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 竜児実紅(たつこみく)巡査部長とリュドミラ・ジラトンスカヤ巡査長の元に、犯罪捜査支援AI『CISAI』通称『プリースト』を介し大阪府警からの応援要請が届いたのは正午前の事。

 現場から数分の八尾市内に居た二人は、プリーストから送られてくる現場の情報をアイウエア型のデバイスで確認する。


「これは・・・・・・」


 と、視覚の端に映る修羅場を目の当たりに絶句する実紅。 


「装甲車が燃えてらぁ、なつかしい風景だ」


 そう苦笑いするリュドミラ。

 実紅はカーロケーターを確認し、近くの地域を巡回していた自分の部下たち、第一機動特捜隊第一小隊第一分隊のメンバーを招集する。

 各々から了解の返答を得ると、実紅は現場に向けハンドルを切る。

 

 先に臨場していたのは第二班。

 班長の近藤昌玄(こんどうまさはる)

 ベージュのタクティカルシャツにパンツという姿で手には20式小銃。


「状況は?」


 の実紅からの問いに。


「ガサに入った途端機銃掃射、九六式装輪装甲車を盾にして突入したらこんどは対戦車ミサイル、死者は七名。うち一名はまだ九六式の中です。ほか重傷者六名、軽傷七名。ボロボロですわ」


 実紅の目が泳ぎ、リュドミラは。


「事前に敵情を調べて無かったのかよ?ここの指揮官はアホか?」


 次に到着した第一班の班員、福本宗治(ふくもとそうじ)は言う。


「捜査の端緒に成ったんは嫁と子供を『ヴァンピール』に殺されたみたいなことに成った大物売人のはらいせなチンコロ(密告)ですからね。組織が早々に手が回ることを察知して、飛ばれるんを恐れたんでしょう」


 黒いポロシャツにオフホワイトのスリムパンツ、足元は純白のナイキのスニーカー。

 プレートキャリアと手にした20式小銃が無ければ、今からゴルフの打ちっ放しにでも行こうかと言う風体だ。

 端正な顔立ち、涼し気な目はまだ黒煙が立つ現場に注がれているが、口元は冷笑に歪んでいる。


「事情は分からんでもないけど、拙速の誹りは逃れられへんわ、ねぇドンケン、指揮官の渡会警視正ってどんな人?府警組対時代に会うてない?」


 そう訊ねられたのは第一班班長、土井健(どいけん)巡査長。

 上下黒の作業服、頭には濃紺の捜査帽。細く小さな目に殴った方が怪我をしそうな角ばった顔、彼も耳は柔道の鍛錬のお陰で潰れていた。


「兎も角プライドが高こうて、俺が俺がな人でした。部下にはパワハラモラハラ、上司の言う事も実績に鼻を明かしてあまり聞かん、一部には心酔してる人間も居ましたけど、基本、嫌われてましたね」

「オエッ、そんな野郎の指揮下に入るのかよ?ねぇ分隊長、帰りましょうよ、アホの尻ぬぐは他の隊にでも任せて」


 リュドミラが首をすくめてそう言うが。


「アホなこといいな!そやけど、そう言う人物やったら私らをどんな扱いするか知れたもんや無いのは事実やわ、先ずは会いましょ」 


 渡会は軽装甲機動車のボンネットの上に広げた現場の地図を前にして、柏原署刑事課長と大声を張り上げ言い争っている最中だった。

 それぞれの背後には険しい顔つきの各々の部下。MAATや機動捜査隊、機動警ら隊の隊長らは周りを囲むように立ち苦々し気に言い争いを見つめている。


「機特第一小隊第一分隊の竜児巡査部長です。府警本部からの要請で応援に参りました」


 実紅の呼びかけで一斉に彼女に視線は集まる。

 刑事課長はホッとした表情だったが、渡会はあからさまに実紅を睨みつける。そして。


「何人来たんや?」

「私を含め一個分隊十二名です」


 渡会の拳がボンネットを叩き。


「ふざけとんか!舐めとんちゃうぞ!」  

「渡会さん!」


 課長の怒声が飛ぶ。


「この状況での応援ですよ、有難いじゃ無いですか、それに機特第一分隊と言えば音に聞こえた精鋭や無いですか、その態度は無いでしょ?」

「この状況でこの人数送り込んできて、何の役に立つんや?オマケニ頭は女と来たそれもガキや」


 こんなあからさまな女性差別をする人間が今日の警察に居る物かと驚きつつ、警察の男社会という構造は世界情勢の激動も未曾有の大災害も乗り越えて連綿と続いているのだという現実に暗澹としつつ。


「女性であるという事は事実ですが、ガキと言うのは不適切です」


 あえてすまし顔で実紅。続いてリュドミラが。


「分隊長はめちゃ可愛いし、あたしは絶世の美女だろ?ところが実はこれで五十路真っ盛りなオバハンなんだぜ、オドロイタカ」


 巡査長にため口をきかれたことよりも、目の前にいるどう見ても二十代半ばの女二人が突然五十だと言われて唖然とする渡会。


 たまたま駆けつけて来た機特第一分隊第四班班員、小出悠花(こいでゆうか)巡査の目鼻立ちすべて丸い童顔もまじまじと見つめ。


「じゃぁこいつは四十くらいなんか?」


 リュドミラはそう愛称で呼び濃いめの茶色のショートボブの頭を子供にするように撫でつつ。


「あ、ユッカは見た目より行ってるけど、二十五歳。独身、彼氏募集中」

「彼氏なんて要りません!推しが居るから充分です」


 場の空気を無視した間抜けたやり取りを無視し、渡会は実紅に呟く。


「お前ら二人、吸血鬼か?」


かつては『吸血鬼』と呼ばれ。、今は人権上の配慮から『求血族(きゅうけつぞく)』と称される人類の亜種。

 コーカサス地方を故郷とし、迫害を逃れ数百年の流浪の果てに日本にまでやって来たさすらいの民の末裔。

 人の生き血を飲まねば無惨な死を迎えると言う宿命を産まれながらに背負いつつも、血さえ得られれば驚異的な再生能力と免疫力、身体能力を持ち、数百年もの寿命を生きる不死の人々。

 実紅もリュドミラもその末裔だ。 

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