13話。2555字。新パーティー結成、迷子の才能、s級試験会場へGO!
セレーネが紙面にひと通り記入し終えると、こんな記述を見つけた。
パーティー申請書には必ずリーダーを記載しなくてはならない。
しかし俺たちはどちらも、リーダーはなんか嫌だなぁと考えた。
結果、泥沼の褒め殺し合戦が今開戦。
俺はセレーネの容姿を言葉のパターンを変えていかに褒めそやすかで勝負に出た。
それによりチョロっと絆されてパーティーリーダーにセレーネが立候補するのを待つ策だ。
お互いに出会って日が浅く、内面なんか知りようがない。
ならば見目の良いセレーネが褒め合いでは不利なはず。
しかも褒めたらチョロい気配がある。乗っけやすい人の持つ独特な雰囲気がセレーネにはあった。
この勝負、勝てる…………!
対するセレーネ。なんと俺の内面を褒めだした。
しかも、べた褒めだった。
妙な事言いやがってぇ…………。
「外見で決まるリーダーと内面で決まるリーダー、どちらが相応しいかは自明ですよね?」
思えばセレーネは美少女だった。
美少女に褒められて俺の心は絆されていく…………!
だが、まだだ!
俺だって内面の一つや二つ褒める箇所は見つけている。
言葉を変えていくらでも褒めて見せる。
内容が同じでも────セレーネなら。
チョロいセレーネならきっと絆されてくれる。
それから、剣へのバフを習得してから2時間が経過した頃。
俺たちは互いに肩で息をしていた。
そしてセレーネは羞恥で顔を赤らめながら涙目で俺を睨み、ポツリと零すように。
決定打を打った。
「普通にお願いしますから、リーダーやってくださいよぅ…………」
────ふわり、と魔力が震える。
精霊さんが「やってやんな」とジャッジしたのだ。
精霊さんが言った以上、俺に拒否権はない。
「分かったよ」
疲労のせいか、俺の意思とも精霊さんの意思とも、分からないままに頷いた。
こうして、実に無意味で、くだらない戦いが終わった。
☆☆☆
ギルド受付に来る頃には日は暮れかけて居た。
「すいませーん、これでパーティー申請お願いします」
リーダーを気取るつもりは毛頭無いが、申請はリーダーがやるのが冒険者のしきたりだ。
2人の名前と役職、冒険者登録ナンバーを記載した書類を出す。
手続きは合っている筈だが、馴染みの受付嬢が渋い顔を作った。
なんだろう。
「まじかよ、君。昨日の今日だよ? パーティー離脱の翌日に美少女とパーティーを組むの? まさか色ボケのカス?」
「驚きだ。否定できる要素がない…………」
新人の頃からお世話になっている人だが、初めて見る顔だ。
苦虫を嚙み潰したような顔は、『色ボケのカス』が上司だけでなかったという絶望だろうか。
ほんと申し訳ない。
「もっとましな嘘ついたら? どうせ命がけで助けた女の子をひっかけて来たんでしょ。性懲りもなく」
「そんな事した覚えもするつもりも無いよ、流石に名誉棄損ものだぜ」
「案外助けられた方は忘れない物なんだよ。……はい、手続き終わり」
書類を片付けると、いつも見るニッコニコの営業スマイルに戻った。
「s級パーティーの離脱手続きが済んでないみたいだから、新パーティーでのクエスト受注は明日から。ギルド長の仕事が早ければ夕方からでも受けれる。おっけー?」
「おっけー! いつも助かるよ、それじゃ」
明日にはパーティーで活動できると伝えるためセレーネを探すと、割と近い位置で待っていた。
というか話を聞いていたらしい。
「パーティー結成祝いにパンフェスティバルでもしましょう」
「そうだな?」
2人だけでフェス?
それはともかく。
「すまん、俺はこの後に予定があって、ギルド長の元で試験を受けるつもりなんだ」
「じゃあ丁度いいですね」
「なにが?」
むくりと立ち上がりセレーネが手を打つ。
「せっかくですから、試験の合格も兼ねた大規模なパンフェスティバルにしましょう!」
まるで合格して当たり前とでも言うような、未来の話。
小声でパンの種類を唱え、だらしなく笑うセレーネにとっては美味しいパンを食べる為の口実かも知れない。
ただ、確かに元気を貰った。
「…………エピ、黒パン、ベーグル、バゲット」
「いいなそれ。気合入った」
きっとパンは良いのを買おう。
遅い時間に焼きたてを並べている風変わりなパン屋を一つ知ってる。
そこパン屋が良いだろう。
「それじゃ行って来るけど、一緒に来る?」
「もちろんですよ! 置いて行かれたら迷っちゃいます!」
「…………冗談でしょ?」
☆☆☆
徒歩数分。ギルド長の大部屋前。
セレーネには待っている様に伝えて扉をノックする。
「リクトです。ソロs級試験を受けに来ました」
「思ったより遅かったね、入りなさい」
部屋にはギルド長が一人、豪奢な椅子に座り大量の書類と格闘していた。
いつもお疲れ様です、色ボケのカス。
「ふーむ。顔つきが想定と違うね、自信があるのかな。僕の予想がズレたって事はおそらく外的要因、昨夜に初めて街の門を潜ったエルフの報告と君の帰還が同時刻と来るとぉ。なるほどなるほど?」
「それ心にしまってくれますかギルド長」
「禿げた森は街から小一時間だったねぇ。調査の結果ちょうど君が門を潜る一時間前の時間帯に森は禿げあがったようだけどぉ?」
森の一件は既にバレたうえ、これから証拠が出て来るかもと言う事か。
しかし禿げるのは貴方ですギルド長。
俺の合法的なストレス工作によって……………………いや、違うな。
なるほど、そういう流れか。
俺のバフを不特定多数に見せてs級の尊厳を回復するのがギルド長の狙い。
しかし俺が例外なだけで本来スキルは秘匿する物。
ギルド長としてはソロs級試験を公開で行う事に対価を払っておきたいのだろう。
仕方がない。
「…………今回の件の腹いせはやめておきますね」
「やっぱり考えていたのかリクトくぅん。だいたいね、いつも想定の斜め上を行くから無暗に動かないでっていつも言ってるじゃない。街の運営プランがずれ込む損益を計算してほしい物だよ?」
いつもの説教だ。耳にタコができるわ。
ぼんやり聞き流していると説教は案外すぐに終わった。
「まぁいいや、取引成立だね。森の件は魔力痕からゴブリンロードの相打ちに持って行くのが妥当かなぁ~」
森の一件をどうやって隠ぺい工作するか呟きながら、ギルド長が立ち上がり体をほぐす。
「それじゃ、ソロs級試験の会場に行こうか。訓練場の準備は済んでいるからね」
扉から出るとセレーネは既にいなかった。
そんな馬鹿な。




