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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
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第039話 『やりすぎ注意』



彼の小舟に乗って港を出る。

さすが本職だけあって操帆の腕前は超一流だ。あっという間に加速し、どんどん沖へ出る。


「ああそうだ、自己紹介がまだだったな。俺はシードゥ。シドでいいよ。あんたは?」


「俺はユーキだよ。簡単な名前だろ」


祐樹は歳の近そうなシドにあえて気さくに話す。


「俺の名前はあの島からとったのさ」


とシドの指差す先には小さな島があった。


「シードゥマジマつって、海人様が住んでる島なんだよ」


切り立った断崖に囲まれた小さな島は険しく美しく、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。海の女神が住んでると言われても不思議ではない。


「時折、人の姿を借りて街に出てくるらしい。さっき俺が修理していた網の漁法も、海人様が人の姿を借りて教えに来てくれたって話なんだ」


そういう話の伝わり方、祐樹は好きだった。


「もしかしたらユーキ、あんたも海人様の仮の姿なんじゃないのか?」


「はははっ!そんないいモノじゃないよ。明後日にはマイルに渡ってしまう、ただの旅人だよ」


そんな話をしている間にも舟は進み、シドの目的とする場所に到着したようだ。


「さあ到着だ。この辺りは島を回る潮と潮がぶつかって打ち消しあう穏やかな場所なんだ。魚もよく集まってくる。俺たちの網の一つもここにあるんだ」


とシドの指差す先には木で出来たブイのような物が幾つも並んで浮かんでいる。あれが定置網のようだ。

早速、祐樹は擬似餌を取り出し海に沈める。糸は月陰の暇にあかしてたくさん作ってあった。


落とした擬似餌がそろそろ海底に到達しようというその時、突如、糸からその重みがなくなった。


「あれ、切れた?」


と糸を手繰る。すると経験した事のない強烈な引きに祐樹は危うく舟から落ちそうになる!

とっさにシドが祐樹を掴み、体制を立て直す。


「くっ、どうやら…来たようだ!」


不安定な舟の上で必死に糸を手繰る祐樹。時折来る重く強烈な引きに糸が手を滑り、血も出ている。

これは護岸あたりで試してから沖に出るべきだったか、と少し反省しながらも悪戦苦闘してなんとか釣り上げた魚は…クエ?


祐樹の知る知識では、ハタ科の大きな魚としかわからない。たしか高級魚だったはずだ。


「なあシド、この魚って知ってるか?」


と祐樹はシドを見た。だがシドはその魚を見て凍りついている。


「ん、どうしたんだ?もしかしてコレって獲っちゃいけない魚だったのか?」


場所によっては神の使いと崇められている生物もいる。これはもしかしてやってしまったか?と不安になる祐樹。

が、シドは突然叫び出す。


「うおおおおお!?ユーキなんだよそりゃ!?なんでそんなので魚が獲れちまうんだ!?」


「なんだよ、信じてなかったのか?」


かく言う祐樹も擬似餌が海で通用するかは半信半疑だったのだが。


「いや、そういう訳じゃないんだよ。その魚、滅多に網に入らない魚なんだ。網に入った日にゃあ漁師たちはお祭り騒ぎになる程の高値の魚なんだぜ」


シドは羨望の眼差しで魚を見ている。


「じゃあコレあげるよ」


「え!?いいのか!?街で売ったらちょっとした財産になるぜ!?」


「タダで舟に乗せてくれたんだ、そのお礼だと思ってくれていいよ。俺も楽しかったし」


前の人生でも今の人生でも、舟に乗って釣りをしたのは祐樹にとって初めてだった。楽しかったし興奮した。


「ありがとう、シド。楽しかったよ」


「え、もうやめちまうのか?まだ来たばかりだろ」


名残惜しそうに言うシドに祐樹は傷だらけの手を見せる。


「ちょっと考えなきゃ、このままじゃ手がボロボロだ」


「そっか〜…ん、ちょっと待てよ」


そう言うとシドは舟に積んである物をガサゴソとあさり始めた。

そして取り出したのはジュース缶ほどの大きさの木片。


「これにその糸を巻いてよ、それを海に落とす時は先を下に向けりゃ落ちてくし、魚が掛かりゃあこれを持って踏ん張れば手も怪我はしないだろ?」


なるほど。


「じゃあシドやってみる?俺は手がこんなのだし」


「え!?いいのか!?それ宝具か何かじゃないのか?もし海に落として無くしたら命を取られるとかないよな!?」


どうやらシドは半ば本気で祐樹が人の姿を借りた海人様か何かだと思いつつあるようだ。


「はははっ。ないない。無くしてもまた作れる、別に困らないよ。遠慮なく使ってくれ」


祐樹はそう言うと釣り具をシドに渡す。そして軽くアドバイス。


「あと俺の経験ではそれが落ちていく時に魚が掛かる事が多いようだ。だから海の底まで落として何もなかったら巻き上げて、また落とす。でいいんじゃないか」


「う、うん。よし、じゃあやってみるか」



結果、シドは同じ様なハタ科の魚を2尾、釣り上げた。


「こ、怖い…なんでこんなに魚が獲れちまうんだ?もしかして俺、もう港に帰れないのか?」


シドはまだこれが神懸かり的な何かだと思っているらしい。


「はははっ。シド、面白いな君は。だがもう潮時だな、そろそろ港へ戻らないか」


「あ、ああ」


来た時とは違い、その釣果とは裏腹にやや恐れの混じった表情で舳先を港へ向けるシドだった。






海人様…誰なんだろね。うみんちゅ様ではないですよ。

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