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先頭にはショットガンを装備した実紅が立ち、リュドミラは彼女の後ろからストッピング・パワーに優れたHOWA7.62で援護に就く。殿には20式に持ち替えた近藤がを配し、残りはそれぞれの死角に成りそうな個所をカバーする。
入り口付近には無かったが、五十メートルも行かないうちに坑道の天井にはLED照明が付けられ、実紅やリュドミラの求血族としての強みである暗視能力は必要なかった。
その上、壁にはH鋼の柱、天井には同じくH鋼の梁が据えられ、各々がしっかりリベットや溶接で接合されており、強固に補強されいる。
しかし、空気は重くよどみ黴臭さと人間の出す脂の臭いが充満している。そして頭上すれすれの天井に大人二人がやっと並べる幅の壁。一分一秒の間も惜しんで飛び出したくなる圧迫感。その上ゲジやムカデ、ヤスデなどの無駄に脚の多い虫たちが床壁天井問わず這いまわる。
「『インディジョーンズ』か?ファンタジーRPGか?」
曹が緊張を追い払おうと軽口を叩く。
全行程の半ば、およそ二百メートルを過ぎたあたりから、左右に枝抗が現れ始めた。
開口部が覗くたびに実紅やリュドミラが銃口を突き出し奥を検め、異常がなければ「クリア!」と、宣言する。
実紅の凛とした声が坑道に響く。
「広捜や!武器を」
言葉の途中で彼女の前にマズルフラッシュが明滅する。
LDEの薄明かりに照らされた血煙が立ち上る。
「ゴブリンが現れた!」
リュドミラは歓声を上げ、実紅が打ち倒した男の背後でAK74を構える的に六.七二ミリNATO弾を二発セミオートで叩き込む。
動かなくなった的二人を跨ぎ前進。
二人の後ろから五.五六ミリNATO弾の軽快な連射音。
枝抗の奥から飛び出し機特隊の背後を襲おうとした的を、明野と曹が速やかに排除する。
本抗の奥から六人の的が現れ、左右の枝抗に陣取ろうと駆け出すのが目に入り、実紅は空かさずダブルオーバックを三発セミオートで撃つ。
二十七個の散弾は、二人の全身をもう二人の半身を捉え引き裂き打ち倒すが、残り二人は各々左右の枝抗に飛び込み、すぐさま半身を出して射撃を開始する。
機特隊の六名も同じように制圧済みの枝抗に身を隠し、応射しようと構えるものの飛来する五.四五ミリ弾に身をすくめる他になく、その上H鋼の梁や柱に跳弾し枝抗の中にいても危険極まりない。
実紅は自分のプレートキャリアに引っ掛けていた閃光手榴弾を引き抜き、反対の枝抗にいる近藤に示す。
近藤が頷くと実紅は背後の二人に「援護を」と命じ、安全ピンを引き抜き、向うも同じく引き抜いた事を確認し、相槌でタイミングを合わせ二人同時に一歩踏み出し、背後からの権勢射撃の発砲音を耳にしながら、的が潜む左右の枝抗目掛け投げ込む。
ややって爆音、閃光。
六人が駆け出し、枝抗に取り付くと耳と目が効かず地面を転がり回る的を各々が腹を蹴り上げたり地面に叩き伏せたりして大人しくさせ、手足に樹脂製の手錠をかけ制圧する。
トンネル内の的は掃討した様でこれ以上の抵抗は無い。
さらに前進すると行く手を一枚の鉄扉が塞いでいた。
「蹴破るのは当然として、分隊長のベネリで丁番を吹っ飛ばすのも無理っぽいですね」
と、曹。
実紅は近藤に。
「MAATから預かった爆薬、使いましょ」
近藤は背中のユーティリティ・ポーチからアルマイトの弁当箱に似た爆破装置を取り出し、ドアの三ヶ所、鍵と上下の丁番に取り付ける。
爆発力を一方向だけに集中させ任意の部位のみを破壊する特殊爆弾。機爆はコード、無線、タイマーを選択できるが今回はタイマーで起爆する。
一番近い枝抗の距離を考え十五秒にセットし全員が一目散に枝抗に飛び込む。
長く感じる十五秒が経過し爆音が鼓膜を強かに打つ。
土煙の向こうに透けて見える開口部めがけ、今度はリュドミラと我孫子が閃光手榴弾を投擲する。
目を焼くような閃光と空気を引き裂く轟音。
実紅を先頭に六人がなだれ込む。
二十平米ほどの空間、整然と並べられた折り畳みテーブルの列の向こうに銃を手にした人の陰が四つ。
反射的に実紅は引き金を引きダブルオーバックを叩き込み、続いて突入した五人も各々狙いを定めた武装した人影に弾丸を送り込む。
室内の奥まで駆け込み、打ち倒した的が完全に動かなくなったことを確認して初めてじっくり内部を観察する。
ここもやはり鉄骨の梁と柱で補強されており、壁は鉄製の棚で覆われていた。
