11,5話。3060字。噂とギルド長、ソロs級試験保留、剣バフ依頼で5年捧げるだけとか安い安い。
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ガヤガヤと賑わい、朝から酒臭いオッサンどもが集う場所。
そう冒険者ギルドだ。
今日はいつもより妙に多いような…………?
「噂の元s級じゃ~ん、やっぱザザと性格合わなそうだったもねぇ」
「むしろ良く持ったじゃないのさ」
「あ、生きてる。ザザがお前を殺して隠ぺい工作したんじゃないかって思ってたぜェ。ガハハッ!」
ここにいる女性は何故か心が徐々にオッサンに寄って行く。
この人達をカウントに入れれば男女比は6対4くらい。
まぁノーカンだ、セレーネがギルド一階では紅一点と言えるだろう。
俺を酒のつまみにしたがっている連中は無視。
オッサンは半分無視。それがオッサンへの最適解だろう。
「あぁ、噂になってるのか」
「元s級なんですか?」
「少しの期間だけs級にも在籍してたんだ。実力不足で昨日クビになったんだけど」
セレーネと話しているとヤジが飛んできた。
まぁ入り口で目立ってる俺も悪いか?
「ええっ!? 性格じゃなくて?」
「そもそもオメーは昨日の丑三つ時に方向性の違いで決闘死したはずじゃあないの?」
俺悪くないかも。
聞きたい事もあったのでそいつらのテーブルに相席する。
「うるさいですよ先輩方。件の噂でザザ達と顔合わせるの気まずいんですけど、今どこ居るか知ってます?」
「確か今朝がた遠征に行くって出てったぞ」
「おっ、ありがとうございます。後で酒でも奢りたくなったら奢りますね」
良かった良かった。
一安心である。ここに敵はいない。
こいつら先輩方はノーカンでいこう。
「セレーネ…………げっ!」
入り口にいた筈のセレーネは既にパーティー登録のためか受付に向かっており、そこでオッサンに捕まっていた。
それも自称最強のギルド長に。
面倒になりそうな予感だ。
そろりと近づくとギルド長恒例の自己紹介が始まった。
「事務能力最強のギルド長ガーティさんとは俺の事。…………聞いた事ない? あれって俺なんだけどちょっと話だけでもどう?」
「結構です。パーティー登録の申請書を下さい」
「あっはい、あちらでの受付になります」
すげなく振ったセレーネは受付へと向かった。見せつける様に速足で。
あれはキツイ。
ギルド長の心情は察して余りある。それはそれとして色ボケんなカス。
ナンパ紛いの動きをするギルド長を冷めた目で見ていると、視線がぶつかる。
「げっ」
「お、リクト。お前さん悪い噂がながれてるぞ?」
…………どれの事だろう?
1年前のアレ、5か月前のアレ、2か月前のアレ。
まさか昨夜の──。
「森の一件だよ」
「何の事です?」
危ないなぁ、急に言うから顔に出る所だった。
「顔に出なくなったねぇ?」
「ですから知りませんってば」
「期待の新星なら多少は大目に見てもいいんだけどもね?」
経験則だが、この言葉から派生する未来はバットエンドだけだ。
よって無視一択。
「それはそれで分かりやすいよ? 期待のクソガキ君」
「用がないなら事務したらどうです、暇じゃないでしょう」
「ふむ、そうだね。件の噂が要件だ」
ギルド長が一息整えると空気が変わる。
真面目な話のようだ。
「心無い噂が流れていてね? なんでも──君の実力が本当はc級だ、とか。──バフだけの雑魚、だとか。──噂はザザ君によるもの、とかね」
「ありえませんね。ザザなら直接手を下すでしょう」
「僕が否定してほしいのは前半2つなんだよねぇ」
俺は他人の評価はあまり気にならない性質だし、興味ない話だ。
「意見は実力でねじ伏せろ、って事でソロs級試験を受けないかい?」
なぜ、ギルド長はそんな話を?
