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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
42/205

第042話 『ミシュランガイド』



気を取り直し、料理に舌鼓を打つ祐樹。

次に出てきた料理はシドの予告通り例の釣り上げた魚だった。

素揚げした身に甘くてピリ辛いソースのかかった、元いた世界でいう東南アジアあたりで食べられているような料理だ。


「どうだいユーキ。美味いだろ?」


シドが料理の説明をしに来てくれた。


「これがこの街の伝統料理さ。素材の良さも勿論だが俺の料理の腕前もなかなかだろ?」


シドは自慢げに笑う。いや実際に美味いのだ。そして祐樹には使われている味に覚えがあった。

しょっつるか魚醤か…どちらかというとナンプラーに近い。それが使われているせいか、とたんにアジアっぽい味に感じるのだ。


「さすがだなシド。それにこの味付けは素晴らしいよ。察するに魚の身をしばらく置いた汁を使っているだろ?」


祐樹は『発酵』という概念があるかどうかもわらかないので、あえてしばらく置いた汁と表現する。


「そっか〜わかっちまうのか。やっぱユーキは海人様の遣いだろ?この街で料理するヤツ以外にこの味の作り方を知ってるヤツなんていないぜ、海人様以外にはな」


ちょっと藪蛇な発言をしてしまったようだ。


「いや俺も旅人だからさ。いろんな所でいろんなモノ見てきたんだよ」


咄嗟に誤魔化す。だがまたしても『海人様』というキーワードが出てきてしまった。

マキが睨んでないか横目で確認するが、意に介さずミラと歓談しながら食事をしていた。祐樹はホッと胸を撫で下ろす。


「あともう2品で料理は終了だけど、酒も出そうか?」


シドはお酒を勧めてきた。

言われなければ忘れていたのに、思い出すと呑まずにはいられない。それが酒。

その話にはスタンもエイも食いついてきた。


「いいですね。私も何かいただけますか?」


「うむ。儂もつきあうぞ」


祐樹もこの状況で我慢なんて出来ない。


「ああ。俺もいただこうかな。ただし双頭の蛇が入ってるヤツ以外で頼むよ」


---


料理も終わり、皆は部屋へ戻っていった。食堂に残ったのは祐樹とエイ、そしてスタン。

軽いものをつまみながら酒を呑み歓談していると、宿の主人とシドが来た。


「スタンさん。本日もご利用ありがとうございます。せがれの料理、いかがでしたか?」


「何も言う事はありません。私は各地を回って行商をする身ですが、こんなに客に飽きさせない味を出す店、他にはありませんよ」


スタンがベタ褒めするのもわかる。本当に美味かった。察するに何度か来ているようだが、その気持ち祐樹にもわからなくはない。


「そしてユーキさん。今日あった事は全部倅から聞きました。本当に大変なモノをいただいてしまったようで」


主人は恐縮しきりといった感じだ。


「ユーキ。あの時はちょっと衝撃的すぎて混乱してキチンとお礼言えてなかったからあらためて言わせてもらうよ。ユーキ、本当にありがとう」


シドは両手でがっちりと握手する。


「ユーキ、彼と何があったのですか?」


そういえばスタンにはなにも説明していなかったな、と祐樹は今日あった事をかいつまんで説明する。


「そうですか…でもそのおかげで先ほどは美味しい魚をいただけたわけですし。その事でまたこの街に名物料理が生まれたら、それはそれで行商で寄る楽しみがまた増えますね」


そこにエイからツッコミが入る。


「スタンよ。おぬしは行商より各地の名物料理の店を紹介する本でも書いた方が天職のようじゃの」


と笑うエイだが、スタンは思いのほか真に受ける。


「そうか…!そうですね。それもありですね…!」


思わず祐樹もそれにツッコミを入れる。


「いやいやスタン、仕事も色々とあるだろ?」


だって行商人と公儀隠密と一家の大黒柱の兼業だ。


「いえ、私も今の生活のままでも本を書く時間くらいありますよ。ちょっと忘れない内に書き留めておきますね。ご主人、シド君、ごちそうさまでした」


そう言うとスタンは酒の瓶を持って部屋へ戻っていった。その決断と行動の早さはさすがは商売人というところだろうか。祐樹とエイは唖然として見送る。


「それでは私達もまだ仕事が残ってますので失礼します。ユーキさん、明後日の出立まで何か不自由がありましたらおっしゃって下さいね」


「じゃあな、ユーキ。おやすみ。海人様に宜しくな」


「まだ言うか」


祐樹のツッコミを受けながらシドと主人も戻っていった。


「エイ、君と差しで呑むのって久々だな」


それはそれだけ祐樹が人に、出会いに恵まれていたという事だろう。


「そうじゃな、ナワの宿以来かの」


酒の席に何なんだが、祐樹はエイに聞いておきたい事がいくつかあったのだ。

教会の派閥の事、この世界の事、そして会いに向かっている魔王の事。


「『あのお方』の事か?言うなと言われている事以外なら何でも答えるぞ」


「じゃあ…目覚めたのは2年前って聞いたけど、300年前に教会と揉めたんだよな?魔王って何年前くらいから存在するんだ」


少なとも300年以上は生きているワケだ。それとも年齢という概念は無いのだろうか?


「うむ。儂の知る限りでは、最古の記録はおよそ19億年前じゃな」


「じ、19億年…!?」


19億年とか。古代龍とかか?もはやその存在は神に等しいのではないか、祐樹はその途方も無い数字に思いを巡らせる。


「えっ!?エイもその頃から魔王と一緒なのか?」


「まさか。儂があのお方の元についたのはおよそ300年前くらいじゃ」


そうか。と納得しそうになった祐樹だが、魔王の19億年という数字を聞いたので麻痺しているが、エイの300年というのも少ない数ではない。


「その19億年前の記録って、魔王誕生とか?」


「いや、『世界中を震撼させた』としか記録が残っておらん。さすがに儂もその頃は存在すらせなんだからな」


少なくとも魔王は19億年前から驚異で脅威の存在だったワケだ。

聞けば聞くほど恐ろしい魔王。もはや名が体を表している。だがエイは魔王が祐樹に対して敵意も害意もないと断言している。エイを信頼しない訳ではないが、やはり恐ろしいのは恐ろしいのだ。


「そっか〜…でも会わなきゃ先に進めないんだよなぁ」


「嫌じゃったらそこらの街で適当に家族を作って暮らす、という選択肢もあるんじゃが?」


「それはない。俺の家族は彼女らだけだ。再会が叶わなければ死ぬ。それだけだよ」


そう言うと祐樹は器の酒を吞み干し


「エイ。もう休もう。色々話を聞かせてくれてありがとう。また明日。お休み」


そう言い、部屋へ戻っていった。


独り、食堂に残るエイ。

開いた窓から夜の海を眺めて呟き、笑う



「だ、そうじゃ。ははっ、果報者じゃな。」







後にスタンの書いたグルメガイドにより、グルメ旅行ブームが発生したとかしないとか。

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