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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
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第048話 『教皇・ハルカ』



「ではこちらでお待ち下さい」


教会騎士に案内されたそこは小広いホールのような待合室だった。

いきなりだったので服装はいつもの黒のファンタジー服だ。本当は謁見までに時間があれば礼服のような物を用意しようと考えていた祐樹だったのだが、そんな余裕もなかった。


「別に構わんじゃろ。儂とてこんなもんじゃ」


と言うエイも普段と同じ派手な長着に男袴おとこばかまだ。だが刀には柄袋がかかっている。芸が細かい。


待合室には祐樹達の他にもスタンとマール、マキもいる。


「ユーキの謁見の後に私の報告も聞いていただけるようです。普段は幾日か待つのですが。なんだかユーキの謁見に便乗してしまいましたね」


と笑うスタン。


「今回は僕たち姉弟も謁見します。スタンさんが行商を終えられるので、ハルカ様より与えられた役目も終了となります」


そうか、そうだったのか。

だがそりゃそうだろう。ただの護衛がスタンの正体を知っている訳がないのだ。

教皇はスタンに世直し行脚を、姉弟にその護衛を依頼したのだ。

教会御用達の護衛だったのだ、この姉弟は。どうりでメチャクチャ強いわけだ。

そして万が一にもスタンが免状を持って暴威を振るう事のないよう見張る役目も2人にはあったのかもしれない。


「教皇様がお呼びです。祐樹、永、この2名はこの扉より奥へと進みなさい」


番人の騎士が2人を呼んだ。だがルークが含まれていない。


「すみません。彼も私たちの連れです。一緒に謁見させてもらってもよろしいでしょうか?」


当然、一緒だと思っていた祐樹は少し驚きながら番人の騎士に伺うが


「なりません。教皇様は2人については謁見をして下さると仰せです」


顔を見合わせる祐樹とルーク。

ルークの表情に『ま、いっか』的な寂しげな笑いが浮かんだ、その時だった。


「おーい、ハルカよ。此奴は儂の弟子じゃ。此奴が一緒でないというなら儂らは帰るぞー」


なんと。

友達の家にでも遊びに来た小学生のように、扉に向かって大声で呼びかけるエイ。

そのあまりもの行動に、番人の騎士を含め祐樹達も皆がポカンとしている。


だがさすがは番人の騎士、いち早く我を取り戻すと


「ぶ、無礼者っ!」


と腰の剣に手をかける。

だがその時、部屋に声が響き渡る。


「構いません。ルークさんも一緒に通しなさい」


その声を聞いた番人の騎士はひざまずくと『ハッ!』と答え、祐樹達の方へ向き直り


「教皇様が仰せです。通りなさい。ただし!くれぐれも失礼のないよう願います!」


半ば殺気を感じなくもない騎士の横を、エイは手をヒラヒラさせながら笑顔で通っていく。

その後ろを『なんかすみません』的な中腰でついて行く祐樹。そして許可を得てドヤ顔で騎士を見ながら殿しんがりつとめるルーク。



扉の向こう、『謁見の間』は物が全く無い、石造りの円筒形の部屋だった。

直径でおよそ25mくらい、キレイに磨き上げられた石で出来たその部屋は、オフィスビルや高級ホテルのエントランスのようだった。


だが誰もいない。


と思ったその時、部屋の中央に人の姿が浮かび上がる。


「ようこそイミグラへお越しくださいました。私は教皇を務めるハルカと申します」


それはとても美しい女性だった。

だが美しいのに存在感を全く感じない。しかも浮かび上がるように現れた。幻影か何かのようだ。


「この部屋での会話や音は絶対に外へは漏れません。秘密は厳守します。あなた方が謁見を求めた理由を語りなさい」


そのハルカの言葉に、祐樹は不思議な感覚にとらわれる。言葉の通じない、まるで銀行のATMに話しかけられているような感じだ。


「久しいな、ハルカよ。誰にも聞かれんのじゃろ?ならばそんな杓子定規な話し方はせんでもよかろう」


