2
二度ほど怒声を張り上げた頃、現場から無線でドアが開かれたとの連絡が入った。
「よし!行け行け行け!」
そう命じた刹那。けたたましい連続した銃声が鳴り響く。
現場から半ば悲鳴のような声で無線届く。
『撃って来ました!機関銃です!小銃じゃない!物凄い威力だ』
「状況は!?」
『MAATの五名が撃たれました!九六式に乗り込んで撤退します!』
渡会は状況を確認すべく軽装甲機動車の後部ドアから飛び出そうとする。部下がプレートキャリアを掴んで止めた。
「弾!こっちにも飛んできてますよ!」
その途端、車体の装甲板が甲高く何度も鳴る。着弾しているのだ。
猛スピードでバックして来る九六式をフロントグラス越しに確認すると。
「残りの装甲車は盾に成って、他の車を敷地から撤退させろ!」
渡会の命令に従い、彼の乗る軽装甲機動車ともう一台の軽装甲機動車、そして特殊警備車が横隊を組み防弾されていない捜査車両を守りつつ後退する。
その間も建物正面の玄関からは無数の銃弾が浴びせかけられ、二階の窓からもマズルフラッシュが明滅し追い打ちをかけて来る。
機捜の灰色のスカイラインが銃撃を受け前輪をパンクさせ身動きが出来ない。
軽装甲機動車がバックで体当たりし、フロントをグチャグチャに破壊しならが押し出し敷地の外に後退させる。
数分を掛け、全車両が敷地を脱出する事に成功したが、無事な車両はホンの数台。装甲の無い車両は使い物に成らない有様となった。
渡会は怒りで震えながら柏原署の捜査本部に現状を報告する。
向うでも車載カメラやドローンカメラで、モニター越しにこの状況を見ており、渡会に態勢の立て直しを命じた。しかし。
「こっちには自衛軍の装甲車が三台もあるんです!特に九六式は機銃掃射も十分凌いでる。こいつで正面玄関をぶっ壊して、機関銃を沈黙させます!行けますやらしてください!」
捜査本部でのどよめきがスピーカーから流れる。
組対本部長の『頭を冷やせ!渡会君!』の声に彼は。
「頭?何言うてるんですか?もう冴え冴えですよ」
今度は同じく後部座席に座る柏原署の刑事課長が渡会に詰め寄る。
「渡会さん!無謀すぎますわ、相手は機関銃ですよ!そんな一か八かみたいな作戦、成功するはずないやないですか!」
渡会は手を伸ばし、刑事課長のプレートキャリアを掴み。
「ここの指揮官は俺や!」
と課長を押しのけ車外に飛び出る。
九六式からは撃たれた五人のMAAT隊員が運び出され、救急車の到着を待つ間路上で手当てを受けていた。が、誰も身動き一つしない。
他の捜査員も十名以上が負傷しており濃紺の突入服や制服から血をにじませどす黒く染めている。
文字通りの修羅場を見渡し、歯ぎしりして装甲板を痛みも構わず殴りつけると。
「舐められてたまるかぁ!もっぺん突入や!九六式を先頭にして捜査員はその陰から建物に肉薄せい!玄関を九六式でぶち壊したら、中に催涙ガス叩き込め、機関銃を沈黙させるんや!」
九六式が再び敷地内に進入する。
背後にはバリスティック・シールドを頭上に掲げた捜査員が追従してきている。
再びドアが開け放たれ、機関銃の猛射が始まる。
唸りを上げ弾丸が飛来するが、九六式の分厚い正面装甲が悉く跳ね返す。
門の外では二台の軽装甲機動車と特殊警備車が再突入の機会をうかがう。機関銃が沈黙次第、二階からの銃撃に対し応射撃しつつ突っ込むつもりだ。
盾を掲げる捜査員を引き連れ、じわりじわりと弾雨の中を建物に迫る九六式。
軽装甲機動車の中で渡会は呟いた。
「こりゃ、イケルで」
二階の窓がおもむろに開き、太い濃緑色の筒が姿を現す。
機械音と共に筒の先端の蓋が開き、一瞬、円錐形の物体が顔を覗かせると、背後で爆炎が上がり、左右の窓ガラスを吹き飛ばした。
目にもとまらぬ速さで飛び出した円錐形は、九六式に衝突しめり込む。そして、爆音。
フロントハッチ、上部ハッチ、リアハッチ、左右のガンポート、あらゆる開口部から紅蓮の炎が噴き出し、九六式は停車する。
超高温の炎に近くにいた捜査員は吹き飛ばされ、ついて来ていた他の捜査員たちは盾を捨てて一目散に逃げる。
後部ハッチから火だるまに成った搭乗員がフラフラと悲鳴も上げずに現れ、しばらくするとその場に倒れ込む。
燃え盛る彼を誰も助けようとしない。
修羅場の次に現れた地獄絵図を目の前に渡会は目を見開き沈黙し、刑事課長は無線のマイクを取り、捜査本部に広域捜査総局からの応援を要請した。