棚にはホームセンターで良く見る二リットル入りのポリタンクが隙間なく整然と並べられており、どれも何らかの液体で満タンに満たされている。
折り畳みテーブルの上には単三電池ほどのサイズと形の透明な容器が無数に詰め込まれた段ボール箱、上部に液体で満たされたタンクを載せた小型のウォーターサーバーの様な機械が十台ほど。
他のテーブルには液体が充填された単三電池に似た透明容器が、通販サイトの厚紙の箱に綺麗に並べて詰められている。
「『ヴァンピール』の仕分け作業場って感じ?」
指紋の付着と汚染を警戒し物は手に取らず上から眺めるリュドミラ。
「分隊長、こっちへ」
我孫子か実紅を呼ぶのでその方に近づく。
彼は部屋の隅に向け20式を構えており、その銃口の先には六人ほどの全裸の女性が蹲っていた。
一人が顔を実紅に向ける。恐怖に瞳孔が開き、身を小刻みに震わせている。
顔立ちから中国系と判断し、実紅は念のために距離を取りつつ。
「双手放在脳后、慢慢站起来!」
全員、指示に指示に従い、手を頭の後ろにしてゆっくと立ち上がる。
顔立ち、体系から見て全員未成年に見えた。
「仕分け作業員ちゃいますか?ちょろまかしと逃亡防止のために裸にしとるんでしょう」
そう明野が言う。
リュドミラが念のため目視でボディーチェックをし、曹が怪我などの有無を問うた。
「まだドアが一枚残ってる。たぶん距離的に見て、向うは建物本体に繋がってるわ。この子らここに追ったら色々邪魔やね、外に出そ。バンカ!」
実紅は曹を呼ぶと。
「この子らにこう伝えて『全員、この部屋を出てトンネルの外に出て出口の広場で待つように、絶対にそこから動くな、まだ此処の奴らの仲間が周りをうろついている』って、それから『途中に落ちてる銃も拾うな、持ってたら奴らにも警官にも撃たれる』って、OK?」
「了解」と応じ曹は少女たちに可能な限り優しいトーンで語り掛ける。
皆一応に頷いておずおずとトンネルへ向かう。
「やっぱりイケメンが言うと説得力あるねぇ」
と弾倉を交換しつつリュドミラ。
実紅はハンドサインで部下をドアの左右に配置する。
リュドミラがドアノブを軽く回すと少し動く。施錠はされていない。
爆薬やショットガンの出番は無い。
実紅は彼女に指を折りタイミングを伝える。
親指、人差し指、中指、薬指。
小指が折られリュドミラがドアを引き開ける。
向う側には下階と上階へ続く階段があり、それぞれから外の明かりが漏れていた。
このトンネルは向うの建物の中二階ほどの高さにあたる様だ。
とすれば、登り階段の向こうには対戦車ミサイル、下り階段の向こうには機関銃が据えられている事になる。
右の自分と近藤、我孫子は下階。左のリュドミラと明野、曹を制圧させようと考え、ハンドサインを出そうとしたその時。
実紅の目に、レモン型の物体が上階から降って来るのが見えた。
RGD-5手榴弾。
反射的に手を伸ばしそれを掴み、下階向かって投げ落とす。
ドアの縁に身を潜める六人。
爆音とドアから吹き出る爆煙と土煙。
ハンドサインで自分たちは上階、リュドミラ達は下階へ行くよう指示し、実紅は階段を駆け上がる。
身を乗り出して来た相手が、銃を手にしていると認めるなりダブルオーバックをお見舞いする。
九つの鉛球を食らい的は吹き飛ぶ。
三人は上階に躍りでる。
五.五六ミリ弾の発射音が左から四発、右から二発、実紅の鼓膜を打つ。近藤が対戦車ミサイルの傍にいた二人を、我孫子が三人に狙いを定めていた一人を撃ったのだ。
窓際には三重にも土嚢がうずたかく積まれ、奥の壁には対戦車ミサイルの弾頭が入った筒が四本。床には空の物が二本転がっている。
他には灰色の事務机や椅子、書類棚、軍用のレーションの空き段ボール箱にミネラルウォーターのカートン、ウォッカの空きビン、ビールの空き缶等々。
下階からリュドミラの「クリア!」の怒鳴り声が聞こえ、返すように実紅も「クリア!」と叫び返すと、倦怠感がどっと押し寄せて来た。
窓際の土嚢にもたれかかり溜息をつく。
我孫子が近寄って来て。
「分隊長、下手に顔出したら府警に撃たれそうですね」
「渡会さんならやりかねませんなぁ」
血がで汚れていない箇所を見つけ、床に座り込んでいる近藤が言う。
しばらく考え、パンツの尻ポケットからコウモリ柄の手拭を引っ張り出し、ベネリM3の長い銃身の先に括り付け窓の外に出す。そして無線のスイッチを入れ。
『こちら機特一〇一。館内を制圧。繰り返す館内を制圧、以上』




