめんごめん後半は遊びすぎたよ」
仲良くなったみたいで何より。
でもギルド長はどこまで仕込んでいたんだかね。
ギルド長が声を張り上げる。
「それでは以上でーす! 解散ー! 皆は訓練場から出てってねー!」
軽く探すがセレーネはギルド長の指示に従ったらしく訓練場からいつの間にか消えていた。
迷子になった訳ではなかろう。
「あ、ドット君は残ってねー」
「了解です、ギルド長」
新人のステータスが急上昇して「s級のバフすげー」と言わせて。
ドット先輩がそれに勝って「上回ったs級のドット先輩マジすげー」と言わせる。
s級すげー。それがギルド長の筋書きだろう。
恐らく、将来性が期待出来そうかつドット先輩と相性の良い新人を置いて交流させる事も事前に決めていた事。
「ギルド長、上手くいきました?」
「最高だね、解散したらそのままリクト君の二次試験といこう」
『未来視』と呼ばれるだけはある。
「合格しますよ」
「それを願っているよ?」
ギルド長は眉を下げ、悲しみを引っ提げた声のトーンでそう言った。
まるで不合格を前提としたみたいに。
「くだらない未来に唾でも吐いといて下さいよ」
「ふむ、想定と違う顔つきだねぇ」
ギルド長の顔つきが戻り、声もいつもの飄々とした物へ戻る。
「そうか、応援してるよ。期待の新星」
「ははは、負けないよーに頑張るぞぉー?」
するとドット先輩が何故か口を挟んできた。
「…………そういうことでしたか」
「そうだねぇ。ドット君に勝つ事、それが二次試験突破の条件だよ」
さて、ここからが本番だ。
関係ないけどギルド長は禿げろ。
☆☆☆
「ドット先輩はスキルと魔法なしで良いですか?」
「もちろんだよ、ギルド長も了承している。しかし相変わらず思いきりが良いねリクト」
さて。
聞いた限りs級の平均ステータスは3000。俺の2000前後のステータスと他者限定バフスキルじゃあ、まず勝ち目はない。
ドット先輩はそう思っているはず。
必要なのは剣へのバフと、テクニックだ。ステータスではドット先輩に新入りは勝ってた。それでもドット先輩が勝ったのはテクニックで埋め合わせたから。
ギルド長が合図を告げる。
「両者構え~…………開始!」
よし、やりようはある。
ならやって見せようか。
ドット先輩は喋る。
すかさず剣にバフ。
「リクトの手札は一通り知ってる。頭が回るのも、だからこそ僕も本気で相手をっ────!?」
魔力を飛ばす。
セレーネは一瞬で剣バフをやっていたが、少し時間を食ってしまった。
威力を見せつける様に、願わくば一撃必殺を狙って魔力を大めに込めた一振り。
ドット先輩はギリギリで避け、その先で壁が抉れる。
「なにそれ知らない! 喋ってたの────にぃ!?」
「俺も胸を借りるつもりで頑張りますね!」
「遠慮ないなあっ!」
っち、初撃を外したか。中遠距離なら分はありそうだな。
もうちょい打とうと剣を構えるが。
「させないよ!」
だよね。
でも、あなたの癖は良く知ってる。
斬撃の威力に俺のスキルを忘れたのか?
…………ドット先輩は良い人すぎてこれ使った事ないんだった。
他者限定のバフだけじゃ勝てなくても、役に立たない訳じゃないとお見せしよう。
一気に距離を詰めて来るドット先輩の動きに合わせてバフをかけた。
────【素早さ】100付与。解除。
────【素早さ】7400付与。解除。
────【素早さ】3200付与。解除。
────【素早さ】330付与。解除。
────【素早さ】1400付与。解除。
一瞬で五回のステータス乱高下。
ドット先輩がバランスを崩す。
「あっやば」
迷いなく正面に剣を打ち込むと、ドット先輩が笑う。
「なんつって」
新人くんとの初撃で見せた超常的な反射速度でドット先輩は俺の剣筋に剣を差し込む。
────俺の狙いどおりに。
すると、スパッとドット先輩の剣が真ん中で切れた。
「はぁぁ!?」
剣を切った勢いで顔に剣を振り下ろし、直前で止める。
「よしっ、俺の勝ちですね!」
「僕の剣がぁぁぁ!」
新人くんの戦いを観戦した甲斐あってドット先輩の癖は多少把握していた。
咄嗟に避けるより、剣で受けたり流したりと、近距離を保った戦いを好んでいた。
剣への信頼が行き過ぎていたのだろう。
「おめでとうリクト君、文句なしの合格だ!」
「ギルド長! 僕の剣が!」
「少し待ってくれないかなドット君」
「色ボケのカスぅ…………! 僕の剣がぁぁ…………!」
「後で同じの保証するから、元気だしてドット君!」
ドット先輩のご乱心である。
見なかった事にしよう。
「ホント、予想外ばかり起こすよねぇリクト君」
「これ俺かなぁ?」