エイはそう言うと、かがんで床に手を当てる。すると石の床が隆起し、そこに円卓と椅子4脚を創り出した。


「まあ立ち話もなんじゃし、座らぬか」


と椅子に腰掛けるエイ。そしてそれを呆然と見守る祐樹とルーク。


「ふふっ。エイ、あなたらしいわね」


そう微笑むとハルカも椅子に腰掛ける。


「祐樹さん、ルークさん、あなた方も座られてはいかがですか?」


我に帰り、椅子に腰掛ける祐樹とルーク。


「ではあらためて。ようこそお越しくださいました、皆さん」


柔らかく微笑んでそう話すハルカの言葉に、先程までの無機質な雰囲気はもう感じなかった。


エイ、久しぶりね。しばらく会ってなかったけどその間に貴女あなたも随分と変わったものね」


その言葉から察するに、エイはハルカにとって『裏切者』という訳ではないようだ。ハルカの瞳には親愛の情も感じて見て取れる。


「ぬしもな。まあ儂らの懐古話かいこばなしもいいんじゃが、先ずはユーキのほうからハルカに用事があるようじゃぞ」


と、エイに話を振られる祐樹。だがあまりにもの急展開に祐樹は用意していた言葉をすっかり忘れてしまったようだ。


「え、あ、そうだ、捕縛の命令だ。取り下げてもらえないか?」


なんの説明も理由も言わず、いきなり『捕縛の命令を取り下げてくれ』と。これで取り下げになったらあの逃走劇は何だったのだと思う所だが


「ええ、わかりました。命令は取り下げておきましょう」


あっさり。


あっさりと取り下げられてしまった。

だがその軽さが逆に祐樹に怒りを生んだ。軽く取り下げるくらいならなぜ捕縛の命令なんて出したのだろうか。


「そんなに『俺が魔王に会う事』が貴女あなたにとって都合の悪い事なのか?」


おそらくそうだろうと読んでいた祐樹だったが


「魔王?ああ『あのかた』ですね。まだ会われてないのですか?でしたら是非お会いして下さい」


どうやら読みを外したようだ。それならそれで祐樹にはまた1つ疑問が生まれる。


「なら何故『捕縛の命令』なんて出した?まかり間違えば怪我人や死人が出ていたかもしれないんだぞ」


幸い、祐樹の見える範囲では怪我人も出ていなかったようだが。


「『捕縛の命令』は保守派の者が出したようです。何か理由があったようですが。私もあなた方には一度こちらを訪れてもらいたかったので特に何も言いませんでした」


と言うとハルカはエイに向き直り


エイも一緒のようでしたので万が一の事態もないだろうという判断です」


「じゃが…ユーキは少々ご立腹のようじゃぞ。普通に『招致』とか出来んかったのか?」


そうだ。そのとおりなんだ。別に祐樹だって『教皇様が呼んでいる』と言われれば馳せ参じないわけでもない。だがハルカは


「結果として誰も怪我する事もなく、あなた方はここへ来た。同じじゃないかしら?」


祐樹が思わず反論しそうなところをエイに目で制される。


「そういうところは相変わらずじゃの、ハルカ」


「そういう貴女あなたは随分と得た物も多いようね、うらやましいわ。貴女あなただって…」


「ハルカ、それ以上は言うでないぞ」


ハルカの言葉の続きをエイが言葉で制した。


「ええ、わかりました。私の判断で祐樹さんに不快な思いをさせてしまったようですね。それについては謝罪し、反省します」


「ユーキ、詳しい事はいずれ必ず話す。今回はこれで溜飲を下げてはもらえんか?」


エイに言われては仕方がないと思う祐樹だが、この場の主導権はハルカを差し置いてエイが完全に握っている。

どういう事だ?ただ強くて魔王の側近というだけではないのか?一体何者なんだ、エイ。

何故そんな人物?が俺の目覚めを待っていたのだ、あの石室で。



と、祐樹が1人思考の渦にいるその時、話題の中心はルークに移っていた。






エイとハルカ。片や女浪人、片や教皇様ですが、元々知人友人のような間柄でどちらが上とかはありません。

ちなみに『魔王あのおかた』自身も彼女らとはそうだと思っているようですが、少なくともエイは『あのお方』を親のようにうやまっているようです。

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