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 大和川を望み、府道一八三号線に臨した産廃業者の社屋周辺に、大阪府警の警官隊を載せた警察車両が集結したのは早朝四時五十分の事。

 組織犯罪対策本部の第四方面本部を中核とし、MAAT(他都道府県警のSITに相当する部隊)機動捜査隊、機動警ら隊と府警の精鋭に加え、周辺の警戒や封鎖、住民保護に動員された所轄である柏原署の地域課や捜査課、生活安全課などの警察官を加えると百五十名にも及ぶ大部隊である。

 現場の指揮を執るのは第四方面本部長の渡会敬三(わたらいけいぞう)警視正。

 組対畑をひたすら歩み続けた四十五歳。学生の時より柔道で鍛え上げた筋肉の塊のような短躯に角刈り、細い目、角ばった顎、潰れた耳と言ったいかにも『その筋』と言った風貌風体な彼は、自衛隊から払い下げられ空色と濃紺に塗られた軽装甲機動車の後部に陣取り、無線のマイクを握りしめ時を待っている。

 彼がフロントグラスから葛が絡まりに絡まったフェンス越しに睨むのは、雑木をびっしりと生やした小高い山にめり込むように建つ、軽量鉄骨造二階建ての建物。

 波板スレートの屋根の上には『中河内環境株式会社』との錆び切った看板。ここが今回のガサ入れの的だ。

 建物の死角になるカーブの向こうや坂道の下などに分散して隠れた車両の中では、ヘルメット、フェイスガード、マガジンポーチを貼り付けたプレートキャリアに身を固め、20式や89式自動小銃を携えた捜査員が号令を引きを潜め待っている。

 渡会が捜査帽越しに掛けていたイヤーマフから、この捜査の総指揮と執る組対本部長の『着手せよ』の声が響く。

 マイクのスイッチを入れ、自慢の大声を渡会は張り上げる。


『着手せよ!繰り返す着手せよ!』


 タイヤを軋ませ、捜査車両が一斉に走り出す。

 先頭を切るのはこれも自衛隊から払い下げられた九六式装輪装甲車。運転手を含め十四人もの捜査員を載せたまま、正面の門を塞ぐガルバリウム鋼板のゲート目掛け、エンジンをうならせ突進する。

 凄まじい衝撃音と金切り声の様な金属板がコンクリートの路面に引きずられるけたたましい音が鳴り響き、九六式装輪装甲車が火花を散らして敷地内に乱入する。

 テールゲートが開き、完全武装の黒づくめの捜査員が各々銃を構え正面玄関に殺到する。

 その背後では軽装甲機動車や覆面パトカー、ワゴン車型の遊撃車などが、九六式が押し開いた門から次々と敷地内になだれ込み、同じく黒づくめの捜査員を掃き出す。

 軽装甲機動車に取り付けられた拡声器から、あの渡会の怒声が響き渡る。


『大阪やぁ!ガザやぞぉ!開けんかい!コラァ!』


 切っ掛けは大阪西区、南堀江にあるマンションの近隣住民からの『近所のマンションからゴリラみたいな怪物が飛び降りて来た』と言う一一〇番通報だった。

 臨場した機動警ら隊員が目撃したのは、路上で血塗れになって仰臥する筋肉質の巨大なコブに全身を覆われた怪物。続いて臨場した機動捜査隊員は聞き込みから落ちた元の部屋を割り出し、訪ねた所、ドアを自ら開けて姿を現したのはだらりと垂らした右手にAK74を持った四十代の男。

 AK74を奪い取り、室内に入ると奥のリビングでは胴体だけに成った児童と、腹が裂け内臓が飛び出した幼児の遺体。

 児童の物と思しき首は、カラフルな熱帯魚が泳ぐ巨大な水槽に沈んでいた。

 取り押さえられた男は、以前から組対が違法薬物の売人の元締めとしてマークしていた人物で、西警察署の取調室で彼が歌った(自白)のは、近年大阪の街を着実に汚染している新興の合成麻薬『ヴァンピール』の取引に手を出していたことと、それで莫大な利益を上げていたということ、そして自身の妻も『ヴァンピール』に手を出し常習者となり、やがで中毒の末期症状である『MLTS(怪物様変容症候群)』を発症、息子と娘を手に掛けたので射殺した。と言う事だった。

 そして男は『ヴァンピール』の集積所が柏原市の大和川沿いにあるかつての廃品処理工場の跡に置かれているとの情報も提供した。

 妻を化物に変え我が子を殺させた『ヴァンピール』に復讐するつもりだと言う。

 直ちに大阪府警は組対を中核とした捜査本部を所轄の柏原署に置き裏取り捜査を開始する。

 廃品処理工場跡の現在の所有者が登記だけされているものの実態の無い企業である事、日々多数の車両が出入りし、その内の何台かを偶然引っ掛かったことを装い職質したところ、車内から明らかに個人で使用するには多すぎる量の『ヴァンピール』が押収された事などから売人の元締めが歌った内容がほぼ事実であると断定。今回のガザ入れを決定した。

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