この男の事だ、何か意味があるはず。
たった2年での付き合いで俺の行動を未来予測じみた制度で当てれる男。それがギルド長。
s級を含めた街の冒険者すべてを束ねる者であり、この街を取り締まる者。
この男にとっては噂話の経路やその時の感情まで朝飯前に読み取れるだろう。
噂話を消すなんて訳ないはずだし、そもそも噂が立った時点でおかしいと思える。
ついたあだ名は多い。
『全知』
『事務作業最強』
『街のトップ』
『未来視』
『色ボケのカス』
「君が2年でs級入りしたからと舐められてるんだよ?」
「はぁ。しかし俺個人の実力なんてそんなもんでは?」
俺は気にしない。
そしてギルド長はそれを知っている。
「ああ、違う違う。ギルドの定めたs級という枠組みが舐められているんだよ」
…………うわ。そういう事か。嫌な男だ。
「君の憧れたs級の座が、舐められたままでいいのかい?」
良い訳ないだろう。
s級ってのは格好よくて凄い物なのだ。
「君には思いっきり見せつけてやって欲しいんだ。s級の凄さって奴を」
的確に嫌なところを突いてくる。
「…………了解です」
「もちろん見せつける舞台はバフの試験を用意するよ。ほかの試験は後回しで良い」
「ギルドのメンツを守った後、追加の試験でこっそり落ちろって事ですね?」
「合格を願っているよ?」
『未来視』とすら呼ばれたギルド長は眉を下げて笑った。
バフスキル以外のステータスではs級の基準に満たないと確信しているのだろう。
そんな事は分かっている。俺にはバフしか能がない。
俺みたいな奴のためにパーティーランクとソロランクが分かれているんだ。
パーティーじゃs級に届いても。
ソロじゃどう足掻いてもA級どまり。
「直ぐにやってくだろ? 観客なら集めておいたし」
「うぅ~ん。……………………ちょっとタイム!! …………やっぱり長めにタァイム!!」
「よしよし、じゃあ決まったら声かけてね」
辺りを見回してセレーネを見つけ踏み出す。
すると一歩目でヤジが飛んで来た。
ここの客もギルド長の手筈だろうか。
「聞いてたぞぉソロ試験! やったれやったれ酒が進むわ!」
「もうちょい後!」
ぶーたれる女オッサン冒険者の先輩を避けてセレーネの元へ向かう。
近くの席でこちらを窺いつつ待っていてくれたらしい。
手にはパーティー登録の申請書とパン。
「何話してたんですか?」
「すまん、その事でちょっと頼みがある」
申請書を俺が持ち、パンをセレーネが持って、そのまま移動してもらいギルドの隅へ。
誰にも聞こえないように密談を始める。
「内緒話でお願い事、と言いますと?」
セレーネの口角が緩やかに上がる。
俺の言葉に予想がついているのだろう。
可愛らしい笑顔もこの後を考えると恐ろしい。
「…………剣へのバフを、教えてほしい」
「ふふふ、悪いようにはしませんよ?」
楽しそうに笑みを浮かべるセレーネ。
前に俺が出来る事ならでもする、と言った事を含ませているのだろう。
既に命令権を欲している事は確定した。
セレーネは頬を染め、こちらを覗き込むように見つめる。
「何をすればいい?」
「…………あなたの10年を下さい」
魔女かよ。
年単位の期限付き…………まぁいいか。
浅い付き合いだが、悪いようにはならないと信じよう。
そうと決まれば。
交渉してみよう。
「…………4年でどう?」
「買った!! あ、間違えた。────売ります!!」
6年も割り引けちゃったよ。
エルフだなぁ。
改めて、セレーネを見る。
エルフの長い耳はあれど、褐色肌でスタイルも良い。
どこかエルフのイメージを反転したような印象。
どこかで、なにか、聞いたような。
「そんなに見られると照れるのですが…………?」
「ああ、すまん。それじゃあ」
思考を切り替える。
「剣へのバフを教えてくれ」
もしも習得できるなら、ソロs級試験を難なく突破できる筈だ。
そしたらギルド長の俺が合格出来るはずがないという『未来視』もブチ壊せる。
「私に任せて下さい! 確証はないですが、まぁ…………胸なら貸しますよ」
「失敗を前提にしないでくれるかな!?」
そん時はホントに泣きついてやろうかな、くそぅ。




